四人と、ひとつの街 ②
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
今はまだ第1部1章で、まだ物語の序章ですので大きな変化が見られるのをこうご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
トトが来たのは、その半刻後だった。
鍛冶場の見習いだ。リュカと同い年で、背が同じくらい。
手が煤で黒い。爪の間まで入っていて、洗っても落ちないのが分かる。前掛けは革で、焦げた穴が三つ空いている。
顔にも煤がついていた。額の左に、拭いた跡が線になって残っている。
「なんで俺?」
「細い道具が要るの」
ミラが台の上を指した。
「棒。真っ直ぐで、先が丸くて、細いやつ。木だと折れる。鉄がいい」
「作れって?」
「あるでしょ、その辺に」
「あるけど……何に使うんだよ」
トトは台の上の布を見て、それからめくった。
中身を見て、一歩下がった。
「うわ」
「うわって言うな」
リュカが言った。
「いや、だって鱗」
「鱗がなんだ」
「怖いだろ、普通」
「怖くない」
二人は睨み合った。同い年の男が二人いると、たいていこうなる。
「やめなさい」
ミラが乳鉢の柄で台を叩いた。
「トト、道具。リュカ、押さえて。リナンは……そこにいて」
「はい」
「動かないでね。翼、当たるから」
「はい」
リナンは戸口のほうへ下がった。
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トトが持ってきたのは、鍛冶場で使う細い鏨だった。
先が丸く削ってある。錆はない。
「これでいいか」
「上出来。洗って」
「洗った」
「もう一回」
トトは舌打ちして、井戸へ出ていった。
その間、ミラが薬を作っていた。
乳鉢で何かを磨り潰している。緑がかった粉が、少しずつ細かくなっていく。
リュカはそれを見ていた。
磨り潰す。削って、細かくして、混ぜる。
――歯と同じだ。
ルフの奥歯。臼のような形。石を磨り潰すためのもの。
「何を作ってるんですか」
「喉を緩めるやつ」
「効くんですか」
「人には効く」
ミラは手を止めずに答えた。
「竜に効くかは知らない。でも試さないと分からない」
「試して、駄目だったら」
「駄目だったら、駄目よ」
彼女はあっさり言った。
その言い方に、嘘がなかった。
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トトが戻ってきた。
「洗った」
「今度は本当に?」
「本当に」
ミラは鏨を受け取って、湯に浸けた。それから布で拭いた。
「押さえて」
リュカがルフを押さえた。布ごと、動かないように。抵抗はしなかった。
ミラが口を開けさせる。
奥歯が見えた。平らな臼のような歯。前歯は細かく尖っている。
「歯、すごいわね」
「石を磨り潰すためです」
「詳しいじゃない」
「井戸端の人に言われて、見ました」
「ああ、桶のおかみさんね」
「名前、知らないんです」
「イサさん。うちの客よ」
ミラは手を止めずに言った。
「あの人、よく見てるのよね」
ミラは鏨をゆっくり差し入れた。
リュカは息を止めていた。
押さえる手に力が入る。強すぎると骨が折れる。弱すぎると動く。荷を縛るときと同じだ——締めすぎず、緩めすぎず。
だが荷は暴れない。
ルフが暴れた。リュカが押さえる。
「動くな」
「動くって、そりゃ動くだろ」
トトが横から言った。
「お前が押さえてろ」
「押さえてるんだよ」
二人がまた睨み合いかけたところで、リナンが戸口から言った。
「……歌います」
「え」
「効くかどうか、分からないんですけど」
彼女はそう言って、小さく声を出した。
歌というより、音を並べているだけに近かった。旋律も歌詞もない。低い音が三つ、繰り返されている。
風の音に似ていた。
――里の歌か。
訊いたことはない。翼人の村がどういう場所かも、彼女は「面白い話じゃない」と言って説明しなかった。
だがルフの動きが止まった。
暴れていた四肢が下りて、身体が台に沈む。目は開いている。だが力が抜けていた。
「……止まった」
「止まりましたね」
「なんで」
「分かりません」
「効いてるのか」
「分かりません」
リナンは音を続けた。
三つの音が、また三つ。同じ順序で。
ミラが顔を上げて、彼女を見た。
「あんた、それ」
「はい」
「……いえ、あとで」
彼女は視線を戻して、手を動かした。
ミラが手を動かした。鏨が奥へ入る。
こつり、と当たった。
硬い音だった。肉に当たる音ではない。
「あった」
「石ですか」
「石。……たぶん」
ミラは鏨を動かさなかった。押し込まず、引きもしない。当てたまま止めている。
「大きさは」
「小さい。爪の先くらい」
「取れますか」
「押したら奥へ行く」
彼女は鏨をわずかに回した。
「引っかけるしかないんだけど、先が丸いのよね」
「削りますか」
「削ったら喉が切れる」
トトが横から言った。
「じゃあ、こっち使えよ」
彼が差し出したのは、細い針金だった。先が鉤状に曲げてある。
「いつ作った」
「洗いに行ったとき。井戸端で曲げた」
「なんで」
「丸い先じゃ引っかからないって、見てりゃ分かる」
ミラは針金を受け取って、少し見た。
「……使える」
「だろ」
「洗った?」
「洗った」
「もう一回」
「洗ったって!」
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取り出すのに、四半刻かかった。
鏨で押しても動かない。針金に持ち替えて、鉤の先を石の縁に引っかける。だが滑る。三度滑って、四度目でようやく掛かった。
そこからも慎重だった。引けば喉が傷つく。回しながら、少しずつ手前へ寄せる。
途中で一度、石が動いて奥へ戻った。
「あ」
「言わないで」
ミラの声が硬かった。
「気が散る」
「すみません」
もう一度、最初から掛け直す。
二度目は早かった。角度を覚えたらしい。
そして、ようやく出てきた。
小指の先ほどの石だった。角が尖っている。割れたばかりの砂利だ。
台の上に置くと、乾いた音がした。
「これね」
「角が」
「そう。丸いのは通るけど、尖ってるのは引っかかる」
ミラは手を洗った。
「これから食べさせるとき、角のあるやつは避けなさい」
「分かりました」
「分かりましたって、あんた」
彼女は振り返って、少し呆れた顔をした。
「拾ってやってるの?」
「……はい」
「石拾いが、石を拾って、竜に食わせてるの」
「そうなります」
「変な話ね」
ミラは笑った。
悪意のない笑い方だった。
それから彼女は手を拭いて、リナンのほうを向いた。
「さっきの、あれ」
「歌ですか」
「歌って言うのね」
「里では、そう呼んでました」
「何のための歌?」
リナンは少し考えた。
「……雛を、寝かせるやつです」
「雛」
「帆鳥の。生まれたばかりのは、暴れて巣から落ちるので」
ミラは頷いた。
「じゃあ、正しく効いたのね」
「あ」
リナンは自分でも気づいていなかった顔をした。
「そう、ですね」
「使えるじゃない」
「……はい」
彼女は俯いて、それから小さく言った。
「石は、何も出ないんですけど」
ミラは乳鉢を片づけながら、こちらを見ずに答えた。
「歌は出たでしょ」
「はい」
「じゃあ、それでいいじゃない」
リナンは何も言わなかった。
リュカも何も言わなかった。
トトだけが「何の話だよ」と言って、誰にも答えてもらえなかった。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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