夜と、傾く力①
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第5部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
石垣の根元に杭を刺した。
糸を結んだ。
上から。千五百で垂れて。三百で下から。
六日目だった。
六日同じだった。
石垣の上は空いていた。
リュカは東の穴を見た。
右の柱の根元の少し外。
黒い点があった。
きのうと同じところに。
動かなかった。
空が白くなった。
光が来た。
右の柱の根元から。横にまっすぐ。
光が黒い点を通った。
通ったとき、黒い点の輪郭が少しだけ明るくなった。
人の形だった。
片膝を立てた人の形。
――日の出に向かって。
あの男は日が出る前から日の出るほうを向いて、座っていた。
リュカは杭を抜いた。
糸をほどいた。
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詰所の前でドランが硬貨を数えていた。
「きのうの一つ」
十。
二百五十四に十。
二百六十四。
リュカは受け取って袋に入れた。
「ゆうべ」
ドランが言った。
「日が隠れる少し前だ。坂の上から見えた」
ドランは東のほうを見た。
「鎌翼が回ってた。穴の上の外で。三つ」
「三つ」
「三つだ。大きいのが一つ。小せえのが二つ」
リュカは何も言わなかった。
――きのう二羽、落とした。
一羽は雲の白へ。一羽は鍋へ。
それでも、三つ残っていた。
「回ってそれから行っちまった。日が隠れてすぐ」
ドランは止め木の柄を握った。
「坊主たちが宿で煮てたろ」
「……煮てた」
「匂いが坂の上まで来た」
ドランはそれだけ言った。
言って荷札を取った。
「今日は下りが一つだ。昼前の籠」
ドランは荷札を渡しかけて止めた。
「あいつに言っとけ。三つ回ってたって」
「……言う」
「言っても天気で返すか」
「返すと思う」
ドランは鼻で短く笑った。
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東の外れへ歩いた。
柱の脇で止まった。
縁の上に男が座っていた。
片膝を立てて。
顎を上げて。
日はまだ低かった。東の穴の縁のすぐ上。男の顔にまっすぐ当たっていた。
「おう」
男は言った。
「坊主か」
「……ドランが言ってた」
リュカは柱の脇から言った。
「ゆうべ、日が隠れる少し前。鎌翼が三つ回ってたって。穴の上の外で」
男は何も言わなかった。
「大きいのが一つ。小さいのが二つ」
男は空を見ていた。
「今日は昼まで晴れる」
男は言った。
「夕方に西から薄い雲。夜は晴れる」
リュカは何も言わなかった。
――天気で返す。
ドランにそう言った。
そのとおりになった。
男はそれから少しだけ首をこちらに回した。
「うまかった」
男は言った。
「……何が」
「きのうの鍋。翼の嬢ちゃんに言っとけ」
「明日の昼に言うって言ってた」
「まだ昼じゃねえ」
男はまた空を見た。
「昼まで待てなかった」
リュカは、少しのあいだ何も言わなかった。
それから言った。
「……自分で言えば」
「縁から下りたくねえ」
男はそう言って少しだけ笑った。
リュカは男の左の前腕を見た。
ミラの布が巻いてあった。
布に赤いものは滲んでいなかった。
「腕は」
「塞がった」
「……もう」
「日に当たってりゃな」
男は言ってから口を閉じた。
閉じて空を見上げた。
それ以上は言わなかった。
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鍛冶場の前でトトが石を並べ替えていた。
十一の石を大きさの順に。
いちばん下の水瓶の台は動かさずに。その上に載せる順を決めていた。
「坊主」
トトは石から目を上げなかった。
「鎌翼がまた来たって聞いた。三つ」
「……ドランから」
「柄杓の子から。柄杓の子はじいちゃんから。じいちゃんはドランから」
トトは石を一つ持ち上げて、隣に置いた。
「焼けた匂いに寄ってくるんだってな。煙も似てるって」
「……バルが言ってた。ドランも」
「煙の柱を立てて、炉を焚いたら煙が立つ。前より高く」
トトは石の上に手を置いた。
「立ったら来る」
リュカは何も言わなかった。
「来るから立てねえ、ってのはねえ」
トトは言った。
「立てねえと釘がねえ。釘がねえと屋根がねえ」
「……膠。柱。炉。釘。屋根」
「そうだ」
トトは石をもう一つ持ち上げた。
「来るなら来る時に誰かがいりゃいい」
トトは石を置いた。
置いて東のほうを見た。
ここからは見えなかった。
「昼ならあいつがいる」
トトは言った。
「昼じゃなかったら」
トトはそれ以上言わなかった。
リュカも訊かなかった。
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昼前の籠で下りた。
白を数えた。二十三。
受け渡し場でバルが荷札を数えていた。
「兄ちゃんか」
「はい」
「足は」
「ついてます」
「ならいい」
荷を台に下ろした。
バルが荷札に印を押した。
「……鎌翼は」
バルが言った。
「きのう二羽、落とした。一羽はあの人が。一羽は二人で」
「二羽か」
「ゆうべ、また三つ回ってた。ドランが見た。大きいのが一つ。小さいのが二つ」
バルの手が止まった。
「つがいの残りとその子だ」
バルは言った。
「鎌翼はつがいで来る。子を連れて。一羽落とされたら、残ったのは離れん。落とされたところの近くを回る」
「……離れない」
「何日か回る。それからいなくなる。いなくなる前に、一度降りてくることがある」
バルは荷札を揃えた。
「昼に落とされたんなら、昼には来ん」
「……昼には」
「落とされた時刻は覚えとる。獣はそういうもんだ」
バルは顔を上げなかった。
「来るなら日が隠れるころだ」
リュカは何も言わなかった。
――日が隠れるころ。
ゆうべ、三つ回っていた。日が隠れる少し前。
日が隠れてすぐいなくなった。
――百。
日が隠れて百で風が止まる。
止まって上から来る。
浮いていられなくなったから、行ったのかもしれなかった。
――下から来る風の上にじっと浮いてる。
イサが二年前に言った。
下からの風が止まったら。
「兄ちゃん」
バルが言った。
「その男は夜もやるのか」
リュカは少しのあいだ黙っていた。
「……知らない」
「知らんか」
「ゆうべは柱の根元で寝てた。日が沈んだら」
バルは荷札を数える手を止めた。
止めてそれからまた数えた。
「なら、兄ちゃんが起きとけ」
それだけ言った。
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昼過ぎの籠で上がった。
薬房の焼け跡の前を通った。
ミラが土台の石の上で草を束ねていた。
「あの人の腕」
ミラは顔を上げずに言った。
「布どうだった」
「……赤いのは滲んでなかった。塞がったって」
ミラの手が止まった。
「もう」
「日に当たってりゃって」
ミラは少しのあいだ黙っていた。
黙ってそれから紐の端を歯で切った。
「昼のうちに、見せに来いって、言っといて」
「……昼は縁から下りたくないって」
「なら、わたしが行く」
ミラは束を土台の石の上に置いた。
「縁の三歩手前までなら」
――縁の上じゃ診られない。わたしが落ちる。
きのう、ミラはそう言った。
リュカは何も言わなかった。
東の外れへ行った。
男は縁の上にいた。
日は真上を少し過ぎていた。
男の影が足もとから少しだけ東のほうへ伸びはじめていた。縁の外へ。雲の白のほうへ。
「……バルが言ってた」
リュカは柱の脇から言った。
「鎌翼はつがいで来る。一羽落とされたら、残ったのは近くを回る。何日か。いなくなる前に一度降りてくる」
男は何も言わなかった。
「昼に落とされたんなら、昼には来ない。落とされた時刻を覚えてる。来るなら日が隠れるころだって」
男は空を見ていた。
長いこと見ていた。
「……バルってのは受け渡し場の岩人か」
「岩人」
「いい荷受けだ」
男はそれだけ言った。
それから、少しのあいだ黙っていた。
「坊主」
「……」
「日が隠れるのは何刻だ」
リュカは少しのあいだ黙っていた。
この男が時刻を訊いた。
天気ではなく。
「……空き地では石段の上の家々の向こうに隠れる。夕方の籠が上がったあと。ここでは背中のほうに沈む。見えない」
「空き地で隠れてそれから」
「百で風が止まる。止まって上から」
「百か」
男は空を見たまま言った。
「下から来る風が止まるのが百」
「……止まる」
「鎌翼は下から来る風に浮く」
男は言った。
リュカは何も言わなかった。
――知ってる。
この男も知っていた。
どこで知ったのかは分からなかった。この男の昔をリュカは知らない。けれど、この男は鎌翼を何度も見てきた顔で言った。
「日が隠れて、百までは浮いてられる」
男は言った。
「百で浮いてられなくなる」
「……なる」
「なら、来るのは百の前だ」
男は縁の上で片膝を立て直した。
「来て浮いてるうちに落ちてくる。百の前に」
リュカは柱の脇で男の背中を見ていた。
日が男の背中に当たっていた。
「……日が隠れたあとは」
リュカは言った。
言ってから口を閉じた。
閉じたが遅かった。
男は振り返らなかった。
「夕方に西から薄い雲が来る」
男は言った。
「夜は晴れる」
---
宿の土間でリナンが鍋を見ていた。
きのうの鎌翼の骨。骨に残った肉。それをもう一度煮ていた。
「骨から出るんです」
リナンは鍋を見たまま言った。
「きのうは肉を食べました。今日は骨の汁を」
「……二年前も」
「二年前も。里で覚えたんです。鎌翼じゃなかったですけど。硬い鳥は骨まで煮るんです」
ヴェスナが竈の脇で豆を選っていた。
「匂いが出るね」
ヴェスナが言った。
土間に骨の煮える匂いが満ちていた。戸口から路地へ出ていっていた。焼け落ちた東の半分の上の空へのぼっていっていた。
ヴェスナは、焼け落ちた東の半分を見上げた。
空が見えていた。
夕方に近い空。
「……匂いに寄ってくるんだってね」
ヴェスナは言った。
「ドランが言ってたよ。鎌翼」
リナンの手が止まった。
鍋をかき混ぜる柄杓が。
「……止めますか」
リナンが言った。
「火を」
ヴェスナは少しのあいだ黙っていた。
それから、豆を一つ除けた。
「止めないよ」
ヴェスナは言った。
「匂いが出るから、煮ないなんてのはないよ。煮なきゃ食えない」
ヴェスナはリュカを見た。
「坊主。あんた、起きてな」
――なら兄ちゃんが起きとけ。
バルと同じことを言った。
「……起きてる」
「起きてるだけじゃだめだよ。杭も持ってな」
リュカは杭の袋に手をやった。
十本と曲がった一本。
数えた。
数えなくても分かっていた。
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トトが宿の戸口に来た。
鑿ではなく長い鉄の棒を持っていた。炉の火を掻くための棒。
「……匂いが石段まで来た」
トトは言った。
「寄ってくるんだろ。匂いに」
「柄杓の子は」
「じいちゃんと家にいる。出るなって言った」
トトは、戸口の焼け残った柱の脇に立った。
鉄の棒を肩に担いで。
「俺は飛んでる鎌翼を見たことがねえ」
トトは言った。
「二年前は落ちたあとのを見ただけだ。この棒でつついた」
「……見なくていい」
「見なくていいもんが来るなら見とく」
トトはそう言って、焼け落ちた東の半分の上の空を見上げた。
見上げたまま言った。
「坊主の杭。届くのは」
「三十歩」
「鎌翼は高えとこを回るんだろ」
「高いうちは届かない」
「なら、どうする」
リュカは少しのあいだ黙っていた。
「……下りてくるのを待つ」
「いつ下りてくる」
「落ちてくるときか。浮いてられなくなったとき」
「浮いてられなくなるのは」
「日が隠れて百」
トトはリュカを見た。
「百か」
「百で下からの風が止まる。止まったら浮いてられない。下りてくる」
「百の前に落ちてきたら」
「……それは」
リュカは言いかけて止まった。
――来るのは百の前だ。
あの男が縁の上で言った。
「それはあの人がやる」
リュカは言った。
トトは何も言わなかった。
言わずに鉄の棒を担ぎ直した。
「日が隠れたあとでもか」
トトは言った。
小さな声で。
リュカは答えなかった。
読んで頂きありがとうございます。
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現在5部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
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