柱と、順番①
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第5部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
空き地の石垣の根元に杭を一本、刺した。
夜明けよりまだ前だった。
杭の頭にミラの糸を結んだ。腕の長さの糸。きのう、石段で使った糸をほどいて、持ってきた。
糸は垂れて、それから上へなびいた。
――下から。
きのうと同じだった。
朝の風は下から吹き上がってくる。弱い。
きのうは朝だけ数えた。夕方は数えていなかった。
夕方に風は逆になった。
――夕方は数えてなかった。
トトにそう言った。上の路地の風も一度しか見ていないと。
今日は一度で終わらせない。
朝から夕方まで。日が隠れて、それから暗くなるまで。
一日の風を全部、数える。
リュカは石垣に背中を預けた。
糸を見た。
数えた。
百。二百。
空き地の糸は、石段の糸より少しだけゆっくりなびいていた。空き地は広い。広いところは、風がゆっくりでそのかわりまとまって来る。石段は狭い。狭いところは速い。速いが細い。
千。
日が出た。
屋根のない家々の向こうから光が来た。
糸が弱くなった。
弱くなったが上へなびいたままだった。
二千。
二千と少し。きのうと同じだった。
――同じ。
二日同じだった。
二日同じなら、明日も同じかもしれない。
かもしれないと数えた。
いつもとは数えなかった。
リュカは杭を石垣の根元に刺したまま、立ち上がった。
井戸へ行った。
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詰所の前でドランが硬貨を数えていた。
「きのうの二つ」
二十。
百七十四に二十。
百九十四。
リュカは受け取って袋に入れた。
ドランは硬貨をもう一山数えていた。
リュカの日当とは別の山だった。
詰所の奥の工具箱の横に布の袋が一つ置いてあった。ドランはその袋から硬貨を出して、数えてまた袋に戻していた。
「……それは」
「取り分だ」
ドランは言った。
「籠で上に払われた運賃のこっちに落ちる分。六日ぶん」
ドランは袋の口を縛った。
「九十二」
――九十二。
リュカは数えた。
膠が四十。九十二から四十を引いて五十二。
釘が四百。五十二では足りない。
去年の十九日ぶんの取り分は、ドランは言わなかった。去年は荷が少なかった。少なかったぶん取り分も、少なかったのだろう。
「去年は」
「去年のは冬の火種石になった」
ドランはそれだけ言った。
「今年はまだ何にもなってねえ」
ドランは袋を工具箱の横に戻した。
「今夜、話をする。宿の土間で」
「話」
「この金を何にするか。俺が決めてもいいが俺が決めると、俺の欲しいもんになる。鉄だ」
ドランは止め木の柄を握った。
「鉄が欲しいのは俺だけじゃねえ。トトもだ。ヴェスナは屋根だろ。ネラは麦だ。ミラは何て言うか分からねえ」
「……みんなに訊くのか」
「訊いて決める。名前のときは、誰も決めようとは言わなかった。今度は俺が言う」
ドランはそう言って、少しだけ口の端を動かした。
「坊主も来い。数を持って」
リュカは頷いた。
頷いてそれから言った。
「……ヴェスナには」
「言ってある。土間を貸せって言ったら、椀が足りねえって言われた」
ドランはそう言って、荷札を取った。
「今日は下りが二つだ」
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昼の籠で荷を二つ下ろした。
受け渡し場でバルが荷札を数えていた。
「兄ちゃんか」
「はい」
「足は」
「ついてます」
「ならいい」
荷を台に下ろした。
リュカは少しだけ台の前に残った。
「……バルさん」
「何だ」
「材木はいくらしますか。柱にする焼けてない木」
バルは荷札を数える手を止めなかった。
「上から下りてくる木か」
「はい」
「長さによる。一本で三十から五十。運賃は別だ」
――一本三十から五十。
二本で六十から百。梁と板を足せば。
「下の市には」
「ない。下の木は細い。柱にゃならん」
バルは荷札に印を押した。
「柱を立てるのか」
「……まだ。決めてない。今夜、決める」
「決める前に値を訊きに来たか」
「はい」
バルは初めて顔を上げた。
リュカを見た。
長くは見なかった。
「ならいい」
それだけ言って、また荷札を数えた。
昼過ぎの籠で上がった。
坂を下りた。石段を途中まで下りた。
鍛冶場の前の広くなったところ。石の継ぎ目にきのう差しこんだ杭がまだあった。ミラの糸は空き地へ持っていったので、杭の頭には何も結んでいなかった。
リュカは懐からもう一本の糸を出した。けさ、リナンにもう一本切ってもらった糸。
杭の頭に結んだ。
糸は垂れた。
垂れたまま動かなかった。
――止まってる。
昼の風は止まっていた。
上へも下へもなびかなかった。
リュカはしゃがんで、糸を見ていた。
百。二百。三百。
三百のあたりで糸の先が少しだけ揺れた。
揺れてまた垂れた。
「……止まってるか」
トトが戸口に立っていた。
「止まってる」
「朝は」
「下から。二千と少し。きのうと同じ」
「昼は止まる」
「止まる。夕方は上から」
トトは鍛冶場の中を振り返った。
炉の口が見えた。きのう積み直した口。石段の下のほうを向いている口。
口の縁が煤で黒かった。
トトは炉の口の上を見上げた。
炉の上には屋根がなかった。屋根の代わりに焼け残った梁が一本渡してあるだけだった。梁の向こうに昼の空があった。
「……柱を立てる」
トトが言った。
「柱」
「煙の柱だ」
トトは、炉の口の上の空いたところを指でなぞった。下から上へ。
「上の工房の煙の抜け穴はどこにあった」
「……壁の上のほう。背丈の三倍くらいの壁の上」
「高えところだ」
「高いところ」
「煙は高えところから抜けると、下から引っぱられる。焚き口から入った風が炉を通って、上へ抜ける。抜けるところが高けりゃ高いほど強く引く」
トトは言った。
言いながら自分の指を見ていた。
「親方がそう言ってた。焼ける前に。この炉の煙突は、石段の上の家の屋根より高かった」
――焼ける前の炉。
焼ける前の鍛冶場には煙突があった。
リュカは覚えていた。石段を上るときいつも見上げた。黒い石の柱。煙がまっすぐ上へ抜けていた。
あれは焼けた夜に倒れた。
「上の工房には煙突がなかった」
リュカは言った。
「壁の上に穴だけ」
「壁が高えからだ。壁が煙突の代わりになってる。こっちには壁がねえ」
トトは炉の口の上をもう一度見上げた。
「だから柱を立てる。石を積んで。石段の上の家の屋根より高く」
「……高く積めば夕方の上からの風は」
「上から吹いても、柱の口がそれより高けりゃ煙は上へ抜ける。抜けきらなくても、吹き返しは減る」
トトはそう言って、少しだけ黙った。
「たぶんだ。見たことはねえ」
「親方は」
「親方の煙突が立ってるところしか見てねえ。立てるところは見てねえ。俺が来たときにはもう立ってた。親方の親父の代からだ」
トトは少しだけ黙った。
「親方はまだ上だ。脚がどうなったのかも知らねえ」
――ザヴは上へ運ばれていった。
焼けた夜トトと二人で燃える鍛冶場から石段へ運び出した。次の日トトが男を二人連れて、戸板に載せて、詰所へ運んでいった。昼過ぎの籠で上へ。
二年戻ってこなかった。
トトは炉の口の前にしゃがんだ。
「見たことがねえものを立てる」
リュカは何も言わなかった。
――見ただけじゃ足りねえ。
きのう、トトはそう言った。
今日は、見たことがないものを立てると言った。
「石が要る」
トトは言った。
「誰の家の石で積むかだ」
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宿の前でヴェスナが焼け残った柱に手を置いていた。
戸口の脇の柱。
リュカが一度目に出ていく朝に触れた柱。二度目に出ていくときに、また触れた柱。
ヴェスナは柱を撫でていた。
撫でているのか確かめているのか分からなかった。
「……今夜だってね」
ヴェスナは言った。
柱から手を離さずに。
「ドランが言いに来たよ。土間を貸せって。椀が足りないって言ってやった」
「聞いた」
「屋根の話をするんだろ」
「……屋根も」
ヴェスナは柱を叩いた。
とんと乾いた音がした。
「この柱はまだ立ってる」
ヴェスナは言った。
「立ってるけど、屋根を載せるなら、あと二本、要る。焼け落ちた半分のほうに。梁を渡すために」
ヴェスナは、焼け落ちた半分の空を見上げた。
梁が三本。板が何枚か。
「柱を立てるなら、焼けてないのがいいよ」
「焼けてないの」
「焼けた柱は立つけど持たない。中が脆くなってる。釘と同じさ」
――釘と同じ。
焼けた鉄は脆い。焼けた木も脆い。
「焼けてない木は」
「上から買うしかないね。籠で運ぶ材木みたいなのを」
ヴェスナは柱から手を離した。
「高いよ」
「……高い」
「高いものを二本。それから梁と板と釘。釘は四百だっけね」
「四百」
ヴェスナは少しだけ笑った。
「数えるのはあんたの仕事だよ。あたしは数えない」
ヴェスナは土間へ入りかけて止まった。
「数えないけどね」
振り返らずに言った。
「冬が長いのは知ってるよ」
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薬房の焼け跡でミラが乾かした草を束ねていた。
土台の石の上に束が七つ並んでいた。
「今夜、行くわよ」
ミラはリュカを見て先に言った。
「ドランが来たのか」
「来た。順番に言って回ってるのね。名前のときは、誰も呼びに来なかったのに」
ミラは束を紐で縛った。
「何を建てるかでしょ」
「……何から建てるか」
「からね」
ミラは紐の端を歯で切った。
「わたしは最後でいいわよ」
リュカはミラを見た。
ミラは顔を上げなかった。
「土台の石がある。草は日に向けておけば乾く。屋根がなくても乾く。雨の日は、イサさんの家の奥に持っていけばいい」
「……薬房は」
「薬房はここよ。屋根がなくても」
ミラは束を土台の石の上に並べた。
八つ目。
「鍛冶場と宿が先。鍛冶場がないと釘がない。宿がないと来た人が泊まれない」
「来た人」
「来るのよ。いつか。上の人か下の人か知らないけど」
ミラはそう言って、少しだけ笑った。
「来た人が怪我をしてたら、わたしが診る。屋根がなくても診られる」
リュカは何も言わなかった。
ミラは九つ目の束を縛りはじめた。
「最後でいいって言ったの内緒よ」
「……なんで」
「最後でいいって言うと本当に最後になるから」
ミラは紐の端をまた歯で切った。
「今夜は言わない。訊かれたら言う」
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粉屋の戸口でリナンが臼の柄を拭いていた。
今日の挽きは終わっていた。
「……今夜ですよね」
リナンが言った。
リュカを見ずに。
「宿の土間で」
「わたしも行っていいんですか」
「土間はおまえの寝るところだ」
「そうでした」
リナンは少しだけ笑った。
笑ってそれから柄を拭く手を止めた。
「……わたし何も言えないです」
「言わなくていい」
「言わなくていいのは分かってます。言えないんです」
リナンは柄から手を離した。
「二年と少しここにいます。でも、ここで生まれてないです。焼ける少し前に、上から下りてきました。この街の何が先かわたしが言うのは、違う気がします」
リュカは何も言わなかった。
――下の人。
リナンの里では飛ばない者を下の人と呼んだ。飛ばなくなったリナンは高いのとも名前でも、呼ばれなくなった。呼ばれなくなった場所から出てきた。
出てきた先でここで生まれていない者になっていた。
「……臼を回してる」
リュカは言った。
「荷も担いだ。千で替わる。石の粉も払った」
「それは手です」
「手は街の数に入る」
リナンはリュカを見た。
少しだけ黙った。
「……手は数に入るんですか」
「入る。五日前に数えた。宿に六つ。おまえの二つも」
リナンは自分の手を見た。
粉でまだ少し白い手。
「じゃあ手だけ行きます」
リナンはそう言って、臼の柄をもう一度拭いた。
読んで頂きありがとうございます。
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現在5部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
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