幕間 「下へ降りる理由」
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第5部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
灯柱の根元で白い衣の男が台座に手を置いていた。
低い音がした。言葉ではない音。途中で一度だけ上がって、また下りる。
終わると灯柱の光が少しだけ強くなった。
男はその横を通った。
左の腕は身体の横に下がっていた。歩くときもそこにあった。動かさない。
白い衣の男は手を離して、六歩次の灯柱へ歩いた。
男はその音を子供のころから聞いていた。
この通りのこの灯柱の下で育った。音は毎日同じ順番で来た。受け渡し場から第一通り第三通り第七通り。それから、戻って第二通り第四通り。
音の意味は知らない。
訊いたことはなかった。
白い衣の男は男に会釈をしなかった。
男もしなかった。
男が物心ついてからずっとそうだった。
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本拠の石の家の奥の部屋。
卓の上に紙が一枚。
灰色の紙に字が四行。いちばん下に印が二つ。一つは開いた本の形。一つは王家の紋。
女が珠を繰っていた。
繰りながら紙を読んだ。
「選抜戦が開かれる。勝った探索者団に国が公認を出す」
女は珠を一つ送った。
「公認の条件は三つ。団の者を全員登録所に登録すること。選抜戦に出ること」
女は紙の三行目を指で押さえた。
「下の層の守りを検分して、報告すること」
男は立ったまま紙を見ていた。
「聖石が奪われてから下の街には結界がない」
女は言った。
「上はそれを知っている。知っていて二年何もしていない。公認する団にまず数えさせる。数えたものを上が読む」
「何を数える」
男が言った。
「結界の柱の数。竈の煙の数。人の数。見たものだけ」
女は珠を止めた。
「あなたが行く」
男は何も言わなかった。
「ロアンは下りると話をしてくる。話をすると数がずれる」
女はそう言ってまた珠を繰った。
「エルナとレイスは別の用で出ている。あなたしかいない」
部屋の隅の棚の上に徽章が一つ置いてあった。
男の家の印だった。
男が生まれる前からその家にあった石。家の者が継いできた石。男はそれを継いだ。
継ぐ者は男しかいなかった。
選ぶ余地はなかった。
徽章の横に槍が立てかけてあった。穂先の根元に石が嵌めてあった。
石の名を家の者はアルゲと呼んできた。男もそう呼ぶ。呼ぶのは撃つときだけだった。
二年前塔のてっぺんの段で一度、呼んだ。
男は徽章を見なかった。槍も見なかった。
「下の層はいくつある」
「下の街はどれも同じ籠の筋の下にある。籠で下りて、格子越しに数えればいい」
女は言った。
「降りなくていい。降りると人が寄ってくる。寄ってきた人の数は数に入れられない」
戸口に笑う男が立っていた。
いつから立っていたのかは、分からなかった。
「下りるのか」
笑う男が言った。
「乗るだけだ」
「乗るだけか」
笑う男は戸口の柱に肩を預けた。
「あの下の街を通るんだろ。籠の筋の真ん中の」
男は答えなかった。
「見てきたら教えろ」
笑う男はそう言って、それから少しだけ黙った。
「……いや。教えなくていい」
「なぜ」
「教えられたら行きたくなる」
笑う男は笑った。
笑って戸口から離れた。
女は珠を繰っていた。
笑う男の言ったことを数に入れなかった。
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アステル区の受け渡し場で日暮れの籠を待った。
台の向こうで荷受けの男が荷札に炭で字を書いていた。
帰りの荷の荷札。
男はその字を読んだ。
ニヒロ。
知らない名だった。
荷受けの男が顔を上げずに言った。
「下りるのかい。乗るだけで」
「乗るだけだ」
「運賃は片道で四百」
男は硬貨を台に置いた。
荷受けの男は数えなかった。見ただけで頷いた。
籠が上がってきた。
戸が開いた。中は空だった。夕方に下から荷運びが一人乗ってきて、途中で降りたのだと荷受けの男が言った。
男は乗った。
戸が閉まった。
籠が沈んだ。
壁の割れ目の光が一つずつ減っていった。
男は数えなかった。
数えるのは女の仕事だった。
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籠が止まった。
戸が開いた。
詰所だった。屋根と柱だけの小屋。柱に板が一枚。墨の字。
止め木の前に、整備士が立っていた。
工具を腰に差していた。
整備士は籠の中を見なかった。荷札を見ていた。
詰所の脇に女が一人立っていた。
女は籠の戸を見ていた。
戸が開いたとき、女の目が籠の中の男の顔に来た。
来て少しのあいだ止まった。
止まってそれから離れた。
探している顔ではなかったらしかった。
男は降りなかった。
戸の格子の隙間から外を見た。
屋根のない路地。
広場。井戸。
空き地の四角い地面。
男は数えた。
結界の柱。
なかった。
街の東の外れに石の柱が一本残っていた。下のほうだけ。背丈ほどの高さで折れていた。折れ口の上には何もなかった。
――結界なし。
日が傾いていた。
路地の何本かから煙が上がりはじめた。
竈の煙。細い煙。
一本。二本。三本。
六本。
六本の向こう石段のあたりにもう一本煙があった。
竈の煙より太かった。
太かったが少しずつ細くなっていた。
竈の煙ではなかった。
細くなって、それから見えなくなった。
――六。もう一本。消えた。
石段の途中の広くなったところに人影がいくつかあった。煙の出ていたほうを向いて、立っていた。
五つ。一つは杖をついていた。
路地を歩いている者が二つ。井戸の端に一つ。小さかった。顔を洗っていた。
空き地の隅の崩れた石垣の上に人影が一つあった。
座っていた。
顔は見えなかった。
石垣の上の人影は、路地の煙のほうを向いていた。
動かなかった。
整備士が止め木を引いた。
戸が閉まった。
籠がまた沈んだ。
格子の向こうで石垣の上の人影が上へ遠ざかった。
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籠は白を通って、地上層まで下りた。
受け渡し場の荷受けの年寄りが戸の前で男を見た。
長くは見なかった。
「……乗るだけかい」
「乗るだけだ」
「上へ帰るのか」
「帰る」
「名前は」
年寄りが言った。
顔を上げずに。
「おらんはずのところにおる者には、名前を訊いておくもんでな」
男は答えなかった。
年寄りは荷札を一枚台に置いた。
「答えんのも答えだ」
年寄りはそれ以上何も訊かなかった。
籠はまた上がった。
白を通った。
詰所でもう一度止まった。
戸の外はもう暗かった。
竈の煙は見えなかった。
石垣の上の人影も見えなかった。
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本拠の奥の部屋で女が珠を繰っていた。
「結界なし」
男は言った。
「東の外れに折れた柱の下の半分だけ残っている」
女は珠を一つ送った。
「竈の煙六。もう一本石段のあたりに太い煙。竈ではない。日暮れに細くなって消えた」
「鍛冶場」
「分からない。石段の途中に人が集まっていた」
「誰が焚いた」
「見ていない」
女は珠を止めた。
「人の数は」
「見えたのは九。格子から見えたぶんだけ。降りていない」
「全部ではない」
「全部ではない」
「少年は」
女が言った。
少年の名を女は言わなかった。
「見ていない」
男は言った。
石垣の上の人影は顔が見えなかった。見えなかったものは見ていない。
「見ていないものは書かない」
女はそう言って珠を一つ送った。
女は少しだけ黙った。
黙ってそれから珠をまた繰った。
「街の名は」
男は答えなかった。
卓の上に帰りの籠の荷から外れた荷札が一枚あった。荷受けの男が受け渡し場の台に置き忘れていたものを男が持ってきた。
男はその荷札を指で卓の上に押し出した。
女は荷札を見た。
字を読んだ。
「……ニヒロ」
女が言った。
男は言わなかった。
「無ね」
女はそう言って、荷札を紙の横に置いた。
「報告にはそう書く。結界なし。煙、六。ほかに一。消えた。人見えたのは九。名、ニヒロ」
女は珠を一つ送った。
「見たものだけ」
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灯柱の下に戻った。
通りは明るかった。夜でも明るかった。
遠くで白い衣の男の音がしていた。第四通りのどこか。今日の最後の何本か。
男は灯柱の根元に立った。
左の腕は身体の横に下がっていた。
右の手を台座に置かなかった。
置いても光は強くならない。唱えるのは白い衣の男の仕事だった。
――消えた。
石段の煙は消えた。
消える前には立っていたはずだった。太い煙は立たなければ、太くならない。
立ったところは見ていない。
男はそれを報告に入れなかった。
立ったとは言わなかった。
見たのは細くなって、消えるところだけだった。
石垣の上の人影が何を見ていたのかは知らない。
知らないものは数に入れない。
男は灯柱の下を離れた。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在5部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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