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星降譚―STELLA NOMINA―  作者: うめこまち
第二部 履いても灰は残る

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153/163

工房と、外からの目②

只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ


どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!


現在は、第5部終盤の執筆に取り掛かっております!

残すは6、7部。

先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)


皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!

 夕方の籠で下りた。


 帰りの荷はなかった。空の籠に一人で乗った。


 壁の割れ目の光が減っていった。


 十一。十。


 数えながらもう一つ数えた。


 炉、一つ。鞴、一つ。鞴を踏む者なし。鎚、二つ。人、一人。石、二つ。風の穴三つ。穴のあいだ拳二つ。穴の高さ膝。膠の鍋炉の脇の火床。灰の箱。壁の刻み目十二。


 一。


 三番街の路地が下から上がってきた。


---


 鍛冶場は暗かった。


 トトは炉の前に座っていた。


 灯りはなかった。灯りを点ける火種石をトトは、夜には使わない。


 リュカは炉の口の前に、しゃがんだ。


 言った。


 一つずつ。数えた順に。


 炉は一つ。口は路地の入り口のほうを向いていた。


 鞴は一つ。トトのよりひと回り大きい。踏む者はいない。上の板に石が嵌めてあって、石が光るたびに膨らんでしぼむ。


 鎚は二つ。一つは人。一つは石。柱に留めて、石が光るたびに落ちる。


 壁の低いところに穴が三つ。膝の高さ。拳二つぶんのあいだ。穴の外は路地の入り口の側。路地の風が入る。


 膠は炉の脇の平たい石の上の鍋で煮ていた。炉の火の余りで。


 曲がった鉄は叩いて戻して、それから灰の箱に埋めていた。


 トトは最後まで黙って聞いた。


 聞き終えても、しばらく黙っていた。


「……石で動く鞴なんて、ニヒロにはねえ」


 トトは言った。


「石で動く鎚もねえ」


「ない」


「星が届かねえからな」


 トトは、それから冷たい炉の口に手を伸ばした。


 炉の石を指でなぞった。


 炉の口の向きを確かめるように。


「……風の穴は」


 トトは言った。


「ある」


 リュカは何も言わなかった。


「三番街の路地は狭え。狭えところは風が速え。坊主が毎朝物干し綱のとこで横に押されてるあの風だ」


 トトの指が炉の口の下の石を叩いた。


「炉の口を風のほうへ向けて、下に穴を開けりゃ鞴がなくても風は入る」


「……弱い」


「弱くても火は起きる」


 トトはそう言って指を止めた。


「起きりゃ膠が煮える」


「……炉の脇で」


「脇で」


 トトの声は低かった。


 低くて少しだけ速かった。


 トトは炉の石から手を離した。


「誰の工房だ」


 リュカは少しだけ黙った。


「……ファイスって言ってた」


「ファイス」


 トトは、その名を一度だけ口の中で言った。


 それきり繰り返さなかった。


「見つかったのか」


「見つかった」


「追い出されたか」


「……追い出されなかった。親方は留守だって。それだけ」


 トトは何も言わなかった。


 言わずにまた炉の口を見た。


 暗くて炉の口はほとんど見えなかった。


 見えないものをトトは、長いあいだ見ていた。


---


 宿の土間でリナンが布の包みをほどいていた。


 きのうのパンの半分だった。


「……食べないのか」


「食べます。今」


 リナンは、パンを半分のさらに半分に割った。


 割った片方をリュカに差し出した。


 リュカは受け取らなかった。


「おまえのだ」


「わたしのです。だから、わたしがあげます」


 リナンの手はパンから離れなかった。


 差し出したまま持っていた。


 ――持ってるやつからは取らない。


 リナンはそれを知っていた。


 知っていて、持ったまま、差し出していた。


 リュカは手を出した。


 リナンが指を開いた。


 パンが手のひらに置かれた。


 固かった。一日たって固くなっていた。


「……上の鍛冶屋見られましたか」


「見た」


「見せてもらったんですか」


「……見た。壁の隙間から」


 リナンはパンを少しだけ齧った。


「黙って」


「黙って」


「取ったんですね」


 リュカは何も言わなかった。


 リナンはパンを噛んでいた。長く噛んでいた。


「わたし煮方を里で覚えました」


 リナンは言った。


「母さんが鍋の前に立ってるのを後ろから見て。母さんは教えてくれなかったです。教えなくても、見てれば分かるって」


「……それは」


「取ったのかなって。今思いました」


 リナンはパンを飲みこんだ。


「母さんは、見せてくれてたんだと思います。後ろにわたしがいるのを知ってて」


 リュカは手のひらのパンを見た。


 ――戻ってきても、壁の穴は塞がない人だけどね。


「……塞がないって言ってた」


「何を」


「壁の穴。親方は塞がない人だって」


 リナンは少しだけ黙った。


「じゃあ見せてくれてるのかも、しれないですね」


「……かもしれない」


「かもしれないし、そうじゃないかもしれないです」


 リナンは残りのパンを口に入れた。


「分からないですね」


「分からない」


 リュカはパンを齧った。


 固かった。


 長く噛んだ。


---


 屋根裏で横になった。


 数えたものを数え直した。


 炉、一つ。鞴、一つ。鎚、二つ。風の穴三つ。


 数えたものの中に取ったものが混ざっていた。


 どれが数えたもので、どれが取ったものなのか分けられなかった。


 数えたものは全部取ったものだった。


 リュカは左の手を開いた。


 片があった。


 ――持ってきたものじゃない。来たものだ。


 てっぺんの段でそう言った。


 片は来た。杭も来た。線も来た。


 来たものは取ったものではなかった。


 今日数えたものは来たのではなかった。


 壁の隙間から取った。


 ――戻ってきても、壁の穴は塞がない人だけどね。


 あの男はそう言った。


 塞がないのは、取っていいということなのか。


 取られても、構わないということなのか。


 分からなかった。


 分からないまま、取ったものは手の中にあった。


 閉じた。


 閉じても片はそこにいた。


 取ったものもそこにいた。


 ――籠はあと十五日。

読んで頂きありがとうございます。

引き続き1話ずつ毎日更新していきます。

現在5部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。


基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!


少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!


ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)

よろしければ是非応援頂けますと幸いです。

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