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星降譚―STELLA NOMINA―  作者: うめこまち
第二部 履いても灰は残る

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151/163

幕間 「二人でどうする」

只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ


どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!


現在は、第5部終盤の執筆に取り掛かっております!

残すは6、7部。

先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)


皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!

 昼の籠が上がっていったあと詰所の脇は、静かになった。


 穴の奥で綱だけがまだ鳴っていた。


「上へ行ったねあの子」


 麻袋を担いだ男が足を止めて言った。


「石拾いの坊主かい」


「坊主ってほどの歳でも、もうないだろ」


「荷運びの小僧だよ。いつまでたっても」


 男は麻袋を担ぎ直した。


「肩に重そうな袋掛けてたよ。荷のほかに」


「石だろ」


「石だね。あれは石の音だ」


「売りに行ったんだろうね。上に」


「売れるのかいあんなもん」


「上には、なんでも買うやつがいるって言うよ」


 脇の石の上で坂の家の爺さんが穴の奥を見ていた。


 見たまま言った。


「上へ行ったら下りてこなくなる」


 誰も返さなかった。


 爺さんの倅のことを知らない者は、ここにはいなかった。


 爺さんの隣でカイの女房が籠の戸のほうを見ていた。


「……上に登録所ってのができたらしいね」


 男が話を変えた。


「宿した者が並ぶんだと。並んで名前を書かれる」


「話が下りてきたのかい」


「上から下りてきた話だよ。去年の籠のときに」


「あの小僧も宿したって話じゃないか」


「らしいね。空き地で杭が手に戻ってくるんだと」


「見たのかい」


「見たやつがいるんだよ」


「じゃあ並んだんだろ。今日」


 カイの女房が籠の戸から目を離さずに言った。


「並んだかどうかなんて、見てないだろ」


「見てないけどさ」


「見てないものは、並んだことにならないよ」


 止め木の前でドランが工具を置いた。


「ドラン。あの小僧上で並ぶのかい」


「知らねえ」


 ドランはそれだけ言って、また工具を取った。


 男は少しだけ待った。


 ドランはそれ以上何も言わなかった。


「……きのうはさ」


 男は話をもう一度変えた。


「羽の子が荷を担いでたろ。小僧と二人で。材木の長いのを」


「見たよ。籠に乗ってった」


「ドランが雇ったのかい。羽の子を」


 ドランは工具を止めなかった。


「雇ってねえ」


「じゃあなんで乗せた」


「荷運びが二人なら木札は一枚だ。規則だ」


「規則で羽の子を乗せたのかい」


「規則で乗ったんだ。あいつが自分で来た」


 ドランはそう言って、工具を腰に差した。


 差して穴の奥を見上げた。


 男は麻袋を担ぎ直した。


「……荷運びの小僧と羽の子とか」


 誰に言うのでもなく言った。


「焼け跡で二人で荷を担いで。どこまで担ぐつもりだかね」


 爺さんは穴の奥を見ていた。


 カイの女房は籠の戸を見ていた。


 どちらも返さなかった。


---


 石段の途中で男が二人すれ違いざまに立ち話をしていた。


「鍛冶屋の小僧がさ。子供の釘を取り上げたんだと」


「釘」


「横丁の四本目の柄杓の子のだよ。焼け跡で拾って並べてたやつ」


「火も入らねえのに、釘なんか集めて、どうすんだ」


「さあね。溶かせもしねえのに」


 鍛冶場の戸口は開いていた。


 中は暗かった。炉の口に赤いものはなかった。


 暗がりの奥から声だけがした。


「預かってんだ」


 二人は黙った。


 黙ってそれぞれ石段を上と下へ離れていった。


---


 薬房の焼け跡の前を女が二人通った。


「薬房の娘が草を上に売りに出したんだってね。けさ、小僧が担いでった」


「売れるのかい焼け跡の草が」


「売れるから出したんだろ」


 土台の石の上でミラが乾かした草を裏返していた。


 顔を上げなかった。


「売ってないわよ」


 女たちは足を止めた。


「替えるの。草と根を。上の薬屋と。今日の夕方の籠で根が来る」


「替えたって売ったって同じだろ」


「同じじゃないわ」


 ミラは草を一枚日に向けた。


「売ったらお金が来る。替えたら根が来る。根が来たら薬になる。薬になったら、あんたの膝に塗れる」


 女の一人が自分の膝を見た。


「……塗ってくれるのかい」


「来たら」


 ミラは言った。


「来たら塗る。来ない人には塗れない」


 女たちは少しだけ黙った。


 黙ってそれから通りすぎた。


 通りすぎてから一人が振り返った。


「明日、行くよ」


「来たら塗る」


 ミラはまた草を裏返した。


---


 夕方の井戸端は、水の音より声のほうが多かった。


「豆下の市で倍だってさ」


「上が買い込んだんだよ。毎年だ」


「荷運びの小僧が一包み買ってきたらしいよ。イサさんの分だって」


「イサさんの分」


「宿で食べてるんだろイサさんは。去年の冬から」


「小僧の金でかい」


「宿の金だろ」


「宿に金なんかあるのかい」


「ないね」


 桶が縁に当たった。


「その小僧がさ今日は石を担いで、上へ行ったって」


「聞いた。売りに行ったんだろ」


「売れたら豆の値も下がるかね」


「小僧が売れたって、豆は下がらないよ」


 誰かが笑った。


「売れたら宿の屋根でも、直すのかね」


「直すったって釘がないだろ。ドランが焼け跡の釘は、拾い尽くしたって」


「宿の婆さんは桶で受けてるよ。雨を。二年」


「屋根より桶だねあそこは」


「桶も漏りはじめたって。婆さんが言ってた」


「……そりゃ困るね」


「困るのは婆さんだよ。小僧じゃない」


「小僧が困ってないみたいな言い方だね」


「困ってる顔したことあるかい。あの小僧」


 誰も答えなかった。


 困っている顔を見たことのある者はいなかった。


 綱を巻いていたのはイサだった。


 背中で巻いていた。


 巻き終えて桶を縁に置いた。


「売りに行ったんじゃないと思うけどね」


 誰も聞いていなかった。


 イサはそれ以上言わなかった。


 言わずに桶の縁を手のひらで拭いた。


「……数えてるよあの子は」


 小さく言った。


 それも誰も聞いていなかった。


---


 日が落ちるころ粉屋の戸口に人が並んだ。


 五人。


 椀を持った者。布を広げて持った者。小さな壺を胸に抱えた者。


 二年並んだことのない戸口だった。


「挽いたのかいほんとに」


「挽いたよ」


 ネラが奥から言った。


「麦が来たからね。麦が来たら粉屋だよ」


「羽の子が回したんだってね」


「回したよ。朝から昼過ぎまで」


「数えながら回すんだって」


「千で替わるんだと。あたしと」


「羽で回したんじゃないのかい。あの畳んでる羽で」


 ネラは手を止めた。


 戸口のほうを見た。


「手だよ」


 言った。


「羽じゃない。手で回した。千ずつ数えて」


 並んでいた男が少しだけ黙った。


 黙ってから笑った。


「荷運びの小僧と羽の子とか」


 男は椀を持ち直した。


「焼け跡で二人でどうするつもりだい。炉もない。屋根もない。人もいない」


「人ならあんたがいるじゃないか」


 ネラが言った。


「あたしは並んでるだけだよ」


「並んでるならいるんだよ」


 ネラは男の椀に粉をすくって入れた。


 すくって入れて、もう一度すくった。


「……多いよ」


「二年ぶりの客だからね」


 男は椀を両手で持った。


 粉は白かった。焦げた色がどこにもなかった。


 次の女が布を広げた。


「羽の子に挽かせたって、上で言われないかい」


「言われるよ」


 ネラは粉をすくった。


「言われてもいいんだと。あの子がそう言った」


 列のいちばん後ろに壺を抱えた年寄りがいた。


 年寄りはずっと黙っていた。


 自分の番が来て、壺を差し出して、それから言った。


「……二年ぶりにパンが焼けるね」


「焼けるよ」


「宿の婆さんも焼くのかい」


「焼くだろうね。羽の子が挽き賃で持って帰った」


「挽き賃」


「粉で払った。金はないからね。あたしにもあの子にも」


 年寄りは壺を受け取った。


 両手で抱えた。


「荷運びの小僧と羽の子と二人でどうするつもりだって、みんな言ってるけどね」


 年寄りは壺の口を手のひらでふさいだ。


「どうするつもりかは知らないよ。でも、粉は来たね」


「来たよ」


「二年来なかった」


「来なかったね」


 年寄りはそれだけ言って、戸口を離れた。


 離れてから壺の口を一度だけ開けて、匂いを嗅いだ。


---


 横丁の四本目の祖父の家の戸口に柄杓の子が座っていた。


 夜だった。


 戸口の前の平たい石の上には、何もなかった。


 家の中から祖父の声がした。


「みんな言ってるぞ」


「何を」


「二人でどうするつもりだって。荷運びの小僧と羽の子と」


 柄杓の子は平たい石を指でなぞった。


 釘のあった跡は、石の上には残っていなかった。


「二人じゃないよ」


 言った。


「宿に兄ちゃん。羽の姉ちゃん。宿の婆ちゃん」


 指を折った。


「鍛冶場にトト。詰所にドランのおじさん。粉屋のネラさん。薬房のミラさん。井戸のイサさん」


 指が足りなくなった。


 足りなくなった手でもう片方の指を折った。


「坂の爺ちゃん。カイのおばさん。じいちゃん」


 それから、少しだけ止まった。


「……おれ」


 家の中は少しのあいだ静かだった。


「数えたのか」


 祖父が言った。


「数えた」


「誰に習った」


「兄ちゃんの真似」


 柄杓の子は言った。


「焼けてからしばらくして、戸口に来て、数えてった。今夜ここで寝る人は何人って」


 祖父は何も言わなかった。


 言わずに戸口まで出てきた。


 孫の隣に腰を下ろした。膝が鳴った。


「おまえを入れていくつだ」


「十二」


「二十八いるんだぞ」


「残りはまだ数えてない」


 柄杓の子は言った。


「名前知らない人がいるから」


 祖父は少しだけ笑った。


 笑ってそれから孫の頭に手を置いた。


「……おまえも名前で呼ばれてないだろうが」


 柄杓の子は何も言わなかった。


 平たい石の上をもう一度指でなぞった。


「じいちゃん」


「なんだ」


「雲の上に星が引っかかる場所があるって、言ってたろ」


「言ったな」


「兄ちゃんはそこ行くのかな」


 祖父は少しだけ黙った。


「……行くなら二人じゃ足りねえな」


「十二でも」


「十二でも足りねえ」


 祖父はそう言って、膝に手をついて、立ち上がった。膝がまた鳴った。


「寝ろ。数えるのは朝にしろ」


 祖父は家の中へ戻った。


 柄杓の子は戸口に残った。


 何も並んでいない石だった。


 並んでいないのに、指は並べる形に動いていた。

読んで頂きありがとうございます。

引き続き1話ずつ毎日更新していきます。

現在5部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。


基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!


少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!


ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)

よろしければ是非応援頂けますと幸いです。

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