幕間 「名もない小僧」
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
今はまだ第1部1章で、まだ物語の序章ですので大きな変化が見られるのをこうご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
井戸端は、朝のうちに三度混む。
一度目は日の出前。鍛冶場と宿の分を汲みに来る者たち。二度目は日が昇ってから。三度目は昼前で、これがいちばん長い。
列に並ぶあいだ、することがない。
だから話す。
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「見たかい、あれ」
「軒下の?」
「そう。鱗のついたやつ」
桶を抱えた女が三人。イサと、名を知らない二人。
「石を食べるらしいよ」
「石なんて食べて、腹が張るのかね」
「知らないよ。でも食べてる」
一人が笑った。
「あの子らしいじゃないか」
「あの子って?」
「石拾いの」
「ああ」
三人が頷いた。
それで通じる。この街ではそれで通じる。
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名前を知っている者は少ない。
顔は知っている。毎朝、空き地で杭を投げているのを見る。昼は坂を上がって詰所へ行く。夕方に戻ってきて、土を掘る。
三年、同じことをしている。
「名前、なんだったかね」
「さあ」
「宿の婆さんは『坊主』って呼んでるよ」
「あたしもそう呼んでる」
「あたしも」
それで足りていた。
この街には百人以上住んでいて、全員の名前を覚えている者はいない。覚える必要がない。「鍛冶場の」「薬房の」「石拾いの」で通じる。
通じなくなったときに、初めて名前を訊く。
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「そういや、あの子」
列の後ろから声がした。年配の男だ。荷車を引いている。
「上の連中に絡まれてたって?」
「絡まれた?」
「三人組が来てたろ。揃いの外套の」
「ああ、あれか」
女たちが振り返った。
「何かあったのかい」
「知らんよ。見てただけだ」
男は荷車の把手を置いた。
「三番街に上の連中が来るなんて、何年ぶりかね」
「二年前に役人が来たよ」
「あれは徴収だろ。今度のは違う」
「どう違うんだい」
「若い」
それだけ言って、男は水を汲みに前へ出た。
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残った三人が、少し声を落とした。
「石の話だってさ」
「誰から聞いた」
「うちの人が。あの子が水路から上がってきたとき、そこにいたって」
「盗み聞きかい」
「通りかかっただけだよ」
女は桶を持ち替えた。
「なんでも、この層に石が落ちたとか」
「それで?」
「探してるって」
「上の連中が、わざわざ」
「四百シャルド出してねえ」
誰かが息を吐いた。
片道四百。三人なら千二百。十日分の日当が三人分。
「あたしら、一生かかっても乗れないよ」
「乗ったって行き先がないだろ」
「それもそうだ」
笑い声が起きた。
乾いた笑い方だった。
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「でもねえ」
イサが言った。
「あの子、乗ってるじゃないか」
三人が彼女を見た。
「毎日ね。上にも下にも」
「荷運びだからだろ」
「そうだよ。でも乗ってる」
イサは桶を地面に置いた。
「あたしらは乗れない。あの子は乗れる。同じ街に住んでてね」
「運賃は荷にかかるって聞いたよ」
「そう。人には取られない」
彼女は井戸の縁を見た。水位が下がっている。今日は列が長い。
「だから荷運びってのは、この街で一番いい仕事なんだ」
「そうかね。安いだろ」
「安いよ。四十しか出ない」
イサは頷いた。
「でも、外に出られる」
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順番が来て、女が水を汲んだ。
桶が満ちるまで、しばらくかかる。井戸は深い。綱を引き上げる音が、規則正しく続いた。
「あの子、いつまでやるんだろうね」
「荷運びかい」
「石拾い」
誰も答えなかった。
答えがないからだ。
「やめないだろ」
ようやく一人が言った。
「なんで」
「やめる理由がない」
「見つからないだろ、どうせ」
「そうだけどね」
女は桶を引き上げた。水が跳ねる。
「見つからないからって、やめる理由になるかい」
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誰も答えなかった。
この街には、そういう人間が何人かいる。
治らない病人の看病を続ける者。帰ってこない息子の分の飯を作る者。壊れた機械を直し続ける整備士。
やめる理由はある。だがやめない。
理由を訊いても、たいてい答えは返ってこない。
「まあ、うちの人も似たようなもんだよ」
女の一人が言った。
「何をしてるんだい」
「昔の道具を磨いてる。もう使わないのにね」
「捨てたらいいじゃないか」
「言ったよ。捨てないんだ」
彼女は桶を持ち上げた。
「捨てられないんだと」
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列が短くなった。
イサが前に出て、綱を引きはじめる。腕の動きが慣れている。三十年、同じ井戸を使っている。
「イサさん」
「なんだい」
「あの子の名前、知ってるのかい」
彼女は手を止めなかった。
「知らないよ」
「訊いたことは」
「ないね」
「なんで」
綱が軋む。桶が上がってくる。
「訊く用がないだろ」
彼女はそう言って、水を汲み上げた。
それで話は終わった。
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昼前の列が捌けると、井戸端は静かになる。
午後は誰も来ない。次に人が集まるのは夕方だ。
空き地のほうから、杭の刺さる音がした。
とん。少し間があって、また、とん。
誰も見ていない。誰も数えていない。
だが音は毎日聞こえる。三年、同じ時刻に。
そのことを、この街の誰も不思議に思っていなかった。
朝に火を点すのと同じくらい、当たり前のことだった。
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――名前を知らないまま、三年が過ぎた。
この先どうなるかを、まだ誰も知らない。
そう遠くない先に、この街は焼ける。
そのとき初めて、井戸端の連中は互いの名前を確かめ合うことになる。
誰が残って、誰が残らなかったかを数えるために。
だが今日は、まだ数えない。
水が満ちて、桶が運ばれて、井戸端は空になった。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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