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星降譚―STELLA NOMINA―  作者: うめこまち
第二部 履いても灰は残る

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147/163

道具と、足りない手①

只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ


どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!


現在は、第5部終盤の執筆に取り掛かっております!

残すは6、7部。

先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)


皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!

 籠の軋む音で目が覚めた。


 二日目だった。


 今日を入れて十九日。


 リュカは横になったまま、懐に手を入れた。


 硬貨の袋。


 ゆうべは数えなかった。数えなくても分かっていた。


 今朝は数えた。


 一枚ずつ指で袋の外から押さえて。


 七枚。


 豆を一包み買って七枚が残った。


 ――十九日で入るぶん。


 荷が一つ下りて日当が十。荷が一つ上がって日当が十。焼ける前は一日で四十だった。焼けてからは荷の数で払われる。


 去年の十九日で荷は二十一あった。


 二百十。


 二百十は、冬のあいだにほとんど豆とパンになった。残ったぶんがきのうの豆一包みと七枚になった。宿の三人ぶんと去年の冬からはイサのぶん。


 星降りが来るまで籠はほとんど動かない。動かないあいだ日当は入らない。


 ――膠は四十。


 二百十から四十を引くと百七十。


 百七十で冬を越せるかどうか。


 去年は二百十で越した。越したが春の終わりに豆が尽きた。尽きてから星降りまでヴェスナが何かを売った。何を売ったのかは訊かなかった。


 リュカは引き算をもう一度した。


 合わなかった。


 合わない引き算は何度しても、合わなかった。


 袋を懐に戻した。


 起き上がった。


 隙間の下の石を見た。五十三。


 石は引き算に入らなかった。


---


 井戸の綱を二度、引いた。


 宿の分とイサの分。


 イサは今朝は何も言わなかった。


 桶を提げて、広場の東の家へ帰っていった。


 よろけなかった。


 リュカはそれを数えなかった。


---


 空き地で杭を出した。


 十一本。


 毎朝、十本を同じ順に撃つ。同じ順に拾う。残りの一本は撃たない。


 今朝は順を変えた。


 撃たない一本を先に出した。


 芯の曲がった一本。


 塔の中で最初の石の羽の縁に挟まれて曲がった。てっぺんの段でゼクスの外套の裾の指一本ぶん外を抜けた一本。それから二年外套の内側のいちばん奥に入れたままだった。


 芯は半ばで拳半分ほど横に逃げていた。


 てっぺんの段ではどちらへ曲がるのか分からなかった。分からないまま撃った。風が最後に向きを決めた。


 朝の空き地の風は弱い。


 曲がった先が右を向くようにつがえた。


 二十歩の的に向けた。


 撃った。


 杭はまっすぐ出た。


 出て途中で右へ寄った。


 かつん。


 的の板の右の縁に当たって跳ねた。


 ――指一本。


 二年前と同じほうへ同じだけ外れた。


 手を出した。


 拾う形で。


 擦れる音。浮く音。


 来た。


 置かれた。


 曲がった一本も来た。来るのはまっすぐな杭と同じだった。


 来るがまっすぐには飛ばない。


 リュカはもう一度撃った。


 右へ寄った。


 三度目も右へ寄った。


 寄る幅は三度とも同じだった。


 ――同じなら数えられる。


 指一本左を狙えばいい。


 四度目は左を狙った。


 かつん。


 板の真ん中だった。


 リュカは杭を呼んだ。


 来た。


 握って芯の曲がりを指の腹でなぞった。


 ――直れば狙い直さなくていい。


 直らないあいだは、毎朝指一本ぶん左を狙う。


 残りの十本をいつもの順に撃った。


 七本目の先が板に浅くしか刺さらなかった。


 芯の先が丸くなっていた。


 二年、毎朝同じ板に当ててきた先だった。


---


 詰所の前はきのうより人が少なかった。


 荷を待つ者は、きのうでだいたい待ち終えていた。


 荷は詰所の脇に並んでいた。


 ドランが荷札を一枚ずつ確かめていた。


「坊主」


「何個」


「六つ」


 ドランは顎で荷を示した。


「下へ三つ。上から三つ。下の三つのうち二つがこれだ」


 長い材木の束が一つ。縄で三か所縛ってあった。リュカの背丈より長い。


 それと樽が一つ。腰の高さ。


「中は」


「塩漬けだ。上の誰かが下の誰かに送る」


 リュカは樽の縁に手をかけた。


 傾けてみた。


 少しだけ傾いた。傾いたが持ち上がる重さではなかった。


 材木の束の端を持った。


 持ち上がった。持ち上がったが反対の端が地面を擦った。


 一人で運ぶ荷ではなかった。


「去年はこういうのは来なかった」


「去年は上が送ってこなかった。運ぶやつが坊主一人だと知ってるからな」


 ドランは荷札を樽に挟み直した。


「今年は送ってきた。荷を増やせと上に言ったからだ」


「……増えた」


「増えた。増えたが坊主一人じゃ運べねえ荷が増えた」


 ドランはそう言って黙った。


 黙って詰所の穴の奥を見た。


 綱が震えていた。


 リュカは振り返った。


 坂を下りきったところにリナンが立っていた。


 腰に包み。翼はミラの布で畳んで。


 ゆうべ、椀を洗いながら、ドランの話をした。坊主の足が要ると言われた話。リナンは黙って聞いていた。


 聞いていて今朝ここに来ていた。


「……リナン」


 リナンが来た。


 樽を見た。材木を見た。


「運べます」


 訊く前に言った。


 リュカは何も言わなかった。


 ドランを見た。


 ドランはリナンのほうは見なかった。


 荷札を見ていた。


「荷運びが二人なら」


 ドランが言った。


「二人とも運賃は要らねえ。木札は一枚で足りる」


 二年前と同じ言い方だった。


 規則のままだとは今日は言わなかった。


「日当は荷の数で払う。二人で一つ担いだら一つぶんだ」


「知ってる」


「知ってることばかりだな」


 ドランはそう言って、工具を腰に差した。


 リュカは材木の束の前の端を持った。


 リナンが後ろの端を持った。


 持ち上げた。


 地面から離れた。


 擦らなかった。


 リナンの翼の布が背中で少しだけ鳴った。


「重いか」


「重いです」


「下ろすか」


「下ろさないです」


 リナンはそう言って、少しだけ持ち直した。


 籠の戸が開いた。


 材木を斜めにして入れた。樽を二人で転がして入れた。小さい荷を一つ。


 リナンは籠の床に足を置いた。


 二年前に四度乗った籠だった。下りが二度。上りが二度。


 荷を担いで乗るのは初めてだった。


 戸が閉まった。


 ドランが止め木を引いた。


 籠が沈んだ。


 リナンは材木の束に手を置いたまま、目を閉じていた。


「……数えますか」


「数える」


「わたしも数えます」


 白が来た。


 冷たくて少し甘い。


 二人で数えた。声に出さずに。


 二十三。


 白が抜けた。


 リナンは目を開けた。


「二十三でした」


「二十三」


「同じでしたね」


 リュカは頷いた。


 同じ数を二人で数えたのは、二年ぶりだった。


---


 受け渡し場でバルが荷札を数えていた。


 籠の戸が開いた。


 バルは顔を上げなかった。


「兄ちゃんか」


「はい」


「足は」


「ついてます」


「ならいい」


 材木を二人で出した。


 バルの手が止まった。


 顔を上げた。


 材木の後ろの端を見た。後ろの端を持っている翼の布を見た。


「……二人か」


「二人です」


 リナンが言った。


 バルはリナンを見た。


 長くは見なかった。


「嬢ちゃん。足は」


 リナンは少しだけ黙った。


 リュカを見た。


 リュカは何も言わなかった。


「……ついてます」


「ならいい」


 バルはそう言って、荷札を一枚、取った。


 それから、袋を一つ台の下から出した。


 古い革の水袋だった。口の縫い目が一度ほどけて、縫い直してあった。


「兄ちゃんのは兄ちゃんが持っとる」


 バルは袋を台に置いた。


「嬢ちゃんのがない。持ってけ。返しに来んでいい」


 ――返しに来る道があるうちは、返さんでいい。


 二年前にリュカが袋を返そうとしたとき、バルはそう言った。


 リナンは袋を見た。


 手を出さなかった。


 ――持ってるやつからは取らない。


 リュカは何も言わなかった。


 バルの手は袋から離れていた。


 リナンはそれを見て、それから袋を取った。


「……ありがとうございます」


「水は入っとらん。入れるのは自分でやれ」


 バルはまた荷札を数えた。


 樽を転がして出した。小さい荷を台に置いた。


 バルが三つの荷札に印を押した。


「日当は」


「明日。荷が向こうに着いてからだ」


「知ってます」


「知っとるなら訊くな」


 材木と樽の日当は二つぶん。担いだのは四本の手。


 手が二つ増えても、日当は増えなかった。


 増えたのは運べた荷の数だけだった。


 ――二つ。


 一人なら運べなかった二つ。


 リュカはそれを数えた。


 日当とは別のところに。


---


 下の市はきのうより静かだった。


 金物の台は市のいちばん奥にあった。


 台の男は二年前と同じ男だった。


 顔を上げなかった。何も言わなかった。


 台の上に釘が並んでいた。長さで分けて。値札が立ててあった。


 リュカは数字だけ読んだ。


 短い釘が一本、二。長い釘が一本、三。


 蝶番が一つ十八。


 ――宿の屋根に釘は何本。


 分からなかった。百は越える。二百かもしれない。


 短い釘で二百なら四百。


 四百は去年の十九日の倍に近かった。


 台の男は何も言わなかった。


 リュカが値札を読み終えるまで何も言わなかった。


 読み終えても何も言わなかった。


 隣の革の台で女が量りの皿を拭いていた。


 台の端に黒い小さな塊が並んでいた。指の先ほど。光に向けると少しだけ透けた。


 膠だった。


「四十かい」


 女が言った。


 顔を上げずに。


「鍋に一杯なら四十。去年、あんたが訊いてったんだろ」


「……訊いた」


「訊いて数えて帰ってった」


 女は皿を置いた。


「買わずにね。今年もそうかい」


「……まだ」


「まだだろうね」


 女はそれだけ言った。


 リナンは、市の半ばのところで足を止めていた。


 楽器も直す台の前だった。


 台の上に弦が巻いて並んでいた。太さで分けて。


 リナンは見ていた。


 見ているだけだった。


 手を出さなかった。


 リュカが横に立った。


「……替えるのか」


「替えないです」


 リナンは言った。


「切れてないので」


「切れたら」


「替えます」


 二年前と同じ答えだった。


 リナンはそう言って、台の前を離れた。

読んで頂きありがとうございます。

引き続き1話ずつ毎日更新していきます。

現在5部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。


基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!


少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!


ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)

よろしければ是非応援頂けますと幸いです。

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