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星降譚―STELLA NOMINA―  作者: うめこまち
第二部 履いても灰は残る

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145/161

灰と、箒①

これから第2部となります。


只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ


どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!


現在は、第5部終盤の執筆に取り掛かっております!

残すは6、7部。

先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)


皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!

軋む音で目が覚めた。


 夜明け前だった。屋根裏の板の隙間はまだ黒かった。


 遠くで太い綱が鳴っていた。


 詰所のほう。穴の奥。


 ――籠。


 リュカは横になったまま数えた。


 一つ軋んで間があってまた一つ。


 上がっていく音だった。


 止まっていた籠が動いている。


 ――降った。


 見えたのではなかった。三番街からは星降りは見えない。降るのは上の層のさらに上。空層の浮島だ。


 降ったことは籠が教える。


 循環石が満ちれば籠が動く。この街からは星はほとんど見えない。弱った石は、もうふだんの星明かりでは籠を動かすほどには満ちない。満ちた石は上から下りてこない。一度に満ちるのは星が降った夜だけだ。


 名がついて、しばらくしてから籠はほとんど動かなくなった。止め木を削り直しても、綱を替えても、動かす力がなかった。


 去年の星降りのあとに二十日ばかり動いた。


 それから、また止まった。


 ――二度目。


 名がついてから二度目の星降りだった。


---


 リュカは左の手を開いた。


 暗かった。


 手のひらの真ん中に平たい重さがあった。指の腹ほど。


 片だった。


 光ってはいなかった。


 ゆうべ、暗い中で何度か開いた。上で星が降っているはずの夜に手のひらの上で何か起きるかもしれないと。


 何も起きなかった。


 去年も起きなかった。


 ――二度目も。


 閉じた。


 右の手を開いた。


 線はあった。冷たさもあった。二年変わらなかった。


 閉じた。


---


 起き上がると、隙間の下に石が並んでいた。


 灰色の平たいの。角のあるの。指の腹ほどの丸いの。


 空き地で拾って、まだ選んでいない石。隙間の光の下に置いて、日に向けておく。三年の癖が五年の癖になった。


 数えた。


 五十三。


 胸には入れない。


 入れる場所はもう手のひらにあった。


 入れないのに拾う。


 拾って並べて、日に向けて、それからどうするのかは決めていなかった。


 決めないまま二年、拾った。


 外套の内側に手を入れた。


 紙が五枚。四つに折って重ねて。


 いちばん外側の一枚を広げた。


 炭の線と数と印。左の上の隅にミラの字が一つ。


 二年前に描いた紙だった。


 籠の線。二十三。受け渡し場。一万五千。岩場。白。四万三千。塔の太い線。五十九。


 紙の右の半分は白いままだった。


 二年で一本も線が増えなかった。


 行ったところは、受け渡し場と下の市だけだった。受け渡し場はもう描いてあった。下の市は、そこから三十歩で線にするほどの長さがなかった。


 ――行ってないから描いてない。


 リナンにそう言った。


 行っていないまま二年がたった。


 紙を折った。


 折り目が四つとも白く擦れていた。広げて折って二年ぶんだった。


 梯子を下りた。


 三段目が鳴った。


---


 井戸の広場はまだ暗かった。


 イサがもういた。


 綱に手をかけていた。


 リュカを見て手を離した。


 何も言わなかった。


 リュカは綱を握った。


 宿の分。


 桶が上がってきた。


 もう一つ引いた。


 イサの分。


 イサは井戸の縁から一歩下がって、立っていた。


 背中を伸ばしていた。


 伸ばしていたが二年前より伸びきっていなかった。


 リュカはそれを数えなかった。


「……籠が鳴ったね」


 イサが言った。


「鳴った」


「降ったんだね」


「降った」


「何日、動くかね」


「ドランに訊く」


 イサは頷いた。


「動くうちに豆を頼んでおくれ。下の市の」


「……豆」


「去年は頼みそびれた」


 イサはそう言って、自分の桶を提げた。


 提げて少しだけよろけた。


 リュカは手を出しかけてやめた。


 ――持ってるやつからは取らない。


 イサはよろけたぶんだけ立ち直って、歩いていった。


---


 宿の前の路地をヴェスナが掃いていた。


 日の出前に掃くのは、焼ける前からの癖だった。


 焼け残った柱の前。店先の半分だけ残った敷石。


 掃くと灰が出た。


 二年掃いてもまだ出た。


 敷石の継ぎ目の奥から焦げた木の粉が雨のたびに浮いてくる。


「籠が鳴ったね」


 ヴェスナが言った。


 顔を上げずに。


「鳴った」


「降ったのは上だよ」


「知ってる」


「話は三日で下りてくる。誰が拾ったいくらで売れた」


 ヴェスナは掃きながら言った。


「下りてくるのは話だけだよ。石は下りてこない」


「……知ってる」


 ヴェスナは店先の端まで掃いた。


 掃いて箒を柱に立てかけた。


 柱の手の届く高さだけ焦げの色が少しだけ薄かった。


 リュカが一度目に出ていく朝に触れたところ。二度目に出ていくときに、また触れたところ。


 閉める代わりに触れる柱。


「それで」


 ヴェスナはリュカの左の手を見た。


「光ったかい」


「光らなかった」


「そうかい」


 ヴェスナはそれだけ言った。


 去年も同じことを訊かれた。


 去年も同じことを答えた。


 梁の上でセイルが首を傾げた。


「……ニヒロ」


 リュカの声だった。


 二年、毎朝言っていた。


「覚えたもんだねあれは」


 ヴェスナが言った。


 土間のほうへ入りながら。


「ほかのはだんだん言わなくなったのに」


 土間の西の隅でリナンが毛布を畳んでいた。


 二年同じ畳み方だった。


 畳んで壁際に寄せて、それからヴェスナの竈の前の床を手で払った。


 ヴェスナは何も言わなかった。


 リナンも何も言わなかった。


 毎朝そうしていた。


 宿の客はいなかった。泊まる客がいないのに、宿は宿だった。


 土間にヴェスナとリナン。屋根裏にリュカ。梁にセイル。


 ――宿の者はそれだけだった。


 客ではない者だけが泊まっている宿だった。


 ヴェスナはそれを宿だと言った。


 出ていける者が泊まっているうちは宿だよ、と。


---


 朝の空き地は、二年前とほとんど同じだった。


 焦げた杭のあいだの物干し綱。二十歩と三十五歩と五十歩の的の板。


 三十歩には何もなかった。


 違うのは的の板が二度替わったこと。焼けた長屋の最後の柱が去年の冬に倒れたこと。


 倒れた柱は、トトと二人で空き地の端に寄せた。


 リュカは二十歩の的の前に立った。


 杭を一本つがえた。


 端の欠けたまっすぐな一本。トトが木の皮の帯で巻き直した一本。帯は二年で三度巻き直した。


 撃った。


 かつん。


 板の前に落ちた。


 手を出した。


 拾う形で。


 何も思わずに。


 ――擦れる音。


 浮く音。


 来た。


 置かれた。


 握った。


 三十五歩。


 撃った。来た。


 五十歩。


 撃った。


 かつん。


 手を出した。


 擦れる音はした。


 浮く音もした。


 杭は浮いて、こちらへ三十歩ほど来て、そこで落ちた。足もとから二十歩先で。


 ――三十歩。


 五十歩の的から三十歩ぶん戻って落ちる。


 二年前と同じだった。


 二年、毎朝、試した。


 一歩も伸びなかった。


 リュカは歩いて拾いに行った。


 拾いに行くのは、二年前と同じく三十歩より先の杭だけだった。


---


 杭を三本地面に刺した。


 三角に。拳ひとつぶん。


 刺すと線が張った。


 杭の頭から杭の頭へ。糸一本の細さ。少しだけしなる。


 鎖線。


 荷を止める線。


 二年、張った。張るたびに同じだった。


 太くならなかった。強くならなかった。三十歩より長くならなかった。


 ――一の型は二つ。


 帰投と鎖線。


 二つ目の型が来てから三つ目は来なかった。


 来たら数える。来るまでは数えない。来ないとも数えない。


 白の中でリナンにそう言った。


 二年数えないままだった。


 杭を抜いた。


 線が消えた。


---


「……鳴ってましたね」


 リナンが空き地の端に来ていた。


 腰に包み。翼はミラの布で畳んで。


 二年で背が少しだけ伸びた。


「籠」


「鳴ってた」


「降ったんですね」


「降った」


 リナンは腰の包みに手を置いた。


「この子ゆうべ少しだけ鳴りました」


「弾いたのか」


「弾いてないです。勝手に一本だけ」


「どれ」


「新しいのです」


 リナンは包みを少しだけほどいた。


 古い木の色の弓なりの枠。弦が六本。


 五本は古い弦だった。里の弦。


 一本だけ色が違った。少し白い。


 ――帰ってから替えます。


 塔の坂でリナンはそう言った。


 帰ってきてから一年待って替えた。一本だけ。里の弦はここでは手に入らなかった。去年の籠が動くあいだにリュカが下の市の楽器も直す台で買ってきた。リナンが指で太さを示した。似た太さのを選んだ。


 どの弦を替えたのかは、リュカは訊かなかった。


「里の弦は鳴らなかったのか」


「鳴りませんでした。新しいのだけ」


 リナンは包みを巻き直した。


「……星が降ると鳴るのかな。新しいのは」


「分からない」


「分からないですね」


 リナンは少しだけ笑った。


「来年も聞いてみます。数えて」

読んで頂きありがとうございます。

引き続き1話ずつ毎日更新していきます。

現在5部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。


基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!


少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!


ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)

よろしければ是非応援頂けますと幸いです。

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