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星降譚―STELLA NOMINA―  作者: うめこまち
第一部 声のない返事

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143/165

無、と名付ける②

只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ


どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!


現在は、第5部終盤の執筆に取り掛かっております!

残すは6、7部。

先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)


皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!

 バルは荷札を数えていた。


 顔を上げなかった。


「兄ちゃんか」


「……はい」


「足は」


「ついてます」


「ならいい」


 リュカは腰の袋を外した。


 バルの新しい袋。アステナの水がまだ少し、残っていた。


「返しに来る道がありました」


 バルは顔を上げた。


 袋を見た。


 受け取らなかった。


「……持っとけ」


「……」


「返しに来る道があるうちは、返さんでいい。道がなくなったら、そのときはもう返せんだろ」


 リュカは袋を腰に戻した。


 ――返す相手がいるうちは預かりもんだ。


 トトと同じことを違う口が言っていた。


 バルは荷札を一枚台に置いた。


 置いて顔を上げずに言った。


「籠は動いとる。乗っていけ」


---


 鎖が軋んだ。


 壁が下へ流れていった。


 隙間が開いた。


 屋根のない路地。黒い山。井戸の広場。空き地の四角い地面。


 煙が上がっていた。


 一本。二本。三本。四本。


 五本。


 一本増えていた。


 ――増えた。


 数えたから分かった。


 籠が止まった。


 詰所の脇の石の上に老人が座っていた。


「……また上がってきたか」


「はい」


「二度目はそんなに驚かんな」


 老人はそう言って、また籠の穴の奥を見た。


 ドランは止め木の柄を握ったまま、木札を見た。


 見ただけで何も言わなかった。


 それで足りた。


 坂を二つ下りた。石段、四十二段。広場。


 柄杓の男の子が広場の端にしゃがんでいた。


 リュカを見た。


「……石の兄ちゃん」


「うん」


「まだ拾ってるの」


「拾ってる」


「塔の上でも」


「塔の上で一つ拾った」


「石?」


「石じゃない」


「じゃあ何」


 リュカは少しだけ考えた。


「小銭」


 男の子はよく分からない顔をした。


「小銭なら下に落ちてるよ。たまに」


「……そうだな」


 男の子はまたしゃがんで、地面を見はじめた。


 小銭を探しているのかもしれなかった。


---


 宿の前の路地をヴェスナが掃いていた。


 夕方だった。


 顔を上げた。


 リュカを見た。リナンを見た。


 また掃いた。


 店先まで掃いて、箒を焼け残った柱に立てかけた。


「戸は」


「閉めた」


 リュカは言った。


「尖ったものの根元に手を触れてきた」


「そうかい」


 ヴェスナは土間へ入った。


 竈に火種石を一つ割って落とした。


 梁の上でセイルが首を傾げた。


「……はい」


 リュカの声で言った。


 湯が沸いた。


 椀が三つ。


 リュカは椀を右の手で持った。


 左の手は膝の上に置いた。手のひらを上に。


 ヴェスナは湯を飲んでいた。


 何も訊かなかった。


 リュカは湯を半分、飲んだ。


「……一つ拾った」


 ヴェスナの椀が止まった。


「小銭と同じ重さだった」


 ヴェスナはリュカの左の手を見た。


 長くは見なかった。


「そうかい」


 それだけ言った。


 言ってからもう一度だけ見た。


「――光らないね」


「光らない」


「光らないのはいいよ」


 ヴェスナはそう言って、椀を竈の縁に置いた。


「光るものは上の人が持っていく」


 リュカは何も言わなかった。


 左の手を閉じた。


 閉じても片はそこにいた。


 リナンは土間の西の隅にいた。


 毛布は畳んで置いてあった。


 出ていった朝と同じ畳み方で。


 リナンは膝をついた。


 ついてそれからヴェスナのほうを見た。


 ヴェスナは鍋を竈から下ろしていた。


 見なかった。


 リナンは毛布を広げた。


 広げてその上に座った。


 何も言わなかった。


 言わないで、包みを膝の上に置いた。


 ――言わないで、毛布を置いておくんですね。


 白の中でリナンはそう言った。


 毛布は置いてあった。


 リナンも何も言わないで座った。


 梁の上でセイルが羽を少しだけ揺らした。


---


 宿って十八日目の朝。


 日の出前に井戸の綱を引いた。宿の分とイサの分。


 イサは何も言わなかった。


 背中を伸ばして見ていた。


 空き地でトトが待っていた。


「数だけ言え」


「十本持っていった」


「おう」


「十一本持って帰った」


 トトは少しだけ黙った。


「……増えてるじゃねえか」


「待たせてた一本が戻った」


「尖ったものの横のか」


「それ」


「坂のは」


「落としたまま。二回呼んで来なかった」


「雲のは」


「五本。雲の中」


 トトは指を折った。


 折って数えた。


「四十から坂の一本と雲の五本。六本。三十四本。お前の手元に十一。鍛冶場に二十三」


「……合ってる」


「合ってるな」


 トトはそう言って、二十歩の的を見た。


「拾いに行かなくていい数が増えたな」


「……増えた」


「増えるのはいい」


 トトはそれからリュカの左の手を見た。


 握っている手を。


「そっちは」


「……拾った」


 リュカは手を開いた。


 トトは見た。


 指を伸ばしかけてやめた。


「……小せえな」


「一シャルドと同じ」


「鍛冶屋の目じゃ値はつかねえ」


 トトは言った。


「鉄でもねえ。石でもねえ。打てねえ。巻けねえ」


「巻けない」


「巻けねえもんは俺の仕事じゃねえ」


 トトはそう言って目を離した。


 離してからもう一度だけ見た。


「……落とすなよ」


「落ちない」


「落ちねえのか」


「握っても開いても落ちない」


 トトは少しだけ黙った。


「なら、杭よりましだな」


 トトは炉のほうへ歩きかけて止まった。


「今日の最後の籠で上から鞴の革が来る。ドランがそう言ってた」


「……鞴の」


「革だけじゃ炉は焚けねえ。膠が要る。膠は炉が焚けなきゃ煮られねえ」


 トトは言った。


「それでも革は要る。順番のいちばん前だ」


 トトはそう言って、坂を上がっていった。


---


 夕方。


 ドランが坂を下りてきた。


 籠の最後の一度を止め木で止めてから。


 肩に包みを一つ担いでいた。革の匂いがした。


 宿の前で包みを下ろした。


 トトが炉のほうから下りてきた。


「鞴の革だ」


 ドランが言った。


「おう」


 トトは包みに手をかけた。


 ドランが包みの結び目に挟んであった荷札を抜いた。


 トトの前に突き出した。


「見ろ」


「……見たかねえよ」


「見なくていい。焼け跡行きだ」


 ドランは言った。


「上の荷受けが書きやがった。書きながら笑ってやがった」


 トトは荷札を見た。


 読めない字を長く見ていた。


「……焼け跡には違いねえ」


「違いねえから腹が立つんだ」


---


 人が集まってきた。


 集まろうと誰かが言ったのではなかった。


 夕方だった。竈に火が入る刻限だった。


 宿の竈の火は通りから見えた。


 見えたから何人かが足を止めた。止まった者の声を聞いて、また何人かが来た。


 ミラが薬房の焼け跡から来た。記録の束を胸に抱えて。


 イサが井戸の綱を巻き終えて来た。


 カイの女房がネラと来た。


 柄杓の男の子も大人の後ろから来た。


 詰所の脇の老人も坂を下りてきた。籠がもう来ない刻限だったから。


 リュカは土間の敷居の上に立っていた。


 数えた。


 声に出さずに。


 ――三十一。


 焼けてから十一日目に四十九だった。


 四十九のうち何人かはもういなかった。いない理由は一人ずつ違った。


 三十一。


 ――四十九いりゃ街だよ。


 あのとき、ヴェスナがそう言った。


 三十一は言わなかった。


 誰がいないのかを一人ずつ数えた。


 名前を知っている者も、知らない者もいた。顔だけ覚えている者も。


 いない理由は知らなかった。籠で上へ行ったのか。下へ下りたのか。


 籠が止まっていた十日ばかりのあいだに歩いて、どこかへ行ったのか。


 知らないまま数から引いた。


 引いても来たぶんは減らない。


 四十九を数えた日はなくならない。


---


 ドランが集まった顔に荷札をもう一度突き出した。


「焼け跡行きだとよ。上じゃここはそう書かれてる」


「焼け跡ねえ」


 ヴェスナが言った。


 箒を柱に立てかけたまま。


「焼け跡は焼け跡だけどね」


「荷札に書かれると違うんだよ」


 カイの女房が言った。


「荷と一緒に上で読まれるんだろ。焼け跡行きって」


「あたしは十七番目だったんだよ」


 カイの女房は、リュカのほうを見ずに言った。


「あの子が数えたとき。十七番目。焼け跡の十七番目じゃないよ」


 ネラがカイの女房の袖を少しだけ引いた。


 カイの女房はそれきり黙った。


「荷は増えてる」


 ドランが言った。


「籠がまた動いてから。上からも下からも。鍋。火種石。革」


 ドランは、トトの足元の包みを顎で示した。


「荷が増えりゃ荷札が増える。荷札が増えりゃ焼け跡行きが増える」


「……増えるのはいいことだよ」


 イサが言った。


 井戸の綱で赤くなった手を前掛けで拭きながら。


「行き先が焼け跡ってのがよくないだけさ」


「シャルディアでいいだろ」


 誰かが言った。


 誰も答えなかった。


 焼けた日から誰もその名を呼ばなかった。


 呼べばあった頃の街を思い出す。


「……シャルディアは欠片って意味だったね」


 ミラが言った。


 記録の束を抱えたまま。


「母さんの帳面にそう書いてあった」


「欠片ももうねえよ」


 トトが言った。


「欠片が焼けちまった」


 誰も笑わなかった。


 老人が籠の穴のほうを振り返った。


「……倅が下りてくるとき」


 老人は言った。


「どこへ下りてくるのか分からなくなる。名前がなけりゃ」


 それきり黙った。


---


 誰も仕切らなかった。


 誰も決めようとは言わなかった。


 言った者が決めたことになる。


 それを誰もしたくなかった。


 ――三十一。


 三十一は街か。


 四十九の日ヴェスナは街だと言った。三十一の日には、まだ誰も何も言っていない。


 リュカは数をもう一度数えた。


 竈の火の前に三十一。


 ゆうべ煙は五本。


 籠は動いている。荷は増えている。鞴の革が届いた。


 数えたらまだ街だった。


 街なのに名前がなかった。


 リュカは、敷居の上で左の手を握っていた。


 握っても片はそこにいた。


「坊主」


 ドランが言った。


 リュカのほうを見ずに。


「お前、荷札の地名は読めたな」


「……読める。地名と数字だけ」


「上の地名でここに似たのはあるか」


 リュカは少しだけ考えた。


 三年、荷札を見てきた。上の地名。下の地名。受け渡し場の台の上の何百枚もの荷札。


「……ない」


「ねえか」


「ここみたいなところはない」


 リュカは言った。


「何もないところは」


---


 言ってからリュカは口を閉じた。


 ――何もない。


 持ってきたものは何もない。


 てっぺんの段であの男にそう言った。一人で持ってきたものは何もない。預かったものと誰かの手の入ったものだけ。


 何もないから来たものがあった。


 選ばなかった石。


 取りに行かなかった片。


 ――ニヒロ。


 口の中でその音がした。


 何もないという意味の古い言葉だと聞いたことがあった。


 誰に聞いたかは覚えていない。


 嘘つきの棚の前でだったかもしれない。夜の土間でセイルが繰り返していた誰かの声の中にあったのかもしれない。


 分からなかった。


 分からないが音は来た。


 夜の土間でセイルは、いろんな声を繰り返した。


 戸口の一軒ずつの声。市の喧騒。嘘つきの棚の老人の声。


 ――該当なし。


 ――無価値だ。


 上の鑑定所の男の声も。


 何もないを言う声はいくつもあった。


 その中にあの音もあった気がした。


 名前は来たものに、あとからつける。


「……ニヒロ」


 リュカは言った。


 声に出して。


 何人かが振り返った。


「何だいそれは」


 ヴェスナが言った。


「何もないって」


 リュカは言った。


「古い言葉だって、聞いたことがある。誰に聞いたかは覚えてない」


「何もないねえ」


「焼け跡よりいい」


 リュカは言った。


「焼け跡は焼ける前のことを言ってる。何もないは今のことを言ってる」


 誰も何も言わなかった。


 リュカは少しだけ黙った。


 それから言った。


「……ニヒロでいい」


---


 決めたのではなかった。


 言っただけだった。


 言った者が決めたことになる。


 誰もそうはしなかった。


 トトが鞴の革の包みを肩に担ぎ直した。


「……ニヒロ行きか」


 口の中で言った。


「焼け跡行きよりはましだな」


 ドランが荷札を裏返した。


 腰から炭の欠片を出した。


 荷札の裏に書いた。止め木を握る手で短く。


「地名は短えほうがいい」


 ドランは言った。


「荷札は狭えからな」


 リュカには読めなかった。


 読めなかったが荷札の地名の形を三年、見てきた。


 見たことのない形だった。


 見たことのない形の地名が一つできた。


 ミラが記録の束を開いた。


 束のいちばん上の紙に炭で何か書いた。右の手で。字が少し左に傾いた。


「何を書いた」


 トトが訊いた。


「今日の数」


 ミラは言った。


「焼けてから六十六日目。三十一人。それとここの名前」


「……名前ってほどのもんかよ」


「書いたら名前よ」


 ミラは束を閉じた。


「書かなかったらただの音」


「明日、上の荷受けに言っとく」


 ドランが荷札を腰に差した。


「焼け跡じゃねえ。ニヒロ行きだってな。笑ったら籠から下ろしてやる」


 詰所の脇の老人が籠の穴のほうをまた振り返った。


「……ニヒロへ」


 老人は口の中で言った。


「下りてくる」


 それきり坂を上がっていった。


 籠がもう来ない刻限だった。


 来なくても、老人は明日もあの石の上に座るのだろう。


「……にひろ」


 柄杓の男の子が言った。


 大人の後ろから。


 意味は分かっていない顔だった。


 分かっていないまま、もう一度言った。


「にひろ」


 梁の上でセイルが首を傾げた。


「……ニヒロ」


 リュカの声だった。


 かすれた短い声。


「あんたが言ってどうするんだい」


 ヴェスナが言った。


「……ニヒロ」


 セイルはもう一度言った。


「覚えたじゃないか」


 ヴェスナはそう言って、少しだけ笑った。


 覚えたくない声は覚えない鳥だった。


 ヴェスナは箒を柱から取った。


 夕方の掃除はもう済んでいた。


 済んでいたのに、もう一度店先を掃いた。


「名前がついたって、掃くのは同じだよ」


 誰に言ったのでもなかった。


「灰はまだ出るからね」


---


 人が帰っていった。


 帰っていく背中の何人かが口の中でその音を言っていた。


 言いにくそうに。


 言い慣れない新しい荷札の地名を読むときのように。


 リナンがリュカの隣に立った。


「……名前つけましたね」


「つけてない」


「つけましたよ」


「言っただけだ」


 リナンは少しだけ笑った。


「言った人がつけたことになります。……と思うんですけど」


 リュカは何も言わなかった。


 ――名前は訊くものだった。


 訊いて答えが返ってくるもの。返ってこないこともあるもの。


 この街には誰も訊かなかった。


 訊かなくても名前は来た。


 来たものにあとからつけた。


「リュカくん」


「うん」


「欠片の街が何もない街になりましたね」


「なった」


「欠片はリュカくんの手にありますけど」


 リュカは左の手を開いた。


 片があった。


 指の腹ほど。青く平たい。上を向いた三角。


 一シャルドと同じ重さ。


 欠片の街の小銭と同じ重さ。


「……一つだけ」


 リュカは言った。


「一つだけある」


「何もない街に一つ」


「一つ」


 リナンはそれを見た。


 触らなかった。


---


 屋根裏へ上がった。


 梯子の三段目が鳴った。


 板の隙間から灰色になりかけた光が細く差しこんでいた。


 光の下に灰色の平たい石が一つ。


 選ばなかった石。


 リュカは膝をついた。


 右の手を石の上に出した。


 拾う形で。


 ――。


 何も思わなかった。


 石は動かなかった。


 帰投は杭だけだった。自分の杭だけ。


 分かっていた。


 分かっていて手を出した。


 出してから手を伸ばした。


 拾った。


 冷たかった。


 手のひらの線と同じくらい。


 ――明日も拾う。


 石を。空き地で。


 宿らなくても。宿っていても。


 三年、拾ってきた。四年目もたぶん拾う。


 リュカは石を袋に入れた。


 ミラの布が二枚入っている袋。


 袋の口を閉じた。


 閉じてから横になった。


 左の手を手のひらを下にして、胸の上に置いた。


 右の手をその上に重ねた。


 線と片が左の手一枚ぶん離れて、そこにあった。


 ――まだだ。


 あの男はそう言った。


 何がまだなのかは分からなかった。


 分からないものを数に入れずに持った。


 ――言わなくてもいずれ知れる。知れたら取りに来る。


 ロアンは、根元の火の向こうでそう言った。


 取りに来たらそのとき考える。


 帰りは帰りに。


 それまではここにいる。


 何もない街の屋根裏に。


 焼け残った半分の屋根の下に。


 階下でセイルが一度だけ言った。


「……ニヒロ」


 それきり黙った。


 リュカは数えた。


 この街の名を呼んだ数を。


 自分が二。


 トトが一。


 ドランが一。


 坂の老人が一。


 柄杓の子が二。


 セイルが三。


 ――十。


 帰っていく背中が口の中で言ったぶんは、聞こえなかった。聞こえなかったぶんは数えない。


 来たぶんは減らない。


 何もない街の最初の十だった。


---


 宿って十九日目の朝。


 日の出前に綱を引いた。宿の分とイサの分。


 空き地へ行った。


 焦げた杭のあいだに物干し綱。二十歩と三十五歩と五十歩の的。


 三十歩には何もなかった。


 リュカは空き地の北の端にしゃがんだ。


 土を指で掘った。


 石が出てきた。灰色の角のあるただの石。


 拾った。


 冷たかった。


 ――宿らない。


 たぶん。


 宿っていても拾う。宿っていなくても拾う。


 拾ってから数える。


 リナンが空き地の端に来ていた。


 腰に包み。翼はミラの布で畳んで。


「……まだ拾ってるんですね」


「拾ってる」


「宿ったのに」


「宿ったのに」


 リナンは少しだけ笑った。


「わたしもまだ数えてます。千を」


「数えてろ」


「はい」


 路地から煙は上がっていなかった。


 朝は火が入らない街だった。


 火が入るのは夕方に一度だけ。


 夕方になったら煙を数える。


 五本か。六本か。


 数えるまでは分からない。


 分からないものは数えるまで待つ。


 リュカは拾った石を袋に入れた。


 袋の中で石が二つになった。


 ミラの布のあいだで。


 左の手には片。


 右の手には線。


 袋にはまだ選んでいない石が二つ。


 何もない街の最初の朝だった。

読んで頂きありがとうございます。

引き続き1話ずつ毎日更新していきます。

現在5部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。


基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!


少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!


ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)

よろしければ是非応援頂けますと幸いです。

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