二度目と、同じ塔①
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第5部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
千で起こされた。
起こされて千を数えた。
何度目かの千で蓋が灰色になった。
暗い灰色から薄い灰色へ。
蓋の向こうで日が昇ったのだ。
――四日目。
宿って四日目。
右の手を開いた。
線はあった。冷たさもあった。
冷たさは、ゆうべと同じに三本の杭のほうへ少しだけ引かれていた。
閉じた。
---
北からの風は止んでいた。
リュカはえぐれの外へ出た。
三本の杭は刺さったままだった。
東の端のまっすぐな一本。そこから南へ二歩のまっすぐな一本。西の端の斜めの曲がった一本。
あいだに手を出した。
あった。
冷たくて細くて少しだけしなる。
ひと晩張ったままだった。
――一晩もつ。
数に入れた。
確かではないけど数える。
二歩南の杭を抜いた。
線が二本、消えた。手のひらの引かれ方が一つ減った。
東の端の杭を抜いた。
もう一本消えた。
曲がった杭を抜いた。
手のひらの冷たさがどこにも、引かれなくなった。
手のひらの真ん中だけに戻った。
ミラの布を杭の頭からほどいた。夜露で少し湿っていた。
畳んで袋に戻した。
リナンが包みの外側の布を楽器に巻き直していた。
「……ひと晩ありましたね」
「あった」
「見えないのにずっと」
「……ずっと」
リュカは三本を外套の内側にしまった。
紙のほうへ。
曲がった一本だけ向きが揃わずに、外套の布を少しだけ押し上げた。
---
大きいほうの袋から一口ずつ飲んだ。
――四と少し。バルが四。
八と少し。
今日岩場を抜ける。抜けた先の行きの一晩目の石まで。
そこでひと晩。
明日、轍に出て受け渡し場。
――今日で着かない。
ゆうべ、そう数え直した。
行きは一日目に轍の先まで歩いて、石の東側で寝た。二日目に岩場をまるごと抜けて白の際。
帰りはきのう岩場を九千。
残りの岩場と石の多い下りと轍を今日のうちに抜けて、受け渡し場まで。
この脚では届かない。
夜は歩かない。
ならもうひと晩。
――八と少しを今日と明日の朝で。
今日、六口。明日二口と少し。
一人、今日、三口。
足りない。
足りないのは知っている。
知っている道で埋める。
---
歩いた。
一から。
岩場の残りだった。
来るときに、足を取られた角のある石。踏むと動く。
荷を担いで石段を下りるときと同じ踏み方で足の裏で確かめてから体重を載せた。
リナンが半歩後ろで同じ踏み方をしていた。
来るときに、三度足を取られて、それから覚えた踏み方だった。
今は一度も取られなかった。
千。
二千。
昼前に石が減った。
土が増えた。
五千を過ぎたところで岩場が終わった。
道が下りになった。
来るときはここで上りになった。昼を過ぎて、道が上がりはじめて、土が減って、石が増えた。
帰りは逆に減っていく。
---
蓋の明るいところが真上を少し過ぎた。
大きいほうの袋から一口ずつ飲んだ。
――二と少し。バルが四。
六と少し。
喉は閉じなかった。
閉じなかったがもう一口は、飲まなかった。
リナンも飲まなかった。
袋の口を締めて腰に戻した。
「……あとどれくらいですか」
「行きの一晩目の石までたぶん夕方」
「たぶん」
「来るときは轍の終わりから昼を過ぎて上りになって、日が傾いて、あの石だった」
リュカは言った。
「でも、来るときの数を逆に辿っても、同じにはならない」
「……ならないんですか」
「来るときは上りだった。帰りは下り。歩幅が違う」
リナンは少しだけ黙った。
「同じ道なのに」
「同じ道でも」
リュカは言った。
「同じ数にはならない」
---
七千。
八千。
石の多い下りが続いた。
来るときに、リナンが三度足を取られた下りだった。
九千。
日が傾いた。
蓋の明るいところが西へ寄って、低くなった。
来るときの一晩目の石が見えた。
大きな石。東側に窪み。
西からの風が石で切れる。
来るときにそこで寝た。
背中を預けた石が夜のうちに、板のように冷たくなった。風が強くなって、石の角を削る高い音がした。
――今夜は。
西から吹いていた。
北には回っていなかった。
あの男は、今夜のことは何も言わなかった。言ったのはゆうべのことだけだ。
ゆうべのことは五つとも当たった。
今夜のことは知らない。
知らないなら、来るときと同じにする。
「……東側にする」
リュカは言った。
「東ですね」
「西から吹いてる」
「……来るときと同じですね」
「同じだ」
窪みに入った。
大きいほうの袋から一口ずつ飲んだ。
――零と少し。バルが四。
四と少し。
大きいほうの袋がほとんど萎んでいた。
萎んだ袋をリナンが膝の上で畳んだ。
リナンの大きい袋。煤の段で空になって、根元でロアンの水を注いでもらった袋。
畳んでから言った。
「……ロアンさんの水なくなりましたね」
「なくなった」
「交換の水でしたね」
「交換の」
「わたしたちまだ交換の半分しかしてない気がします。……と思うんですけど」
「……半分」
「見せたのは手だけなので」
リュカは何も言わなかった。
言わなかったが畳まれた袋を見た。
袋の口にまだ匂いが残っていた。
革と鉄と知らない匂い。
水はなくなった。匂いだけ残った。
---
その夜リュカは杭を刺さなかった。
石の東側の窪みは深かった。風よけは要らなかった。
刺さなくてもよかった。
刺さなくてもあると知っていた。
刺せば張る。
それだけでよかった。
「……リュカくん」
リナンが暗い中で言った。
「ヴェスナさんに何て言いますか」
リュカはすぐには答えなかった。
白の中で分からなかった。岩場でも分からなかった。
「……分からない」
「分からないまま帰るんですか」
「分からないまま帰る」
リナンは少しだけ黙った。
「わたしは言うこと決めてます」
「……何て」
「言わないです」
リナンはそう言った。
「言ったら決めたのがなくなるので。……と思うんですけど」
リュカは何も言わなかった。
言わなかったが少しだけ分かった気がした。
分かった気がしたものを数に入れずに持った。
リナンが千を数えはじめた。
声に出さずに。
---
五日目の朝。
蓋が灰色になった。
水は飲まなかった。
バルの袋に四口。昼に二口。残りの二口は、受け渡し場の手前まで取っておく。
石の多い下りを下りきった。
土が硬くなった。
足の下に二本の浅い溝が始まっていた。
轍だった。
来るときに、一万五千を過ぎたところで消えた轍。
消えたところに立った。
轍の終わりの上に。
来るときにそこに立った。立ってその先に轍がないことを確かめた。東へ行く荷馬車はない。運ぶものがない場所へは車は行かない。
今は逆だった。
轍の始まりに立っていた。
ここから先は車が来る。
――一万五千。
轍の終わりから受け渡し場まで。来るときに数えた。平らな道だった。上りでも下りでもない。
だから同じになる。
リュカは一から数えはじめた。
来るときと同じ道だった。同じ轍。同じ土。
草が増えていった。
来るときは草が減っていった。土の匂いが来て、それから草の匂いが来た。
帰りは逆に来る。
五千。
八千。
蓋の明るいところが真上に来た。
バルの袋から一口ずつ飲んだ。
――二。
バルの袋に残り二口。
――匂い。
一万三千を過ぎたところで匂いが変わった。
湿った石の匂い。苔の匂い。
受け渡し場の匂いだった。
三年、吸ってきた匂い。吸うと喉の奥に水気が張りつく。
半年で慣れて、それから気にもしなかった匂い。
今は気がついた。
一万四千。
一万五千。
木の枠だけの戸口が見えた。
戸はない。
外から光が入っていく。
リュカはその前で止まった。
一息か二息のあいだ。
それから入った。
---
「――おう」
バルが言った。
荷を積む台の向こうで。荷札の束を数えていた。
顔を上げなかった。
「兄ちゃんか」
「……はい」
「何日だ」
「……塔で九日。根元で一日とひと晩。帰りに三日と半分」
「数えとるな」
「数えてます」
バルは荷札を一枚台に置いた。
置いてやっと顔を上げた。
リュカを見た。
リナンを見た。
二人の靴を見た。
「二人とも足はついとるな」
「ついてます」
「ならいい」
バルはそれだけ言って、また荷札を取った。
---
「バルさん」
リュカは言った。
「東の岩場で人に会いました」
バルの手が止まった。
「おったか」
「いました」
「名前は」
「訊きました。三回」
「答えたか」
「答えませんでした」
リュカは言った。
「天気の話をしました。雲が西から来る。日が落ちる前に、明るいところにかかる。かかったら冷える。風が北に回る。今夜は北から吹く」
「当たったか」
「五つとも」
バルはしばらく黙っていた。
黙って荷札を指で撫でていた。
「……そうか」
それだけ言った。
「名前は言わんかったか」
「言いませんでした」
「訊いたんならそれでいい」
バルはそう言って、荷札に印を押した。
押してからその荷札を台の端に寄せた。
何の荷の札なのかは分からなかった。
リュカは訊かなかった。
---
「それから」
リュカは外套の内側から木札を出した。
薄い板。縁が磨り減っている。
来るときに、十六貫を下ろして、受け取った木札だった。
――木札は捨てるな。帰りの籠に乗るとき、荷運びだった証になる。
ドランがそう言った。
「……籠は」
リュカは訊いた。
「動いてますか」
バルは顔を上げた。
「止まっとった」
「止まって」
「兄ちゃんが出ていったあとで止まった。十日ばかりな。上からも下からも何も来んかった」
バルはそう言った。
「おとといまた来た」
「……来た」
「ドランが直した。頼まれもせんのにな」
――止まっていた。
知らなかった。
籠に乗って三番街まで。白の中でそう数えていた。籠がずっと動いているつもりで。
動いていなかった。
十日。
自分が塔にいたあいだ。
それから動いた。
おととい。
――宿って三日目。
岩場で名乗らない男に会った日。見えない線が張った夜。
同じ日に籠がまた来た。
それは関係のないことだった。
関係はないが同じ日だった。
「乗っていけ」
バルは言った。
「木札を見せれば乗れる。ドランがそう決めとる」
「……はい」
「それから」
バルは台の下から何かを出した。
古い革の水袋だった。
リュカは自分の腰のバルの袋を見た。
二口。
「それは返さんでいいと言った」
「……返します」
リュカは言った。
「返しに来る道がありました」
バルはリュカを見た。
長く。
それから、少しだけ口の端を上げた。
「……あったか」
「ありました」
「なら、返してもらう」
バルは、リュカの差し出した袋を受け取った。
受け取って台の下にしまった。
しまってから台の下から出したもう一つの袋をリュカの足元に置いた。
「これは返さんでいい」
「……」
「また返しに来る道があったら返せ」
リュカは袋を見た。
バルから受け取る二つ目の袋だった。
---
籠は来た。
穴の奥の暗がりで太い綱が震えた。
それから、鉄の籠が下りてきた。
格子の戸が開いた。
籠の中には誰もいなかった。
木札は上で見せる。止め木の柄を握っているのは、上のドランだ。
リュカは乗った。
リナンも乗った。翼を畳んで。
来るときは、十六貫を斜めに入れた籠だった。今は二人だけだった。
広かった。
戸が閉まった。
籠が上がりはじめた。
---
鎖が軋んだ。
頭の上で。
太い綱の先で籠を吊っている鎖が上がるたびに軋んだ。
――鎖。
リュカは見上げた。
荷を抱えていなかった。見上げられた。
格子の天井のさらに上に鎖が四つの角から一つにまとまって、綱へつながっていた。
見えた。
三年、見上げなかった鎖が。
軋んで籠を落とさずに、上げていた。
リュカは右の手を開いた。
冷たかった。
冷たさはどこにも引かれていなかった。杭は外套の内側だ。刺していない。
――刺せば張る。
見えない鎖が。
見えている鎖の下で。
リュカは手を閉じた。
「……リュカくん」
リナンが格子に背を預けたまま言った。
「籠のですね」
「籠の」
「本物のほう」
「……本物のほう」
リナンは少しだけ笑った。
笑って鎖を見上げた。
軋みは止まなかった。
---
壁が下へ流れていった。
隙間が開いた。
摩天楼の壁と街のあいだの隙間。
上に三番街が見えた。
屋根のない路地。黒い山。井戸の広場。空き地の四角い地面。
来るときに上から見下ろした。
今は下から見上げた。見上げて同じ高さを過ぎて、それから見下ろした。
――煙。
路地の何本かから細い煙が上がっていた。
竈の煙だった。夕方に一度だけ火種石を割って、鍋を一つ煮る煙。
来るときには見えなかった煙だった。来るときは、夜明け前だったからかもしれない。
かもしれないが数は分かった。
一本。二本。三本。
四本。
四本の煙が上がっていた。
――四。
寄る数の最初の数と同じだった。
関係はなかった。
広場の端に荷車が一台止まっていた。荷が積んであった。何の荷かは見えなかった。
荷が動いていた。
籠が動いたから。
籠が動いたのはドランが直したから。
隙間が細くなった。
壁が近づいた。
見えなくなるまで見ていた。
---
籠が止まった。
格子の戸が開いた。
詰所の屋根と柱だけの小屋。
柱に板が一枚。片道、四百。墨の字が雨で少し流れていた。
詰所の脇の石の上に老人が座っていた。
坂の途中の家の老人。倅を待っている男。
出ていく朝もそこに座っていた。
――戻ってくるなら、この籠から下りてくる。
そう言った。
見とくよと。
老人は籠から出てきたリュカを見た。
しばらく見ていた。
それから言った。
「……上がってきたか」
「……はい」
「下りてくると思ってた」
老人はそう言った。
「上がってくるとは思わんかった」
リュカは頭を下げた。
老人は頷いた。
頷いてまた籠の穴の奥を見た。
倅はまだ下りてこない。
老人はまだ見ていた。
---
詰所の裏から金物を叩く音がした。
一つ。
それから止まった。
ドランが出てきた。
手に工具を持ったまま。
リュカを見た。
リナンを見た。
「……戻ったか」
「戻りました」
「木札は」
リュカは外套の内側から木札を出した。
ドランはそれを見た。
受け取らなかった。見ただけだった。
「捨てなかったか」
「捨てませんでした」
「そうか」
ドランはリナンのほうは見なかった。
荷運びが二人なら、二人とも運賃は要らない。木札は一枚で足りる。規則のままだ。
ドランはそれだけ言って、工具を腰に差した。
「籠直したって」
「直してねえ」
ドランは言った。
「止め木を削り直しただけだ」
「……バルさんが直したって」
「バルは何でも直したって言う」
ドランはそう言って、詰所の裏へ戻りかけた。
戻りかけて止まった。
「坊主」
「はい」
「下で荷運びだったか」
「……荷運びでした」
ドランはリュカの顔を見た。
長くは見なかった。
「そうか」
それだけ言って裏へ戻った。
金物を叩く音がまたした。
---
坂を下りた。
二つ。
一つ目の坂の途中でリュカは、数えはじめた。
詰所から二つ目の坂の下まで。石段。四十二段。広場。
三年、数えてきた数。
――四十二。
数は変わっていなかった。
焼けた瓦の粉がまだ石畳の隙間に残っていた。
広場で子供が二人何かを蹴っていた。
柄杓の男の子だった。もう一人は知らない子だった。
柄杓の男の子がリュカを見た。
見て止まった。
「……石の兄ちゃん」
「……うん」
「まだ拾ってるの」
リュカは少しだけ黙った。
「……拾ってる」
「塔の上でも」
「塔の上には石がなかった」
「なかったの」
「なかった」
「じゃあ何拾ってたの」
リュカは外套の上から杭を押さえた。
「杭」
「杭」
「投げて拾ってた」
子供はよく分からない顔をした。
分からない顔のまま、また何かを蹴りはじめ
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在5部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)
よろしければ是非応援頂けますと幸いです。




