線と、見えぬ檻①
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第5部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
千で起こされた。
起こされて千を数えた。
数え終えてリナンを起こした。
それを何度か。
何度目かの千で暗い白が灰色になった。
灰色が薄くなった。
雲の上で日が昇ったのだ。
――三日目。
宿って三日目。
リュカは右の手を開いた。
線はあった。
手のひらの真ん中から親指の付け根のほうへ斜めに。きのうと同じ長さで。
冷たさもあった。
閉じた。
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大きいほうの袋から一口ずつ飲んだ。
革と鉄と知らない匂いの水。
二口。
――十四と少し。バルが四。
十八と少し。
地上層を今日と明日。
一日に一人、六口。二人で十二口。二日で二十四口。
十八と少しにけさの二口を足して、二十と少し。
一日に十口と少し。一人五口と少し。
一口ずつ足りない。
筒の縁でそう数えた。根元の朝にもそう数えた。数は変わっていなかった。
足りないのは知っている。
知っている道で埋める。
干し肉はもうなかった。きのうの昼に四分の一を噛んだのが最後だった。
リナンが袋の口を締めた。
締めてから自分の腹に手を当てた。
鳴らなかった。
「……鳴りませんでした」
「鳴らないのか」
「鳴るのも疲れるのかもしれないです」
リナンはそう言った。
言ってから少しだけ笑った。
リュカは笑わなかった。
笑わなかったが自分の腹も、鳴っていないことに気づいた。
鳴らないのは、空いていないからではなかった。
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立った。
膝は抜けなかった。
岩の陰から出た。
白は朝の白だった。湿って冷たくて少し甘い。
三歩先の岩が輪郭だけになる。五歩先は白い。
――三万と少し。
ゆうべ、そこまで数えた。
今朝はそこから数える。
四万三千まで一万二千と少し。
風はなかった。
来るときは風が背中から来ていた。西からの風。背中が西なら前が東。
帰りは逆だ。
風が顔に来たら前が西。
まだ来ていなかった。
来ていない風の来るほうへ歩いた。
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三万一千。
三万二千。
リナンの足音が半歩後ろで鳴っていた。
軽い足音だった。軽いのは足が軽いからではなかった。荷が軽いからだ。
包みと水袋とそれだけ。
食べるものの重さがもうない。
――帰ったら。
歩きながら数えた。
トトには数を言う。十本持っていって、三本持って帰った。七本は上。そのうちの一本は、てっぺんの尖ったものの横に刺さったまま。
イサには綱を引く。朝いちばんの水を。
ヴェスナには。
何を言えばいいのかは、まだ分からなかった。
分からないものを分からないまま数えた。数えると足が前に出た。
三万五千。
右の膝が一度、揺れた。
抜けなかった。
揺れただけだった。
――揺れるのと抜けるのは違う。
揺れたぶんを数に入れずに歩いた。
三万七千。
白が少しだけ明るくなった。
上で日が高くなったのだ。
四万。
風が来た。
顔に。
弱い冷たい乾いた風。
「……来ました」
リナンが言った。
後ろから。
「来た」
「前が西ですね」
「前が西だ」
来るときに、背中で聞いた風を今は顔で聞いていた。
同じ風だった。
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四万二千を過ぎたところで白が薄くなった。
急にではなかった。
一歩ごとに少しずつ。三歩先の岩に色がついた。五歩先の岩に影がついた。
十歩先に地面が見えた。
乾いた土と低い岩と灰色の蓋。
四万三千。
白の外へ出た。
明るかった。
白の中よりずっと。
リュカは目を細めた。
根元と白の中で三日。湿った白と門の壁の光だけだった。
頭の上に灰色の天井があった。
雲の蓋。地上層の空。来るときにその下を二日、歩いた。
蓋のいちばん明るいところが真上にあった。蓋の向こうのどこかに日がある。
――昼だ。
一万二千と少し。膝が一度揺れただけ。
きのうより速かった。
速かったのは、脚ではなく知っている道だったからだ。
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窪みの深い石はすぐに見つかった。
白の際から二十歩。
来るときの最後の晩に東側に入った石。
窪みに風が当たっていなかった。
リュカは窪みに腰を下ろした。
リナンも隣に腰を下ろした。
大きいほうの袋から一口ずつ飲んだ。
一口では喉が閉じなかった。
もう一口ずつ飲んだ。
――十と少し。バルが四。
十四と少し。
リナンが翼を少しだけ開いた。
窪みの外の乾いた風の通るほうへ。
「……乾かしていいですか」
「乾かせ」
「白の中ずっと湿ってたので」
畳んだまま三日。白の中の湿り気が羽のあいだに残っていたらしい。
翼は明るいほうへ向けられた。
付け根が少しだけ震えて、それから止まった。
「……明るいです」
リナンは目を閉じて言った。
「明るいと少し、あったかいんですね。蓋の下でも」
「……知ってるだろ」
「知ってますけど。忘れてました」
――忘れる。
三日で。
リュカも忘れていた。明るいほうへ出した手のひらが少しだけ温まって、思い出した。
手のひらの真ん中だけは、温まらなかった。
それから、リュカは窪みの奥を見た。
ここで三十二個目が冷えた。
旅の六日目の朝に空き地で選んだ黒くて、角の尖った石。十日胸にあって、日が落ちてから肌の温度が急に消えた。
袋に入れた。
それから、道で拾った石を胸に入れた。指の腹ほどで片面に浅い窪みのある石。
その石も塔の根元の夜に冷えた。
白の中へ捨てた。
捨てなかった石が手のひらに宿った。
――ここではまだ何もなかった。
この窪みで膝を抱えていたときには。
袋の中の布の折れ目に丸い石が一つ残っていることも、知らなかった。
リュカは右の手を開いた。
蓋の下の明るさの中で線を見た。
白の中で見るより細かった。
細かったがあった。
蓋の明るいほうへ向けた。
日は見えなかった。見えないがそこにある。
空き地で石を日に向けてきたように。
何も起きなかった。
起きないのは知っていた。
知っていて向けた。
閉じた。
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窪みを出た。
一から数え直した。
白の際から先は来るときに、数えていた。けれど、来るときの数を逆に辿っても、同じにはならない。岩を避けた場所も、轍を探した場所も行きと帰りでは違う。
だから一から。
岩場だった。
低い岩が乾いた土の上にばらばらに転がっていた。大きい岩も小さい岩もある。どれも角が風で丸くなっていた。
風は顔に来ていた。
西から。
岩の角を削る音が低くしていた。来るときの夜に高く鳴っていた音と同じ音だった。今は昼なので低い。
千。
二千。
蓋の明るいところが少しだけ西へ寄った。
三千を過ぎたところでリュカは足を止めた。
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岩の上に人がいた。
前の少し右。
膝の高さほどの平たい岩の上に。
座っていた。
片膝を立てて。
空を見ていた。
――人。
白の際から三千と少し。
来るときには誰にも会わなかった。
この岩場に人はいないはずだった。
「……リュカくん」
リナンが後ろで言った。
小さな声で。
「いる」
「いますね」
リュカは投槍器に手をやりかけた。
やりかけてやめた。
岩の上の人はこちらを見ていなかった。
空を見ていた。
顎を上げて。
ずっと上げていた。
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近づいた。
十歩。
背の高い男だった。座っていても分かった。肩が厚い。
袖のない上衣を着ていた。腕がよく焼けていた。蓋の下で焼けた色ではなかった。焼けた腕の上に何か油のようなものが光っていた。上衣の裾が紐で縛ってあった。
岩の脇に刃物が立てかけてあった。
幅の広い少し反った刃。
鞘はなかった。
刃は蓋の明るさを鈍く映していた。
男はまだ空を見ていた。
顎の下が白かった。
腕も顔も焼けているのに、顎の下だけが白い。
――上を向いているからだ。
どこか日の当たるところでずっと上を向いてきたから顎の下にだけ日が当たらなかった。
リュカはそう数えた。
見たとおりに。
「おう」
男が言った。
空を見たまま。
「白から出てきたな」
「……出てきた」
「何日いた」
「三日」
「三日か」
男はそう言って少しだけ笑った。
声を出して。
「三日も明るいとこにいなかったのか。そりゃ目が痛えだろ」
「……痛い」
「だろうな」
男はまだ空を見ていた。
「明るいとこにいとけ。蓋の下でも昼は昼だ。腹の足しにはならねえけどな。身体が思い出す」
「……何を」
「昼だってことを」
男はそう言ってまた笑った。
「白の中にいると、身体が昼を忘れる。忘れたまんまだと夜に冷える。だから、昼のうちに、思い出させとく」
リュカは何も言わなかった。
言わなかったが窪みの石でリナンが言ったことを思った。
明るいと少し、あったかいんですね。忘れてました。
「いい天気だ」
――いい。
いい数だとロアンが言った。三十歩ってのはなと。
同じ言い方だった。
言い方が同じだと思ったのは、なぜなのか分からなかった。
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――東の岩場で人に会ったら、名前を訊け。
バルの声がした。
頭の中で。
受け渡し場で古い革の水袋を足元に置いて。
――おらんはずのところにおる者は、名前を訊いておくもんだ。
塔の中で一度そうした。
人の形をしたものに。人ではないものに。
今度は人だった。
「……名前は」
リュカは訊いた。
男は空を見たまま答えた。
「雲が西から来る」
「……」
「見えるか。あの低いの。蓋のすぐ下の」
リュカは男の見ているほうを見た。
西の蓋の下の低いところ。
白いものが薄く広がっていた。
「日が落ちる前に、あれが蓋の明るいとこにかかる。かかったらすぐ冷える」
「……」
「冷えたら風が回る。北に」
男はそう言った。
「今夜は北から吹くぞ」
それが答えだった。
名前のではなかった。
「……どっちへ帰る」
男が訊いた。
空を見たまま。
「西」
リュカは言った。
「三番街」
「三番街か」
男は少しだけ黙った。
「あそこの空は狭えな」
「……狭い」
「上に上があるからな」
――狭い。
三年、空き地で空を見上げてきた。
それを狭いと思ったことはなかった。比べる空を知らなかった。
狭いと言われて、狭かったのだと分かった。
---
「名前は」
リュカはもう一度訊いた。
二度目だった。
男はやっと空から目を下ろした。
下ろしてリュカを見た。
焼けた顔だった。目の端に皺があった。笑ったときにできる皺だった。
男はリュカの顔を見た。
それから、リュカの右の手を見た。
閉じた手を。
見て何も言わなかった。
それから、リナンを見た。
リナンの背中の畳んだ翼を。
「北の風は翼に来るぞ」
男は言った。
リナンに。
「背中を北に向けんなよ。追い風は翼には悪い」
「……はい」
リナンが言った。
言ってからリュカのほうを見た。
――翼には追い風のほうがまずいです。
来るときの夜にリナンがそう言った。石の東側で。風の音を翼で聞いて。
同じことを知らない男が言った。
「……名前は」
三度目だった。
男はまた空を見上げた。
「日が高いうちに、もう少し見ておきてえんだ」
男は岩から下りた。
立つともっと背が高かった。
刃物を肩に担いだ。
担いで北のほうへ歩きだした。
白の際に沿って。白に入らずに。
「……どこへ」
リュカは訊いた。
「天気を見に」
男は振り返らずに言った。
「日が落ちる前に戻る」
どこへ戻るのかは言わなかった。
---
男は岩のあいだを歩いていった。
大きな足音だった。重い。けれど迷いがない。一定ではなかった。ゼクスの足音とは違う。岩の形に合わせて、速くなったり、遅くなったりした。
ときどき立ち止まって、空を見上げた。
見上げてまた歩いた。
三十歩で小さくなった。
百歩で岩の向こうに消えた。
消える前に、一度だけ片手を上げた。
振りはしなかった。
上げて下ろした。
――ロアンも。
門の前でそうした。片手を少しだけ上げて、振らずに下ろした。
同じだった。
座り方も同じだった。片膝を立てて。
言い方も。
――同じなのか。
分からなかった。
分からないものを数に入れずに持った。
---
リュカは男の座っていた岩に近づいた。
膝の高さの平たい岩。
手を置いた。
右の手ではなく左の手を。
温かかった。
昼の岩は少しだけ温かい。蓋の下でも。
けれど、男の座っていたところだけがそれより温かかった。
人が座っていたぶんというのより少しだけ。
――日の匂い。
焼けた土の匂いではなかった。干した布の匂いに近かった。宿の屋根の上で昼に瓦が出す匂い。
蓋の下に日は当たらない。
当たらないところで日の匂いがした。
右の手を近づけた。
置かなかった。
置くと何かを確かめてしまう気がした。
手のひらの真ん中の冷たさが岩の温かさのほうへ少しだけ縮んだ。
縮んだのかそう思っただけなのかは、分からなかった。
リュカは手を引いた。
――数えない。
一度も確かめていないことは数えない。
確かではないけど、数えるのでもない。
これは数えない。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在5部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)
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