幕間 「戻ってきた杭」
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
前書きテンプレートを使ってましたが、更新せずに貼り付けておりました。失礼しました。
現在は、第5部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
火種石を一つ割り足した。
平たい石の上に三つ。一つがもう灰色になりかけていた。割れ目から出る橙色が低くなっていた。
割ると乾いた匂いがした。
ロアンは片膝を立てて、座り直した。
腰の後ろの弦を張ったものが地面に少しだけ当たった。鳴らなかった。
白の中の夜は静かだった。
風がない。音がない。灯りの届く三歩の外は何もない。
三角の扉の前に、ゼクスが立っていた。
朝白の中から出てきて、坊主の杭を見て、また白の中へ戻っていった。戻ってきてからまた立っている。
何を見ているのかは訊かない。
訊いても答えない。
答えない男に何かを訊くのは、とうにやめた。
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――一息。二息。三息。
気づくと数えていた。
火の割れ目が鳴るあいだを。
ロアンは舌打ちをしかけてやめた。
数えるのは坊主の癖だ。歩数も杭も水も息も。数えないと、何も信じないという顔で数える。
朝の白の前であの坊主は息を数えて、杭を待った。
一息。二息。三息。かつん。
横で見ているうちに、こっちの喉まで数えるようになった。
「……うつるのかよあれ」
口に出した。
誰も答えなかった。
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「ロアン」
火の向こうからアステナが言った。
膝に短い杖。手に珠。
繰っていなかった。
「どう見た」
結論を訊いてくる。
この女はいつもそうだ。自分は結論から言い人にも結論から言わせる。
「その程度だ」
ロアンは言った。
「いちばん下の。寄る。戻る。三十歩まで。人が持ってると来ねえ。それだけだ」
「それだけ」
「それだけだ」
アステナは珠を一つ繰った。
「わたしもそう読む」
「だろうな」
「おとといの夜珠がずれた」
「聞いたよ」
「今日はずれなかった」
ロアンは火から目を上げた。
「読めねえのにずれねえのか」
「読めないことが読めた」
アステナはそう言った。
それきり珠を懐にしまった。
「ややこしいな参謀」
朝と同じことを言った。
アステナは朝と同じに答えなかった。
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その程度だ。
嘘ではなかった。
三十歩。
その外に立てば杭は戻らない。
戻らなければ撃ち切る。てっぺんの段で四十本が零になったように。
敵に回したらと考えた。
考えるのは仕事だ。いずれどこかで当たるかもしれない。当たらないかもしれない。当たったときに考えはじめるのでは遅い。
三十歩の外に立つ。
それで済む。
――済むか。
四十歩から撃った一本が白の中でどさと落ちたとき。
ほっとした。
少しだけ。
三十歩より先からは来ない。来ないものがあると分かって、肩のどこかが下りた。
下りた自分が気に入らなかった。
あの坊主のいちばん下の石で肩を下ろす。上の連中に知られたら、一晩、笑われる。
笑われるのは構わない。
構わないが下りたのは本当だった。
済むはずだった。
済むはずなのに、あの杭の来かたが目の奥から抜けなかった。
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撃ったときと同じ高さで来た。
逆の向きで。尻を先に。
手のひらの前で遅くなった。
当たるのではなかった。坊主の指が閉じる前に、杭のほうが止まっていた。
――返された。
投げたものを受け取ったのではなかった。
投げたものを白の向こうの何かが拾って、持ってきて、手のひらに置いた。
そういう来かただった。
きのう、束から鉄の杭を一本抜いて貸した。拾うつもりで手を伸ばしても、動かなかった。坊主の杭だけが動く。
――持ってるやつからは取らない。
翼の子が両手で杭を握っていたとき。
来なかった。
取らねえ、のか。取れねえ、のか。
どっちだと思うと訊いた。
取らないほうがいい。取れるなら取ってしまう。
坊主はそう言った。
あの年の口から出てくる理屈ではなかった。
ロアンはそのとき、口の端を上げた。上げたのは笑ったからではなかった。何か言うと余計なことまで言いそうだったからだ。
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てっぺんの段で鎚を振った。
尖ったものの根元に。登るための鉄の杭を。
打った杭は弾かれた。弾かれて縁を越えて、雲へ落ちていった。
力で取れるものじゃねえ。
外そうとすると外れねえ。
取りに行くと来ねえ。
そう言ったのは自分だった。翼の子に。言いながら、自分でも何を言っているのか半分しか分かっていなかった。
ゼクスも手を伸ばした。
来なかった。
あの男の手に来なかったものは、ほとんどない。
――取りに行くと来ねえ。
なら、取りに行かなければ。
拾う形で手を出すだけなら。
ロアンはそこで考えるのをやめた。
やめたのは、考えた先がその程度の石の話ではなくなりそうだったからだ。
いちばん下の。寄る。戻る。三十歩まで。
それより上の話は、まだ何も起きていない。
起きていないことを数えるのは、坊主の癖でもない。
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翼の子は杭を離さなかった。
白の中で二十歩。両手で握って。
引っぱられましたと言った。少しだけ。……と思うんですけど。
戻ってきたとき、指がまだ杭の形に曲がっていた。
離したら来たと思います。
離しませんでした。
リュカくんの杭なので。
――そういうことを言うのか。
ロアンはそのとき、何も言わなかった。
言わなかったが覚えた。
引っぱられて離さない手。
離せば来る。来れば試しは一回、増える。数が一つ増える。
それでも、離さなかった。坊主の杭だからという理由で。
坊主の杭は人の手からは取らない。
翼の子の手は坊主の杭を離さない。
どっちも取らない。
――似たもん同士だ。
軽口にするには、少しだけ喉に引っかかった。
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冷たいと言った。
ゆうべのそのまた前の夜。灯りの向こうで。
手のひらの真ん中が冷たい。
ロアンは、自分の石の宿ったところに手を当てた。
宿った日のことは覚えている。
熱かった。
日に焼かれるように。外に出ると、肌の内側から照り返すように。
石はそういうものだと思ってきた。宿れば温かい。使えば熱い。光る石なら光る。燃える石なら燃える。
きのう、参謀も同じことを言った。坊主の手のひらに指で触れて。冷たい。熱を出していない。宿った石はたいてい温かくなる。出すものがあるから。
出すものが少ない。
それが参謀の読みだった。
――少ないか。
あの夜灯りの向こうで眉を上げたとき。
ロアンが考えたのは少し、別のことだった。
熱は外へ出ていく。光も外へ出ていく。出すものがある石は温かい。
なら、冷たい石は。
外へ出すのではなく。
――内へ引くのか。
寄る。戻る。手のひらのほうへ。
あのときは、まだ杭が動いたことを知らなかった。指一本と翼の子から聞いたのは、そのすぐあとだ。聞く前にそう思った。思って言わなかった。
言わなくてよかった。
言っていたら、今朝杭が戻ってきたとき、当たったような顔をしてしまった。
――考えすぎだ。
冷たいのは出すものが少ないからだ。下のほうの石はたいていそうだ。
だからその程度だ。
それで済む。
――済むはずだ。
あの夜に考えたことはアステナに言わなかった。
あの女は読みを珠で決める。人の当て推量を混ぜない。混ぜたらずれる。
ずれた珠の半分がこちらの話のせいになる。
ロアンは手を離した。
――読めねえもんは参謀に渡す。
渡さねえもんもある。
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水は二十と少し渡した。
手を見せてもらう代わりに。交換すると決めたのは参謀だった。交換なら礼は要らない。
坊主はそれを二日で飲む。地上層を二日。
足りねえだろと言った。
足りないぶんは知ってる道で埋める。
そう返ってきた。
――面倒な坊主だ。
面倒なのは言い方がではなかった。
足りないことを知っていて、数えてそれで行く。足りないと分かっている数を足りないまま、持っていく。
上の連中はたいてい逆をやる。足りない数を足りたことにして、持っていく。
ロアンもそうしてきた。
だからやっていけた。
――面倒だな、ほんとに。
口には出さなかった。
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三十歩ってのはな。
いい数だ。
なぜそう言ったのか。
口が先だった。
坊主が鎌翼の日だけ撃ったと言った。拾いに行けなかった距離までかとこちらが言った。言ってからそれがそういうことなのかどうか、自分でも分からなかった。
分からないのに、別れ際にいい数だと言った。
あれは自分の言い方ではなかった。
――あいつなら。
浮かんだ。
名前は浮かべなかった。顔だけが少し。
あいつなら言う。天気の話でもするみたいに。いい数だな、と。理由は言わずに。言わないのではなく理由など最初から考えていない顔で。
ロアンは火を見た。
見ているうちに、浮かんだものを火の中に戻した。
――来てねえやつの話はしねえ。
まだ来ない。
来ないやつの言い方を借りるのは今日だけだ。
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戸は閉めていけよ。
それも言った。
門に戸はない。坊主もそう言った。知ってるよと答えた。知ってて言ってんだと。
知ってて言ったのは本当だった。
なぜ言ったのかは知らなかった。
坊主は、門の脇の壁に右の手を触れていった。閉める代わりのように。
誰かにそうしてきたような手つきだった。
誰になのかは訊かなかった。
訊いたらこちらも、何か言わなければならなくなる。
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アステナが背負い袋の脇で目を閉じていた。
眠っているのかどうかは分からない。あの女は眠っていても、何かを読んでいる。
ゼクスは扉の前に立っていた。
三つの環が灯りの端でくすんでいた。
朝あの男は戻ってきた杭を長く見た。
てっぺんで、尖ったものに刺さった一本を見ていたのと同じくらい長く。
何も言わなかった。
――あれを見るのか。
隣にいてあの男が何かを長く見るのをほとんど見たことがない。
ロアンは立ち上がった。
膝が鳴った。二十五の膝だ。坊主の膝ほどは抜けない。
灯りの外へ三歩、出た。
白い暗がり。
何も見えなかった。
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右の手を前へ出した。
手のひらを下に。指を少しだけ開いて。
坊主が朝そうしていた形。
地面の杭を拾うときの形。
しゃがまずに。
何も思わずに。
――一息。
二息。
三息。
何も来なかった。
当たり前だった。何も撃っていない。撃っていないものは戻ってこない。それにこの手には、冷たいものは何も宿っていない。
「……来ねえよな」
ロアンは言った。
言って少しだけ笑った。
声は出さなかった。
手を下ろした。
下ろした手で腰の後ろの弦を一本はじいた。
撃つ気はなかった。
撃つ気がなくても鳴らす。そういう癖だ。
小さく鳴った。
光は出なかった。出すつもりではじいていない。
音だけが白の中へ少しだけ広がって消えた。
どこにも当たらなかった。
戻っても来なかった。
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灯りのほうへ戻った。
戻る前に一度だけ白の向こうを見た。
開いているほうの門のもっと先。坊主と翼の子が朝に入っていった方角。
白の際まで四万三千。今日のうちには届かない。参謀はそう言った。
どこまで行ったのかは知らない。
知らないがあの坊主は、今も数えているのだろう。
ロアンは胸の徽章に指を触れた。
わざと曲げてある。曲がり具合を指で確かめた。曲がったままだった。
直さなかった。
火の脇に腰を下ろした。片膝を立てて。
割れ目の橙色が低く鳴っていた。
「……さて」
ロアンは言った。
誰にでもなく。
「どうする」
続きの名は呼ばなかった。
呼ぶほどのことは何も起きていなかった。
その程度の夜だった。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)
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