手のひらと、戻るもの①
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
千で起こされた。
起こされて千を数えた。数え終えてリナンを起こした。
それを何度か。
何度目かの千の途中で白が灰色に近くなった。
灰色が少しずつ薄くなって、白に戻っていった。
雲の上で日が昇ったのだ。
――二日目。
宿って二日目。
リュカは右の手を開いた。
門の光の端と朝の白の光が混ざっていた。
線はあった。
手のひらの真ん中から親指の付け根のほうへ斜めに。きのうと同じ長さで。同じ色で。
冷たさもあった。
閉じた。
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バルの袋から一口ずつ飲んだ。
四口。
大きいほうの袋はまだ開けなかった。
開けるのは白の中に入ってからだ。
――二十八と少し。
ゆうべ二口。けさ二口。
二十四と少し。
地上層を二日。
一日に一人、六口。
行きは七口と少し飲んだ。
一口ずつ足りない。
足りないのは知っている道で埋める。轍が消える場所も、白の際も岩の窪みも知っている。
知らない道を歩くと喉が乾く。知っている道は乾かない。
筒の縁でそう数えた。
数えたとおりになるかどうかは喉が決める。
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干し肉の半分を出した。
ゆうべ、しまっておいた半分。
半分に割った。
割ってから隣を見ると、リナンも自分の半分を半分に割っていた。
四分の一を噛んだ。
残りの四分の一はまたしまった。
白の中の昼の分だった。
塩の味が割れた唇にしみた。
しみるのは唇がまだ生きているからだ。
三年そう思ってきた。
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リュカは立った。
膝は抜けなかった。
壁に手をつかなかった。
外套の内側から杭を出した。
三本。
まっすぐな二本と曲がった一本。
それから投槍器。
鉤のついた細長い板。手元の革帯は半分以上裂けていた。手首に掛ければ切れる。
掛けなかった。
右の手で板の手元を握った。
握るのに焦げた指は要らなかった。
「……撃つんですか」
リナンが言った。
座ったまま。膝を抱えて。
「撃つ」
「どこへ」
「白の中へ」
リナンは白を見た。
門の光の四角の外。湿った白い朝。三歩先の石が輪郭だけになる。五歩先は白い。
「……見えないです」
「見えない」
「見えないところに撃って」
「拾う」
リュカは言った。
「拾うのは確かめた」
――白の中へ行く前に、あなたは何かをする。
ゆうべ、アステナはそう言った。読めないけどする。理由は三つ。三つ目は言わない。言うとあなたがしなくなる。
三つ目が何なのかは、まだ分からなかった。
分からないが言われたとおりのことをしようとしていた。
言われたからするのではなかった。
言われる前からゆうべ曲がった一本を膝に置いて、決めていた。
決めていたことを読まれていた。
読まれていても、するのは自分だった。
――読まれるのは構わない。
読めないと言われるより読まれるほうが少しだけ楽だった。
なぜ楽なのかは考えなかった。
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足音がした。
白の中から。
壁沿いに。三角の門のほうから。
二つ。
軽い足音と軽くない足音。
灯りはなかった。朝だった。
「見送りはしねえって言ったろ」
ロアンの声が先に来た。
白の中からロアンが出てきた。片手を腰の後ろにやりかけて、やめていた。
「見回りだこれは」
「……朝にか」
「朝の見回りだ」
ロアンの後ろからアステナが出てきた。
手の中に珠があった。
繰っていなかった。
「来た」
リュカが言う前に、アステナが言った。
「読んだとおりではない」
「……ない」
「読めないと読んだ。読めないとおりに来た」
ロアンが小さく笑った。
「ややこしいな参謀」
アステナは答えなかった。
答えずにリュカの右の手の投槍器を見た。
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ゼクスは来なかった。
来なかったと思った。
白の向こうに何か立っているような気がした。三角の門のほうの白のもっと奥に。人の背丈ほどの少しだけ濃い白。
気がしただけだった。
リュカはそちらを見なかった。
見なくても撃てる。
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まっすぐな一本をつがえた。
板の先の鉤に杭の尻を掛けた。
三年、毎朝そうしてきた手つきだった。
空き地の二十歩。三十五歩。五十歩。
板を肩の後ろへ引いた。
白の中に的はなかった。
的のない白に向けて、撃つのは初めてだった。
――三十歩。
決めた。
撃った。
肩から。肘。手首。板の先が白を切った。
杭が離れた。
白の中へ消えた。
見えなかった。
見えないまま耳だけが待った。
一息。
二息。
三息。
――かつん。
遠くで鳴った。
岩に当たった音だった。乾いた短い音。転がる音はしなかった。刺さったか倒れたか。
三息でかつん。
三十歩と少し。
鎌翼の日に初めて撃った距離だった。三年そこに的を立てたことはなかった。焼けてからも立てなかった。的がないから撃たなかった距離。
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「拾いに行く」
リュカは言った。
言って歩きだそうとした。
三年そうしてきた。撃って歩いて、拾って戻ってまた撃つ。
足が一歩、出かけた。
出かけて止まった。
――拾うのは確かめた。
きのう九回で七回。
拾うつもりで手を伸ばしたとき。
リュカは足を戻した。
戻して右の手を前へ出した。
白のほうへ。
手のひらを下に。指を少しだけ開いて。
空き地で地面の杭を拾うときの形。
手を伸ばしてしゃがんでつかむ。三年で何千回もそうしてきた形。
しゃがまなかった。
しゃがまずに、手だけをその形にした。
――拾う。
思ったのではなかった。
手が拾う形をしていた。
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白の中で何かが鳴った。
かつんではなかった。
擦れる音。
岩の上を鉄が擦る音。
それから音が浮いた。
浮いてこちらへ来た。
低く。白の中を。風を切る音が少しずつ大きくなった。
――来る。
何が来るのかは分かっていた。
分かっていたのに、分かっていなかった。
白の中から杭が出てきた。
撃ったときと同じ高さで。撃ったときと逆の向きで。尻を先に。巻いた木の少し焦げた先を後ろにして。
まっすぐ手のひらへ。
リュカは手を動かさなかった。
動かせなかった。
杭が手のひらに来た。
当たったのではなかった。
置かれた。
ゆうべ、名前が手のひらの真ん中に置かれたように。
重さが来た。
三年、毎朝持ってきた重さ。トトが選んで、量って渡してくれた一本ぶんの重さ。
指が閉じた。
杭を握っていた。
――落ちていく杭を見た。
四十本目で。自分の杭が落ちてくるのを初めて見た。拳五つ右を通って雲へ。
見ているしかなかった。
手を伸ばしても届かなかった。
今、手を伸ばしたら来た。
届かないところから来た。
リュカは杭を握ったまま、少しだけ動けなかった。
動けないのは膝のせいではなかった。
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誰も何も言わなかった。
リナンも。ロアンも。アステナも。
白だけが動かずに湿っていた。
リュカは手の中の杭を見た。
巻いた木の端が少しだけ欠けていた。岩に当たったところだ。鉄の芯は無事だった。
――戻ってきた。
撃った杭が。
拾いに行かずに。
三十歩と少し。
歩かずに。
――八歩。
てっぺんの段で八歩が歩けなかった。距離は八歩のままだった。足のほうが短くなっていた。
今は歩かなかった。
歩かなくても来た。
「……戻った」
リュカは言った。
声がかすれていた。
「戻りました」
リナンが言った。
立っていた。いつの間にか。翼の付け根が少しだけ震えていた。風はなかった。
「戻ったな」
ロアンが言った。
軽い声ではなかった。
軽くない声でもう一度言った。
「……戻ったなおい」
アステナは何も言わなかった。
珠を握っていた。
繰っていなかった。
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「もう一度」
リュカは言った。
誰にではなかった。
自分に。
確かめないと数に入れない。
一度は一度だ。三十二回外れた石の一回目のあとで、宿るかもしれないと思ったことはない。一度では分からない。
曲がった一本をつがえた。
「曲がったやつか」
ロアンが言った。
「曲がったやつだ」
「どこへ飛ぶか分からねえやつだろ」
「分からない」
「分からねえのに撃つのか」
「分からないから撃つ」
てっぺんの段でゼクスに言ったことだった。分からないから来た。
同じ言い方になった。
撃った。
曲がった一本は、まっすぐには飛ばなかった。曲がった芯を軸に横に回りながら、白の中へ右へ流れて消えた。
一息。
二息。
二息半でかつん。
――右へ二十五歩。
たぶん。
リュカは右の手を出した。
白の右のほうへ。
拾う形で。
擦れる音。
浮く音。
来た。
曲がった一本は行ったときと同じに横に回りながら、戻ってきた。回りながら、左へ少しずつ寄って、手のひらへ。
置かれた。
握った。
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「二回で二回」
アステナが言った。
珠を一つ繰った。
「数える」
「……数える」
リュカは頷いた。
頷いて数えた。
――二。
きのうの七とは別に。
七は寄る数だった。
二は戻る数だった。
「三回目」
アステナが言った。
「同じのを遠く」
リュカは、まっすぐな一本をつがえ直した。
さっき戻ってきた端の欠けた一本。
――遠く。
空き地の的は、二十歩と三十五歩と五十歩。三年そこに立ててきた。
四十歩は、三十五歩と五十歩のあいだだった。そこに的を立てたことはない。
板をもう少し後ろへ引いた。
肩を少しだけ深く。
撃った。
杭が高く白の中へ上がって消えた。
一息。
二息。
三息。
四息。
――かつん。
遠かった。
四息でかつん。
四十歩と少し。
リュカは手を出した。
拾う形で。
擦れる音。
浮く音。
来た。
来たがさっきより遅かった。
風を切る音が大きくならなかった。白の中で来て、来てそれから音が低くなった。
どさと地面の音がした。
白の中で。
近かった。
十歩と少し先。
音はそれきりだった。
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「……落ちた」
リュカは言った。
「途中で」
「途中で」
アステナが繰り返した。
「四十歩から来て。十歩のところで」
「……三十歩と少し来た」
リュカは数えた。
四十と少しから十と少しを引く。
三十と少し。
――三十歩。
三年の的のどの距離でもなかった。
鎌翼の日に物干し綱の下から影まで測った距離。それから、四十本目から縁までの距離。撃って拾いに行けなかった距離。
それより遠くからは来ない。
――来ないのか。
一度では分からない。
分からないが三十歩だった。
リュカは白の中へ歩いた。
十歩と少し。
足元を見ながら。
杭は湿った土の上に横になっていた。端の欠けたまっすぐな一本。
しゃがんだ。
膝が抜けた。抜けるのに任せてしゃがんだ。
拾った。
ふつうに。
指一本ぶん寄った。
寄ったのを見て拾った。
---
戻って門の光の端に立った。
十歩と少し。
歩いて戻った。
三年そうしてきたのと同じだった。
同じだったが空き地では毎回、二十歩、三十五歩、五十歩、歩いた。
今は十歩と少しだった。
三十歩ぶん歩かなかった。
「三十歩か」
ロアンが言った。
「坊主の空き地の的は何歩だ」
「……二十歩と三十五歩と五十歩」
「的は」
「板だ」
――的は板だった。板は避けない。
てっぺんの段でゼクスにそう言った。どこで覚えたと訊かれて。空き地で。誰に。誰にも。
「板まで撃って」
「歩いて拾いに行く」
「毎朝か」
「毎朝」
「三十歩は」
「……立てたことがない」
「立てたことのねえ距離か」
「鎌翼の日だけ撃った」
ロアンは少しだけ黙った。
「……それとてっぺんでもだな。四十本目から縁まで。あれも三十歩くらいだった」
リュカはロアンを見た。
この男は縁の上から見ていた。
「拾いに行けなかった距離までか」
リュカは答えなかった。
ロアンも答えを待たなかった。
待たずに火のない朝の白を見ていた。
言ったがそれが本当にそういうことなのかどうかは、ロアンにも分からないようだった。
「……三回で二回」
リュカは言った。
「三回目は三十歩まで来た。三十歩から先は来ない」
「来ないとはまだ言えない」
アステナが言った。
「一度だけ」
「一度だけだ」
「もう一度」
「……もう一度」
四回目。
まっすぐなもう一本。てっぺんで、縁を越えて、段の上に落ちた一本。ロアンが拾って返してきた一本。
三十歩で撃った。
三息でかつん。
手を出した。
――戻れ。
思ってしまった。
拾う形の手を出しながら戻れと。
何も来なかった。
白の中で何も鳴らなかった。
擦れる音も浮く音も。
五息。
十息。
「……来ない」
「来ない」
「戻れと思った」
リュカは言った。
きのうと同じだった。動けと思うと動かない。
「思ったら拾う形じゃなくなった」
手を引いた。
引いてそれからもう一度出した。
何も思わずに。
息を数えた。一。二。三。
拾う形で。
擦れる音。
浮く音。
来た。
置かれた。
握った。
「……四回で三回」
「戻れと思った一回を別に数える」
アステナが言った。
「拾う形で何も思わずに出したのは三回。三回とも来た。三十歩までは」
「……三十歩までは」
「確か」
アステナはそう言った。
結論だけだった。
---
「……わたしが持ってたら」
リナンが言った。
小さな声で。
「来ますか」
リュカはリナンを見た。
「持ってたら」
「リュカくんの杭をわたしが持ってたら。拾う形で手を出したら来ますか」
リュカは答えられなかった。
確かめていなかった。
「……確かめる」
リュカは言った。
「二十歩」
リナンがまっすぐな一本を受け取った。
両手で。
受け取って、白の中へ歩いていった。
十歩で輪郭だけになった。
二十歩でほとんど見えなくなった。
「……持ちました」
白の中から声がした。
リュカは手を出した。
拾う形で。
何も思わずに。
――来るな。
思いそうになった。
思いそうになったのを息で数えて流した。一。二。三。
白の中で小さな声がした。
「……あ」
それきりだった。
何も来なかった。
擦れる音も浮く音も。
「……来ない」
「来ませんでした」
リナンの声だった。
白の中からリナンが戻ってきた。両手で杭を握ったまま。
「でも」
リナンは杭をリュカに差し出した。
「引っぱられました。少しだけ。……と思うんですけど」
「……どっちへ」
「リュカくんのほうへ」
リナンは言い切らなかった。
言い切らなかったが両手の指がまだ杭の形に曲がっていた。
「離したら来たと思います」
「……離さなかった」
「離しませんでした」
リナンはそう言った。
「リュカくんの杭なので」
リュカは杭を受け取った。
受け取って少しだけ黙った。
――誰かが持っていると来ない。
持っている手を振りほどいてまでは来ない。
引っぱるだけだ。
引っぱって、離されなければ、そこにいる。
「……持ってるやつからは取らない」
リュカは言った。
「取らないか」
ロアンが言った。
「取れねえ、じゃなくて」
「……分からない。取らないのか取れないのか」
「どっちだと思う」
リュカは少しだけ考えた。
「……取らないほうがいい」
「なんで」
「取れるなら取ってしまう」
ロアンは何も言わなかった。
言わずに少しだけ口の端を上げた。
アステナが珠を一つ繰った。
「数えておく」
アステナは言った。
「人が持っていると来ない。引っぱるだけ。一回」
「……一回」
「一回では確かではない」
「……確かではない」
「確かではないけど数える」
――確かではないけど数える。
三年そうしなかった。確かめないうちは数にしなかった。
確かではないものも、数えておくというやり方があるらしかった。
覚えた。
――取りに行くと来ねえ。
ロアンの言葉をリナンの声でまた思い出した。片のこと。尖ったものの窪みの青い光。
杭は取りに行かなかった。
拾う形で手を出しただけだった。
拾うのと取るのは違う。
空き地の石は拾ってきた。三年、一度も取ったことはない。誰かのものを手から取ったことは。
人が持っている杭は来なかった。
取らなかった。
――取らずに拾う。
それが片にも同じなのかどうか。
分からなかった。
分からないものをまた一つ数に入れずに持った。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)
よろしければ是非応援頂けますと幸いです。




