その程度と、確信②
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
「……確かめたい」
リュカは言った。
水の袋がリナンの腰に戻ってから。
「ここで」
「何を」
アステナが訊いた。
「杭が動くか」
アステナは珠を一つ繰った。
「見たい」
結論だけだった。
理由は言わなかった。
言わなくてもさっき言っていた。わたしは見たい。
---
リュカは外套の内側から杭を出した。
三本。
まっすぐな二本と曲がった一本。
火の脇の平らな地面に並べた。
並べる前に地面を手で払った。小さな砂利をどけた。転がるものがないように。
並べてから間を測った。
人差し指と中指を揃えて。その幅で。
杭と杭のあいだを指の幅三つずつ。
それから、自分の膝の位置を決めた。杭の列から腕一本ぶん手前。
――ここ。
覚えた。
夜は暗くて測れなかった。
今は白い朝の光がある。影はできない。できないが形は見える。
「ロアン」
アステナが言った。
「杭を一本」
「俺のか」
「鉄の」
ロアンが束から鉄の杭を一本、抜いた。
抜いてリュカの並べた三本の端に置いた。指の幅三つあけて。
全部が鉄の太い杭。一層目の床に落ちていた七本と同じ形の。リュカの杭の三倍ほどの重さの。
「比べる」
アステナが言った。
「坊主のと坊主のじゃないのと」
ロアンが付け足した。
リュカは頷いた。
頷いてからそれを自分で思いつかなかったことに気づいた。
三年、比べてきた。並べて日に向けて色を比べて。
比べるのは石だった。
杭を比べることは考えなかった。
---
一回目。
リュカは、右の手をまっすぐな一本の上にかざした。
拳一つぶん上に。手のひらを下に向けて。
十息。
動かなかった。
二回目。
曲がった一本の上に。
十息。
動かなかった。
三回目。
鉄の杭の上に。
十息。
動かなかった。
「……ゆうべと同じだ」
リュカは言った。
「かざすと動かない」
「ゆうべ動いたのは」
アステナが訊いた。
「拾おうとしたとき」
リナンが答えた。
リュカより先に。
「リュカくんが杭を拾おうとして、手を伸ばしたときです。……と思うんですけど」
「思う」
「見ました」
リナンは言い直した。
「見ました。拾おうとしたときです」
アステナは珠を一つ繰った。
「なら、拾え」
---
四回目。
リュカは、まっすぐな一本を拾うつもりで手を伸ばした。
ふつうに。いつものように。空き地で撃った杭を拾いに行くときのように。
指先が巻いた木の端に届きかけた。
届く前に。
――あ。
動いた。
自分の目で見た。
杭が地面の上を転がるのではなく滑るように、こちらへ寄った。
指の一本ぶん。
それきりだった。
リュカの指先が巻いた木に触れた。
触れて止まった。
拾わなかった。
指を引いた。
杭は指一本ぶん手前にあった。
並べた列から指の幅一つぶんこちらへはみ出していた。
「……動いた」
「動きました」
「動いた」
ロアンが言った。
火の向こうで片膝を下ろしていた。
アステナは何も言わなかった。
珠を繰った。
一つ。
---
五回目。
同じ一本を元の場所に戻した。指の幅三つ。
戻して膝の位置を確かめた。
拾うつもりで手を伸ばした。
――動け。
思った。
思ったとき、もう拾うつもりではなくなっていた。
杭は動かなかった。
指先が巻いた木に触れた。
「……動かない」
「動かなかった」
アステナが言った。
「動けと思った」
リュカは言った。
「思ったら拾うつもりじゃなくなった」
「……なるほど」
ロアンが言った。
何がなるほどなのかは言わなかった。
---
六回目。
七回目。
八回目。
リュカは何も思わないようにした。
思わないようにしようと思うとそれも、思うことになった。
だから数えた。
杭のことではなく息を。
一。二。三。
息を数えながら手を伸ばした。空き地で杭を拾うとき、いつもそうしていたように。何も考えずに数えながら拾う。
六回目は動いた。指一本。
七回目は動かなかった。四で杭のことを思ってしまった。
八回目は動いた。指一本。
九回目。
曲がった一本で。
動いた。指一本。曲がった先が少しだけ斜めに寄った。
十回目。
鉄の杭で。
拾うつもりで手を伸ばした。
重い杭だった。拾えば手首に自分の杭の三倍の重さが来る。その重さを思うと拾うつもりで伸ばすのは難しかった。
それでも伸ばした。
動かなかった。
指先が冷たい鉄に触れた。
鉄は鉄のまま地面にあった。
---
「十回」
アステナが言った。
珠を繰る手を止めて。
「坊主の杭で八回。鉄で二回」
アステナは、そう言ってから少しだけ黙った。
「数え方を決める」
アステナはそう言った。
「かざしたのは数に入れない。拾おうとしたのだけ数える」
リュカは頷いた。
頷いて数えた。
――拾おうとしたのは自分の杭で六回。
四回目、五回目、六回目、七回目、八回目、九回目。
そのうち動いたのが四回。四回目、六回目、八回目、九回目。
動かなかったのが二回。五回目と七回目。どちらも、動けと思ったか杭のことを思ってしまった。
鉄の杭は一回。動かなかった。
「六回で四回」
リュカは言った。
「自分の杭だけだ。鉄は動かない」
「六回で四回」
アステナが繰り返した。
「動いたのは四回とも指一本」
「……指一本だ」
「それより多くはない」
「ない」
「少なくもない」
「……ない」
アステナはそこで珠を膝の上に置いた。
「確か」
アステナは言った。
結論だけだった。
理由は三つ言わなかった。
---
――確か。
リュカは、その言葉を口の中で繰り返した。
三年、確かなことは少なかった。
石が宿らないことは確かだった。三十二回、確かめた。外れるのは、いつも夜で日が落ちてから肌の温度が急に消える。それも確かだった。
確かなのは全部外れることだった。
外れないことで確かなものはなかった。
今一つあった。
六回で四回。
指一本。
自分の杭だけ。
拾おうとしたときだけ。
動けと思うと動かない。
――その程度だ。
分かっていた。
いちばん下の。指一本。冷たいだけ。紋が線一本。
その程度だった。
その程度のことが確かだった。
確かなその程度。
リュカはそれを数に入れた。
三年で初めて、外れない数を一つ数えた。
四。
---
「……リュカくん」
リナンが言った。
リュカの後ろで。膝をついて。
「数えましたか」
「数えた」
「いくつですか」
「四」
「四」
リナンは繰り返した。
繰り返して少しだけ笑った。
「わたしはまだ零です」
「……零」
「三年、何も出てないので」
リナンは喉に指を当てた。
「零でも宿ってますけど」
「……ああ」
「四は零より多いです」
リナンはそう言った。
言い切った。
リュカは何も言わなかった。
言わなかったが四という数をもう一度数えた。
零より多い。
当たり前のことだった。
当たり前のことを隣で言い切る者がいた。
---
「四か」
ロアンが言った。
火の向こうで。
笑ってはいなかった。
「四で何の顔だそれは」
「……数えただけだ」
「数えただけね」
ロアンはそう言って、火種石の火を見た。
見たまま少しだけ黙った。
「……ガヴェも」
言いかけた。
言いかけて止まった。
リュカはロアンを見た。
「……誰だ」
「なんでもねえ」
ロアンはそう言った。
軽口の声ではなかった。
てっぺんの段でも、ゆうべの灯りの向こうでも、見なかった顔だった。笑っていないというのとも違った。何かを思い出してしまった顔だった。
すぐにいつもの顔に戻った。
「四で喜ぶなって話だ。坊主」
「喜んでない」
「顔が喜んでる」
「……喜んでない」
ロアンは笑った。
いつもの笑い方だった。
アステナが珠を一つ繰った。
繰ってロアンのほうを一度だけ見た。
何も言わなかった。
---
「読めなかったのは二つだった」
アステナが言った。
珠を膝に置いたまま。
てっぺんの段で仰向けのリュカの頭の横に立って、そう言った。読めなかったのは二つ。一つはあなたが何をしに来るのか。もう一つはさっきの曲がった杭。
「三つになった」
「……三つ目は」
「その石」
アステナは、リュカの右の手を見なかった。
見ないで言った。
「宿るとは読まなかった。三十三個目は外れると読んだ。外れた。読んだとおり。袋の中の一つは読まなかった。読むものがあると知らなかった」
「……俺も知らなかった」
「知らないものは読めない」
アステナはそう言った。
「読めないものが三つになった。三つともあなた」
「……」
「わたしの珠はゆうべロアンの話を聞いて、一度ずれた」
アステナは膝の上の珠に指を置いた。
「ずれたのは二度目。一度目はあの子の百を数えていて、眠りかけたとき」
――わたしの珠は二度ずれた。
てっぺんの段でそう聞いた。あの子の百。ひと晩一度もずれなかった。わたしの珠は二度ずれた。
二度と言っていた。
今はゆうべのを入れてと言った。
「……数が合わない」
リュカは言った。
アステナは少しだけ目を上げた。
「てっぺんでは二度と言った」
「眠りかけて二度」
アステナは言い直した。
「ゆうべのは眠りかけていない。だから別に数える」
「……別に」
「数え方を決めた」
アステナはそう言った。
表情は変わらなかった。
変わらなかったが珠を繰る指が少しだけ遅かった。
「参謀が数え直すのは珍しいぜ」
ロアンが言った。
アステナは答えなかった。
---
昼になった。
白は昼になっても、白のままだった。少しだけ明るくなっただけだった。
火種石の火をロアンが一つ割り足した。
割り足して、それから背負い袋の口を開けた。
中から何かを出した。
黒っぽい平たいもの。干した肉だった。
ロアンはそれを二つに割った。
割って地面の上に置いた。火の脇のリュカとリナンのほうの側に。
置いて手を引いた。
「……交換に入ってない」
リュカは言った。
「入ってねえな」
「なら、受け取れない」
「受け取らなくていい」
ロアンはそう言った。
「落ちてる」
「……」
「俺が落とした。拾うのは坊主の勝手だ」
リュカは地面の上の干し肉を見た。
――落とし物。
外套は、宿の椅子の背にかかっていたものだった。ヴェスナが着なと言って渡した。誰のものだったのかは知らない。
三年、着てきた。
空き地の石も、どこから来たのかは分からない。分からないまま拾ってきた。
拾うのは三年やってきたことだった。
――拾うのは借りるのとは違う。
リュカは手を伸ばした。
右の手で。拾うつもりで。
干し肉は動かなかった。
当たり前だった。
杭ではない。
リュカは二つのうちの一つを拾った。
もう一つをリナンのほうへ押した。
「……拾え」
「……はい」
リナンが拾った。
拾って小さく言った。
「……落とし物ありがとうございます」
「礼は要らねえ」
ロアンが言った。
「落とし物に礼を言うやつがあるか」
「……落とした人に言いました」
リナンはそう言った。
ロアンは少しだけ黙って、それから笑った。
声を出して。
---
干し肉は硬かった。
塩の味がした。干し魚とは違う塩だった。
割れた唇にしみた。
――食い物は合わせる。
リュカは自分の一つを半分に割った。
割ってからリナンを見ると、リナンも自分の一つを半分に割っていた。
二人とも、半分を外套と腰の包みにしまった。
しまって残りの半分を噛んだ。
明日の白の中で食べる半分だった。
数えなくても、同じことをしていた。
---
昼の少しあと。
リュカは立った。
膝は抜けなかった。
三角の門の前へ歩いた。
三歩。
ゼクスの横に。
ゼクスは扉を見ていた。
リュカも扉を見た。
上を向いた三角。継ぎ目のない扉の面に刻んである。刻み目の中は壁と同じ灰色だった。光っていなかった。
塔に入った日この扉の前で何も分からなかった。開け方も。開けたら何があるのかも。
分からないので、場所だけを覚えた。
「……開かないのか」
リュカは訊いた。
ゼクスにではなかった。
扉に訊いた。
ゼクスが答えた。
「開かない」
短かった。
それきりだった。
開かないと言った。開けられないとは言わなかった。
――開けないじゃなくて。
リナンが言い直すときの言い方を思った。飛べないじゃなくて飛ばない。
ゼクスは開かないと言った。
扉のほうのことだった。
「……なんで待ってた」
リュカは訊いた。
今度はゼクスに。
ゼクスは答えなかった。
答えないまま扉を見ていた。
――答えないのが答えだ。
ゆうべ、ロアンにそうした。宿ったのかと訊かれて、答えなかった。答えないのが答えになった。
この男の答えないのは何の答えなのか。
分からなかった。
分からないまま、リュカは扉の前に、立っていた。
三歩、離れて。
ゼクスの右側に。
槍のある側に。
---
「明日」
ゼクスが言った。
扉を見たまま。
「下りるのか」
――お前とは言わなかった。
誰に訊いたのかは言わなかった。
言わなくても、ここにはリュカしかいなかった。
「……帰る」
リュカは言った。
「三番街へ」
「そうか」
ゼクスはそれだけ言った。
それだけだった。
三番街の路地の入り口で背を向けたまま、姓を訊いた男だった。てっぺんの段でもう一度訊いた男だった。
今は何も訊かなかった。
訊かないことをリュカは、少しだけ意外に思った。
意外に思ったことを数に入れなかった。
---
日が傾いた。
白が少しずつ暗くなりはじめた。
リュカは火の脇に戻った。
杭を三本、拾った。
ふつうに。拾うつもりで手を伸ばして。
三本とも指一本ぶん寄った。
寄ったのを見た。
見て拾った。
――七。
数えた。
六回で四回のあとの三回。
三回とも。
拾うつもりで伸ばして、何も思わなかったから。
思わないで拾えた。
「……七だ」
リュカは言った。
「九回で七回」
「九回で七回」
アステナが繰り返した。
繰り返して珠を一つ繰った。
「確か」
同じことを言った。
今度は、少しだけ声が違った。
どう違うのかは分からなかった。
---
杭を外套の内側の紙のほうへ戻した。
曲がった一本とまっすぐな二本。投槍器。
鉄の杭はロアンに返した。
「返したからな」
リュカは言った。
ロアンがてっぺんの段で言った言い方だった。
ロアンは受け取って、少しだけ黙った。
黙ってそれから笑った。
「預かったもんは、返さねえと寝覚めが悪いか」
「……悪い」
「そうかい」
ロアンは鉄の杭を束に戻した。
戻しながら言った。
「明日、出るのか」
「朝に」
「見送りはしねえぞ」
「……要らない」
「だろうな」
ロアンはそう言って、火種石の火を見た。
「俺らはもう少しいる」
「……なんで」
「さあな」
ゆうべと同じ答えだった。
「俺が決めたんじゃねえ」
---
アステナが珠を懐にしまった。
しまう前に一度だけ言った。
「明日の朝」
結論から。
「白の中へ行く前に、あなたは何かをする」
「……何を」
「読めない」
アステナはそう言った。
「読めないけどする。理由は三つ」
珠はもう懐の中だった。
それでも、指が一つ繰る形に動いた。
「一つ。あなたは確かめないと、数に入れない。二つ。今日拾うのは確かめた。三つ」
アステナはそこで止まった。
止まって少しだけ黙った。
「……三つ目は言わない」
「言わないのか」
「言うとあなたがしなくなる」
アステナはそう言った。
それきり立ち上がって、火の向こうへ歩いていった。
背負い袋の脇に腰を下ろして、目を閉じた。
――結論から言って。
理由を三つ。
三つ目を言わなかったのは、初めてだった。
---
「……帰るぞ」
リュカは言った。
リナンに。
「開いてるほうへ」
「……ここで寝ないんですか」
「寝ない」
リュカはそう言った。
なぜ寝ないのかは言わなかった。
言わなくてもリナンは頷いた。
頷いて立った。
翼を畳んだまま。
火の三つの橙色を少しだけ振り返った。
「……ありがとうございました」
リナンが言った。
火の向こうに。誰にというのでもなく。
「礼は要らねえって」
ロアンの声がした。
「水の礼です」
「交換だろ」
「交換の礼です」
ロアンは答えなかった。
答えずに笑った。声は出さなかった。
ゼクスは扉の前に立っていた。
こちらを見なかった。
見なかったがリュカが白の中へ一歩出たとき、三つの環のうちの一つがほんの少しだけ鳴った気がした。
気がしただけだった。
振り返らなかった。
---
一。
二。
壁沿いに戻った。
二百歩。
来るときより膝が軽かった。
軽かったのは、膝ではなく腰の水袋のほうだった。リナンの腰で二十と少しの水が歩くたびに小さく鳴っていた。
「……明日の朝」
リナンが言った。
後ろから。
「何かするんですか」
リュカはすぐには答えなかった。
――言うとあなたがしなくなる。
アステナはそう言った。
「……言わない」
「言わない」
「言うとしなくなるかもしれない」
リナンは少しだけ黙った。
「……参謀の人と同じこと言いますね」
「……同じか」
「同じです」
リナンはそう言って、それから小さく付け足した。
「ヴェスナさんと同じことを言うときと同じ顔です」
――ヴェスナさんと同じことを言いますね。
塔に入った日の坂でリナンはそう言った。外れじゃないものは、投げないと言ったときに。
リュカは何も言わなかった。
誰と同じことを言っているのか自分では分からなかった。
分からないまま歩いた。
――二十八と少し。
足りない。
足りないが八よりは多い。
百。
百五十。
二百。
開いているほうの門の四角い光の端に戻った。
壁を背に座った。
リナンが隣に座った。
同じ低さに。
---
夜が来た。
バルの袋から一口ずつ飲んだ。
六口。
大きいほうの袋は明日から。
リナンが指を折った。リュカは残りを数えた。突き合わせて合っていた。
リュカは、外套の内側から曲がった一本を出した。
膝の上に置いた。
門の光の端で。
曲がった杭。三年でいちばん弱い振りで撃って、指一本ぶん外れた杭。
――明日の朝。
白の中へ行く前に。
アステナは、あなたは何かをすると言った。
何をするのかはもう分かっていた。
拾うのは確かめた。
拾うには、まずそこに杭がなければならない。
杭がそこにあるのは置いたからだ。並べたからだ。
――撃ったからでもいい。
三年、撃って拾いに行った。空き地の二十歩。三十五歩。五十歩。歩いて拾って戻ってまた撃った。六百八十三本で一本、折れた。
てっぺんでは撃った杭を拾いに行けなかった。雲の中へ五本。尖ったものへ一本。
八歩が歩けなかった。
足のほうが短くなっていた。
――撃って。
それから、拾うつもりで手を伸ばしたら。
指一本ぶんしか寄らない。
分かっている。
三十歩先の杭が指一本ぶん寄っても、二十九歩と少しだ。
それでも。
確かめないと数に入れない。
リュカは曲がった一本を握った。
手のひらの真ん中が冷たかった。
冷たさと夜の鉄の冷たさが重なった。
何も起きなかった。
拾うつもりではなかったからだ。
もう手の中にあった。
――手の中にあるものは寄ってこない。
当たり前のことを思った。
当たり前のことが少しだけ可笑しかった。
リュカは、曲がった一本を外套の内側に戻した。
戻して目を閉じた。
「……千で起こします」
リナンが言った。
「起こせ」
「間違えないです」
「間違えてもいい」
リナンは少しだけ笑った。
笑って数えはじめた。
声に出さずに。
リュカは手のひらを閉じたまま、膝の上に置いた。
閉じた中に何もなかった。
何もないところに冷たさだけがあった。
――四。七。
数えた。
外れない数を。
数えているうちに眠った。
三年で初めての眠り方だった。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)
よろしければ是非応援頂けますと幸いです。




