掌と、沈黙③
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
今はまだ第1部1章で、まだ物語の序章ですので大きな変化が見られるのをこうご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
三番街に戻ったのは、日が傾いてからだった。
空き地を通り抜けようとして、足を止める。
石垣の崩れた面。朝、リナンが土をかいていた場所。
そこに、小さいものがいた。
掌に乗るくらいの大きさだ。四足で、背が低い。鱗がある。尻尾が体と同じくらい長い。
石を齧っていた。
リュカが拾って捨てそこねた石ではない。彼が掘り返して、外れだと判断して置いていった石英だ。
かちり、かちり。
噛み砕く音が、箱の中で聞こえたのと同じだった。
リュカは足を止めたまま、動かなかった。
――どうやってここまで来た。
地上層で逃げたはずだ。昇降機は籠が一つしかない。上りと下りで同じ籠を使う。つまりこれは、彼が帰りに乗った籠に、一緒に乗っていたことになる。
隅も、滑車の陰も、板の隙間も探した。何もいなかった。
――見落としたか。
いや、と思い直す。この大きさなら、綱の巻かれた芯の中に潜り込める。あそこは見ていない。籠を止めるとき、芯は回っている。手を入れれば潰される場所だ。
それは石を齧り続けていた。
齧っているのは、彼が朝に掘り返して、外れだと判断して置いていった石英だった。透ける石。彼の基準では「拾わない」ほうの石。
「……お前か」
それは顔を上げた。
目が二つ。瞳孔が縦に細い。
逃げなかった。
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リュカはしゃがんだ。
三歩の距離だ。近づけば逃げる。近づかなければ、たぶん逃げない。溝鼠と同じだ。
だがこれは溝鼠ではなかった。
鱗が固い。色は灰がかった緑で、背中に沿って小さな棘が並んでいる。前肢に指が四本、後肢に三本。爪が石を削るのに使われている。
――見たことがない。
三番街の生き物ではない。地上層のものでもない。少なくとも、荷運びで見た範囲にはいなかった。
リュカはしゃがんだまま、順に見た。
鱗の並びは魚に似ている。だが乾いている。水の生き物ではない。
脚の付き方は蜥蜴に近い。だが腹が地面についていない。四肢で持ち上げている。
尻尾は太く、先へ行くほど細い。歩くときに左右へ振らない。まっすぐ引きずっている。
背中の棘は、触れば刺さりそうな形をしていた。だが本人は気にしていない。石垣の下に潜り込むとき、棘が石に擦れて音がした。
――邪魔じゃないのか。
邪魔でも、そういう形なのだから仕方がないのだろう。翼を畳むのに時間がかかる娘と、同じことだ。
それは石を最後まで齧り終えて、飲み込んだ。
それから、リュカのほうを見た。
「……もうないぞ」
言ってから、通じるわけがないと思った。
だがそれは、こちらへ一歩近づいた。
二歩、三歩。距離が詰まる。そして彼の靴の先で止まり、鼻先を上げた。
催促していた。
「……」
リュカは懐に手をやった。
袋がある。二十六個。全部、宿らなかった石だ。
それは彼の手の動きを見ていた。懐に入った手を、じっと。
――分かるのか。
石が入っていることが。あるいは匂いか。あるいは、袋が鳴った音か。
リュカは手を止めた。
やろうと思えば、一つやれる。二十六個のうち一つくらい、なくなっても分からない。数えていないのだから。
――いや、数えられてる。
今朝、二十六だと答えたばかりだ。
彼は懐から手を出した。何も持たずに。
――やらない。
そう思った。理由はうまく言えない。捨てられなかった石を、誰かに——何かに——渡す気になれない。
彼は立ち上がった。
それは足元から動かなかった。
「帰れ」
通じない。
「元いた場所に帰れ」
それは首を傾げた。首を傾げる仕草をする生き物だと、初めて知った。
リュカは空き地を出た。
振り返ると、ついてきていた。
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宿の前で、ヴェスナが箒を使っていた。
「坊主」
「うん」
「後ろのは何だい」
「知らない」
「知らないもんを連れて帰るんじゃないよ」
「連れてない」
だが足元にいた。
老婆は箒を止めて、しゃがんだ。膝が鳴った。
それを見て、彼女は少し目を細めた。
「……こりゃ、竜じゃないか」
「竜」
「見たことないけどね。話には聞いてる」
「どんな」
「鱗があって、石を食うって」
ヴェスナは箒の柄で、地面を軽く叩いた。
それは音のほうを見た。逃げなかった。
「あんた、何か食わせたのかい」
「食わせてない」
「じゃあなんでついてくるんだい」
「知らない」
老婆は立ち上がって、腰を伸ばした。
「まあ、追い出しても戻ってくるよ。そういうのは」
「そうなのか」
「そういうもんだ」
ヴェスナは箒を持ち直して、それから彼を見た。
「あんた、餌はどうするんだい」
「餌」
「石を食うんだろ。買うのかい」
「買わない」
「じゃあ、あんたの袋のを」
「やらない」
即答だった。
老婆は片眉を上げた。
「早いね」
「……」
「考える間もなかったのかい」
リュカは答えなかった。
考えていない。考える前に「やらない」と思った。それは朝、リナンに石英を見せられたときと同じだ。基準を訊かれて答えられなかった。
基準はない。ただ手放せない。
「まあ、いいさ」
「婆さん」
「なんだい」
「なんで竜だって分かった」
老婆は掃く手を止めた。
「分かっちゃいないよ。そうじゃないかと思っただけだ」
「でも」
「宿をやってるとね、いろんな話が転がり込んでくる」
ヴェスナは箒に体重をあずけた。
「三十年前かね。上から降りてきた行商が、酔って喋ってたんだ。竜ってのは石を食って、鱗があって、山ほど大きいのから掌に乗るのまでいるって」
「本当の話ですか」
「知らないよ。酔ってたからね」
老婆は笑った。
「でも、鱗があって石を食うもんなんて、他に思いつかないだろ」
「……そうですね」
「宿の女ってのは、当たるかどうか分からない話を、山ほど覚えてるもんなんだ」
彼女は箒を石畳の隙間に差し込んだ。煤が出る。
「うちの軒下なら好きにしな。ただし店の中に入れたら追い出すよ」
「うん」
「それと」
老婆は掃く手を止めずに言った。
「二階の子には言っときな」
「なんで」
「怖がるかもしれないだろ。翼のある子は、鱗のあるやつを嫌うって聞くよ」
「そうなのか」
「知らないよ。聞いた話だ」
リュカは軒下を見た。それは丸くなっている。
「明日、言う」
---
その夜、リュカは屋根裏で袋を開けた。
二十六個。
板の上に並べる。青、白、灰、赤、灰。
軒下に、それはいた。丸くなって動かない。眠っているのかもしれない。
――石を食う。
そういう生き物なら、餌代がかからない。街には石が転がっている。誰も拾わない石が。
リュカは灰色の一つを手に取った。
半月前に拾って、十日試して、何も起きなかったやつだ。四日前に袋へ移した。もう外れと決めたものだ。
これを、やってもいい。
――やらない。
同じことをまた思った。
外れだと決めたのに、渡す気になれない。捨てられないのと同じ理屈だ。誰にも説明できない。リナンには「気になったら拾う」と言った。それが全部だ。気になったものを、手放したくない。
彼は石を袋に戻した。
そして立ち上がって、梯子を降りた。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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