手元に、何も①
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
三つ目は来なかった。
右から二つ。それで止んだ。
――夕方の順番だ。
日が昇っても、まだ壁の片側は冷えたままなのかもしれない。夜のあいだに冷えた石は朝の日が当たっても、すぐには温まらない。冷えた側の風が弱いまま、残っている。
右から二つ。左から三つ。下から四つ。
夕方と同じ。
リュカはそう決めた。
決めたというより決めるしかなかった。覚え直す時間はなかった。一度間違えたら二度目はない。
膝をついたまま、投槍器を肩の高さに上げた。
曲がった一本が板の上で少しだけ傾いていた。鉄の芯が半ばで折れ曲がって、巻いた木ごとまっすぐではない線を描いていた。
芯の曲がり方を指で確かめた。
半ばで拳半分ほど横に逃げている。逃げた先が少しだけ下を向いている。
――下を向いて横に逃げる。
風が下から来れば、逃げた先が持ち上げられる。持ち上げられた先が向きを変える。
向きを変えたらどうなるのか。
その先は指では分からなかった。
――どちらへ曲がる。
芯の曲がった先が右を向くように、つがえれば。
右へ曲がるのか。左へ曲がるのか。それとも回りながら、どちらへでもなくぶれるのか。
分からなかった。
分からないものを分からないまま撃つ。
三年そういうことは一度もしなかった。分からないものは試してから撃った。試せないものは撃たなかった。
今は試せない。
撃たないなら手元には何もない。
撃てば手元には何もなくなる。
――同じだ。
なら、撃つ。
――百。
下から声が来た。
四十二本と縁一つぶん下から。ほとんど聞こえなかった。
聞こえなかったが百のところだった。
リュカは口の中で一に戻した。
戻してそれから思った。
――この一本を撃ったら、次の百のあいだに何が起きているのか。
分からなかった。
何が起きても下の数は続く。
見えるところでは見て。見えないところでは数えて。
リナンは待つのが上手だ。
上手に待つ者のところへ戻る。
戻るのは撃ってからだ。
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左から一つ。
二つ。
ゼクスの環の音が低いところから上がっていった。ゆっくり。三十で満ちる間で。
十。
十五。
左から三つ目。
――下からの三つ目で。
段の上では下からの風は、杭を持ち上げた。十五歩の距離で低く撃てば腰の高さに届いた。
曲がった杭は、まっすぐな杭より風を受ける。受けるところが多い。曲がった面に風が当たる。
持ち上げられかたも違う。
どう違うのかは分からない。
分からないぶんだけ低く。
膝の高さよりもっと低く。足首の高さを狙う。
二十。
下から一つ目。
二つ目。
二十五。
三つ目。
リュカは撃った。
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膝をついたままの振りだった。
足が使えなかった。腰も半分しか回らなかった。肩と腕と板の長さだけで撃った。
三年でいちばん弱い振りだった。
杭は低く出た。
床すれすれをまっすぐに出た。
まっすぐ出て三歩目で浮いた。
下からの三つ目の風だった。風が曲がった面の下に入った。
浮いてそれから回った。
縦にではなかった。横にゆっくり。曲がった芯を軸にして、巻いた木が外側を回るように。
回りながら右へ流れた。
――右か。
右へ流れて、五歩目でまた向きを変えた。
左へ。
左へ戻ってきた。
回るたびに曲がった先が風を受ける向きが変わる。変わるたびに流れる向きが変わる。
右。左。また右。
杭は揺れながら、ゼクスのほうへ上がっていった。
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「――読めない」
アステナの声だった。
小さかった。
小さかったがはっきりと聞こえた。
珠を繰る音が止まっていた。
「ゼクス。読めない。わたしには――」
その先は続かなかった。
ゼクスが動いていた。
右へ。
それから左へ。
足が床を蹴っていた。
両足で。
段の上で半日リュカの杭を避けたとき、あの男は一歩しか動かなかった。右へ一歩。左へ半歩。重さを真ん中に置いて、必要なぶんだけ動いた。
今は違った。
右へ大きく踏んで、それから左へ跳ぶように戻った。
杭が右へ流れるのを見て、右へ逃げた。逃げた先へ杭が流れを変えて来た。
来たから左へ戻った。
戻ったところへ杭が――。
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杭が通りすぎた。
ゼクスの右の腰の外。
外套の裾の指一本ぶん外。
風がそこでもう一度杭の向きを変えたのだ。曲がった先が最後に右を向いた。
指一本ぶん。
杭はゼクスの後ろへ抜けて、尖ったものの根元の壁に当たった。
こん。
当たって跳ね返って床に落ちた。
落ちて滑って、尖ったものの根元の壁際で止まった。
――外れた。
リュカは膝をついたまま、それを見ていた。
指一本ぶん。
膝をついたままのいちばん弱い振りで。試したことのない一本で。夕方の順番だと決めた風で。
三年と五日と半日とひと晩の全部を使って。
指一本ぶん外れた。
曲がった一本は、尖ったものの根元で少しだけ揺れていた。
転がった杭はまっすぐな杭なら、すぐに止まる。曲がった杭は曲がったところを軸にして、しばらく揺れる。
揺れて止まった。
止まった杭の曲がった先がこちらを向いていた。
――こっちを向いてる。
撃った者のほうを。
リュカはそれを見ていた。
杭は何も言わなかった。
言わないまま、こちらを向いていた。
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段の上が静かになった。
風だけが通っていた。右から二つ。左から三つ。下から四つ。夕方と同じ順番で朝の風が段の上を撫でていった。
ゼクスは尖ったものの前に、立っていた。
さっきと同じところではなかった。左へ二歩ずれていた。跳ぶように戻ったぶん戻りすぎていた。
ずれたまま動かなかった。
リュカを見ていた。
見ていたが表情はなかった。
――なかったのか。
リュカは膝をついたまま、ゼクスの顔を見た。
白に近い髪。動かない口。動かない目。
あの日、路地で見た顔と同じだった。きのう、段の上で見た顔とも同じだった。
同じなのにどこかが違っていた。
どこが違うのかは分からなかった。
分からなかったが違うことだけは分かった。
――両足で跳んだ。
段の上で半日あの男は、一歩しか動かなかった。二本目の杭を裾にかすめさせたときも。戻るところへ撃った一本が腕と脇腹のあいだを抜けたときも。
一歩。半歩。
必要なぶんだけ。
さっきは必要なぶんが分からなかった。
分からないから大きく跳んだ。右へ。左へ。
跳ばせた。
あの男を跳ばせた。
――それだけだ。
跳ばせて指一本ぶん外れた。
跳ばせたことは数に入れなかった。
入れても何も変わらなかった。
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「……ゼクス」
ロアンの声だった。
縁の近く膝の上に杭を二本載せたまま。座ったまま、腰を少しだけ浮かせていた。
「今の見たか」
ゼクスは答えなかった。
「指一本だぞ。お前が両足で跳んで指一本だ」
軽い声ではなかった。
軽く言おうともしていなかった。
「坊主、膝ついたままだったぞ。立ってもいねえ。それで――」
「ロアン」
アステナの声が遮った。
壁際に座ったまま。
珠を膝の上に置いていた。繰っていなかった。手のひらで押さえていた。
「黙って」
「……」
「わたしが読めなかった。それだけ」
アステナはそう言って、膝の上の珠を見下ろした。
「読めないものは、外れるかどうかも読めない。外れたのは読んだからじゃない。風が最後にそっちへ向いたから。それだけ」
それだけと二度、言った。
二度目のほうが声が小さかった。
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リュカは二人の声を聞いていた。
聞いていたが頭の中には、入ってこなかった。
頭の中にあったのは数だった。
――撃てる零。
さっきつがえた一本が最後だった。曲がった一本。叩くための一本。叩いていないことを確かめるための一本。
それが尖ったものの根元の壁際に転がっている。
ゼクスの足元から四歩。リュカから十五歩。
段の上に自分の杭があった。
ロアンの膝の上に二本。
尖ったものに一本。
壁際に一本。
四本。
四本が全部見えている。
全部手の届かないところにある。
――手元に。
リュカは自分の手を見た。
右手に投槍器。
何もつがえていない。
左手は床についていた。焦げた二本の指が黒い焦げ跡の上で白っぽく浮いていた。
手元には何もなかった。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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