距離と、足①
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
暗くなりきるまでリュカは、動かなかった。
雲の床のいちばん遠いところの赤が灰色になって、それから灰色も分からなくなった。
壁は黒かった。
杭の列も黒かった。自分の足が載っている四十本目の杭の四角い頭だけが足の裏で分かった。
上で白い光が一つ。
ゼクスの槍だった。
縁の上に立ったまま、動かなかった。
――ゆうべもそうだった。
ゆうべ、煤の段から見上げたとき、あの光は朝まで動かなかった。
あの男はひと晩立っている。
立ったまま眠るのか。眠らないのか。
分からなかった。
分からないが光は動かなかった。
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下から声がした。
百息のところで。同じ高さで。
リュカはその声を数に入れた。
百。
また百。
――リナンはひと晩あそこにいる。
煤の段にほどけない結び方で結ばれたまま。
水袋は二つともリナンの腰にある。喉が乾けば飲める。飲んだら言うと決めてある。言う相手が隣にいない。
殻は結び目の横に挟んである。使わないので、置いておくだけですと言った。
夜が来ても使わない。
たぶん朝が来ても使わない。
戻ってきて切ってください。リュカくんが。
そう言った者は言ったとおりに待つ。
待つのは上手ですと言った者は上手に待つ。
リュカはその上手さが怖かった。
――下りろよ。その帯切って。
ロアンはそう言った。
切れば下りられる。
四十本目から煤の段まで二十三本。暗い中を手探りで。
きのうは三本で手探りがやっとだった。
二十三本手探りで下りる。
できるかもしれない。
できなくても、ここで朝を待てばいい。帯で結んであるから、眠っても落ちない。
朝になったら下りればいい。
リナンのところまで。
帯を切って。
――切ってください。リュカくんが。
けさ、リナンはそう言った。戻ってきて切ってくださいと。
自分の帯を切るのとは違う。
リナンの帯を切るのは戻ってからだ。
戻るのは、――。
――それだけですか。
リナンは二度そう訊いた。
名前を訊く。上を見る。それだけのつもりで行くと答えた。
名前は訊いた。ゼクス。ロアンが言った。
上は見た。尖った先。青い光。
それだけのつもりのことは全部、済んだ。
済んだのに戻らなかった。
杭を撃った。石を投げた。全部、使った。
使いきってここにいる。
――今、戻ったら。
今、戻ったらそれだけのつもりで来て、それだけで済まなかったぶんを全部置いて戻ることになる。
段の上の二本。
尖ったものの一本。
置いていくのか。
ほどけないから置いていった結び目とは違う。
結び目はほどけなかった。
杭は拾える。
拾えるものを置いていくのか。
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リュカは外套の内側に手を入れた。
紙のほう。
指が殻に触れた。
膨らみで拾った三つのうちの最後の一つ。
尖った面が指の腹に当たった。
――これで切れる。
切ったら殻はもうない。
次に何かを切るときは切るものがない。
リナンの帯はリナンの殻で切ればいい。リナンは使わないと言った。使わないで置いておくと。
使わないものが一つ下にある。
使うものが一つここにある。
リュカは殻を出した。
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帯のどこを切るか。
腹の前の結び目はほどけない結び方だ。結び目のすぐ横を切れば、結び目ごと自分から離れる。
杭の側の結び目は、きのうの結び目と自分の帯の端をつないだところだ。そこを切れば、帯は自分の腰に残る。
――腰に残したほうがいい。
残しておけばまた結べる。
短くなるが結べる。
リュカは、杭の側のつないだ結び目のすぐ上に殻を当てた。
引いた。
暗い中で手の感じだけで引いた。
帯が少しずつ裂けていった。
焦げた指で帯を押さえて、右手で殻を引いた。何度も。
きのうもこうした。
きのうはリナンの帯を切った。
今日は自分の帯を切っている。
最後の繊維が切れた。
帯が腰のほうへゆるんだ。
身体の重さが足と右手に戻ってきた。
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殻を見た。
見えなかった。暗かった。
指で触った。
尖っていた面が欠けていた。割れ目が一本増えていた。
握ると、もう一つ割れた。
――終わった。
膨らみで拾った三つはこれで全部、使った。一つはリナンの手元に。一つはきのうリナンの帯を切った。最後の一つは今指の中で二つになった。
二つになった殻を外套の内側に戻した。
尖ってはいない。もう何も切れない。
それでも、捨てなかった。
分からないものを置いていかなかった。役に立ったものも置いていかなかった。
帯は腹の前のほどけない結び目で腰に残っていた。
結び目から先の端が手のひらの長さほど垂れていた。
その端で外套の前を留め直そうとした。
短すぎた。
外套の前は留まらなかった。
帯は腰に一回りして、ほどけない結び目で止まって、それで終わりだった。
――いい。
外套の前が開いたまま、風が中に入った。
下からの風が背中を持ち上げた。
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杭の側に結び目が残った。
きのうの結び目と今日の結び目。二つ重なって。
ほどけない結び方で。
置いていくしかない結び目だった。
――下へ行くなら。
リュカは下を見た。
何も見えなかった。煤の段も。リナンの影も。
声だけがした。
百息のところで。
それから上を見た。
白い光が一つ。
――上へ行くなら。
段の上に自分の杭が二本。
一本はゼクスの足元から三歩。
一本は縁を越えたところ。
二本あればまた撃てる。
撃てば、――。
リュカはその先を数えなかった。
数えずに右手を四十一本目の杭へ伸ばした。
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四十一本目は手が覚えていた。
拳半分、遠い間。けさ登って夕方に下りた間だ。暗くても、手が伸びる先に四角い頭があった。
四十二本目も。
夜の壁は冷たかった。
昼のあいだ日が当たっていた面も日が落ちると、すぐに冷えた。杭の鉄はもっと冷たかった。握るたびに手のひらから温かさが抜けていった。
外套の前が開いている。帯で留めていないぶん風が腹と胸のあいだを通っていった。
――冷えると指が遅くなる。
三年、冬の朝に荷を担いで、知っていた。冷えた指は、握ったつもりで握れていないことがある。
リュカは、杭を握るたびに一度強く握り直した。握れているのを確かめてから体重を預けた。
一本ごとに一つ手間が増えた。
四十三本目で上の白い光が動いた。
縁から少しだけこちらへ傾いた。
環の音が上から降ってきた。暗い中で音だけが上がっていった。
――見えてる。
こちらからはあの男の顔は見えない。白い光の下の黒い形が少しだけ見えるだけだ。
あの男からはこちらが見えているのか。
暗い壁に暗い外套。動くのは手と足だけだ。
見えていなくても、音は聞こえるかもしれない。杭をつかむ音。外套が風に鳴る音。息の音。
リュカは息を細くした。
沈み《ハウ》。
気配を薄くする。石畳の上で三年そうしてきた。
四十四本目へ右手を伸ばした。
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白い線が来た。
右手の拳一つ上。
壁が焦げた。
焦げる一瞬だけ壁が白く照らされた。
照らされた壁に杭の列が見えた。
四十四本目。四十五本目。四十六本目。その上の赤い紐。紐が杭から杭へ斜めに渡っている。
一瞬だけ。
それから、また暗くなった。
――見えた。
リュカは手を引かなかった。
焦げた跡のすぐ下にある四十四本目の頭をつかんだ。
見えたところに手を置いた。
――見えているのか。
沈みで気配は薄くしていた。息も細くしていた。暗い壁に暗い外套だ。
それでも、焼かれたのは手の拳一つ上だった。
見えているのか。聞こえているのか。それとも、昼のあいだにこちらの手の伸び方を覚えたのか。
分からなかった。
分からないが手の行く先は、知られていた。
――手を撃たない。
あの男は手の先を焼く。手そのものは焼かない。
焼くたびに壁が光る。
光るたびに次の杭が見える。
あの男は、戻れと言うつもりで焼いている。
焼かれるたびにこちらには、次の手が見える。
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四十五本目。
今度は、手を伸ばす前に待った。
環の音を数えた。
段の上では縮んでいった。三十二十八二十四二十十八。
今はどうか。
一。二。三。
音が高くなっていく。
――十八じゃない。
二十を過ぎても、まだ上がっていた。
二十五。
二十八。
三十。
そこでいちばん高くなって止まった。
――戻った。
段の上で急いで縮めた間が三十に戻っていた。
急ぐ必要がなくなったからだ。
下から撃たれるものがもうない。こちらが何も持っていないのをあの男は知っている。
急いで張った綱は、ちゃんと張れていない。
ゆっくり張った綱は、ちゃんと張れている。
三十で満ちる。満ちたまま持っている。
――手が動けば来る。
リュカは手を動かさなかった。
満ちたまま、持っていられる間はどれくらいか。
段の上では縁にぶら下がって頭を隠したとき、張ったまま待たれた。あのときは手だけを出して撃たせた。
ここで手を出して撃たせれば壁が光る。
光れば次が見える。
撃たせて見てそれから上がる。
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リュカは左手を上へ出した。
焦げた二本の指を開いて。
白い線が来た。
左手の拳一つ上。
壁が光った。
四十五。四十六。四十七。
見えた。
光が消える前に、右手を四十五本目へ。足を一本、上へ。
暗くなった。
暗くなっても、手は四十五本目の頭をつかんでいた。
――撃ったあとは空だ。
空のあいだに一本。
次に満ちるまで三十。
三十のあいだにもう一本上がれるか。
右手を四十六本目へ伸ばした。
暗い中でさっき見た場所へ。
拳半分、遠い間。
つかんだ。
足を上げた。
二十八。
手を止めた。
三十。
満ちた。
満ちたまま持っている。
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下から声がした。
百のところで。
――二つ数えてる。
上の環の音で三十。下の声で百。
三十を数えながら、百を数えている。
段の上ではアステナの珠の音で数えた。他人の数で撃った。
今は上の数と下の数のあいだで登っている。
上の数は来るなと言う数だ。
下の数は待っていると言う数だ。
どちらも自分の数ではなかった。
どちらも自分の数よりまっすぐだった。
乾いた頭で数える自分の数は、ときどきずれる。ずれても、上の三十と下の百が元に戻してくれた。
四十六本目の上でリュカは息を吐いた。
――一回で二本。
一度撃たせて、光で三本見て、空のあいだに二本上がる。
四十六から五十九まで十三本。
七回。
七回手を出して撃たせる。
七回焦げた指のすぐ上を白い線が通る。
――七回なら。
リュカは左手を見た。
見えなかった。
暗い中で焦げた二本の指が少しだけ痛んだ。
痛むのはまだ指があるからだ。
――撃たない。手は撃たない。
あの男は今日一度も手を撃たなかった。
それを信じるのかと思った。
信じているのではなかった。
数えていた。
今日、何度白い線を見たか。手の近くを何度、通ったか。手に何度当たったか。
零。
指が焦げたのはすぐ上を通ったからだ。当たったのではなかった。
零を数に入れた。
零のぶんだけ手を出せる。
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「――坊主」
上からロアンの声が降ってきた。
暗い中で顔は見えなかった。
「上がってくんのか」
リュカは杭をつかんだまま、少しだけ黙った。
それから言った。
「杭を取りに行く」
自分の声がひどくかすれていた。喉の奥が乾いて貼りついていた。
上でロアンが黙った。
しばらくして、声がした。
「……取りにね」
軽くなかった。
「ゼクス。取りに来るってよ」
返事はなかった。
白い光は動かなかった。
環の音だけが満ちたまま、止まっていた。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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