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星降譚―STELLA NOMINA―  作者: うめこまち
第一部 数えるほど減る

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113/168

四十と、空の袋①

只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ


どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!


現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!

残すは5、6、7部。

先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)


皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!

 音が聞こえなくなった。


 高くなりすぎた音は音ではなくなった。耳の奥で何かが張りつめたまま止まった。


 リュカは跳んだ。


 考えてから跳んだのではなかった。


 杭の列のほうへ。弧の端へ。七歩。


 三歩目で足元が白くなった。


 段の床が下から光ったように見えた。光ったのは床ではなかった。床に映った光だった。


 四歩目は踏めなかった。


 押された。


 背中を何か大きな平たいもので、まとめて押された。


 熱くはなかった。痛くもなかった。


 ただ押された。


 リュカの身体は、残りの三歩ぶんを足を使わずに飛んだ。


 段の縁が目の前に来た。


 縁の向こうは雲だった。


---


 右手が縁をつかんだ。


 つかんだと思ったときには、身体はもう縁の外にあった。


 足が宙を蹴った。


 左手も縁へ伸ばした。焦げた二本の指が縁の角に触れて滑った。


 ――右だけだ。


 右手一本で身体が縁にぶら下がっていた。


 足の下に何もなかった。


 ちがう。


 あった。


 ――杭の列は弧の端。


 跳んだ先は弧の端だった。真下に杭がある。


 つま先で探った。


 壁。継ぎ目のない滑らかな壁。


 もう少し右。


 何もない。


 もう少し。


 ――あった。


 四角い頭。鉄の冷たい角。


 五十九本目だった。


 足が載った。


 載ったとたん右の腕から重さが抜けた。


 抜けた重さのぶんだけ息が出た。


---


 頭の上で段の縁が白く光っていた。


 縁から光が溢れていた。溢れて雲のほうへ広がって、消えていった。


 さっきまでの白い線ではなかった。


 線ではなく面だった。


 段の上のリュカが立っていたあたりがまとめて、白くなって、それから黒くなった。


 焦げる匂いが縁を越えて、落ちてきた。


 さっきまでよりずっと濃かった。


 ――あそこにいたら。


 リュカはその先を数えなかった。


 数えなくても分かった。


 縁にぶら下がったまま、リュカは右手の指に一本ずつ力を入れてみた。


 入る。


 五本とも入る。


 左手は縁から離れていた。焦げた二本の指が震えていた。


 投槍器は。


 跳ぶ前まで右手に握っていた。跳びながら、外套の内側へ押し込んでいた。押し込んだのを覚えていなかった。手が勝手にそうしていた。


 胸の前。外套の内側。ある。


 杭の布巻きは。


 外套の内側。撃てる三本。ある。


 石の袋は。


 肩に。重さがある。


 曲がった一本は袋の口に。


 ――ある。


 全部まだあった。


---


 白い光が引いていった。


 縁の上から音が戻ってきた。


 低い震える音。環の音。


 いちばん低いところからまた少しずつ。


 それから足音がした。


 縁へ近づいてくる足音。


 速さを変えない一定の足音だった。


 リュカは縁から手を離した。


 離しながら、足を五十八本目へ下ろした。下ろして五十九本目の杭を右手でつかんだ。


 身体を壁に寄せた。


 縁の下に頭を隠した。


 足音が縁のすぐ上で止まった。


---


 影が落ちてきた。


 縁から身体を乗り出した者の影だった。


 リュカは見上げた。


 ゼクスが縁に立って、下を見ていた。


 右の肩がまた見えていた。外套の肩。点はもうなかった。


 槍は右手に。穂先が下を向いていた。


 あいだは杭、二本ぶん。


 近かった。


 ――撃てる。


 そう思った。


 思っただけで手が動かなかった。


 投槍器は外套の内側にある。出すには、杭から右手を離さなければならない。


 左手は杭を握っていられない。


 ――撃てない。


 ゼクスはリュカを見下ろしていた。


 表情はなかった。


「戻れ」


 ゼクスは言った。


 今日五度目だった。


---


 リュカは答えなかった。


 答えずに右手で杭を握り直した。


 握り直して、片足を一本上の杭へ上げようとした。


 白い線が来た。


 リュカの右手の拳一つ上。


 壁が焦げた。


 杭ではなく杭と杭のあいだの壁が。


 ――上げたら手がそこへ行く。


 手を伸ばす先を先に焼いた。


 リュカは足を戻した。


 ゼクスは何も言わなかった。


 環の音が低いところからまた上がりはじめた。


---


 もう一度上げた。


 今度は左の足を。左の手は使えないから、右手を一本上へ移すしかない。


 移そうとした。


 白い線が来た。


 また拳一つ上。


 焦げた跡が二つ並んだ。


 ――読まれてる。


 読んでいるのはアステナではなかった。


 縁の上にはゼクスの影しかなかった。


 ゼクスが自分で見ていた。


 手がどこへ行くか。


 この男は見切りを知っている。


 名前は知らなくても、同じことをしている。


 重さの載るところを見て、次に行く場所を先に焼いている。


---


 リュカは杭の上で動かなかった。


 環の音が上がっていった。


 二十。


 二十二。


 撃ってこなかった。


 動かなければ撃ってこない。


 ――手を撃たない。


 さっきもそうだった。手だけを縁の上に出したとき、手の少し上を撃った。


 手を撃たない。


 杭を焼かない。


 上がろうとする先だけを焼く。


 ――戻れと言ってる。


 口で言ったのは今日、五度。


 焼いたのは二度。


 全部同じことを言っていた。


---


 下を見た。


 壁の縁を杭の列が下りていた。


 五十八。五十七。


 ずっと下に四十本目。


 そのずっと下に十七本目。煤の段。


 小さな影が膝立ちのまま、上を見ていた。


 ――見えてる。


 さっきの白い光は、下からも見えたはずだ。


 段の縁から光が溢れて、雲のほうへ広がるのを。


 何が起きたのかは届かない。


 光だけが届く。


 リュカは下を見るのをやめた。


 やめてもう一度上を見た。


 縁の上のゼクスの影。


 その向こうの尖ったものの先。


 ここからは青い光は見えなかった。


 縁に隠れて何も見えなかった。


 ――見えてるとあの男は言った。


 お前の立っているところから上は見えていると。


 ここからはもう見えない。


---


 右手が痺れはじめていた。


 片手で杭を握りつづけている。足は五十八本目に載っている。載っているが壁は垂直だった。身体の重さの半分は右手に来ている。


 ――片手じゃ撃てない。


 投槍器を出すには右手が要る。杭をつがえるにも右手が要る。撃つにも右手が要る。


 右手が杭から離れたら、身体を支えるのは足と左手だ。


 左手は二本の指が焦げている。握れるが握ると痛い。痛い指で杭を握って、身体を支えて、そのあいだに右手で撃つ。


 できるかもしれない。


 一度なら。


 二度目はたぶんできない。


 ――両手が要る。


 両手を空けるには、身体をどこかに留めなければならない。


 段はない。


 五十九本目から四十本目まで止まれる段はなかった。けさ、登りながら、一本ずつ見てきた。


 あるのは杭と壁と赤い紐だけだ。


---


 赤い紐。


 杭から杭へ渡してある紐。上の誰かが手すりにした紐。


 リュカは紐を見た。


 紐は杭の頭に一本ずつ結んであった。ほどけない結び方で。


 ――紐に自分を結べば。


 結ぶものがない。


 帯は短くした。外套を留めている。ほどいて杭に回して、自分の身体に回すには足りない。


 きのう、リナンを結んだときは帯は長かった。切って二つになった。片方はリナンが持っていて、けさリナンを煤の段の杭に結ぶのに使った。


 もう片方がこれだ。


 短い。


 ――足りない。


 リュカはそこで思い出した。


 四十本目の隣の杭。


 きのう、殻で切った帯の結び目が残っている。切った先の短い端ごと。


 ほどけない結び方で杭に結んだまま。


 ――それにつなげば。


 自分の短い帯と杭に残った短い端。


 二つをつなげば一本になる。


 一本になれば、自分の身体まで届く。


---


 リュカは下を見た。


 五十八から四十まで。


 十八本。


 ――下りる。


 口の中で言った。


 言ってからそれが戻れと同じ向きだということに気づいた。


 下りる。


 あの男は戻れと言った。


 自分は今下りると言った。


 同じ向きだ。


 ――同じじゃない。


 戻るのは煤の段までだ。リナンのところまで。それから根元まで。


 下りるのは四十本目までだ。


 そこで止まる。


 止まって両手を空ける。


 空けた両手で撃つ。


 同じ向きに途中まで行くだけだ。


 リュカはそう数えた。


 数えたが胸の中の熱は、それで少しも冷めなかった。

読んで頂きありがとうございます。

引き続き1話ずつ毎日更新していきます。

現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。


基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!


少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!


ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)

よろしければ是非応援頂けますと幸いです。

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