全部と、それでも②
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
リュカは立ち上がった。
膝が少しだけ震えた。
けさ、煤の段から四十二本登ってきた膝だった。きのうは四十本登って、二十三本下りた。
震えを止めなかった。止めようとすると余計に震える。三年、重い荷を下ろしたあとの膝で知っていた。
震えたまま立った。
「一つ訊く」
リュカは言った。
男は何も言わなかった。
「名前は」
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風が段の上を右から通っていった。
三つ。
それから左から。二つ。
男は答えなかった。
ロアンが少しだけ笑った。
「ゼクスだよ」
ロアンが言った。
「ゼクス゠アルゲイオン。こいつは名乗らねえから俺が言う。あの日も言いかけた」
男はロアンを見なかった。
リュカを見ていた。
――ゼクス。
リュカは口の中で一度だけ繰り返した。
繰り返してそれから男を見た。
「……名乗らないのか」
男の口が初めて動いた。
「必要ない」
あの日と同じ言葉だった。
――必要ない。
名を持たぬものに名前を訊いたとき、同じ音が二度返ってきた。
名乗ったのか名乗らないのか名前がないのか分からなかった。
この男は名前がある。ロアンが言った。
あるのに自分では言わない。
――名乗らないんだ。
この男は名乗らないものだった。
「……なんで姓を訊いた」
リュカは言った。
「あの日。俺の名前じゃなくて姓を」
ゼクスは答えなかった。
答えないままリュカを見ていた。
ロアンが少しだけゼクスを見た。
アステナの珠が一つ止まった。
止まってまた動いた。
――答えない。
名前を訊いたらロアンが答えた。
姓のことを訊いたら、誰も答えなかった。
答えないのは知らないからか。
知っていて言わないからか。
リュカには分からなかった。
分からないものがまた一つ増えた。
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「戻れ」
ゼクスが言った。
低い声だった。
感情がなかった。
「……戻らない」
リュカは言った。
言ってから自分の声が思っていたより大きかったことに気づいた。
「上を見に来た」
「見えている」
ゼクスは言った。
尖ったものを背にしたまま。
「お前の立っているところから上は見えている」
リュカはそこでもう一つ思い出した。
――おらんはずのところにおる者は、名前を訊いておくもんだ。
バルがそう言った。
この男はおらんはずのところにいた。先に。上に。
だから名前を訊いた。
だが、この男から見れば、おらんはずのところにいるのはリュカのほうだった。
名簿に載らない者。石を宿さない者。拾った者。
その者がてっぺんの青い光の前に、立っている。
――向こうもそう思ってる。
この男はあの日リュカに姓を訊いた。
名前ではなく姓を。
おらんはずのところにおる者に訊いたのだ。
リュカは尖ったものを見た。
尖った先。青い光。
見えていた。
「……見えてる」
「なら、戻れ」
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アステナが珠を繰る指を止めた。
顔を上げた。
「三つ言う」
前置きもなかった。
あの日と同じだった。
「一。あなたはここまで来た。石を宿さないまま」
指が一本立った。
「二。上の光はステラ。星の片。一つしかない。わたしたちはそれを取りに来た」
二本目。
「三。あなたが取っても、記録に残らない。名簿に載らない者が持った片は、出所が辿れない。辿れないものはないものと同じ」
三本目。
アステナは指を下ろした。
「訊きたいのは一つ」
一拍、置いた。
「あなたは上で何をするつもりだったの」
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リュカはすぐには答えなかった。
――上に着いたら何をするんですか。
筒の坂でリナンにそう訊かれた。
上を見ると答えた。それから下りると。
上に着いたら、上はもうないんじゃないですかと言われた。
分からないから、見に行くと答えた。
「……見る」
リュカは言った。
「上を見る。それから下りる」
アステナは珠を一つ繰った。
「それだけ」
「それだけだ」
「片のことは」
「……知らなかった」
リュカはそう言った。
本当だった。
上に何があるのかザッハも、言わなかった。
「知らなかった。上に何があるのか」
アステナの指が止まった。
止まってそれからもう一度動いた。
「……知らないでここまで」
「知らないで来た」
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ロアンが笑った。
声を出して笑った。
「聞いたかおい。知らないで来たってよ」
ゼクスは笑わなかった。
アステナも笑わなかった。
「なら、なおさらだ」
ゼクスが言った。
「見たなら戻れ」
「……」
「お前は上を見た。見に来たものは見た」
ゼクスは、尖ったものの前から一歩も動かなかった。
「戻れ」
リュカは窪みの青い光をもう一度見た。
――取りに来たと言った。
この三人は、きのうの昼過ぎにはここにいた。
ひと晩ここにいた。白い光は朝まで動かなかった。
それなのに、青い光はまだ窪みの中にある。
――取っていない。
取れないのか。
取らないのか。
それとも何かを待っているのか。
リュカは訊かなかった。
訊けば話がそちらへ行く。
そちらへ行った話は、自分のものではない。
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リュカは、そこで自分の中にあるものを数えた。
――見た。
それは本当だ。尖った先も青い光も見えている。
見に来たものは見た。
なら、戻ればいい。
線はもうすぐそこだ。動かした線まで十二口。大きいほうの残りを飲み終えて、バルの袋から六口で線だ。
ここで戻れば線の手前で戻れる。
戻ればまた来られる。
自分でリナンにそう言った。
――戻れと言われた。
言われたから戻るのか。
リュカはそこで止まった。
止まって胸の中を見た。
熱かった。
おとといの晩上に火を見てからずっと熱かった。
追いつけなかった。先に行かれていた。石を砕いて、済ませて二本ずつ上がっていく背中を下から見ていた。
――戻れと上から言われた。
熱が少しだけ強くなった。
リュカはそれを数に入れなかった。
入れなかったが口が先に動いた。
「……近くで見たい」
言ってからリュカは、それが自分の声だということに少しだけ驚いた。
「ここからじゃなくて。近くで」
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ゼクスはしばらく何も言わなかった。
風が右から三つ。
左から二つ。
下から四つ。
それから、ゼクスが言った。
「お前は、自分の姓を知っているか」
あの日と同じ問いだった。
リュカは答えた。
「リュカ゠ルスールス」
ゼクスは少しだけ目を細めた。
細めてそれから言った。
「そうか」
それだけだった。
あの日と同じだった。
同じだったが今度は続きがあった。
「なら、通さない」
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ロアンの笑いが止まった。
「……おいゼクス」
ゼクスは答えなかった。
右の肩から槍を下ろした。
右手だけで。
左の腕は下がったままだった。
槍の柄の三つの環が白く光った。
光が環から環へ走った。
「……おいおい」
ロアンが段の縁から一歩、退いた。
アステナは珠を繰りつづけていた。
繰りながら言った。
「ロアン。下がって。三歩」
「……分かったよ」
ロアンが三歩、退いた。
段の上にリュカとゼクスのあいだを遮るものがなくなった。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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