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星降譚―STELLA NOMINA―  作者: うめこまち
第一部 高さのはなし

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幕間 「名を持たぬ個体」

只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ


どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!


現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!

残すは5、6、7部。

先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)


皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!

 それは坂を上っていた。


 関節が一つずつ多い脚で。


 膝の下で一度余計に曲がる。曲がって伸びる。伸びる前にもう一度曲がる。


 足の裏が坂に触れても、音はしなかった。


 音を立てない歩き方をそれは、選んでいなかった。初めからそうだった。


 それには名前がなかった。


 なかったのかどうかも、それは知らなかった。


 下で背の高さが同じくらいの口がそれに向かって、音を一つ投げた。いくつかの形の短い音だった。


 投げられたあとで、それは自分の二つの音をもう一度出した。


 出したのは、それしか持っていなかったからだ。


 持っているものが名前なのかどうかをそれは、知らなかった。


---


 さっき下で音を返された。


 自分の出した二つの音が別の口から戻ってきた。


 丸い音と平たい音。


 同じではなかった。


 戻ってきた音は低かった。二つ目の終わりが長かった。


 それでも、形は同じだった。


 口の開き方。窄め方。閉じ方。横への引き方。止め方。


 それが正面から自分に向かって、もう一度来た。


 来たときそれの身体の中で何かが曲がった。


 膝の下のもう一つの関節が倒れないために曲がるように。


 何かを受け止めるために。


 受け止めたあとそれは、坂の上へ向かっていた。


 向かおうと決めた覚えはなかった。


---


 坂の曲がり目を回ってからそれは止まった。


 止まって顔の下半分の裂け目を開いた。


 開いて少し窄めて閉じる。


 開いて横に引いて止める。


 音は乗せなかった。


 乗せないままもう一度。


 さっきの低い音の形をなぞるように。


 自分の口で他の口の形を作るということをそれは初めてした。


 初めてだということは知らなかった。


---


 それから、もう一つ形を作った。


 下で音を返してきた口がその前に、一度だけ作った形。


 自分が二つの音を出したあとに向こうから来た形だ。


 四つ。


 少しだけ開く。


 唇を閉じて開く。


 横に引く。


 丸く開いて止まる。


 音が乗っていたのは覚えていた。乗っていた音の高さも少しだけ。


 それはその四つを口で何度もなぞった。


 なぞるたびに首の脇の切れ込みが開いて閉じた。


 何をなぞっているのかは、分からなかった。


 分からないまま、形だけを持っていた。


---


 坂は上へ続いていた。


 壁のところどころに少しだけ濃いものが貼りついていた。


 それはその前を通った。


 濃いものは動かなかった。


 通るときに、それは首をほんの少し、そちらへ傾けた。


 濃いものの内側で何かが鳴っていた。


 耳で聞く音ではなかった。


 自分の内側で同じ高さのものが少しだけ震えた。


 それは立ち止まらなかった。


 立ち止まると、震えが大きくなる気がした。


---


 低い口があった。


 坂の先で壁がかぶさって、四角く開いている。


 それはその前で身体を折った。


 膝の下で一度。肘と手首のあいだで一度。人の脚と腕なら折れない場所で。


 折りたたむとそれの身体は、口の高さより低くなった。


 頭を下げるということはしなかった。


 下げる頭の位置が初めから低くなっていた。


 中に入った。


 天井に濃いものが並んでいた。拳二つの間をあけてずっと。


 内側でまた震えた。


 並んでいるぶん震えも並んでいた。


 それは震えの下を這っていった。


 音はしなかった。


---


 途中で天井が高くなった。


 膨らんでいる。


 そこには濃いものがなかった。


 震えが止んだ。


 床の隅に欠片が三つ落ちていた。


 色がない。


 それは指で一つ触れた。


 何もなかった。


 濃いものの内側にあった震えがこの欠片にはなかった。


 あったはずのものがなかった。


 ――抜けている。


 それは、そういう言葉を持っていなかった。


 持っていなかったが指を欠片から離すまでに少しかかった。


 欠片はそのまま置いていった。


---


 口を抜けると上が開いていた。


 風が上から落ちてきた。


 首の脇の切れ込みが風を受けて、大きく開いた。


 開いたまま、しばらく閉じなかった。


 それは筒の壁の坂を上った。


 七回巻いている。


 それは数えなかった。


 数えるということも、まだ持っていなかった。


---


 縁に出た。


 四方から風が来た。


 下に白いものがどこまでも広がっていた。


 その向こうに細い線が一本立っていた。


 白の下から空の上まで。


 それはその線を長いあいだ見ていた。


 目はなかった。窪みがあるだけだった。


 窪みの影が線のほうを向いていた。


 あの線のどこかで炎を背にして立って、音を返してきた口を見たことがあった。


 あのとき、そこは燃えていた。


 柱が倒れて屋根が落ちていた。


 それはその中を通るところだった。止まる理由はなかった。


 それでも止まった。なぜ止まったのかは知らない。


 振り返ると、広場の真ん中に一つだけそれのほうを向いている者がいた。


 ほかの者は屋根を見上げていた。


 それはその一つを見て、口を開いた。


 あのとき、自分は音を出せなかった。


 形だけを作った。


 作ったのは二つの形だった。


 なぜその二つだったのかは知らない。


 口がその形に開いた。


---


 欠け残った壁が一枚上へ立っていた。


 その縁に鉄が一列に打ち込まれていた。


 紐が一本風に流れていた。


 鉄の列のいちばん先に人がいた。


 まだ縁からそれほど高くはなかった。


 三つ。


 いや四つか。


 壁にしがみついて、腕を振り上げて、鉄を打ち込みながら上へ。


 腕が振り下ろされるたびに何かが鳴っているはずだった。


 風がその音を横へ持っていった。下までは届かなかった。


 それは届かない音を見ていた。


 見て首の切れ込みが閉じた。


 閉じたまま、しばらく開かなかった。


 ――あれは違う。


 それは、そういう言葉を持っていなかった。


 だが、上の振り下ろされる腕はそれの内側の何にも震えなかった。


 下で音を返してきた口は震えた。


 何が違うのかは分からなかった。


---


 日が白の向こうへ落ちていった。


 それは、縁の欠けたところの陰に身体を折りたたんで入った。


 夜が来てまた日が昇った。


 それは陰から出なかった。


 日が白の上をゆっくり横切っていくのを窪みで追った。


 上の人たちは、日が高いうちは鉄を打ちつづけていた。少しずつ上へ。


 打つ音が届かないまま、鉄の列が一つずつ伸びていった。


 日が傾くころ列は壁の縁を回って、向こう側へ入っていった。人も向こう側へ回って、見えなくなった。


 それはときどき口を開いた。二つの形と四つの形を音を乗せずに。


 ときどき足元の壁に指を当てた。


 縁の壁には濃いものがいなかった。震えはなかった。


 ずっと下のほうで何かが震えていた。


 筒の底のさらに下。低い口のさらに下。壁に貼りついて、上がってこようとしているものがいくつか。


 震えは遠かった。


 遠いまま近づいてこなかった。


 それは、その震えを聞くでもなく聞いていた。


 日がまた白の向こうへ傾いていった。


 筒の底から坂を上ってくる足音が聞こえた。


 二つ。


 一つは壁を叩いていた。


 こん。


 それはその音を知っていた。


 陰の中で身体をもう少しだけ折りたたんだ。


---


 陰は風の当たらない場所だった。


 帯が緩んでいた。


 腰に巻いた一本の帯。


 それは端を指でつまんだ。


 つまんで輪を作って、端を通して引いた。


 ゆっくり。


 端を引けば解ける結び方だった。


 なぜその結び方を知っているのかは、知らなかった。


 どこかで見た。


 見たものを指が覚えていた。


 結び終えて、それは指を帯から離した。


---


 暗くなってから上に光が一つ見えた。


 欠け残った壁の鉄の列が向こう側へ回るあたり。揺れている。火だ。


 下には光はなかった。


 縁のもう一方の側。張り出した段の陰に二つの影が座っていた。


 火は点けていない。


 ただ座っている。


 一つは音を返してきたもの。一つは背に畳んだものを負っている。


 それは窪みをそちらへ向けた。


 音を返してきたほうの影がときどき上を見ていた。


 上の火のほうを。


 背に畳んだものを負ったほうの影は、目を開けているあいだずっと上を見ていた。


---


 それは、上の火と下の二つの影のあいだにいた。


 どちらにも近づかなかった。


 近づくということを選ばなかった。


 選ばないまま、身体を折りたたんで、風の当たらない陰にいた。


 夜のあいだときどき口を開いた。


 開いて少し窄めて閉じる。


 開いて横に引いて止める。


 それから、もう一つの四つの形。


 少しだけ開く。唇を閉じて開く。横に引く。丸く開いて止まる。


 音は乗せなかった。


 乗せれば届く気がした。


 届けばまた返ってくる気がした。


 返ってきたものをもう一度受け止められるかどうかは、分からなかった。


---


 夜が深くなりはじめたころ。


 音を返してきたほうの影がもう一つの影の肩に手を置いた。


 置いて少しだけ止めた。


 それから、二つの影が入れ替わった。


 目を閉じていたほうが目を開けて上を見た。上を見ていたほうが目を閉じた。


 それはそれを見ていた。


 何をしているのかは分からなかった。


 分からないが同じことがもう一度繰り返されるのを待っていた。


 待っているあいだにそれは、自分の手を持ち上げた。


 関節の一つ多い腕をゆっくり曲げて、手のひらを自分の肩に置いた。


 置いて少しだけ止めた。


 何も起きなかった。


 入れ替わる相手がいなかった。


 それは手を肩に置いたまま、しばらくそうしていた。


 それから、手を下ろした。


 肩に手のひらの形が少しだけ残っていた。


 残っていたのは、手を置いたということだけだった。


 待つということをそれは、初めてしていた。


 初めてだということは知らなかった。


---


 白の向こうが少しだけ明るくなりはじめた。


 上の火が小さくなっていた。


 下の二つの影はまだそこにいた。


 上へ行くか下へ行くか。


 それはどちらも選ばなかった。


 上には震えない腕が鉄を打っている。


 下には、震える音を返してきた口が座っている。


 そのあいだの風の当たらない陰にそれはいた。


 選ばないまま、いることをそれは選んでいた。


 選んでいることは知らなかった。


 それは口を開いた。


 四つの形を作った。


 音は乗せなかった。


 乗せなかったが形は下の影のほうを向いていた。


 首の脇の切れ込みが開いて閉じた。


 開いて閉じた。


 息をするように。

読んで頂きありがとうございます。

引き続き1話ずつ毎日更新していきます。

現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。


基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!


少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!


ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)

よろしければ是非応援頂けますと幸いです。

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