登りきった先の風②
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
日が雲の床に近づいていた。
リュカは縁からさらに離れた。
坂が縁の上へ回り込んで終わったところに壁の上の面が少しだけ盛り上がった場所がある。腰の高さほどの段になって、外からの風をその段が受けていた。段の内側なら風が当たらない。
張り出した段の陰だった。
そこに二人で座った。
座ってリュカは水を数えた。
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線まで八口。
頂上は見えている。
縁を回って坂一巻きぶん。それから、一枚の壁を筒の七巻きぶんより高く。
――一日では着かない。
筒の七巻きに今日昼から夕方までかかった。一枚の壁はそれより高い。道があるのかどうかも分からない。
一日と少し。たぶん二日。
線まで八口。
一日上へ行くごとに二十三口。
八口では半日にもならない。
――ここが線だ。
明日の朝少し登れば線が来る。
線が来たら戻る。五層目でそう決めた。
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リュカは膝の上に白い紙を出した。
五層目でそうしたように。
何も書いていない紙の上で指を動かした。
五層目で並べた数をもう一度並べ直した。
帰りの地上層の二日。三十口。
行きの二日で二人で三十口飲んだ。風が強かった。
――三十口、要るのか。
行きは、塔がどこにあるのか分からなかった。分からないまま歩いた。四万三千歩塔が見えるまでどこまで続くか分からなかった。白の中では前も見えなかった。
分からないで歩くと喉が乾く。
帰りは道を知っている。轍が消える場所も白の際も岩の窪みも。
知っている道は、分からない道より喉が乾かない。
――二十口で歩ける。
一日に一人五口。
三年、日当が出なかった日に水一杯で一日荷を担いだことがある。
五口なら歩ける。
十口、浮く。
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塔を下りる二十口。
一日に十三口で一日半。
十三は塔の一日目の数だ。七つに挟まれて喉が鳴った日だ。
下りは挟まれない。挟まれないように、叩きながら下りる。
――十で下りられる。
一日に十。一日半で十五。
五口、浮く。
根元で休む五口。
――二口でいい。
根元は白の中だ。白の中は湿っている。息をするだけで喉が少し戻る。
三口、浮く。
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十と五と三。
十八口。
線まで八口。
八と十八で二十六。
――一日と少し。
五層目の数と同じになった。
同じになったのを確かめてからリュカは顔を上げた。
頂上の一枚の壁が夕方の光の中で尖っていた。
――上を向いた三角だ。
根元の開かない扉に刻んであった紋。上を向いた三角。
あの紋とてっぺんの形が似ていた。
似ているだけだった。三角はどこにでもある。屋根も杭の先も三角だ。
リュカはそれを数に入れなかった。
入れなかったが目はてっぺんからしばらく離れなかった。
頭を下げて通ってきた塔だ。
その塔のてっぺんを今見上げている。
リュカは指を紙の上で止めた。
止めてそれから紙を見た。
何も書いていない紙だった。
五層目で縦に一度なぞったところに線があるように見えた。
その線を今指で少し先へずらした。
何も残らなかった。
紙は白いままだった。
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「……リュカくん」
リナンが隣で言った。
ずっとリュカの指を見ていた。
「線動かしましたね」
「動かした」
「どうやってですか」
リュカは、並べた数をもう一度口に出して並べた。
帰りの地上層を二十口。塔を下りるのを十五口。根元で二口。
十八口、浮く。
リナンは黙って聞いていた。
聞き終わってから言った。
「……帰りの水を減らしたんですね」
「減らした」
「行きより少なく飲んで、帰るんですね」
「道を知ってるから少なくて済む」
「済むって決めたんですか」
リュカはすぐには答えなかった。
――決めた。
決めたのは自分だ。
済むかどうかは帰り道で喉が決める。
「決めた」
リュカはそう言った。
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リナンはしばらく何も言わなかった。
風が張り出した段の向こうを音を立てて通っていた。
それから言った。
「戻ればまた来られるって」
「言った」
「骨はまた来られないって」
「言った」
「線を引いた日に」
「引いた日に言った」
リナンは膝を抱えた。
「……今日それを動かしたんですね」
「動かした」
「動かしていい線だったんですか」
リュカは答えなかった。
答えなかったのではなく答えを探した。
――動かしていい線か。
線は水で引いた。水の数で引いた。水の数が変われば線は動く。
動かしたのではない。数え直したら動いた。
そう言える。
そう言えるが数え直したのは、頂上を見たからだった。
見なかったら数え直さなかった。
五層目の数のまま、明日の朝線で戻っていた。
――あそこで人を殺すのは仕掛けじゃない。自分の脚だ。
ザッハの声がした。
脚は水で止まる。水がなくなれば脚が止まる。
十三の骨が何で死んだのかは分からない。一層目の杭は上からの力で折れていた。何の力かは見ていない。
だが、脚で死んだ骨もたぶんあった。
自分の脚で上へ行って、自分の脚が戻る前に止まった。
――上が見えたからか。
あの骨たちも、どこかで上を見たのかもしれない。
見て数え直したのかもしれない。
見ていないことだった。
見ていないことを考えた。
考えて取り消さなかった。
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「……見たから数え直した」
リュカはそう言った。
言ってからそれが全部だと思った。
「見なかったら数え直さなかった」
リナンはリュカを見た。
「……正直ですね」
「数え直したのは本当だ。帰りの道を知ってるのも本当だ。五口で歩けるのもたぶん本当だ」
「たぶん」
「たぶんだ」
リュカは言った。
「でも、数え直そうと思ったのは上が見えたからだ」
リナンは膝を抱えたまま、少し笑った。
笑い方が短かった。
「わたしも見ました。上」
「見た」
「見たら行きたくなりました」
リナンはそう言った。
「……縮んでるので分かります」
---
「わたし反対です」
リナンが言った。
言い切った。
語尾が最後まで来た。
リュカはリナンを見た。
「……反対か」
「反対です」
リナンは膝を抱えたまま、前を見ていた。
「数が合ってても、喉は合わないかもしれないです。道を知ってても、風は行きと同じかもしれないです」
「……」
「わたし骨よりリュカくんと戻りたいです」
リナンはそう言った。
それから、少しだけ声が小さくなった。
「……と思うんですけど」
語尾が消えた。
消えたが前の半分は最後まで来ていた。
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リュカは長いあいだ黙っていた。
日が雲の床に触れていた。
橙色が白い床の上に長く伸びていた。
――反対された。
三年、誰かに反対されたことはあった。値切って断られた。宿らないと言われた。外れだと言われた。
全部外から言われた。
隣から反対されたのは初めてだった。
同じ水を飲んで、同じ口の数を数えて、同じ上を見た人に。
「……リナン」
「はい」
「明日の朝登る」
リナンは黙っていた。
「登って昼まで行く。昼でもう一度数える」
リュカは言った。
「昼の数で動かした線より先に出ていたら戻る。それとお前が反対だと言ったのを昼にもう一度聞く」
「……昼にもう一度」
「昼にもう一度言え。言ったらそこで戻る」
リナンはリュカを見た。
「……わたしが決めるんですか」
「決めるのは俺だ」
リュカは言った。
「お前が反対だと言ったら、俺は戻ると決める。昼に」
リナンはしばらく黙っていた。
それから、小さく頷いた。
「……昼に言います」
「言え」
「言わないかもしれないです」
「言わなかったら上へ行く」
リナンは膝に顔を半分埋めた。
「……ずるいです」
「ずるい」
リュカはそう言った。
言ってから自分がずるいのを知っていた。
決めるのは自分だと言って、決める鍵をこの人に渡した。
渡されたほうは重い。
――重いのは分かってる。
分かっていて渡した。
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リナンが膝から顔を上げた。
「……飲んだ口は数えます。昼まで」
「数えろ」
「多く飲んだら言います」
「言え」
「リュカくんも」
「言う」
五層目と同じやりとりだった。
同じやりとりをもう一度するのは、決めごとを確かめるためだ。確かめたものは積み直さない。
――線は積み直した。
積み直したものと積み直さないもの。
どちらも同じ紙の上にあった。
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日が落ちた。
雲の床の向こうに沈んでいった。
橙色が白の上からゆっくり引いていく。引いたあとに青い影が残る。青い影が灰色になる。
灰色の上に星が出た。
――三番街でも同じ日が落ちた。
ヴェスナは、土間の竈に火種石を割って落としたころだ。焦げた箒を壁に立てかけて。
詰所の脇の石には、もう誰も座っていない。老人は日が落ちる前に、坂の途中の家へ下りていく。
ドランは、籠の最後の一度を止め木で止めたころだ。
イサは、井戸の綱を明日のために巻いておいたころだ。
全部見ていない。
見ていないが知っていた。三年、毎日同じ順番だったからだ。
知っていることは見ていなくても、少しだけ言っていい。
リュカはそう決めた。
――夜だ。
決めなくても来た。
一万息を数えなくても来た。
三層目で壁が光っていて、夜にならなかった。夜にすると決めて、外套を頭からかぶった。
ここでは何もかぶらなくても、暗くなった。
筒の中の壁はまだ薄く光っている。だが、縁の上には壁がない。
空の暗さがそのまま、上から下りてきていた。
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リュカは胸に手を当てた。
三十三個目がそこにある。
――四日目が終わった。
本物の日が落ちた。それを四日目の終わりにすると決めてあった。
一万息とずれていたかどうかは分からない。
ずれていたぶんはここで捨てた。
明日の朝が来たら五日目だ。
あと五日。
三年、石を入れ替えるのは日が落ちてからだった。
塔に入ってから日が落ちなかった。
今日、落ちた。
――屋根裏で日が落ちたあとに石を入れ替えてきた。
ここには屋根裏がない。屋根もない。
それでも、日が落ちたあとに石を胸に当てていた。
三年と同じだった。
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干し魚の最後の一枚は出さなかった。
今日は朝から何も食べていない。五層目で最後から二枚目を半分ずつ食べたきりだ。
リナンも何も言わなかった。
昼にもう一度数える。その数で干し魚も決める。
水は一口ずつ飲んだ。
――線まで六口。
動かした線までは二十四口。
二つの数を両方、覚えた。
どちらを数えるかは昼に決まる。
リナンが腰のバルの革袋に手を当てた。
開けたのは五層目の一度だけだ。四十三口。
「……これが戻る水ですね」
「戻る水だ」
「動かした線の先まで行ったら、これも減るんですか」
リュカは答えるのに、少しかかった。
「……減る」
そう言って数を並べた。
「大きいほうは十八口。動かした線までは二十四口。大きいほうが空になって、まだ六口足りない。その六口はこれから飲む」
「……戻る水を」
「戻る水を六口だけ上で飲む。残りの三十七口で戻る」
リナンは、大きい水袋をもう片方の手で持ち上げた。
底のほうで鳴った。
「……鳴ってますね」
「鳴ってる」
「これが空になって、こっちから六口までは行っていいんですね」
「昼にお前が反対と言わなければ」
リナンは二つの袋に両手を置いたまま、黙っていた。
---
星が増えていった。
筒の底で見上げたときより空が広かった。
縁の上には何もない。何もないので、星は雲の床のすぐ上から頭の上までずっとあった。
三番街の路地で屋根のない夜に細く覗いていた空と同じ空だった。
同じなのに太さが違った。
リナンが隣で上を見ていた。
「……星多いですね」
「多い」
「里で見たのと同じくらいです」
リナンはそう言った。
「里は島の上なので。上には何もなかったです」
「……三番街は摩天楼の腹が上にあった」
「はい」
「だから、細くしか見えなかった」
リナンは少しだけ笑った。
「今日は太いですね」
「太い」
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それから、リュカは頂上を見た。
夜の中で一枚の壁は、黒い影になっていた。
星の手前に、尖った影が一本立っている。
その影の途中に。
光があった。
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小さな光だった。
一つ。
星ではなかった。星は動かない。
その光は少しだけ揺れていた。
壁の影の下のほう。筒の縁から坂二巻きぶんくらい上。
風に揺れているのか。それとも光そのものが揺れているのか。
――灯りだ。
リュカは息を止めた。
灯りは誰かが点けないと点かない。
灯柱は星の光で満ちる石で勝手に点く。だが、灯柱の光は揺れない。
揺れる灯りは火だ。
火は誰かが点ける。
---
「……リナン」
リュカは声を落とした。
縁の上だ。天井はない。それでも、声を落とした。
「はい」
「頂上の壁の途中。光がある」
リナンがそちらを見た。
しばらく見ていた。
「……あります」
「揺れてる」
「揺れてます」
「火だ」
リナンは黙っていた。
それから、小さく言った。
「……誰かいるんですか」
「いる」
リュカは言った。
見たものしか言えない。
見たのは揺れる光だ。揺れる光は火だ。火は誰かが点ける。
三つ並べると誰かがいる。
――膨らみの殻。
色の抜けた三つの欠片。角が尖っていた。
新しいからかここだからか分からなかった。
今、半分、分かった。
――新しかった。
誰かがあの口を先に這った。膨らみで石を一つ砕いた。
そして今頂上の壁の途中で火を点けている。
――あれか。
名を訊いた相手。坂の上へ逃げていった関節の多いもの。
あれも上へ行った。
あれは火を点けるのか。
リュカは焼けた夜を思い出した。
あの夜、街は燃えていた。だが、あれが火を点けるところをリュカは見ていない。燃えていたのは、倒れた柱と崩れた軒だった。
足音のしないものが火を点けて、その前に座っているところをリュカは思い浮かべられなかった。
紐を結ぶところも。
――あれじゃない。
分からない。
分からないが紐の色と揺れる火は、人のものに見えた。
あれの腰の帯を思い出した。
端がきちんと結んであった。結ぶところは見ていない。
――結ぶのは手のある者だ。
自分でそう思った。
リュカはそこで考えるのをやめた。
やめなければ、どちらにも決められなくなる。
代わりに別のことを考えた。
膨らみの殻。
何の石だったのかは分からない。だが、砕いて使う石は買う石だ。色が抜けるまで使って、置いていった。
頂上の壁では火を点けている。火種石も買う石だ。
――金のあるやつは時間を買ってる。
上の石屋がそう言った。焼ける前のことだ。
砕く石を持っていれば、待たずに済むところがある。疲れを傷を暗さを石で済ませられる。済ませたぶん止まらずに進める。止まらずに進めば早く着く。
早く着いた者が今頂上の壁の途中で火を点けている。
自分たちは砕く石を持っていない。袋の二十四個は砕くための石ではない。
持っていないから待った。息を数えて、口を数えて、日が落ちるのを待った。
待ったぶん遅れた。
――遅れた。
リュカはその言葉を口の中で転がした。
誰と比べて遅れたのか。
比べる相手ができていた。
顔も知らない相手が。
---
リュカは外套の内側に手を入れた。
紙のほうに入れた三つの欠片を指で触った。
軽かった。
――先に行かれてる。
そう思って、それから自分がそう思ったことに驚いた。
行かれてる。
まるで自分のものを取られたような言い方だった。
塔は誰のものでもない。根元の門は誰でも通れた。金も要らなかった。
誰でも通れる門を先に通った誰かがいる。
それだけのことだった。
それだけのことなのに、胸の中で何かが少しだけ熱くなった。
――急ぎたい。
リュカはそれを数に入れなかった。
入れなかったが消えもしなかった。
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リナンがリュカの横顔を見ていた。
「……リュカくん」
「うん」
「今、急ぎたいって思いましたか」
リュカは答えなかった。
答えなかったことが答えになった。
リナンは膝を抱えた。
「わたしも縮んでます」
「……」
「さっきからずっと」
リナンは上の光を見ていた。
「待ってるのたぶんあの光です」
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夜は千で替わることにした。
リュカが先に起きて、リナンが先に寝た。
リナンは張り出した段に背をつけて、目を閉じた。
縛った翼は解かなかった。縁の外からまだ風が来ていた。
リュカは千を数えた。
数えながら頂上の光を見ていた。
光は揺れながら消えなかった。
日が残っているうちに、リュカは縁に並んだ黒い点を数えておいた。
十七。
いちばん下から見えるところまでで十七。その上は壁の向こう側へ回って、見えなくなっていた。
光はその十七番目の少し上にあった。
――杭の列の途中で休んでる。
打ち込みながら登っている。打ち込んだところまで登って、そこで夜を待っている。
自分たちと同じだった。
夜が来たから止まっている。
千を数えて、もう千とは思わなかった。
思わずにリナンの肩に手を置いた。
置いてから少しだけ手を止めた。
――昼に言え。
自分でそう言った。
この人が昼に反対だと言えば戻る。
言わなければ上へ行く。
あの光のほうへ。
「……替わる」
リナンが目を開けた。
開けてまず上を見た。
光はまだそこにあった。
「……ずっとありますね」
「ずっとある」
「わたし見てます」
リナンはそう言った。
「見てると縮みます。でも、見てます」
「……寝なくていいのかとは訊かないぞ」
「訊かないでください」
リナンは張り出した段に背をつけて、膝を抱えた。
抱えた膝の上に顎を載せて、上の光を見ていた。
縮んだ付け根のまま。
縛った翼のまま。
「千、数えます」
「数えろ」
「数え間違えないようにします」
「……しろ」
リュカはそう言った。
昨日千で起こせ間違えるなと言った。
今日はこの人が自分からそう言った。
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リュカは張り出した段に背をつけて、目を閉じた。
閉じても光は瞼の裏に残っていた。
揺れている。
――誰だ。
分からない。
分からないものは分からないまま、置いておく。
置いておく場所がまた狭くなった。
縁の外を風が下から上へ通っていった。
乗る風だった。
リュカには乗れない風だった。
目を閉じたまま一つだけ数えた。
明日の昼まで。
昼にこの人が反対と言うか言わないか。
それは数ではなかった。
数ではないものを明日の昼まで持っていく。
三年、十日目を待ってきたのと少しだけ似ていた。
乗れない者が乗る風の吹く場所で眠った。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)
よろしければ是非応援頂けますと幸いです。




