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星降譚―STELLA NOMINA―  作者: うめこまち
第一部 高さのはなし

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104/168

登りきった先の風①

只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ


どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!


現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!

残すは5、6、7部。

先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)


皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!

 リナンの左の翼を縛り直した。


 筒の底で風の中で。


 リナンは膝で座ったまま、左の肩を少し上げた。リュカが縮んだまま持ち上がろうとする翼を両手で背中の上へ畳ませた。


 畳むとき二つ目の節でまた引っかかった。


 引っかかったところを指で押し込んだ。


 押し込むとリナンの肩が少しだけ跳ねた。


「……痛いか」


「痛くないです。縮んでるので、畳みにくいだけです」


 リナンは、胸の下で布を両翼に回し直した。


 結び目は胸の前に。荷と同じ結び方で。


 それから、包みを腰の上に戻して、胸の前で紐を結んだ。


 結び目が二つ胸の前に並んだ。


---


 リュカも持ち物を戻した。


 石の袋は胸から肩へ。布は詰めたままにした。鳴らない袋のまま肩に掛けた。


 投槍器は右手に。杭は布巻きから一本出してつがえた。


 曲がった杭は左手。


 空の小さい水袋は、外套の内側に入れたままにした。空の袋は何の役にも立たない。だが、捨てる理由もなかった。


 バルの革袋は、リナンの腰に下げたままにした。


 ――下げたままのほうが慣れてる。


 リナンは二つの水袋を腰に下げて、包みを腰の上に載せている。


 重いとさっき言った。


 重いのは分かっている。分かっているが替わらなかった。替われば帯の杭が擦れる。


---


 筒の壁に沿って坂が上っていた。


 前の坂より急だった。


 筒が細いからだ。一回りが短い。短い一回りで同じ高さを上がるなら、坂は急になる。


 今朝、足首がそう言っていた。今は目でも分かった。


 見上げると、坂が壁を巻いて、白い光のほうへ上っていく。何回巻いているのか数えられた。


 ――七つ。


 七回巻いている。


 その上で坂は白い光の縁に消えていた。


「……七回です」


 リナンも数えていた。


「七回だ」


「数えられるの初めてですね。坂の残り」


「初めてだ」


 リュカは、そう言ってからもう一つ思った。


 ――残りが数えられる。


 さっきあの口の中で初めて、来たぶんを数えた。残りが分からなかったからだ。


 ここは残りが見える。七つ。


 七つから一つずつ減っていく。


 減っていく数は三年、数えてきた数だ。日当まであと何個。十日目まであと何日。


 リュカは両方数えることにした。


 来たぶんと残り。


 来たぶんは増える。残りは減る。


 足すといつも七になる。


 それから、曲がった杭で坂の一歩目の壁を叩いた。


 こん。


---


 叩きながら登った。


 こん。


 一歩。


 こん。


 一歩。


 百歩叩いて全部こんだった。


 二百歩。


 こん。


 澄んだ音は一度もしなかった。


 ――いない。


 リュカは壁を見た。


 濃いところはどこにもなかった。灰色が灰色のまま、上へ続いている。


 風が上から下りてくる。坂の壁を撫でて、筒の底へ落ちていく。


 ――風のあるところにはいないのか。


 分からなかった。


 分からないがいなかった。


 見たものしか言えない。叩いた二百歩にいなかった。


 それだけを数に入れた。


 後ろのリナンが百息に一度言った。


「来てないです」


 同じ高さの声だった。


 坂の上で下から上がってくるものに追われて、来てますと言いつづけた声と同じ高さで来てないですと言っていた。


 ――あの口を通れないのか。


 壁に貼りついて上がってくるものは、まっすぐ奥へ伸びる口に貼りつく壁がない。


 天井には並んでいた。並んでいたものが天井を伝って来られるのかどうかは分からない。


 分からないが来ていない。


 来ていないのを来ていないと言える声は、少しだけ軽かった。


---


 三百歩で叩くのを間引いた。


 五歩に一度。


 澄んだらそこから先は、また一歩ずつ叩く。


 間引いたぶん速くなった。


 速くなったぶん後ろのリナンの息がまた速くなった。


「……リナン」


「はい」


「お前の数で三息」


「……はい」


 リュカはまた遅くした。


 叩く数を減らして速くなった分をリナンの息で遅くした。


 差し引き今朝の坂と同じ速さになった。


 ――何も得してない。


 得はしていない。叩く手が楽になっただけだ。


 楽になった手は少しだけ強く握れた。


---


 風は坂を登るほど強くなった。


 上から下りてくる風だ。顔に当たる。押さえるように上から。


 リナンは顔を下に向けて登っていた。


 風を頭のてっぺんで受けている。


「……縮んでるか」


 リュカは振り返らずに訊いた。


「縮んでます」


「ずっとか」


「ずっとです」


 リナンはそう言った。


「風が来てるあいだはずっと」


 縛った翼の付け根がずっと縮んでいる。


 縮んだまま坂を登っている。


 リュカは、自分の肩を少しだけ縮めてみた。


 縮めたまま歩いてみた。


 十歩で首の後ろが張ってきた。


 ――これをずっとか。


 リュカは肩を戻した。


 戻せる肩だから戻した。


 リナンの付け根は戻せない。風が止むまで。


---


 一巻き目の終わりでリナンが言った。


「……リュカくん」


「うん」


「風止めてほしいとか思ってないです」


 リュカは足を止めた。


「なんでだ」


「止まったら縮まないので」


 リナンはそう言った。


「縮まないと、自分が待ってるのかどうか、分からないです」


「……」


「縮んでるあいだはわたし、何かを待ってるんだなって、分かるので」


 リュカはすぐには答えなかった。


 答えられなかった。


 ――待ってるのが分かる。


 三年、十日目を待ってきた。待っているのは自分で分かっていた。石を胸に入れて、日を数えていたからだ。


 この人は、日を数える代わりに付け根で分かる。


 分かり方が違うだけだ。


「……何を待ってる」


 リュカが訊いた。


 訊いてから訊かなければよかったと思った。


 リナンは少し黙った。


「分かりません」


 そう言った。


「上の何かだと思います」


---


 二巻き目に入る前に、リナンがもう一つ訊いた。


「リュカくんは上に着いたら、何をするんですか」


 リュカはすぐには答えなかった。


 答えを持っていなかった。


 焼けてから二十三日目の朝空き地で杭を撃ちながら、行くと決めた。決めたというより決まっていたことに気づいた。


 何をしに行くのかはそのとき、決めなかった。


 ザッハは塔の名を言った。根元を見た者の話はないと言った。あそこで人を殺すのは自分の脚だと言った。


 上に何があるのかは言わなかった。


「……上を見る」


 リュカはそう言った。


「上に着いたら上を見る。それから下りる」


「それだけですか」


「それだけだ」


 リナンは少し黙った。


「……上に着いたら、上はもうないんじゃないですか」


 リュカは足を止めかけた。


 止めずに壁を叩いた。


 こん。


「……そうだな」


「上に着いたら何を見るんですか」


「分からない」


 リュカは言った。


「分からないから見に行く」


 リナンはそれで何も言わなくなった。


 言わなくなってから百息後に来てないですと言った。


 同じ高さの声だった。


---


 二巻き目で水を飲んだ。


 大きいほうから一口ずつ。


 ――線まで十口。


 リナンが言った。


「わたし一口です」


「俺も一口だ」


 合っていた。


 リュカは、大きい水袋をリナンの腰の上から手で持ち上げてみた。


 軽くなっていた。


 四十口あった袋が手の中で半分より少し軽い。


 ――二十二か三。


 数えてきた数と手が覚えている重さが同じくらいだった。


 数と重さが合っていると、少しだけ安心した。


 安心してからそれが何の安心なのか考えた。


 減っている数が合っているという安心だった。


 減っていることには変わりがなかった。


---


 三巻き目で光の色が変わってきた。


 白かった光が少しだけ黄色くなっていた。


 ――日が傾いてる。


 リュカはそこで立ち止まった。


 塔に入ってから日を見ていない。壁の光は朝も夜も同じだった。夜は一万息で決めた。


 上から落ちてくる光は壁の光ではない。


 外の光だ。


 外の光には朝と昼と夕方がある。


「……夕方だ」


 リュカは口に出した。


「外が夕方だ」


 リナンが顔を上げかけて止めた。


 ここは天井がない。上げていい。


 それでも、一度止めてからゆっくり上げた。


 見上げて言った。


「……本当ですね」


「本当だ」


「夜が来るんですね。数えなくても」


「来る」


 リュカは言った。


「外の夜は決めなくても来る」


---


 石のことを考えた。


 三十三個目は外の日で数えると決めた。一万息を一日とした。


 今日は四日目だ。


 外の日は一万息とは限らない。塔の中で何回一万を数えても、本当の日がそれと同じ数だけ過ぎたかどうかは分からない。


 ――ずれてるかもしれない。


 ずれていても同じ幅でずれる。同じ幅なら比べられる。


 三層目でそう言った。


 今、本当の日が上から落ちてきている。


 ――合わせられる。


 日が落ちたら、それを四日目の終わりにする。


 一万息とずれていたら、ずれたぶんをここで捨てる。


 捨てていいと決めた。


 動かない物差しより本物の日のほうがもっと動かない。


---


 四巻き目。


 五巻き目。


 坂は急なままだった。リナンの息で一歩に三息。ときどき四息。


 リュカは何も言わなかった。


 四息のときは四息で待った。


 待っているあいだリナンの背中を見ていた。


 縛った翼の上で布が風に少しだけ鳴っていた。


 付け根が縮んでいるぶん背中が少しだけ丸い。丸い背中で一歩ずつ坂を上がってくる。


 出発の前空き地で八貫の瓦礫を担いで歩いたとき、リナンの背中はもっと真っすぐだった。


 塔に入って三日で丸くなった。


 ――荷が重いからだ。


 水袋が二つ。包みが一つ。縛った翼。縮んだ付け根。


 リュカは自分の荷を数えた。


 石の袋。杭。投槍器。空の水袋。


 水は一つも持っていなかった。


 風は強くなりつづけた。


 上から下りてくる風に横からの風が混じりはじめた。


 筒の縁が近いのだ。縁の外では風が横に流れている。それが縁で巻いて、筒の中に落ちてくる。


 リナンの付け根がまた別の縮み方をした。


「……リュカくん」


「うん」


「横から来てます」


「来てる」


「横の風は乗れる風です」


 リナンの声が少しだけ硬かった。


「崖の風ほどじゃないですけど。横から来る風は翼の下に入るので」


「……縛ってある」


「縛ってあります」


 リナンは胸の前の結び目に手を当てた。


 当てたまま登った。


 リュカは振り返ってそれを見た。


 見て何も言わなかった。


 言えることがなかった。縛ってあるのは知っている。知っているのに手を当てている。


 手を当てずにいられないということだけが分かった。


---


 六巻き目の途中でまた水を飲んだ。


 一口ずつ。


 ――線まで八口。


 大きい水袋は手で持ち上げると、底のほうで鳴った。


 鳴る袋になっていた。


 リナンが言った。


「……バルさんのほうから飲みますか」


「まだだ」


「最後に、飲みたいんですよね」


「最後に飲む」


「最後っていつですか」


 リュカは答えるのに、少しかかった。


「……帰りだ」


「帰り」


「戻るときに飲む。井戸の水は戻るための水だ」


 リナンは頷いた。


 頷いてから小さく言った。


「戻るときですね」


「戻るときだ」


---


 七巻き目。


 坂の上に縁が見えた。


 筒の壁がそこで終わっている。終わったところから先は空だった。


 黄色い空だ。


 坂は縁の手前で壁の上へ回り込んでいた。


 縁の上に出られる。


 リュカは最後の十歩を叩かずに登った。


 叩く手が止まってしまった。


 止めたのではない。止まった。


 見たかったからだ。


---


 縁に出た。


 風が全部、来た。


 上からでも横からでもなかった。四方から一度に来た。外套が身体から剥がれそうになった。


 リュカは膝をついた。


 ついてそれから見た。


---


 下に雲があった。


 白い床だ。どこまでも続いている。


 籠の中から見たとき、塔はその白い床から一本だけ立っていた。


 今はその一本の上にいる。


 白い床は、夕方の光で少しだけ黄色かった。遠くのほうは橙色になっていた。


 ところどころ白の上に影が落ちていた。


 島の影だった。


 浮いている島が白の上に影を落としている。大きいのも小さいのもある。


 そのずっと向こうに細い灰色の線が一本立っていた。


 白の床の下から空の上までまっすぐに。


 ――摩天楼だ。


 三年、その腹に住んでいた。籠で上り下りしていたのは、あの線のほんの一か所だ。


 ここから見ると線だった。


 三番街はあの線のどこかにある。雲の床より上だ。籠で下りるとき、白の中を二十三数えて、地上層に出た。だから上だ。


 上のどの高さなのかは、ここからは分からない。


 分からないが見ていた。


 見ているのは自分の街だった。


 日が横から当たっていた。


 籠で地上層へ下りてから日に当たっていなかった。地上層の空は蓋だった。塔の壁の光は明るいが温かくない。


 横から当たる日は温かかった。


 外套の片側だけが温まっていく。


 縁の上に自分の影が長く伸びていた。筒の内側へ坂を何巻きも下りていくほど長く。


 影の先は、筒の底の暗さの中に消えていた。


 ――あそこから来た。


 影が来た道をなぞっていた。


 縁の外にはもう一つ影があった。


 塔の影だった。


 雲の床の上に長く細く落ちている。日の反対側へ。


 雲から出たところは太い。先へ行くほど細くなる。


 いちばん先が尖っていた。


 ――てっぺんの影だ。


 影の先は白の床の上をずっと遠くまで伸びて、橙色の中に溶けていた。


 影の上に自分はいない。


 影は塔のものだった。


 ――下を見てる。


 リュカは、そこで自分が何を見ているのかに気づいた。


 三年、上を見てきた。石段の上。坂の上。籠の上の摩天楼の腹。


 下は荷を下ろす場所だった。見るのは、荷を落とさないためだけだった。三番街の下は、受け渡し場と地上層だった。眺めるものではなかった。


 今、三番街は遠くの一本の線の中にある。


 線の中の見えない一か所に。


---


 リナンがリュカの後ろで膝をついていた。


 縁から三歩離れたところで。


 それ以上前に来なかった。


 リュカは振り返った。


 リナンは膝をついたまま、下を見ていなかった。


 横を見ていた。


 縁の外の空を。


 付け根が縮んでいた。縛った翼が布の下で引きつるように動いていた。


「……リナン」


「はい」


「下から来てるか」


 リナンはすぐには答えなかった。


「……来てます」


 小さな声だった。


「縁の外から。下から上がってきてます」


 ――乗る風だ。


 崖の縁で下から吹き上げて、縁で一気に空へ抜ける風。


 塔の縁にもそれが来ている。


 リナンは塔に入ってから初めて、崖の縁と同じ場所に膝をついていた。


---


 リュカはリナンのほうへ膝で戻った。


 縁から離れて。


 三歩戻ってリナンの横に並んだ。


 並んで縁のほうを向いた。


「……ここでいい」


 リュカは言った。


「縁には行かなくていい」


「……行けないです」


 リナンはそう言い直した。


「行かないじゃなくて」


 それから、少しだけ続けた。


「崖と同じ風です。下から来て縁で上に抜ける」


「……」


「あの日もこういう風でした。乗るのがいちばん早い子がいちばん先に乗る風です」


 リナンは縁のほうを見なかった。


 横の空だけを見ていた。


「速いのが乗ったのは、こういう風の切れ目でした」


 リュカは何も言わなかった。


 飛べないじゃなくて飛ばない。会った日にこの人はそう言い直した。


 今は逆に言い直した。


 行かないじゃなくて行けない。


 ――言い直す向きが逆だ。


 リュカはそれを言わなかった。


 言わずにリナンの横で膝をついていた。


 風が縁の外から二人の顔に下から当たっていた。


---


 しばらくして、リナンが言った。


「……縮んでるの止まりません」


「止めなくていい」


「乗る風なので」


「縛ってある」


「縛ってあります」


 リナンは、胸の前の結び目をまた手で押さえた。


「縛ってあるのに、乗ろうとしてます」


「……翼が」


「わたしがです」


 リナンはそう言った。


「翼は乗れません。縛ってあるので。でも、わたしの付け根が乗ろうとしてます」


 リュカはリナンの横顔を見た。


 見てから言った。


「乗りたいのか」


 リナンは答えなかった。


 長く答えなかった。


 風が下から来つづけていた。


「……分かりません」


 やっとそう言った。


「乗りたいのか乗るのが怖いのか。縮むのは同じなので」


---


 リュカはそこで目を上げた。


 上げて見つけた。


 頂上だった。


---


 縁の向こうに塔の壁がまだ続いていた。


 続いているのは一か所だけだった。


 筒の縁はぐるりと一周していない。どこかで壁が欠けて落ちている。欠けたところから雲と空が見える。


 欠けていないところの壁が一本だけ上へ伸びていた。


 細い。


 筒の壁の厚みのまま、一枚の板のように、空へ立っている。


 夕方の光を受けて、片側だけが橙色になっていた。


 その先が尖っていた。


 ――てっぺんだ。


 籠の中から三十数えるあいだだけ見た。雲の床から一本だけ立って、てっぺんが少しだけ欠けていた。


 欠けていたのは筒だった。


 欠け残った一枚がてっぺんだった。


---


 遠かった。


 縁に沿って、壁の残っているところまで回り込んで、そこから一枚の壁を上へ。


 リュカは目で測った。


 縁に沿って回るのに、ここから坂一巻きぶんくらい。


 一枚の壁の高さは、筒の七巻きぶんよりまだある。


 ――登れる道があるのか。


 見えなかった。壁のこちら側には坂がない。向こう側は見えない。


 分からない。


 分からないがそこにあった。


 見えた。


 リュカは目を細めた。


 一枚の壁のこちらから見える側の縁に何かが並んでいた。


 黒い点だ。


 縁に沿って、下から上へ点が一列に並んでいる。


 等しい間をあけて。


 ――杭だ。


 壁に何かが打ち込まれている。


 打ち込まれたものが縁から少しだけ外へ突き出ていて、夕方の光を受けて、片側だけが光っていた。


 鉄の光り方だった。


 一層目の床に全部が鉄の杭が七本折れて落ちていた。


 あれと同じものなのか。


 ――違う。


 あの七本は折れていた。折れ口が全部同じ向きだった。


 この点は折れていない。並んでいる。


 並んでいる点のいちばん下のあたりから細いものが風に流れていた。


 紐だ。


 縄か紐か。点の一つに結ばれて、縁の外へ風に流されて、揺れている。


 色が見えた。


 夕方の光の中で明るい色だった。


 ――褪せてない。


 三年、荷の縄を見てきた。日に当たった縄は褪せる。雨に当たった縄は黒ずむ。


 あの紐は褪せていなかった。


 ――最近、結ばれた。


 最近がいつなのかは分からない。昨日か。十日前か。


 だが、一層目の骨の時代ではない。


 骨の誰かが結んだ紐なら、とっくに褪せている。日に当たる場所だ。風に当たる場所だ。


 褪せていない紐は褪せる前に、誰かが結んだ紐だった。


 リュカは、右手の投槍器を少しだけ持ち上げた。


 つがえた杭の先が風で細かく揺れた。


 ――この風ではまっすぐ飛ばない。


 空き地では物干し綱の辺りで一度横に押された。三十歩で右の風。それを覚えるのに、何年もかかった。


 ここは風が四方から来る。下からも来る。


 三十歩先がどこへ流れるか。


 分からなかった。


 分からないものを撃ったことはない。


 リュカは投槍器を下ろした。


「……リナン」


「……はい」


「上だ」


 リナンが顔を上げた。


 縁の外の風から目を離して。


 上を見た。


 しばらく何も言わなかった。


 それから言った。


「……あれが塔の上ですか」


「たぶんそうだ」


「高いですね」


「高い」


「……わたしの里の崖よりずっと高いです」


 リナンはそう言った。


 付け根は縮んだままだった。


 縮んだまま上を見ていた。

読んで頂きありがとうございます。

引き続き1話ずつ毎日更新していきます。

現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。


基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!


少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!


ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)

よろしければ是非応援頂けますと幸いです。

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