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星降譚―STELLA NOMINA―  作者: うめこまち
第一部 高さのはなし

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100/170

水と、残りの日①

只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ


どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!


現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!

残すは5、6、7部。

先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)


皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!

 唇が割れていた。


 気づいたのは、四層目を出て三百息を過ぎたころだ。


 口を閉じて息をしようとして、下の唇の真ん中がぴりと裂けた。


 舌で触ると塩の味がした。


 ――乾いてる。


 塔に入った日リナンが言った。里より吸いやすいかもしれませんと。


 喉に水気が張りつかない空気だった。吸いやすい。吸いやすいぶん吸うたびに身体の中の水を持っていく。


 三年、石段で汗をかいてきた。汗をかくのは分かる。濡れるからだ。


 この塔では汗が出る前に乾く。


 濡れないので、減っているのが分からない。


---


 こん。


 一歩。


 こん。


 一歩。


 左手の曲がった杭で壁を叩く。右手の投槍器には、杭が一本つがえてある。


 一歩に二息。


 後ろで百息に一度リナンが言う。


「来てます。遠いです」


 同じ高さの声だった。


 四層目で座っていたあいだも、遠いですだった。


 座っているあいだに近くならなかった。


 ――座っているのが短かったからだ。


 百息。それくらいなら、離れも近づきもしない。


 長く止まれば近くなる。


---


 五百息を過ぎたところでリナンが数を言った。


「リュカくん。今何息ですか」


「五百二十」


 リナンは少し黙った。


「わたし五百六十です」


 四十、違った。


 昨日叩きながら登った坂では二人の数は、言い合うたびに合っていた。


 昨日の一層目の坂でも、四つしか違わなかった。


 四十は違いすぎる。


「……数え間違えたか」


「数え間違えてないです」


 リナンは言い切った。


 言い切ってから小さく言い足した。


「わたしの息が速いんです」


---


 リュカは振り返った。


 リナンの肩が上下していた。


 大きく速く。


 口を開けて吸っている。


 口を開けて吸うともっと乾く。分かっていても、閉じていられないのだ。


 ――翼人は骨が中空だ。


 軽い。持ち上げると驚くほど軽い。力もある。


 だが続かない。


 昨日一層目の坂でそう分かった。速い者の速さで登ると、遅い者が先に止まる。荷を二人で担ぐときと同じだと自分で言った。


 二日目でそれがもっとはっきり出ていた。


「……数を替える」


 リュカは言った。


「お前の息で数える」


「わたしのですか」


「歩く速さはお前の数で決める。俺は俺の息も数える。夜を決めるのは俺の息だ」


「……速くなりますよ」


「お前の数が増えるのが速いだけだ。歩くのは遅くする」


 リナンは少し考えた。


「一歩に三息ですか」


「お前の息で三息」


 リナンは頷いた。


 頷いてそれから言った。


「……すみません」


「謝るな」


 リュカは壁を叩いた。


 こん。


「荷が重いほうに合わせる。重いほうが倒れたら荷が落ちる」


---


 一歩にリナンの三息。


 遅かった。


 坂は遅いぶんだけ長くなった。


 長くなったぶん後ろの五つは近くなる。


 リュカはそれを数えないことにした。


 数えても速くはならない。


 速くならないものを数えると、数えたぶん焦る。


 焦ると叩く手が強くなる。


 強く叩くと前の面が音のほうへ寄ってくる。


---


 リナンの息で八百。澄んだ音が一つ。


 息を止めて通った。


 リナンも通った。


 通るときリナンは息を止められなかった。止めようとして喉が鳴った。小さな音だった。


 リュカは振り返らずに、面を見ていた。


 面は動かなかった。


 通りきってからリナンが口の中で言った。


「……ごめんなさい」


「動かなかった」


「でも、鳴りました」


「鳴った。動かなかった」


 リュカは言った。


「動かなかったものは動かなかった。それでいい」


 リナンは何も言わなかった。


 言わないまま、また息を数えはじめた。


---


 リナンの息で千。水を飲んだ。


 リナンの腰の大きい水袋をリナンが外した。


 一口飲んでリュカに渡した。


 リュカも一口。


 返した。


 割れた唇に水がしみた。


 しみたところが水の通り道になった。一口のうちいくらかは唇が飲んだ。


「……四十口でしたよね」


「四十口くらいだ」


「今二口減りました」


「三十八だ」


 リナンは水袋の口を締めた。


 締めてからしばらくそれを膝の上に置いていた。


「リュカくん」


「うん」


「これ何日ですか」


 リュカはすぐには答えなかった。


 答えは出せた。


 出せたが出したくなかった。


「……数える。上の平らなところに着いたら」


「今数えないんですか」


「立ったままだと間違える」


 それは嘘ではなかった。


 だが、本当の理由でもなかった。


 立ったまま聞かせたくない数だった。


---


 千五百息を過ぎたころリナンの声が割れた。


「来てます。とお――」


 遠いですの途中で声が擦れた。


 リナンは咳をしようとしてこらえた。咳は音だ。


 こらえて喉の奥で小さく鳴らしただけにした。


 それから、もう一度言った。


「……来てます。遠いです」


 低かった。


 いつもの高さではなかった。


 リュカは振り返らなかった。


 振り返らずに言った。


「声は小さくていい」


「……高さが合わないんです」


「合わなくていい」


「合ってないと、数に聞こえないです」


 リナンはそう言った。


 リュカはそこで少しだけ黙った。


 来てない来てない来てない。今朝、それを数の代わりに聞いた。


 同じ高さだったから数になった。


 この人はそれを分かっていて、同じ高さで言っていたのだ。


「……分かった。合うように言え」


「はい」


 百息後の声は、いつもの高さに戻っていた。


 戻すのにどれだけ喉を使ったのかは、聞こえなかった。


---


 リュカの手も乾いていた。


 曲がった杭を握る左手の指の腹が白く粉を吹いていた。


 握りが少しだけ滑る。


 滑ると叩く強さが揃わない。揃わないと、こんと澄んだの聞き分けが一打ちごとに少しだけ遅れる。


 リュカは、杭の握りに外套の裾を一度巻いた。


 巻くと滑らなかった。


 ――布は滑り止めになる。


 荷の縄を手に一度巻いてから引くのと同じだった。


---


 四層目からリナンの息で四千二百。リュカの息で三千百。


 坂が平らになった。


 輪のように、壁に沿って広がっている。前の三つと同じ形だ。


 ――五層目。


 声には出さなかった。


 リナンは、平らなところに出たとたんに膝をついた。


 膝をついてそれから手もついた。


 手をついたまま息をしていた。


 リュカはその横に荷を下ろした。


 下ろして坂の下を見た。


 何も見えなかった。


「……来てます。遠いです」


 リナンが手をついたまま言った。


 百息に一度の声だった。


 膝をついていても数えていた。


---


 リュカは座った。


 壁を背にして。


 それから、外套の内側から紙を一枚出した。


 五枚のうちの白いままの一枚だ。


 出してから書くものがないことを思い出した。


 炭はない。鉛は買えなかった。


 紙を膝の上に置いた。


 置いたまま頭の中で数えた。


 書けないものを三年、頭の中で数えてきた。荷札の数も日当も石の日数も。


 紙は置いておくだけだった。白い紙の上で数えると、数が少しだけまっすぐ並ぶ気がした。


---


 まずある水を数えた。


 大きい水袋。三十八口。


 小さい水袋。空。


 それから、バルの古い革袋。


 リュカは腰からそれを外した。


 重さを手で量った。


 大きい水袋と比べた。


 大きいほうより重かった。


「……リナン」


「はい」


「これを開ける」


 リナンが顔を上げた。


「開けるんですか」


「開けないと数えられない」


 リュカは言った。


「あることは分かってる。何口あるかは分からない。分からないものは数に入れられない」


 リナンは少しだけ笑った。


「昨日は開けると減るって」


「減る。だから、今まで開けなかった」


 リュカは栓の紐に指をかけた。


「今は減るより分からないほうが怖い」


---


 栓を抜いた。


 古い革の匂いがした。


 それから、水の匂いがした。


 ――井戸の匂いだ。


 出発の朝イサの井戸で三つとも満たした。


 イサは綱に手をかけて、それから離した。代わりにリュカが引いた。昔は腕で引いてた今は背中で引いてるとイサは言った。戻ってきたら、また引いておくれと。


 大きい水袋も、小さい水袋も同じ井戸の水だった。


 だが、開けるたびに塔の空気が入った。匂いのない空気だ。大きいほうの水は、いつの間にか何の味もしなくなっていた。


 一度も開けなかったこの袋にだけ井戸の匂いが残っていた。


 三番街の井戸の底の水だ。石と苔と少しだけ鉄の匂いがする。三年、毎朝運んできた匂いだった。


 リュカは栓を手に持ったまま、しばらく動かなかった。


 ――あることは分かってる。


 昨日自分でそう言った。


 あるのは水だけではなかった。


---


 一口だけ飲んだ。


 確かめるためだ。


 井戸の味がした。塔の中で初めて何かの味がした。


 リナンに渡した。


 リナンも一口飲んだ。


 飲んで目を閉じた。


「……宿の朝の味です」


「井戸の水だ」


「ヴェスナさんが毎朝、柄杓で」


 リナンはそこで言葉を止めた。


 止めて栓を差し出した。


 リュカは栓を締めた。


 締めてから量った。


 二口減った。


 大きい水袋で四十口がどれくらいの重さか手が覚えている。それと比べた。


「……四十五口くらいだ」


「四十五」


「今二口飲んだ。四十三」


---


 ある水。


 大きいのが三十八。バルのが四十三。


 八十一口。


 リュカは、白い紙の上に指で八十一と書くふりをした。


 字は書けない。だが、数の形は荷札で覚えている。


 指が紙の上で形をなぞった。


 何も残らなかった。


---


 次に要る水を数えた。


 リュカは、そこでもう一度バルの声を思い出した。


 ――三日ぶん持て。二日で着かなかったら引き返せ。


 ――着いたあとのことは言わなかった。


 塔に入った日に自分でそう言った。


 言ったときは着いたあとに水があるかどうか、という意味で言った。


 今、違う意味に聞こえた。


 ――三日ぶん。


 行くのに二日。


 二日で着かなかったら引き返す。引き返すのにまた二日。


 三日ぶんでは足りない。


 二日行って、二日戻るなら、四日ぶん要る。


 バルはそれを知っていた。


 知っていて三日と言った。


 リュカは紙の上で指を止めた。


 ――三日は行くぶんだ。


 行って着いて少し余る。それだけの水だ。


 戻るぶんは入っていない。


 バルは戻るぶんを言わなかった。


 言わずに自分の水袋を一つくれた。


 返さんでいいと言った。返しに来る道があるとは限らんと。


 リュカは、それを怒る気にはなれなかった。


 バルは嘘を言っていない。三日ぶん持て、は行くぶんとしては正しい。二日で着かなかったら引き返せも正しい。


 言わなかっただけだ。


 ドランと同じだった。規則の言葉は守って、どの本当を言うかだけを選ぶ。


 バルが選ばなかった本当は、たぶん言っても聞かない者が多い本当だ。


 だから、言わずに三つ目の袋を足元に置いた。


 三日ぶんの三日目の袋だ。


 それがバルの言わなかったことの全部だった。


 三日ぶんの水が四日目の今も残っているのは口の数を数えて、少なく飲んできたからだ。バルの言う三日ぶんの飲み方をしていたら、今ごろ袋は三つとも鳴らなくなっている。


 ――気づかなかったらどうなってた。


 上へ行けるだけ行って、線のないまま、全部を飲んでいた。


 気づいたのは骨を見たからだ。十三の骨と七本の杭とザッハの四十年とバルの三日を並べたからだ。


 並べなければ、一つずつでは何も言っていなかった。


---


 ザッハの声もした。


 ――根元を見た者の話は四十年、一度も聞かなかった。


 四十年、根元まで行った者がいないのではなかった。


 行った者はいた。一層目に骨が十三あった。全部が鉄の折れた杭が七本あった。


 行った者の話を聞いた者がいなかった。


 戻ってきた者がいなかったからだ。


 ――戻るぶんの水を持っていかなかったのか。


 それとも持っていったのに、上で使ったのか。


 分からない。


 骨は何も言わなかった。


 だが、骨の数は数えてあった。十三。


---


「リナン」


「はい」


「水の話をする」


 リナンは膝を抱えて、壁にもたれていた。


 息はまだ少し速かった。


「……はい」


「ある水は八十一口だ」


「はい」


「戻るのに要る水を先に取っておく」


 リナンはリュカを見た。


「……戻る」


「戻る」


 リュカはそう言った。


「上に行くのはやめない。でも、戻るぶんは先に取る。取ってから残りで上に行く」


---


 リュカは数を並べた。


 一つ目。地上層を塔の根元から受け渡し場まで歩く。二日。


 行きの二日で二人で何口飲んだか覚えている。リナンが口の数を数えはじめる前からリュカは数えていた。


 三十口だった。風が強かった。歩きながら喉が乾いた。


 帰りも同じだけ要る。三十口。


 二つ目。塔を下りる。


 登ったのは昨日と今日。二日だ。


 塔の中で一日に二人で何口飲んでいるか。


 昨日は十三口だった。七つに挟まれて喉が鳴った日だ。


 今日はここまでで十口。


 十三で数える。多いほうで。


 下りは登りより息が少ない。だが、叩きながら下りる。下からは五つが上がってくるので、そのほうへ向かうことになる。


 登った二日を一日と半分で下りると数える。


 十三の一日と半分。二十口。


 三つ目。塔の根元で少しは休む。地上層に出る前に。


 五口。


---


 三十と二十と五。


 五十五口。


 八十一から五十五を引く。


 二十六。


 ――二十六口が上へ行くのに使える水だ。


 リュカはそこでもう一つ数えた。


 上へ一日行けば上で十三口使う。


 そして下りがその一日ぶん長くなる。登る一日を下りは四つに三つの長さで下りる。十口。


 上へ一日行くごとに二十三口。


 二十六口では。


 一日と少し。


---


 リュカはそれを口に出さなかった。


 出さなかったがリナンは、リュカの指を見ていた。


 紙の上で何度も同じところをなぞる指を。


「……何日ですか」


 リナンが訊いた。


 さっきと同じ問いだった。


 座っているので、もう立ったままだから、とは言えなかった。


「一日と少しだ」


 リュカは言った。


 リナンはすぐには何も言わなかった。


 言わずに自分の膝を見た。


「……短いですね」


「短い」


「少しってどれくらいですか」


「半日に届かない」


 リナンは頷いた。


 頷いてから小さく言った。


「わたしの息で数えるようになったからですか」


「違う」


 リュカはすぐに言った。


「お前の息で数えなくても同じだ。水は息の数じゃなくて、日の数で減る」


「……でも遅くなりました」


「遅くなった。だから、一日で登れる高さが少し減る」


 リュカは言った。


「減るのは高さだ。日の数じゃない」


 リナンはそれで少しだけ顔を上げた。


---


 リュカは紙の上でもう一つ数えた。


 石だ。


 三十三個目は今日で三日目。


 十日目は七日先だ。


 線は一日と少し先。


 ――線のほうが先に来る。


 三年、石の十日目は必ず来た。来て外れて袋に戻した。三十二回そうした。


 十日目が来る前に、何かが終わるということはなかった。


 今度は、来る前に線が来る。


 線が来たら戻る。戻っているあいだに十日目が来る。


 十日目は塔の中か。白の中か。地上層の道の上か。


 どこで来ても同じだ。宿るか宿らないか。


 場所で答えは変わらない。


 変わらないと分かっていても、リュカはそれを少しだけ変な気持ちで数えた。


 三年、十日目はいつも屋根裏で日が落ちてからだった。


---


「線を引く」


 リュカは言った。


「線」


「ここまで行ったら、戻るっていう線だ」


 リュカは、白い紙を指で縦に一度なぞった。


「水が二十六口減ったら、その場所が線だ。どこまで登っていても、そこで戻る」


「……上に着いてなくても」


「着いてなくても」


 リナンは紙を見ていた。


 何も書いていない紙だった。


 それでも、リュカの指が通ったところに線があるように見えた。


「線より先に行ったら」


 リナンが言った。


「戻るぶんの水が足りなくなる」


「足りなくなる」


「……一層目の骨みたいに」


 リュカは答えなかった。


 答えなくても同じことだった。


---


「線は俺が数える」


 リュカは言った。


「お前は飲んだ口の数を数えろ。俺は残りを数える。突き合わせて、合わなかったら、少ないほうで数える」


「……息と同じですね」


「同じだ」


「わたしが多く飲んだら」


「合わなくなる。合わなくなったら言え」


 リナンは少し黙った。


「言えなかったら」


「言え」


 リュカはそう言った。


「言わないと線がずれる。ずれた線は線じゃない」


 リナンは頷いた。


 それから言った。


「リュカくんも言ってくださいね」


「言う」


「多く飲んだら」


「飲まない」


「……飲んだらです」


 リュカは少しだけ黙った。


「……飲んだら言う」


---


 リナンは紙から目を上げた。


「リュカくん」


「うん」


「上に着かなくても、戻るんですよね」


「戻る」


「……それでいいんですか」


 リュカはすぐには答えなかった。


 上に何があるのかは知らない。


 ザッハは、根元を見た者の話はないと言った。上の話はなおさらない。


 知らないものを見に来た。


 知らないまま、戻ることになるかもしれない。


「いいかどうかは分からない」


 リュカは言った。


「でも、戻ればまた来られる」


「また」


「戻ってくるなら、この籠から下りてくるって、坂の途中の爺さんが言った」


 リナンは少し考えて頷いた。


 詰所の脇の石に毎朝座っている老人だ。


「骨はまた来られない」


 リュカはそう言った。


「十三あった骨は、たぶん上に着いたら戻るつもりだった。着く前に水が尽きた。尽きたあとで戻ろうとして、戻れなかった」


 見ていないことだった。


 見ていないことを言った。


 言ってから取り消さなかった。


 取り消さないで言い足した。


「……見てない。でも、数は合う」


 リナンはそれ以上訊かなかった。


 訊かずに白い紙のリュカの指が通ったところをもう一度見た。


---


 干し魚を一枚出した。


 二枚のうちの一枚。


 一万息はまだ来ていなかった。リュカの息で朝から六千と少し。


 だが出した。


 リナンが手をついて息をしていたからだ。


 半分に割って片方を渡した。


 リナンは三つに割らなかった。


 二つに割って、一つを口に入れて、もう一つを膝の上に置いた。


「……三つにしないのか」


「三つにすると三回口を開けます」


 リナンは言った。


「口を開けると乾くので」


 リュカは何も言わなかった。


 三回に分けると、三回食べたことになる。地上層の岩場でこの人はそう言った。


 あれは、まだ口を開けていられたころの言い方だった。


---


 残りは一枚。


 夜に食えるのはあと一回。


 リュカはそれも数に入れた。


 水の線より先に干し魚の線が来るかもしれない。


 食べなくても人は何日か歩ける。三年、日当が出なかった日にそうしたことがある。


 飲まなかったら歩けない。


 だから線は水で引く。

読んで頂きありがとうございます。

引き続き1話ずつ毎日更新していきます。

現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。


基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!


少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!


ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)

よろしければ是非応援頂けますと幸いです。

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