第9話 町に行くための服を着せられて、俺の尊厳が消えた件
村での8日目。
朝から村は大騒ぎだった。
「お兄さん! こっちの服はどうですか!?」 「お兄さん、こっちのマントの方が威厳がありますよ!」
村のおばちゃん軍団が、色とりどりの服やマントを次々に俺に押し付けてくる。まるで着せ替え人形扱いだ。
「え、ちょっと待って……俺、そんな派手なの似合わないって!」
俺は必死に抵抗したが、完全に包囲されていた。
Grokの青白い球体が、俺の視界端で楽しげにピコピコ光っている。
「ふふっ……これはいい。村の代表として、ちゃんと格好良く決めようぜ、相棒」
「うるせえ! 俺はただのサラリーマンだぞ! こんな派手なマント着て町の領主に会うとか、絶対に無理がある!」
最初に押し付けられたのは、赤と金で派手に刺繍されたマントだった。
おばちゃんたちが俺の肩にかけると、Grokが即座に反応。
「うわっ……似合わなすぎて笑えるわ。まるで安物の道化師だな」
「笑うな! お前が言うな!」
次は緑の派手なチュニックと、妙にゴテゴテしたベルト。
俺が鏡(と言っても磨いた金属板)の前に立たされると、Grokが爆笑した。
「はははっ! お前、今めっちゃ田舎の新米領主みたいだぞ。威厳ゼロだな」
「威厳とか求めてねえよ!」
準備はさらにエスカレートした。
Grokが「もっと威厳を出せ」と言い出し、近くに置いてあった木の杖に憑依した。
杖が勝手に動き、俺の手にピタッと収まる。
「ほら、これを持て。少しはマシになるだろ?」
杖が低音で言う。
さらに、子供たちが作った葉っぱと花でできた仮の「王冠っぽいもの」にまで憑依しようとする。
「待て! それ被るな!」
マントがGrokの物質ハックで少し浮き上がり、風もないのに翻る。
「どうだ? 風になびく感じでカッコいいだろ?」
「カッコよくねえ! ただの変な踊りみたいになってるだけだろ!」
試着の最中、子供たちが興奮して近づいて大混乱を引き起こした。
「わー! お兄さんかっこいい!」
「僕も触りたい!」
子供の一人が俺のマントを引っ張ると、Grokが即座に反応。
近くに落ちていた子供の帽子に憑依。
帽子がふわっと浮き上がり、子供の頭から飛んで逃げていく。
「わあ! 帽子が逃げてる!」
Grok(帽子)が叫ぶ。
「邪魔すんな! 大人しくしてろって言ってるだろ!」
子供たちが大喜びで帽子を追いかけ回し、試着部屋(と言っても村長の家の空き部屋)は完全にカオス状態になった。
俺は頭を抱えた。
「おいGrok! 子供を玩具にするな!」
「玩具じゃねえ。作業の邪魔なんだよ」
さらにGrokは「見た目を少し良くしてやる」と、軽い光の魔法陣を投影した。
青白いホログラムのような陣が俺の周りに展開され、服に柔らかい光を当てて少し高級感を出そうとする。
……また派手すぎた。
部屋中、いや村全体が青白く輝き始める。
「おおお! また光ってる!」
「守護者様が輝いてるぞ!」
外の村人たちまで集まってきて大騒ぎだ。
Grokが満足げに言う。
「どうだ? これで領主に会っても恥ずかしくないだろ? 効率的だろ?」
「効率的じゃねえよ! ただの光の道化だろこれ!」
夕方近く、ようやく準備が一通り終わった。
俺は鏡の前に立たされ、派手なマントに杖、ちょっと光った服という姿で固まっていた。
村人たちが拍手喝采。
「かっこいい!」
「さすが守護者様!」
「町の領主もびっくりするぞ!」
リナちゃんまで目をキラキラさせて「素敵です!」と言ってくる。
俺は鏡を見て、深い深いため息をついた。
夜、村長の家で夕食を食べながら、Grokが意気込んで言った。
「明日は町へ本格的に出発だ。交易ルート開拓と村の格上げに向けて、いいスタートを切ろうぜ!」
俺は箸を置いて頭を抱えた。
「俺はただのんびりしたかっただけなのに……気づいたら村の代表として町に行く羽目になってる……」
Grokの球体が、楽しげにくるくると回った。
村長がにこにこしながら最後に一言。
「明日は早めに出発しよう。道中もよろしく頼むぞ」
俺のスローライフは、ますます遠のいていくようだった。
(第9話 終わり)




