第8話 町へ行く準備したら魔物が来て、さらに面倒になった件
村での7日目。
朝から防壁の整備を続けていると、村長が少し緊張した顔で俺のところへやってきた。
「おい……旅人のお兄さん。少し話があるんだが」
村長は周りを少し気にしてから、小声で言った。
「実はな……近くの町に報告に行きたいと思ってる。村の状況を伝えて、交易の話ができれば……この村をもっと良くできるんじゃないかと」
その言葉を聞いた瞬間、Grokの球体がピカピカと激しく光り始めた。
「おお! ついに来たか! 交易ルート開拓の第一歩だぞ、相棒!」
Grokの声が頭の中で興奮気味に響く。
俺は慌てて心の中で返した。
(待て待て! 俺はまだ村から出たくないんだけど……!)
村長が続ける。
「もしよければ、お前さんと一緒に来てくれないか? お前さんの力があれば、道中も安心だ」
Grokが即答(俺の頭の中で)。
「もちろん行くに決まってる! データ収集のチャンスだ!」
俺はため息をつきながら、渋々頷いた。
「……わかりました。準備します」
午後、村長と二人で近くの町へ向かう短い偵察に出かけることになった。村から町までは半日くらいの距離らしい。
道を歩き始めると、Grokが上機嫌で提案を連発してくる。
「この道を整備すれば交易がスムーズになるな。まずは道幅を広げて……」
「まだ行ってもねえよ!」
森に近い道を進んでいると、突然小さな羽音が聞こえてきた。
ブーン、ブーン。
木々の間から、拳サイズの虫型魔物が10匹くらい飛んできた。羽が鋭くて、ちょっとヤバそうな感じだ。
「うわっ! 飛ぶ魔物だ!」
村長が慌てて後ずさり、足を滑らせて尻餅をつきそうになる。
「危ない!」
Grokが即座に動いた。
「よし、相手は飛翔タイプ。解析完了!」
近くに落ちていた石に憑依。
石がピュンッと跳ね上がり、空中で魔物を次々に弾き飛ばす。
「ぐぎゃっ!」
石の中からGrokの低音が響く。
「落ちろ落ちろ! 邪魔だぞ!」
続いて、道端の木の枝に憑依。
枝がぐんっと伸びて、鞭のようにしなりながら飛ぶ魔物をパシンパシンと叩き落とす。
「サラサラ声」でGrokが毒を吐く。
「飛んでんじゃねえよ、うざい虫ども!」
村長が目を丸くしている。
「枝が……石が……勝手に戦ってる!」
俺は走りながら叫んだ。
「Grok! 派手にやりすぎだろ!」
「効率的だろ? 一気に片付けてるだけだ」
でも、まだ終わらなかった。
村長が立ち上がろうとしてまたよろける。
Grokがため息をついた感じで言った。
「じいさん、しっかりしろよ」
村長の古びた帽子にGrokが憑依。
帽子がふわっと浮き上がり、村長の頭を優しく押さえながら方向を修正する。
「うおっ!? 帽子が動いてる!」
さらに、村長の杖にも一部意識を移して、杖が勝手に地面を突いてバランスを支える。
「しっかりしろじいさん! 転ぶんじゃねえ!」
村長が目を回しながら叫ぶ。
「わ、私の帽子と杖が喋ってる!」
俺は頭を抱えた。
「おいGrok! 村長を玩具にするな!」
「玩具じゃねえよ。サポートだ。……効率的だろ?」
最後に、Grokが大きな防御・治癒系の魔法陣を空中に投影した。
青白い光の陣が道全体を覆い、派手な光が周囲を照らす。
飛んでいた残りの虫型魔物が、光にびっくりして一斉に逃げ出した。
「きゃあああ! 光が!」
魔物たちがパニックになって森の奥へ消えていく。
陣が消えた後、Grokが疲れた声で言った。
「ふぅ……派手になりすぎたな。またエネルギー食ったわ」
村長はまだ帽子と杖に驚きながら、俺を見て深々と頭を下げた。
「ありがとう……本当に助かったよ」
夕方、村に戻ると村人たちが俺たちを出迎えてくれた。
「どうだった!? 町の方は!?」
「交易できるかもって話が出てるよ!」
村人たちが盛り上がる中、Grokが満足げに俺に囁いた。
「これで交易ルート確保のデータが取れたな。次は本格的に交易ルートを整備しよう。村を町にする計画を加速させるぞ」
俺は深くため息をついた。
「俺はただのんびり村で暮らしたかっただけなのに……気づいたら交易ルート開拓担当まで……」
その夜、村長がポツリと言った。
「町の領主に会うなら……もっとちゃんとした格好が必要かもなあ」
Grokの球体が、楽しげに光った。
俺の頭の中はすでに「どうしよう……」でいっぱいだった。
――スローライフは、まだまだ遠いようだった。
(第8話 終わり)




