37 ハイテンション
『3』番倉庫に入ると、そこには怖い顔をしたサキ姉が待っていた。
サキ姉の怒りの原因は、僕が大量に持ち帰ったハエトリグモに似た樹形をした巨人樹だ。
「こんな特殊な機体リュカ以外誰が乗れるのよ!それを、こんなにたくさん……これだけでも二十機以上あるわ、それならもっと他の機体を持ってきてくれればいいのに」プンプンと、当然と言えば当然のお叱りを受ける。
つい、見たこともない樹形の巨人樹に興奮して、墓守たちに三つある荷台の内一つがいっぱいになるまで積み込んでくれと頼んだのは、間違いなく僕だ。はっきりと覚えている。
いつの間にか、サキ姉のマシンドールマニア気質に影響されていたのかもしれない。
サキ姉も本気で怒っているわけではないのだろう、どちらかというと、もっと他の巨人樹が見たかったのに、とか、私も一緒に行くべきだったかなーと、心の声が駄々漏れだ。
僕は彼女のお小言の大半を、聞き流すことにした。
このハエトリグモに似た巨人樹は、バーディガン王国の北にあるグラッヘ共和国や、シルビルードの中部から北西部地域に自生する、ドウィアナ種と呼ばれる名前の巨人樹なのだそうだ。
養殖している国は無く、ドウィアナ種を魔導巨兵として使用したのは、西方大陸を中心に活動していた今は無き国を持たぬ蛮族たちだけで、文献上では、それ以外の使用は確認できない。
この文献は、カーネギー・アルダン、義父が残したものだ。
蛮族たちは、最大四十機近い数のドウィアナ種の魔導巨兵を運用していた。
こんな特異な形をした魔導巨兵と契約する人形遣いを、「どうしてそんなに揃えられたんだろう」僕の独り言にサキ姉が答える。
「あくまで仮説ですよ。私は彼らの血統が影響していたのではないのかと思うの」と、彼女は楽しそうに仮説を披露する。
彼女は心から魔導巨兵が愛しているのだろう、話をしている時に見せる彼女の顔は艶やかで、笑顔、幸せいっぱいの顔だ。
我が姉ながら、将来貰い手がいるのだろうかと心配になる。
変異種は手に入らなかったものの、僕とレアンが持ち帰った廃棄機体……というかほぼほぼ剥き出しの巨人樹なのだが、ドウィアナ種の巨人樹が異常に多かった以外は概ね満足だと、彼女は頬を上気させながら鼻息荒く語った。
「ここからが需要な話です!」と彼女の声が一段上がる。彼女を喜ばせたのは、ドウィアナ種に紛れて積まれていた珍しい巨人樹だった。
「さぷらーいず」そう叫びながら、ニヤニヤする墓守たちの顔が浮かぶ。
パーシバリアナ種。養殖が成功していない巨人樹のひとつで、墓守たちが乗る『死神』と呼ばれる魔導巨兵の素体である。
「凄いわ、まさかパーシバリアナ種の巨人樹が紛れ込んでいるなんて、墓守たちはよっぽどリュカとレアンのことが気に入ったのね。残された魔術回路を見た感じ、一つ前の型、バリエーションベータかしらね」工房に横たわる巨人樹を見つめながら姉は、感想を口にした。
現在の死神は、バリエーションガンマと呼ばれる機体で、目の前に横たわるバージョンベータよりも反応速度と力が向上している。
長い年月でかすれた魔術回路からは、巨大陸亀でも森の隠者の巨大蟹でもない、特殊な素材の鎧を着ていることも分かったとサキ姉は解説を続けた。
機密扱いの『死神』の機体なのに、どうしてそんなに詳しいのかと突っ込みたい気持ちは山々であるが、もちろん、そんなことは口にしない。託された力の詮索はタブーなのだ。
でもさ、兄弟の中で、僕だけ性能低すぎじゃね?
僕の能力?えーとゲテモノ魔導巨兵と相性が良い!大きく肩を落とす。
サキ姉の話は続いている……パーシバリアナ種は鎌しか武器が装備出来ないという縛りがある。それでも運動性能に関しては、量産機の中で最高、専用機並みの運動性能があるのです、彼女は語った。
当然サキ姉は、目の前のパーシバリアナ種を使って魔導巨兵を製作したいと考えているのだが、珍しい魔物なのだろう、パーシバリアナ種に適合する魔物の心臓の入手は困難、すぐに手を出すことができないのです、と不貞腐れた。
と同時に、嬉々としてルークとレアンに採取依頼を出す、サキ姉の姿までは想像できる。
問題は、そこに僕が含まれるかどうかだろう。
他にも『鋼鉄の一角狼』の素体であるバウガンド種や、『ガラカム』や『マルクト』に使われている最も多くの量産機に使われているボルゲン種。シルビルード軍の人型主力魔導巨兵『デネブラ』の素体でもあるフルフセア種と、様々な巨人樹が混じっているのが、サキ姉が作成した巨人樹リストを見ただけでも分かる。
「サキ姉、この空白はなに?」
「それはー破損が酷くて品種が特定できない巨人樹があったの、困ったわ」困ったという割に、サキ姉の顔は嬉しそうだ。睡眠と食事をしっかりとるように、兄弟で見張らないとダメなやつだな。
夜にでも、サキ姉以外を集めて兄弟会議を開かなくては、僕はぐったりしたまま、その日はサキ姉と別れた。
五日後――すぐに欲しい!絶対欲しい!魔物の心臓リストを手に、ルークとレアンの二人が『黒小鬼』に乗って旅立った。
今のところ、バーディガン王国軍にも大きな動きは無いし、大丈夫だろう。
今回僕は留守番だ。
サキ姉の中で僕は、遠出が必要な時、または荷物が多い時に声がかかる、運搬係のような立ち位置なのだろう。
契約した魔導巨兵の特性を考えれば当然なのかもしれない。
更に三日後――ついに!ついに!ドウィアナ種の魔導巨兵が完成した。
長い年月によって、ドウィアナ種に刻まれていた魔術回路は風化しており、全身に刻まれた魔術回路は、サキ姉が文献を元に設計したものだ。
完成した魔導巨兵は、全長が五メートルほどで、高さも大人の背丈ほどしかない。体から伸びる八本の足の内、二本が腕の役割をしており、残りの六本が足の役割となる。
上半身?前半分がケンタウロスのように持ち上がり、最大高さは三メートルほどになる予定なのだとか、魔導巨兵の中では、かなり小さいし、レアンの『ガラカムトライ』が持つ『巨大戦斧』の一撃をまともに喰らったら、一瞬で潰れそうだ。
操縦席は、今まで見てきた魔導巨兵の中でもダントツに狭い、乗り込み方は、後方?頭部分の鎧が上に持ち上がり、そこから中に滑り込む。
魔導巨兵というよりは大きな鎧みたいだ。
使った心臓は、女郎蜘蛛と呼ばれる蜘蛛の体に人族の女性によく似た顔が付いた魔物のモノだ。
武器は、ルプスニウム合金製の広刃の剣。
装甲には、森の中産のお化け砂蟹の甲羅を使った。今回、手に入れた巨人樹のうち、欠損が酷いものは、修理はせずに森の中の安全地帯に何本か植えてみることになった。
目指せ、自産自消である!
鎧を着たドウィアナ種は、巨大なハエトリグモにしか見えない。
ドウィアナ種の魔導巨兵に付けられた名前は『メネラス』。エルフたちが好きそうな名前ではあるが、ハエトリグモをメネメラスと呼ぶ地域があるため、そこから名前をとった。
サキ姉の期待に満ちた目に見送られて、僕は『メネラス』の操縦席に滑り込んだ。感覚的には地面にうつ伏せになる感じだ。少し窮屈な『ハルキゲニア』という表現がぴったりだろう。
魔導巨兵というよりは、蜘蛛の形をした大きな鎧って感じが、逆に見た目以上にしっくりくる。
意外に、契約しやすい機体なんじゃないだろうか?
『ハルキゲニア』を見たことがある人なら、これくらいの見た目に抵抗はないだろう。と考え事をしているうちに全身を蔓で包まれた。蔓が這うのは頭と手足だけじゃないのか、と感想が口から零れる。
少しして蔓の感触が完全に消えて、体が宙に浮いているような不思議な感覚を覚える。
『ハルキゲニア』は同調しても、体が寝台に触れているような感覚が残るのだ。
完全に同調した。色の無かった視界に色が付く。
ご苦労様といった普段と変わらない三姉妹の顔と、口を開けたまま固まるカインたち七人の対比が面白い。その中に、ルークとレアンがいないのが少しだけ寂しい。
さて走りますか、僕と一体化した『メネラス』は、開け放たれた魔導巨兵用の大きな扉から外へと飛び出した。
速い……六本足で地面をドンドン蹴る。
『鋼鉄の一角狼』には敵わないが、『メネラス』のスピードも中々だ。二十メートル近い背丈がある魔導巨兵とは、正面から戦える気はしないが、森の中のような障害物の多い場所で戦えば、倒せないまでにも時間くらいは稼げるだろう。
そう思えるほど『メネラス』は小回りが利く。
対人、対魔物兵器と考えれば、魔法も効かないし最強だろう。
おおー、ジャンプ力も凄い。助走なしで十メートル近く飛んだ。やばい、楽しい。
そのまま森の中へ飛び込んだ。
見た目は蜘蛛だが、お尻から糸が出るようなギミックはないものの、足に鎧がなく剥き出しだからだろうか?垂直の壁もすいすい登れる、ダンジョンの天井に六本の足でぶら下がることも出来た。
天上にぶら下がっていると、丁度一匹のオーガが歩いているのが見えた。
オーガを目掛けて天井を蹴った。着地と同時に、背中から広刃の剣を一閃首を刎ねる。
サイズ感のせいだろう、何かに乗っているというより、自分自身が強い魔物になったような無双感がある。
僕は、そのまま嬉々として魔物たちを狩りまくった。
『メネラス』って、狂人化とか付いていないよね。
その後、出ていったきり暫く戻らず、魔物の血を浴びて帰った僕を見た、サキ姉とキキとララから正座を言い渡されて、もの凄く叱られた。
狂人化(仮)については、サキ姉が調べてくれるそうだ。
更に数日後、首輪が千切れる際に人形遣いになりたいと、強く願うように言い聞かせたカインたち七人の魔導巨兵との相性を調べたのだが、ここでも予想外のことが起きた。
※使いまわしですが西方大陸地図です。
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