38 能力
今日は、カインたち七人の魔導巨兵との相性試験だ。
ミアとニアの魔法を見る限り、彼らが人形遣いになれる確率は、かなり低いと思っている。
二人の魔法が役に立たないとかじゃなく、首輪を喰い千切って得た能力にしては物足りないのだ。
ミアの水を出す魔法は、不純物が入らない超純水とでもいうのだろうか、特別な水を生み出すことができる。この水は、水なのに飲んではいけないという不思議なものなのだが、三女のララに言わせると、超純水とは良質な錬金術の素材であり、それを生み出せるミアは天才なのだ。とフンスと鼻息荒めにドヤ顔で説明した。
ニアのパンを甘くする魔法も大人気だ。
彼女の魔法は、クッキーをはじめとした小麦粉で作られた焼き菓子全般に効果がある。サキ姉とキキとララからは、おやつの時間が楽しくなったと大好評である。
とはいえ、この世界のごく一握りの人しか手に入れることが出来ない、最強の生物兵器魔導巨兵の契約者になることと釣り合うかと聞かれれば、釣り合わないと断言できる。
魔法のお陰でミアとニアの二人は、ララの助手という確固たる地位を手に入れたのだから、魔法使いになりたいと願った二人の判断は間違ってないのだろう。
残された五人の気合が凄い!とはいえ、ミアとニアの二人も今回の適性試験には参加する。
彼女たちは、魔導巨兵を嫌っていたはずなのに、どういう心境の変化か、彼女たちは進んで試験に手を挙げた。
前もって、契約者を持たず宙ぶらりん状態で倉庫に眠る『ガラカムトライ』を使い、七人の適性を試したのだが、予想通りというか、誰一人契約出来なかった。
目の前に並ぶ三機の、傷ひとつないピカピカの『鋼鉄の一角狼改修型』。
『巨大ハエトリグモ』のお陰で、今まで参加出来ずにいた魔導巨兵製作に、僕も手を貸せるようになった。
製作に手を貸したからだろう、目の前の三機は、今まで以上に愛おしく見える。
サキ姉が、魔導巨兵に抱く愛情が少しだけ理解できた。
テストに挑む七人は、緊張の面持ちで順番を待つ。
まずはカイン、ザイン、ゲインの男子三人が挑戦する。
落ちて怪我をしないようにと、縄梯子から、三機の背中にはララが錬金術で作った操縦室まで続く階段が付けられている。
三人が操縦室へと入っていく。
やはりダメか、そう思った瞬間。
ゲインが乗った『鋼鉄の一角狼改修型』の目に光が灯る。
ゲインは契約に成功したのだ。
それを見たカインとザインは悔しそうに下を向く。
その後、残った二機で女子四人も挑戦したが、ゲイン以降契約者は出なかった。
正直、全員無理だろうと考えていただけに、ゲインが人形遣いになれたのには驚いた。
七分の一なら上出来である。いや、大成功だろう。一万人規模の町から千四百人以上の人形遣いが現われたようなものなのだ。首輪の秘めた力に、僕は改めて感心する。
ここから更に想定外のことが起こる。
諦めきれなかったカインとゲインが、『巨大ハエトリグモ』でも同調を試したいと言ってきたのだ。
僕の予備機として完成していた、未契約の二機、『巨大ハエトリグモ』に二人を乗せる。二人とも同調した。
サキ姉とキキもこの結果に驚いたようで、興奮しながら何かを話している。
文献にあったドウィアナ種の魔導巨兵の魔術回路には、気分を高揚させる一文が入っていた。既にサキ姉によって、『巨大ハエトリグモ』から、その一文は取り除かれている。
蛮族たちは、魔導巨兵の装甲の内側に、人の精神に作用する魔術回路を書き足していたのだ。
精神の高揚くらいならまだいい。他にも、死を恐れないとか、痛みを感じないといったものまで色々あった。
サキ姉だけが、閲覧を許可された文献に載っている情報のため、詳しくは分からないが、この世界には、まだまだ怖い技術が眠っているのだろう。
その後、二人の成功に気を良くしたサキ姉は、そこから予備機体も含めて十機の『巨大ハエトリグモ』を完成させた。
これで『巨大ハエトリグモ』は、合計十三機。
後日行われた同調試験では、残った五人も成功。
ゲインも腕があった方が作業には役に立つと、『巨大ハエトリグモ』とも契約することを決めた。
その日、僕はサキ姉から呼び出された。
「リュカ、そこに座って」
「はーい、で……話ってなにさ」
「今日起きたことについて話をしておきたいと思ったの。契約……彼ら七人は首輪を喰い千切ったことでリュカ・アルダン、あなたの所有物になったわ」
「サキ姉、その言い方は好きじゃないよ」
「そうね、良くないわね。でも、目を逸らしていい話でもないわ。あの契約については、分からないことの方が多いのだけど、彼らがメネラスと契約できたのは、リュカと契約したからだと私は思っているわ。貰った力が大きいほど、彼らのリュカへの依存度も大きくなっていく」
「依存って……」
「そうねー、面白い話を教えてあげるわ。リュカが一昨日使ったパンツがあるでしょう、洗濯係はミアちゃんとキアちゃんだったかな、リュカが洗濯に出したパンツを二人でクンクンしていたわ!流石に口に入れるのは躊躇ったみたいだけど、あと二、三年もしたら、リュカ襲われちゃうわよ」サキ姉は、面白そうに二人の秘密を暴露する。
聞きたくなかった……心の底から聞きたくなかった。
聞いたことで、対策は出来るんだ。うん、一応サキ姉には感謝だ。
その後二言、三言言葉を交わし、その日の会談は終わりとなった。
その日のうちに僕はララに頼み込み、部屋に特別頑丈なカギを付けてもらった。
それから数日後、ルークとレアンが結晶化した沢山の魔物の心臓を手に帰還した。
パーシバリアナ種と相性が良い魔物の心臓。
様々な形のモノがいるが、レッサーデーモンと呼ばれる悪魔系統の魔物が、今回の目的だった。
人よりも多くの魔力を持ち、自由自在に魔法を操る。新星暦五百年代前半まで、人類では逆立ちしても敵わない最強の生物と言われ続けた魔物だ。
逆に魔法さえなんとかすれば、彼らは人の数十倍頑丈な体を持つ生き物でしかない。
レッサーデーモンたちは、魔法の効かない最強の生物兵器魔導巨兵の登場によって、最強の座から転がり落ちたのだ。
今回の旅で、ルークとレアンの二人は、身長五メートルはある全身を固い鱗で覆われた、人の形をした綺麗な顔の、竜の尾を持つレッサーデーモン五匹を狩った。
パーシバリアナ種の巨人樹は、二機分しかないため狩り過ぎなのでは、と思ったのだが、二人が出会ったレッサーデーモンは群れで行動していたため、五匹狩ることになってしまったと二人は苦笑した。
七百年前なら国すら滅ぼせたであろう魔物を前に、たった二人の少年が、正面からそれを討ち破ってみせたのだ。
時代が時代なら、二人は英雄である。
そんな冒険譚に、カイン、ザイン、ゲインの三人は、目を輝かせた。
一方、ルークとレアンは、『巨大ハエトリグモ』に乗って、第六魔導巨兵工房の敷地を跳ね回る七人を見て、その瞬間に立ち会いたかったと悔しそうな顔をする。
品種の分からなかった、空白の巨人樹の正体もすべて判明したそうだ。
サキ姉は、すっきりした顔で翌日から朝食に顔を出すようになった。
「そうだ。サキ姉、巨人樹の品種は何だったの?」
「秘密よ、だって、何も言わずに完成してから見せた方が、みんな驚くじゃない」と、楽しそうにサキ姉は塩漬けのハムを口に運ぶ。
託された力について分かったことがある。
託された力を認識すると、一緒にそのことを兄弟に話していいのか?どの程度打ち明けていいのかが、頭に浮かんでくるのだ。
原初の魔導巨兵が眠るダンジョンについては、そういうモノが一切頭に浮かんでこなかった。本当は喋っちゃいけない内容だったんだろうな、と今更ながら気付く。
僕の力が五人に比べて低スペックなのは、それを話してしまったことに対する罰なのかもしれない。
僕は夕食の席で、後で兄弟に話したいことがあるから集まってほしいと口に出した。カインたちには、それとなく僕らアルダン家の兄弟には、兄弟意外に話すことが出来ない秘密がある。と伝えていた。
七人は何も言わない、聞かない。
この素直すぎる反応も、契約の影響なのだろうと僕は考えた。
ララ以外の四人が、怖い顔で僕を見る。託された力についての話だと気付いたのだろう。
「安心してよ。後でする話は、明かしてもいい秘密なんだ」
僕の言葉を聞いた四人の顔から、険しさが消えた。
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