36 帰還
墓守たちに別れを告げて、リュカたち九人は帰路についた。
帰りは、遠回りになるが戦闘に巻き込まれないためにルートを変えた。
巨大……というより六十メートルある長い身体の『ハルキゲニア』では、通れない道もあったが、その都度木を切り倒したりしながら、南にある海の側の街道を進んだ。
途中海岸に寄って、サキ姉に頼まれた砂地に生息する巨大蟹、お化け砂蟹を狩る。
お化け砂蟹は、甲幅が三メートル前後ある巨大なカニの魔物だ。
魔導巨兵の装甲素材として有名な森の隠者の巨大蟹に比べると小さく、養殖法も確立されていないことから、魔導巨兵設計者が素材として選ぶことは少ない。
サキ姉から言わせれば、小さい甲羅なら、錬金術で合成すればいいじゃない!てことらしい。
ただこれは、ノルマも無く自分たちのペースで魔導巨兵を作ったり、直したり、改造したり出来る、仕事ではなく趣味で作るサキ姉だからこそ言える台詞だ。
わざわざ小さな甲羅を集めて合成する手間を考えるのなら、初めから『合成』の工程なしで使える、巨大陸亀や森の隠者の巨大蟹の甲羅を使った方がいい。
なにより、養殖法が確立されている巨大陸亀の甲羅の方が硬いのだ。
普通の製作者であれば、硬度で劣るお化け砂蟹の甲羅を選ぶ理由はないだろう。
サキ姉は普通じゃない。巨大陸亀にもデメリットがある、魔導巨兵の装甲として使えるようになるまで、最低でも八年の月日(養殖期間)が必要なのだ。
そんな、時間という概念を吹き飛ばすことが出来る場所がある。そうダンジョンだ。
ダンジョンに湧く魔物は、数十秒で成体にまで成長する。それだけではなく、初めから成体で生まれ落ちる個体も確認されている。
今回、倒したお化け砂蟹からは、甲羅と心臓、身(食用)、ハサミや爪(武器用)といった様々な素材が回収できた。
だが一番の目的は、素材ではなく、森の中への登録である。
「ねぇレアン、この中でダンジョンに湧く魔物に加えるとしたら、どれが一番相性がいいのかしら」
「うーん、どれどれ、この中でなら断然ジャイアントサンドクラブだね!一番数が増えるのは迷宮蟻だけど、あいつら迷宮に横穴を開けてダンジョンの生態系までグチャグチャにしちゃうんだ。その点、ジャイアントサンドクラブなら、海の近くに生息してる割に、砂地さえあれば海が無くても育つし、砂地から出ることもない、ダンジョンの中で繁殖力の高さが必要かは悩むけど、繁殖力も高い。素材目的で追加するなら、絶対ジャイアントサンドクラブがお勧めだよ」
と、出発前にサキ姉とレアンの間で、こんな遣り取りがあった。
レアンの託された力って、ダンジョンの地形を選ぶことも出来るのか、とか、ダンジョンだけじゃなく魔物についての知識も凄いんだ?と新たな疑問も湧いたが、託された力については、例え兄弟であっても詮索禁止なため、疑問は疑問のまま呑み込んでおくことにした。
これで、『ガラカムトライ』と『鋼鉄の一角狼改修型』の素材であれば、巨人樹以外は、すべて森の中で手に入る……はず。
あとは、ダンジョンで育つ巨人樹を見つけることが出来れば、地産地消じゃなく自産自消か……自分たちで育てたものを自分たちで消費する。が可能になるかもしれない。
義父であるカーネギー・アルダンは、はじめからこれを見越して森の中の中に魔導巨兵工房を建てたのかもしれない……すべては、ダンジョンで育つ巨人樹が見つかればの話だ。
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新星暦一二八三年十月二五日。
僕たちは、第六魔導巨兵工房に帰還した。
出発したのが十月三日だから、二十日もの間、旅していたことになる。
旅の途中に出会った子供たち、カイン、ザイン、ゲイン、ミア、ニア、キア、リアの七人を、ルークやサキ姉、キキにララ、家族みんなに紹介した。
末っ子のララが人見知りを発動したが、同姓で同い年のミアとニア、一つ下のキアと三つ下のリアには興味があるみたいだし、五人はすぐに仲良くなれるんじゃないかな。
男子との間にある壁を取り払うには、少し時間がかかるかもしれない。
僕らの居住区画は、扉に『1』と書かれた倉庫の中だ。
狼使いバルデル・ノワスとの戦闘で崩れた、『2』番の倉庫も建て直し済みで、素材置き場として利用している。
サキ姉とララは、それぞれ『3』と『5』と書かれた、自分たちの工房で寝起きすることが多いけど、他の兄弟は、『1』番倉庫で寝泊まりしている。
『1』番倉庫の中には、ララが錬金術で作った扉付の縦横五メートル、高さ二メートルの箱が置いてある。
この箱ひとつひとつが、僕らの部屋である。
箱の扉には、使用者の名前も書いてある。
もちろん、ただの箱ではない。
壁、床、天井には、音魔法を得意とするキキと錬金術師のララが、共同で開発した消音の魔道具も付いており、どんなに大騒ぎしようが音が外に漏れることはないし、外の音が中に入ることもない。
ただ、魔法防御の類が一切付与されていないため、キキだけは、みんなの部屋の音を盗み聞きし放題である。
既に七人の部屋にも名札……表札が付いていた。
自分だけの部屋に感動した七人が、人見知り発動中のララに群がって感謝する光景は、あたふた慌てるララが見れて、なかなかに面白かった。
放置しすぎて、頬を膨らませたララに睨まれたが、それはご褒美でしかない、といっておきたい。
七人は、そのまま服を作るためにララの工房に向かった。
ちなみに僕ら兄弟が第六魔導巨兵工房内で着る服は、スウェットと呼ばれる伸縮性のある異国の服だ。どこの国の服かは謎である。
ララは、様々な国の、本当にこの世界のものなのだろうか?と考えるような物の知識を沢山持っている。これもララが託された力なのだろう。
適度に伸びて動きやすいこの服は、生地が厚めで暑い季節には不向きだ。
十月、十一月とこれからどんどん寒くなるので、この季節にはピッタリな服ともいえる。
錬金術万歳と言っておこう。
僕とレアンは、そのまま風呂へと向かう。
このお風呂も、ララの錬金術の賜物だ。
魔道具で地下から汲み上げた水を綺麗にして湯舟に溜める。湯舟にも別の魔道具が付いており、水を温めつつ常に循環、二十四時間綺麗な水のお風呂に入ることが出来る。
魔道具の燃料になる魔物の心臓も、徒歩圏内に森の中があるこの場所でなら、燃料費を含めて心配する必要もない。
風呂から上がった僕は、体を拭くと服を着て、そのままサキ姉が待つ『3』番倉庫へと向かった。
『2』番倉庫に置かれた『ハルキゲニア』の荷台では、ルークが『黒小鬼』で積み荷を倉庫に何度も運んでいた。既に八割方は、終わっているんじゃないだろうか。
「サキ姉、来たよー」
滑らかに開く扉。
ギシギシ言ってた古い扉は、僕らが旅に出ている間に付け替えたのだろう、押戸は音を立てずにすんなりと開いた。
僕は扉を開けて『3』番倉庫の中へと入る。
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