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34 予期せぬ嵐

 要塞都市ワグナウアに来てから、既に六日目。

 予定では、四日目の昼には第四王女グレース・シルビルードが到着していたはずなのに、シルビルード西部に起きた嵐の影響で到着が遅れている。

 この世界の交通は、馬をはじめとした生き物頼みだ。

 大きな嵐があれば、交通にも大きく影響が出て、物流も滞る。

 食糧は十分足りているが、軍事物資の遅れは無視できない状況であり、要塞都市ワグナウアの中は、普段以上のピリついた空気が流れていた。


 悪い空気は、僕たちにも降りかかる。

 一台でも多くの魔導巨兵(マシンドール)が必要な状況で、さっさと『鋼鉄の一角狼改修型(ホーンウルフリペア)』を引き渡せと催促がきた。

 はじめのうちは、第四王女から僕らの護衛を命じられた、承和色(そがいろ)騎士団第四部隊隊長ダーラン・オッドーが食い止めていたのだが、それにも限界がある。

 要塞都市ワグナウアには、バーディガン王国侵略軍の総司令官として、シルビルードの第二王子ユーリス・シルビルードが常駐していた。

 遂に、第二王子自ら、僕らの持つ魔導巨兵(マシンドール)を差し出せと言ってきたのだ。いくら第四王女直属の騎士であっても、総司令官である第二王子が相手となれば断るのも難しい。

 僕らは、決断を迫られていた。


「サキ姉、これ以上のらりくらりと躱しながら第四王女を待つのは難しいと思う。最悪、手ぶらで帰るのも覚悟しておいてよね」

「えー、せめて廃棄機体だけでも持ち帰ってほしいわ」

「いやいや、マシンドールよりも弟の命が大事でしょ」

「大事よ!でもね、私は信じているの。リュカなら命もマシンドールも両方何とかしてくれるって、もちろん変異種は諦めるわ。それと、王女様との取引でなくなるなら、私は最後までそれに反対していたって話しもお願いね」

「それって、僕が第四王女に恨まれない?」

「さーどうかしら、分からないわ」キキの魔法は、お互いの声を届けるだけで、相手の顔は見えない。それなのに、僕にはサキ姉が笑っている姿が容易に想像できた。


「なーリュカ、サキ姉はなんだって」部屋から出る僕を見て、レアンが声をかける。

「第四王女と取引出来ないのは仕方ないけど、僕の独断ってことにしろってさ。後、変異種は諦めるけど、廃棄機体は何とかしてって……言われた」

「あちゃーサキ姉は、容赦ねーよなー」

「ほんとだよ、でもサキ姉に無茶を言われるのは、いつものことだしね。頑張るよ」


 ダーランさんとも、対応を話し合う。

「これ以上回答を引き伸ばしても、第二王子の怒りを買うだけだと思うんです。姉は最後までグレース・シルビルード様との取引を優先してほしいと言うんですが、僕らも命が惜しいですし、潮時かなって、お力になれずすみません」僕は、ダーランさんに頭を下げた。

「グレース様には、私の方からも話をしておくよ。会談に来るのは、恐らくユーリス様の護衛騎士の誰かだ。当日は私も一緒に立ち会おう」


 二日後――いまだに雨は続いている。

 僕らが案内されたのはバーディガン王国の貴族が使っていた、この町で一番大きな屋敷だった。


 部屋に入り、僕とレアン……ダーランさんは、その身を硬くする。

 僕らの前に現れたのは、第二王子の護衛騎士ではなく、第二王子ユーリス・シルビルード、その人だった。

 西方大陸特有の赤銅色の肌に、炎のような赤毛、貴族だけあって顔は非常に整っている。

 何年も何年も美男美女の血を取り入れて、子を生してきたのが貴族だ。食生活による体形の乱れ等はあるだろうが、全体的に顔は整っている者が多い。

 ちなみに、目の前に立つユーリス・シルビルードは、体形もシュッとしており、いかにも王子様といった容姿をしている。


 僕とレアンは、ダーランさんに倣って床に片膝をつき深々と頭を下げた。


「面を上げよ」ダーランさんが顔を上げた数秒遅れで、僕らも顔を上げる。


「ほーう、君たちが、噂のマシンドールデザイナー、サキ・アルダンの弟か」

「はい、こうしてユーリス・シルビルード殿下に御目通りが叶ったことを幸運に思います」

「世辞はいい。ずっと私と会うのを拒み続けていたと聞いたぞ、我々が求めるものは、君たちが所持するマシンドールだ。妹が来るまでには、まだ時間がかかる。代わりに私に渡してもらえないだろうか」ここで、何も要求せずに、ハイどうぞ持っていってください。なんてことを言ったらサキ姉から、後で何を言われるか分からない。


「ユーリス殿下が、マシンドールが必要なことは重々承知しております。しかし、我々も手ぶらで帰るわけにはいかないのです」

「では、どうする。元々君たちが取引する予定だった我が妹は、この嵐でいつ到着するか分からない。我々は、すぐにでもマシンドールが必要なんだ、出来ることなら手荒な真似はしたくない、大人しく差し出してもらえないか」

「無理を言うつもりはございません。ワグナウアから北に三時間ほど馬車で移動したところに、廃棄機体を捨てるマシンドールの墓場があると聞きました。ホーンウルフリペア三機を渡す代わりに、捨てられた廃棄機体の持ち出しを許可していただけないでしょうか」

「あんなものでいいのか?あの場所に捨てられたマシンドールは、破損の酷い機体ばかりだと聞く、あそこまで壊れた機体が直るのか」第二王子は、探るような目で僕を見た。


「分かりません。僕は姉と違い凡人ですから、ただ、中には、他の機体の修理に役立つ部品があるかもしれません。なにより、このまま手ぶらで帰っては、姉たちに合わせる顔がございません。何卒、回収の許可を」


 第二王子は、少しの間じっと遠くを見る。


「いいだろう。ユーリス・シルビルードの名で許可を出そう。あんな物でいいなら幾らでも持っていくがいい、これを見せれば墓守は何も言わないはずだ。流石にあんな物だけを持たせて帰すのは心苦しいものがある。必要な資材や食料があれば部下に伝えておけ、手配させよう」

「ありがとうございます。最後にもうひとつだけ、今回のマシンドールは、グレース様にお渡しする予定でした。約束を守れず申し訳ありませんと、ユーリス様からもお伝えいただけないでしょうか」

「分かった。私からも話しておこう」


 こうして、僕らは、ユーリス様との会談を終えた。

 ダーランさんも、ユーリス様が直接交渉の席につくとは思っていなかったのだろう、僕とユーリス様が交渉する間、一言も口を挟むことはなかった。


「ダーランさん、色々すみませんでした。せっかく滞在中良くしていただいたのに」

「いえ、状況が状況ですから、『ガラカム』は、私たちが貰って良かったのでしょうか」

「ええ、あれは元々ホーンウルフリペアのついでに買い取ってもらおうと持ってきた機体です。僕の姉サキ・アルダンは、グレース様との取引を強く望んでいました。今後も良い関係が続けられますように願っていると、あの機体と一緒にお伝えください」


 翌日僕たちは、小雨の中、要塞都市ワグナウアを出発した。

 輸送型魔導巨兵(マシンドール)『ハルキゲニア』の荷台の上に置かれた大量の木箱は、魔導巨兵(マシンドール)の代金の一部として第二王子から渡された資材や食料、植物の種等である。

読んでいただいてありがとうございます。

面白い、続きを読みたいと思った方は、ぜひブックマークと評価をよろしくお願いします。

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