33 甘いパンに変える力
集落を出てからの旅は順調で、大きなトラブルもないまま僕たちは、要塞都市ワグナウアに到着した。
道中、川でみんなで魚を捕まえたり、一緒に山菜を探したり、もちろん、見分けがつきにくいキノコはパスだ。人数が増えたのが原因なのだろうが、大人数での野営がこんなに楽しいとは思わなかった。
他に類を見ない、輸送型魔導巨兵『ハルキゲニア』。
六十メートル近い長さのある木に乗った二十メートルあまりの荷台が三つ、身体の横から生える二十四本もの人に似た腕、前後につくトカゲに似た小さな頭。
この異様な姿に、どんな反応をされるかと身構えたのだが、サキ姉と第四王女グレース・シルビルードは、通信用魔道具を使ってこまめに連絡を取り合っているようで、『ハルキゲニア』が逆に目印となり、僕らは第四王女の客人として要塞都市ワグナウアに好意的に迎えられた。
もちろん、すべての人が好意的だったわけではなく、僕らに向けられる視線には、時折嫌な感じがするものも多く混じっている。
国や貴族も、一枚岩ではない。
第四王女といえども、敵対派閥の一つや二つや三つや四つは存在している、と僕らを案内する騎士が教えてくれた。それが多いのか少ないのかは、一般人である僕らには分からないし、正直どうでもいい話だ。
騎士の名は、ダーラン・オッドー。
前回の第四王女の取引にも同行していた、僕とも馴染みのある護衛騎士だ。
第四王女の敵対派閥の多くは、第四王女と新進気鋭の魔導巨兵設計者サキ・アルダンとの関係性を良く思っておらず、今回、取引場所として要塞都市ワグナウアが選ばれたのも、そういった敵対派閥への牽制の意味があるらしい、あれ……サキ姉からは、一言もそんな話しを聞いていないんだけど、隣にいるレアンを見たが、ダーランの話を聞いて、もの凄く嫌な顔をしている。どうやら彼も同じで、サキ姉から何も聞かされていなかったようだ。
今回の僕らの行動も、王女からの報酬に影響しているのだろう。サキ姉は、魔導巨兵が絡むと自分の欲望のために、僕ら兄弟にすら容赦がなくなる。
取引には、第四王女本人も立ち会うそうで、僕ら九人は、王女の到着までこの町で足止めを食らうことになった。
それと、僕らというより、集落で新しく合流した七人の子供を見て、ダーランさんが固まる。
当初の予定では、今回の取引に参加するのは僕とレアンの二人だけだった。それが、予定より七人も増えたのだ。
食事や滞在先の変更、警備の見直しなど頭の痛い話だろう。
通信用魔道具片手に大慌て、結局、僕たちの宿泊先は、宿屋ではなく、第四王女の派閥の人間が多く暮らす北地区にある、一軒家を丸々借りることになった。
滞在中の僕らの護衛についてだが、第四王女直属の騎士たちが担当する。
面倒事を増やしたくないのだろう、第四王女は、僕らと他派閥の貴族の接触を避けているようにもみえる。
第四王女が抱える騎士の構成は、こんな感じだ。
アドルさんやダーランさんたち第四王女直属の護衛騎士が騎士団の長としており、その下に、魔導巨兵の色にも使われている、白にも近い、くすんだ薄い黄色。承和色から名前を取った承和色騎士団と呼ばれる彼女直属の騎士隊があるという。
承和色騎士団は、第一から第五までの五つの部隊に分かれており、今回僕らを護衛するのが、承和色騎士団の第四部隊で、その隊長を務めているのが、護衛騎士兼第四部隊隊長ダーラン・オッドーである。
彼らは、全員承和色の揃いの制服を着ており、少なくとも、この制服を着た人間は味方だと思ってもいいのだろう。
承和色騎士団の任務は、僕らの身辺警護の他に、僕らが持ってきた魔導巨兵の警備も含まれている。
元々僕らは、シルビルードに敵対する、バーディガン王国の国民だ。護衛付きで敵地である要塞都市ワグナウアで観光出来ると思えば、条件はそう悪くはない。
レッズショッピング!である。
「おーい、リュカ、到着早々どこ行くんだよ」
「あ、レアン、せっかく要塞都市まで来たんだよ、買い物しなきゃ」
「お前さ、買い物の前にやることがあるだろう。いい加減あいつらの名前考えろよ、名前が無いと呼び辛いんだぞ」
「だって、髪が短いから全員男かと思ったら七人中四人が女の子なんだよ、名前も一から考え直しだよ」
「だってじゃねー、一目で女だと分かれば変な奴に買われちまうからな、男の格好をするのは常識なんだよ。俺のとこの女も、みんな男みたいな格好してたぜ」とレアンは言ったが、常識だと言われても、いつも人目を避けて生きてきた、僕に常識を問われても困る。
結局、ダーランさんまで、「名前がないと可哀想だろう」という話になり、僕は一人で留守番が決まった。
せっかく、要塞都市で観光が出来ると思ったのに。
一人といっても、屋敷の外に顔を出せば、承和色騎士団第四部隊の面々が交代で見回りをしている。お願いすれば、話し相手くらいにはなってくれそうだけど、一人でいた方が気楽そうだし、結局、彼らに話しかけることは無かった。
集落で拾った七人……言葉は悪いが、それ以外の言葉が思いつかない。
七人の肌の色は、全員が赤銅色だ。
上から、最年長十三歳男子一名、十一歳男子が二名。十歳女子が二名、九歳女子が一名、七歳女子が一名の計七人。
全員男だと思っていたため、名前は一から考え直しである。
家名は、彼らの希望で、僕の名前からとってリュカにすることが決まった。
○○・リュカって呼びにくくないか、と思ったのだが、ルークの話では、バーディガン王国では、名付け親の名前をそのまま家名に使うことも珍しくないのだそうだ。
名前のない子供が日頃売り買いされている、一度に数十人の名前を決めることも珍しくない、この国ならではの風習だろう。
悩みに悩んだ七人の名前がこちら!名前は男子が三文字縛り、女子が二文字縛りだ。
十三歳男子:カイン
十一歳男子①:ザイン
十一歳男子②:ゲイン
十歳女子①:ミア
十歳女子②:ニア
九歳女子:キア
七歳女子:リア
である。
名前を聞いた瞬間レアンは「随分適当だな」と、僕を軽蔑した目で見たが、七人は、人生で初めて得た自分の名前に大感激。中には、嬉しくて泣き出す子供も……今更もう一度真面目に考えます、とも言い出せず、喜ぶ七人を尻目に、適当に名前を付けたことを後悔した。
あと、名前を覚えるまで七人には、名札を付けてもらうことにした。
名札は本人の希望で、カイン・リュカとフルネームで書いてある。
その日の夜、ミア、ニア、キア、リアの名を与えた、四人の幼女が僕の部屋へとやって来た。
怖いので一緒に寝てほしいとか、甘えたいとか、そういう理由で来たわけではなく、幼女たちは、僕に謝りにきたのだ。
懺悔があるのは。四人の中での年長組、ミアとニアの二人だ。
彼女たちは、首輪を喰い千切る際、僕がお願いした魔導巨兵の人形遣いになることとは、別のことを願ったのだという。
理由は、彼女たちの集落でいう巨神、魔導巨兵が怖く、あんなものに乗りたいとは思えなかったとのこと、ミアが願ったのは、魔法なのだろうか?喉が渇いても困らないようにと水を出す力だった。
飢えたくない、という実に子供らしい素直な願いである。
水の魔法というと、氷の礫を飛ばしたり、攻撃魔法を思い浮かべたのだが、彼女が出来るのは、目の前に置かれた器に、水を注ぐことだけだ。
うん、砂漠とかなら重宝しそうな力である。
安全な水がどこでも手に入るのだから、十分役に立つ力なのかもしれない。
ちなみに、器から溢れる量の水を出すことは出来ない。
コップに水を注ごうとして、以前集落で、水をこぼして怒られたことがトラウマになっているのではと、ミアの幼馴染のニアが分析した。
ニアが願った力は、ずばり味変!味の薄いパンが甘いパンに変わる力だ。
甘くするだけで塩辛くは出来ないという。
子供らしいといえば、子供らしい、試しに塩味のクッキーで試してみたところ、砂糖たっぷりの甘いクッキーへと変わった。
揚げパンに砂糖をまぶして食べるのが大好きな、うちの兄弟が喜びそうな力である。
砂糖は高級品ではあるのだが、魔導巨兵の廃棄機体を一機直して売るだけで、下手な貴族よりもいい生活が出来る僕らにとって、砂糖はけして縁遠い食べ物ではない。
ただ、砂糖をまぶした揚げパンを手で持つと、手がベトベトするため、特に砂糖を多めにつけるのが好きな次女のキキと三女のララは大喜びしそうだ。
しかも、砂糖でまぶした揚げパンは、表面だけが甘いだけだが、この力は、パンの中まで甘くする。更に、砂糖は太ったり、虫歯になったりと乙女の大敵と言われているのだが、この力で甘くなった食べ物は、あくまで砂糖不使用、健康にも良い。
ただ、二人の能力を聞いて思ったのは、王様が直接付けた『呪いの首輪』に比べると、能力がかなり限定的になってしまう。
人形遣いになりたいと願ったとしても、この力では、それが叶う確率は低そうだ。
王様が各地にばら蒔いた『呪いの首輪』については、もう一度協力者を探して、検証したほうがいいかもしれない。
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