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31 地図に無い集落 4

 「カーンカーンカーンカーン」夜の帳が下りた静かな集落に、鐘の音が響く。


 原始的な罠だが、兵士たちは周囲の至る所に鳴子を仕掛けていた。

 魔導巨兵(マシンドール)を想定して、高い位置に仕掛けられた罠に、集落にいた少年たちは気付けなかった。


「くそー頭が痛えのに敵襲かよ」

「俺もだ。飲みすぎちまったぜ」


 兵士たちは、落ち着いていた。

 彼らは、バーディガン王国では有名な部隊だった。

 一癖も二癖もある、猛者たちが集う部隊。

 不良じみた彼らの素行の悪さも相まって、彼らの部隊は、こう言われていた……『狂犬』と。


 鳴子の音を聞いた兵士がクロスボウを使い、空に照明弾と呼ばれる、強い光を放つ使い捨ての魔道具を次々と打ち上げる。

 光に照らされて浮かび上がる、『ガラカム』に似た、巨大な斧を持つ黒い魔導巨兵(マシンドール)

 兵士たちは、その姿に目を見開いた。


「見たことのないマシンドールだな、隊長はもう出たか」

「ああ、俺たちはどうする」

「マシンドール相手に俺たちが出来ることなんて何がある?あーあったな、そうだ、ガキどもを人質に使うか、マシンドールとはいえ動かすのは人間だ。目の前にガキがいれば少しくらいは、動きも鈍るだろう」


 数人の兵士が、子供たちのいる家に向かって走り出す。

 『狂犬』たちに指揮官はいない。一人一人が最善を求めて自由に動く。



 最年長の少年は頭を抱えていた。

 名前の無い少年は、リュカから腕時計を預かっていた。

 リュカが助けに来ると話していた時間まで、もう少しかかる。

 それなのに、鐘は鳴らされた。

 外に出ると、真っ暗な空に幾つもの明かりが見えた。

 リュカとレアンが集落に入る前に、兵士が動きはじめたことに、少年は気付く。

 少年は、夜なら兵士たちは警戒していない。元(おさ)の屋敷まで簡単に辿り着けるはずだ、そう伝えていた。

 「くそ、あいつら夜は寝ているんじゃなかったのかよ」思わず愚痴がこぼれる。戦場を生き残ってきた兵士と、外の世界を知らない、何も知らない十三歳の少年では、経験値の差が大き過ぎた。


 もちろんリュカたちも少年に、万が一兵士の動きが早かった場合の対処法を伝えている。

 子供たちを全員連れて、集落の外に向かって走れ。

 『呪いの首輪』の持ち主は、自分が正常でいられるギリギリの範囲、境界を感じることが出来る。

 境界を越えようとすると、徐々に心に言いようのない恐怖が広がっていくのだ。

 少年は、一度この集落を出ようとして、恐怖に襲われたことがあった。


「みんな外に出ろ、兵士がくる。逃げるんだ」


 少年は、他の子供たちのいる、隣の家に駆け込むと叫んでいた。

 焦りからか、怒鳴ってしまった。

 子供たちも、いつでも逃げ出せるように準備はしていた。それでも、ギリギリまで家に隠れるように言われていたのに、プランBだ、急に逃げろと言われても頭と心が追い付かない。

 彼らの多くは十歳前後で、言われたことをやるだけでも大変なのだ。

 子供たち数人が泣きはじめる。

 少年は、泣いている子供を無視して言葉を続けた。


「逃げるんだ、すぐに、捕まったら俺たちは殺される。みんなも見ただろう、何も悪くないのに兵士たちに殴られて死んだ、あいつを」


 泣き出す子供が更に増える。同時に死んだ友達のことを思い出した。

 顔が腫れた大切な友達……怖いだけだった感情に、悲しみや怒り悔しさが混ざる。


 泣きながら子供たちは足を動かした。お互いの手を引き、家の外に出る。

 怖くてなかなか体が動かなかったが、それ以上に痛い思いをしたくなかった。

 兵士に見つかりやすくなる危険はあるが、少しでも安全に走れるようにと、子供たちは、光草の実を潰す。

 多めに潰して、逃げる途中で地面に捨てた。何度も進む方向を変えたり、少年が少し走って別の場所に潰した光草を蒔いたりして、少しでも逃げる時間を稼ぐ努力をする。

 死にたくなかった。痛いのは嫌だった。


 子供たちは、村の外まであと少しのところで足を止めた。

 泣くのを堪えて、村の端に建つ建物のひとつに身を隠す。

 「これ以上逃げられないと思ったら、村の端に建つ家に身を隠すんだ」少年はリュカの言葉を思い出した。


「ガキどもさっさと出て来い、痛い思いはしたくないだろう」


 音を大きくする魔道具によって、何倍にもなった兵士の声が響く。

 一人の子供が、兵士の怒号に泣き出しそうになったが、隣にいた子供が口を塞いだ。


「死にてえのか、早く出て来い。居場所は分かっているんだぞ」


 さっきよりも距離が近い、兵士の声は更に大きくなっていた。

 子供たちは、鳴き声が漏れないように頭からかび臭い布団をかぶり、押し入れの中に入ると身を寄せ合った。

 隣にいる子の心臓の音が伝わる。

 みんな怖いんだ。


 居場所がバレているんじゃ?出ていけば殺されないで済むかもしれない?そんな思いが少年の頭をよぎる。

 兵士たちの声はどんどん、どんどん大きくなっていく。


 その時だ。


 雷が落ちるような轟音と共に、兵士たちの悲鳴が何倍にも大きくなって空気を揺らす。

 嫌な音がした。何かが潰れるような音が。


 音を大きくする魔道具が拾ったのは、兵士たちの悲鳴と肉と骨と建物が潰される音だった。


 大きな何かが暴れている。

 魔道具が壊れたのだろう、途中から不自然な大きな音は止んだ。

 それでも、地響きを伴う轟音は続いている。

 自分たちが隠れる家が潰されないかと、不安な気持ちでいっぱいになる。

 「合図があるまでは、絶対押入れから出るな」リュカの言葉を必死に守った。


 真っ暗な押し入れの中で、少年と子供たちは震え続けた。

読んでいただいてありがとうございます。

面白い、続きを読みたいと思った方は、ぜひブックマークと評価をよろしくお願いします。

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