30 地図にない集落 3
少年は部屋に戻り、ようやく一息つくと、そのままベッドに横になった。
元々、この集落には、二十世帯ほどの家族が暮らしていた。
ほぼ全員が出ていったのだ。家や小屋は余るほどある。
バーディガン王国の敗残兵たちは、『呪いの首輪』に繋がれた俺たちが、逃げることなど露程も思っていない。
見張りもいなければ、俺たちが使う家と、兵士たちが休む家の間には、泣き叫んでも聞こえないほどの、十分な距離があった。
兵士たちが使っている家は、この集落で一番大きな、元長の屋敷だ。
シルビルードとかいう国の軍隊を警戒しているのか、兵士たちはいつも群れて行動している。
だからといって、常に周囲を警戒しているわけではない。
日の明るいうちは、集落の外に出かけたり、活発に動くが、日が落ちると、酒を飲み、飯を食べ、兵士たちは警戒する素振りなく、くつろいでいるように見えた。
この部隊には、魔導巨兵と、それを動かす人形遣いがいる。
彼らにとって、敵も魔導巨兵を持ち出さない限り、勝利は揺らぐことが無いものだと考えているのかもしれない。
明日も早い、寝るか……。
「こんばんは、こんばんは、もしもーし、あたしの声聞こえてますか」
俺は、女の声を聞き、寝床から上半身を持ち上げる。
枕の下に隠していた細工用のナイフを抜く。
声を押し殺し、周囲を警戒する。……誰もいない。
あの声は気のせいか?いや、違う。
精霊や妖精……ここ一月で沢山の人が戦争で死んだ。
無念を抱いて死んだ人間は、悪霊になる。
勇気を振り絞って声を出した。
「あんた悪霊か、俺を殺しに来たのか……俺を殺すのは良い、ただ、他の子たちは助けてくれ……あと、俺を殺すのなら、長の家……集落で一番大きな屋敷にいる、兵士たちも全員殺してくれ」
悪霊に向かって叫んだ。
「失礼ね、悪霊と一緒にしないでよ。あたしはキキ・アルダン。あなたと取引がしたいの、ちなみに、声は魔法で届けているだけだから、探してもいないわよ」
✿
少年は、集落の大人たちが隠していた酒を見つけたと話し、兵士へと届けた。
酒が残り少なかったのだろう、大量の酒を前に兵士たちは、はしゃいだ。
少年は、酒や食料、金に換えられそうなものを、兵士に見つからないように隠していた。今回は、その一部を開放したのだ。
少年の足元がふらふらで、顔が赤いのは、毒見しろと言われて酒を飲んだせいだ。
少年の家には、集落にいる名前の無い子供たちが、全員集まっていた。
少年が呼び出したのだ。
全員とはいえ、少年を合わせても子供は七人しかいない。
そして、部外者が一人。
この辺りには珍しい、白い肌と白い髪をした病弱そうな少年が交じっていた。
僕、リュカ・アルダンである。
「お酒、喜んだでしょ」
「ああ、お陰でもっと早く持ってこいと怒鳴られたうえで、殴られたよ」
「そいつは悪いことをしたね。でも、殴られるのが今日で最後だと思えば、少しは気が楽になるだろう」
「あのさ……昨日の魔法使いは凄かったけど……本当にお前たちを信じていいのか」
「なら、やめるか。おいらたちはどっちでもいいんだぜ」
家の中にもう一人、少年が入ってくる。
少年の肌色は、子供たちと同じ赤銅色で、目つきが悪い。
僕の弟、レアン・アルダンだ。
「いや、やるよ。首輪から解放してもらえるのなら、俺たちは全員あんたたちのモノだ」
「奴隷の様に扱う気はないよ。そうはいっても、昨日今日初めて会った僕らを信用するのは、難しいと思う。でも、僕らの手を握ってくれれば、今よりずっと生きやすくなると思う」
この世界の生き物には魔力がある。誰もがそれを知ってはいるが、使い方を知る者は一握りだ。
そんなわけで……どんなわけで?少年たちに、魔力の使い方を教えていく。
使い方というよりも、流し方だ。
名前は無くても、猟犬としての登録は可能みたいだ。
「猟犬が課題を確認する」
グループ:子供1、子供2、子供3、子供4、子供5、子供6、子供7(サポート:リュカ・アルダン、レアン・アルダン)計九名。
課題:魔導巨兵の撃破。
契約:課題の達成にサポートが多大な貢献を果たした場合。猟犬たちは、サポート:リュカ・アルダンのモノとなる。
今回は、前回と違い契約という項目が増えている。
「なんで、僕なんだよ」
「何かがあった際に、リュカが一番まともな判断が出来ると、おいらたちが考えたからだ」
「あーそうですか、僕が無茶な命令をしても知らないからね」
「あの……俺達からもひとつお願いがあります。もし、あんたらが言う巨神殺しが成功したなら、俺達にも名前をください」
少年以外の六人の目には、光が無かった。
生きることを諦めている、焦点の定まらない中空を彷徨う冷たい瞳。
「課題が達成された時、君たちの頭には、首輪からの解放が告知される。その時、君たちは願わなくてはならない。力が欲しいと、マシンドールとの繋がりが欲しいと」
「そうすれば、俺たちも巨神に乗れるようになりますか」
「分からない、難しいかもしれない。僕たちの『呪いの首輪』は、王様が直接首に嵌めたものだ。対して君たちの『呪いの首輪』は、王が適当に蒔いたもの。両者は同じものだが、首輪を嵌める過程によって報酬が変わる。例え君たちが力を得られなくても、僕たちは君たちの保護を約束する」
「難しい話は、分からなくて……でも、助けてもらえるのなら、俺たちはあなたを頼ります。みんなもいいな」
「うん」「ぼくら、にいちゃんがなぐられてるとき、なにもできなかった、こんどはがんばる」「あたしも、おにいちゃんについてく」「ぼくも」「あたしも」
全員ではないが、子供たちの目に少しだけ光が宿った。
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