28 地図に無い集落 1
新星暦一二八三年十月五日。
第六魔導巨兵工房を出発してから三日目。
想定外の事態に見舞われる。
移動を予定していた進路上で、シルビルード軍とアムルシアン連合国軍が激突したのだ。
僕とレアンは迂回を余儀なくされる。
バーディガン王国の問題点のひとつが、領地を治める貴族たちの多くが、住人の少ない村や集落の報告を怠り放置。
結果、そういった場所が地図から抜け落ちてしまう。
小さな国なのにも関わらず、第三者からしてみれば、バーディガン王国は、未開の土地だらけで移動がしにくい国となっている。
だから僕たちは、職人連合が独自に調べた街道を選んで進んでいた。これなら、小さな村や集落の場所も分かり、対策が立てやすい。
それが今回の偶発的な戦闘で狂ってしまった。
「ねえレアン、どの道が良いと思う」
「そんなの地図を見ただけじゃ分からないって、かといって前に進んだらもう後には引けないし、詰んだー」
僕らは、本当に運が悪い。
二日前に通過した街道でも戦闘がはじまり、戻るのも難しい状況になってしまった。残されたのは、遠回りになるが、迂回ルートを使って要塞都市ワグナウアを目指す方法だけである。
『ハルキゲニア』を乗り捨てれば、森の中を抜けて帰れないこともないんだけど、それをやったら、絶対サキ姉が怒る。
問題は、どの進路を選択するかだ。
地図の道は正しいそうだが、その周辺の情報は皆無、決断するにはあまりにも情報が少なすぎた。
「前と後ろで戦闘が起こるなんて、おいらたちってホント運が悪いよな。もう、この際、一番距離が短い森の中にある旧道にしようぜ」
「そうだね、悩んでも仕方ないし、ウン、旧道にしよう。こういう時はレアンの勘を信じるよ」
「うわ、何かあった時に、おいらのせいにはしないでよ」
「しないよ。まっ、この道を進みますよって言っておけば、キキもフォローしてくれるでしょ」
「はー、リュカってホント兄弟を信用しすぎ」
こうして僕らは、森を拓いて作られた、今は利用者の少ない旧道を進むことになった。
人が少ないとはいえ、移動は日が暮れてから行う。
四日目。日の出と共に、旧道を逸れて森の中へ身を隠し、交代で仮眠をとる。
ついさっき寝たばかりのような、体を揺らされて目が覚めた。もう、交代の時間……。
「おはようレアン、なんか今日はもの凄く眠いんだ。はぁーあ、何だろう、流石に疲れたのかな」
「単に寝不足でしょ、リュカが寝てから、まだ一時間も経ってないし」
「えっ、どうして起こしたんだよー。もしかして、緊急事態?」
「さーな、キキが話したいことがあるからリュカも起こせってさ。伝言じゃなく、直接話を聞いてほしいって」
嫌な予感がした。
『ハルキゲニア』の荷台に常設しある、小屋へと入る。
毎回、寝るたびにテントを張るのは面倒だという理由から、『ハルキゲニア』の荷台には、小さな小屋が作られた。
小屋の中には、テーブルに椅子にベッド、必要なものが大半は揃っている。ララの錬金術で作られた小屋は、テーブルも椅子もベッドも床と一体化しており、どんなに『ハルキゲニア』が激しく動こうが、家具が動くことはない。
「リュカ兄、起こしちゃってごめん。ルーク兄やサキ姉とも相談して、直接話した方がいいってなったんだ」
「何があったの?」
「何があったというか……これから起こる予定?リュカ兄たちが行く道を探っていたんだけど、人の声が聞こえたんだ」
「人の声」
「うん、村みたいなものがあるんだと思う、沢山の大人の声と、子供たちの声が聞こえたの」
「逃げ遅れた村人、いや……首輪のせいで子供が逃げられないから、大人たちも留まっているのか」
「違うと思う、大人たちは兵士だと思うの、バーディガン王国の敗残兵よ、きっと。子供は、リュカ兄の言う通り、首輪によってこの地から逃げられない子供たちじゃないかな」
キキの音魔法は、遠くの音を聞くことが出来る。
見えるわけではなく、音だけを聞く魔法。キキの話は、聞こえた音から導き出した推測にすぎない。
これから向かう先に、厄介ごとがある可能性が高いのだろう、それだけの理由なら別に夜でもよくないか、もっと眠っていたかった、と少しだけ不満に思った。
「ここからは俺が話をする。リュカ、レアン、お前たちにやってもらいたいことがある」
「やってもらいたいことって」「もったいぶらずに、早く言えよ」
「二人には、集落に行って子供たちを保護してほしいんだ。集落には、マシンドールがいることも確認済みだ。王がかけた『呪いの首輪』の解除条件は、マシンドールの破壊、これは間違いない。リュカとレアンが子供たちの協力者となり、首輪を外すんだ」
「でもさルーク、保護するって言っても、首輪を外したとして、その後はどうすんのさ」
「仲間にする」
「仲間にするって、助けたからといって、おいらたちを信用するかどうかは分かんねーだろう」
「大丈夫、方法ならある」
そう言って、ルークは話しはじめた。
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