26 ハルキゲニア
サキ姉が、『3』の倉庫に篭ってから二ケ月が過ぎた。
グレース・シルビルードは、約束を守ってくれたのだろう。取引後、第六魔導巨兵工房を囲む森の側にあったベースキャンプは撤収され、シルビルード軍が、森に近付くことはなくなった。
逆に、バーディガン王国軍は、僕らの排除が目的なのか、活発に動きはじめる。
森林都市アムズメリアにある、職人連合の責任者リーゼッツ・マートンとは、通信用魔道具を使った情報交換を続けている。
交換といっても僕たちから渡せる情報は皆無なので、リーゼッツさんが、一方的に国内情勢をはじめとした情報を、僕らに教えてくれる。
リーゼッツさんは、僕らに恩を売るんだと嬉々として動いているみたいだけど、いくら職人連合が、国と言えど手を出すのが難しい団体だとしても、相手は国家だ。危なくなったらすぐに止めるように話してある。
リーゼッツさんからの最新情報では、ついに僕らは、バーディガン王国の反逆者であり大罪人として、指名手配されたとのことだ。
そんな僕らを、捕まえるためなのか、はたまた処刑するためなのかは分からないが、バーディガン王国軍の兵士が、第六魔導巨兵工房を囲む森型ダンジョン近くに、ベースキャンプを設営した。
アムルシアン連合国軍が本格的に参戦したことで、シルビルード軍の侵攻は停滞している。
バーディガン王国に、余裕が生まれたのかもしれない。
サキ姉が、廃棄機体から復活させた『ガラカム』は、装甲の形状を変えて生まれ変わった。ララが作った新装備、樹高と同じ長さ二十メートルはある『巨大戦斧』は、なかなかの迫力だ。
僕とルーク以外の四人が、この新しい『ガラカム』と契約した。
装甲材質が、『森の隠者の巨大蟹』の甲羅のため、アムルシアン連合国軍の量産機『マルクト』より性能は落ちるものの、対魔導巨兵戦の戦闘力は、『黒小鬼』よりも高い。
「色は、また黒なんだね」
「闇に紛れて動きやすいし、黒が一番よ」
ちなみに、レアンだけが『巨大戦斧』を選び、サキ姉とキキとララは、鎚頭の片側が平らで、片側が鳥の嘴のような形をした『戦鎚』と、四角い盾を装備に選んだ。こちらも新装備だ。
僕は、単に魔導巨兵に選ばれなかっただけだが、ルークは、殺した人形遣いが魔導巨兵に喰われたのがトラウマになっているとかで、操縦席に座ろうとすらしなかった。
ルークの能力なら、どんな魔導巨兵にでも乗れそうなのに……勿体ない。
「サキ姉とキキが、新しい『ガラカム』と契約できるとは思わなかったよ」
僕は、素直な感想をもらす。
「スフィーロ種が素体になっている『黒小鬼』は、人間離れした形ではあるし、乗り手を選ぶのかもしれないわ。問題は『ムカデ』を素体に使ったこの子ね、一応完成はしたけど、これと契約できる人はいるのかしら」
サキ姉が、困った顔をする。
僕らの目の前に横たわる、異様な形をした魔導巨兵。
蛇のように長い身体の背中には、魔導巨兵を運ぶための、長さ二十メートルの荷台が、縦に三つ並んでおり、所々にロープを引っ掛けやすいようにフックが付いている。
頭は前後に二つあり、十二本ある腕の先には、見るからに不器用そうな三本の指。
操縦室は、ちょうど身体の中央付近にあり、上部の扉から潜るように乗り込む。
六十メートル近い身体は、蛇のように左右にうねることも出来るそうだ。
あまりにも奇妙な姿に、誰もが言葉を失った。
「まずは、俺からだな」
先陣を切ってルークが、操縦室に入っていく。
そして、すぐに顔を出した。
「ダメだな、ウンともスンとも言わねーし、座った瞬間、俺じゃあ無理ってことだけは分かった」
ルークが無理なら、誰も動かせないんじゃないだろうか。
そう思いながらも、一応、全員が試す……ダメだった。僕以外は。
僕は、端から試す気はなかったのだが、サキ姉に怒られながら、嫌々操縦室に入る。
正直、魔導巨兵の操縦席に座った後、何も起こらないまま静かに時間が過ぎる瞬間は、今回もダメだったかと、自分の無力を思い知らされるのだ。
出来れば、二度と操縦席には座りたくなかった。
椅子というか、頭が上がるように角度が付いたベンチにうつ伏せになる。座るというより、寝るが正しいのか?不思議な形状の操縦席だ。
サキ姉の話では、魔導巨兵の操縦席は、その機体にもっとも適した形に作っているとのこと。
胸に軽い圧迫感があり、お世辞でも乗り心地が良いとは言えない。
そんな僕の体に、四方から伸びた蔓がグルグルと巻き付いていく。
頭に不思議な映像が浮かんだ。
自分が倒木になって、動こうとするたびに、倒木からドンドン人の腕が生えていく、そんな不思議な映像。
これが同調か……どれだけ時間が経ったのだろう、長く感じる。ようやく目の前の暗闇が明るくなった。
何百年も契約者がいないまま、一人の時間を過ごした魔導巨兵だ。
目が開くのにも時間がかかったのかもしれない。
「おっ、目が光ったぞ」
ルークの声が聞こえてきた。
目の前に、第六魔導巨兵工房の広大な敷地が広がる。
遠くには、牧草を夢中で頬張る亀たちの姿もあった。
視界はけして広くはなく、六十メートルもの長さがあるのだ、見えない箇所、死角も多そうだ。
後ろはどうなっているんだろう、そう考えた瞬間、自分の身体が横に回るように思えた。
死角が切り替わる、今度は、みんなが近くに立っている姿が見えた。
「後ろを見たいと考えただけで、前後の景色が切り替わった」
「へぇー面白いわね、リュカ、そのまま歩くことは出来るかしら」
サキ姉に言われるまま前に進もうと手を動かす。腹に軽い痛みを感じた。
どうやら転んでしまったみたいだ。
「リュカ、大丈夫か」
レアンが心配して声をかけてくれた。
「うん、痛くないし大丈夫。慣れるのに時間がかかりそうだから、みんなは離れていて」
手を動かし、建物から離れるように進む。
十四にもなって、ハイハイをすることになるとは思わなかった。
暫く歩く練習を繰り返すうちに、コツを掴んでいく。
馬車程度の速さでなら動けそうだ。
僕が慣れたのを見計らい、キキが魔法で話しかけてくる。
「リュカ兄、歩くのには慣れたみたいね。サキ姉が、荷物を載せた時に、どう感じるか試したいって言っているんだけど、いけそう?」
「うん、そっちに向かうよ」
みんながいる方へと歩く。
「じゃーリュカ兄、乗ってみるね。重いとかキツイとか感じたら教えてよね」
「了解」
全員が魔導巨兵に乗った状態で、荷台に登る。
少しだけ、背中がむず痒い感じはしたが、それだけだった。
「今のところ、重いとかは無いかな、少し歩いてみるよ」
歩くと言いつつ、足が無いので手を動かして前に進む。
「おお、すげーな、揺れとか全然感じないぞ」
「リュカ、もう少し荷物を載せてみるから止まって」
サキ姉に言われるまま止まると、ルークを残して、サキ姉たち四人が、乗っていた『ガラカム』から降りて倉庫の中へと走っていく。
『鋼鉄の一角狼』や『黒小鬼』に乗り換えて、僕の乗る輸送型魔導巨兵の荷台に登る。
九機くらいなら、特に問題は無さそうだ。
続いて、完成した『鋼鉄の一角狼改修型』三機を運ぶ、輸送台の上は、かなり窮屈なんじゃないだろうか、更に三匹の大山亀も乗って来た。
「重さは平気なんだけど、上手く歩けなくなったかな……もう少し腕の数が多ければいいんだけど」
「うおー、リュカ、腕が生えてきたぞ」
ルークが叫ぶ。
どうやら新しく腕が生えてきたそうだ。しかも、新しく生えた腕は、人と同じ五本指。形も人間に近いとレアンが教えてくれた。
もしかして、足も生やせるんじゃないだろうか、と、思い浮かべてみたが、足は無理だった。
今度は、指が三本だと不便だよな……五本になれ、と願う。無事、最初から付いていた腕も、人に近い形へと変化した。
兄弟大興奮だ。
十二本あった腕は、倍の二十四本となり、一つの荷台につき八本の腕が生えている。
痩せた廃棄機体であれば、魔物を差材とした丈夫なロープを使うことで、最大三十機前後は、一度に運べそうである。
輸送型魔導巨兵は、旧星暦時代にいたとされる、沢山の手や足のようなものが生えた生き物から名前をとって『ハルキゲニア』と名付けられた。
廃棄機体だった『ガラカム』を再生した魔導巨兵は、『ガラカムトライ』という名前に決まり、リーゼッツさんに連絡をして、登録を依頼する。
三機の『鋼鉄の一角狼』の廃棄機体だが、装甲の破損が酷かったため、二機は森の隠者の巨大蟹の甲羅を使い、装甲を新しくした。とはいえ、元が巨大陸亀の甲羅のため、性能が落ちたことになる。
『鋼鉄の一角狼改修型』の登録情報は、装甲素材が、森の隠者の巨大蟹又は巨大陸亀となり、職人連合会報の魔導巨兵番付に、『鋼鉄の一角狼』よりも下の順位で登録された。
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