25 オーバーホール
結局、長男のルークと三男のレアンが戻って来たのは、取引が終わり、第四王女とその護衛たちが去ってから、四時間後の十八時過ぎだった。
日は完全に落ち、静かな森に聞きなれない鳥の声が響く。
フクロウだろうか?
樹高十二メートル前後の、真っ黒な鎧を纏う、猫背気味の巨大なゴブリンを思わせる姿をした、二機の魔導巨兵『黒小鬼』。
『黒小鬼』がそれぞれ手に下げる網は血まみれで、結晶化した魔物の心臓がぎっしりと入れられている。
シルビルードの第四王女グレース・シルビルードとの接触によって、僕らは、祖国を敵に回した可能性が大きい。
とはいえ、民から搾り取った金で贅沢をする、あの王に対して、忠誠心のようなものは無く、申し訳ないとか、許してほしいとか、何の感情も抱かない。
バーディガン王国の動きも警戒しているが、今のところ、黒いマントと、つばの広い同色のとんがり帽子を愛用する、自称天才魔法使いにして、音魔法の達人である次女のキキの耳には、これといって怪しい動きをする一団のようなものは、引っ掛かってはいない。
バーディガン王国に、優秀な諜報機関があるという話は聞いたことも無いし、彼らが動くのは、まだ少し先だろう。
森林都市アムズメリアの職人連合の代表者リーゼッツ・マートンも、今回の取引は、まだバーディガン王国には知られていないはずだと話していたし、今日一日くらい、森の中でのんびり過ごしても支障はないと決断する。
僕たちは、このまま森の奥で休み、明日の朝一番に第六魔導巨兵工房に向けて出発することを決めた。
翌日、日の出と共に出発する。
森林都市アムズメリアから第六魔導巨兵工房までの道のりは、片道五日程度の距離だ。
今回は、三匹の大山亀が引く、大量の荷物を過積載気味に載せた魔導巨兵用荷車が一緒である。
普段よりも移動に時間がかかってしまい、第六魔導巨兵工房の到着したのは、出発してから七日目の正午だった。
巨人樹の変異種を使った魔導巨兵の製作とあって、サキ姉はいつも以上に気合が凄い。
到着して早々彼女は、愛用の倉庫に籠る。
変異種は、装甲を外した状態で長らく放置されていたことと、一度も契約者が現われず魔術回路が使われなかったことで、巨人樹の表面に刻まれた魔術回路は、既に、その多くが失われていた。
『3』と入り口に書かれた倉庫の中、置かれた黒板に、ああでもない、こうでもないと、サキ姉は頭に浮かぶ魔術回路を次々と殴り書いていく。
その間に、『黒小鬼』の人形遣いである、ルーク、レアン、三女ララの三人は、別の倉庫に入れられた、七機の廃棄機体、巨人樹属ボルゲン種を素体とした魔導巨兵『ガラカム』の鎧を、素体から丁寧に剝がしていく。
『ガラカム』に関しては、小さな改修ではなく分解修理した方が良いと、サキ姉は、判断したようだ。
新星暦八百年代に設計、製作された『ガラカム』は、魔術回路の設計も古く、同じボルゲン種を素体にするアムルシアン連合軍の量産型魔導巨兵『マルクト』に比べて、反応速度が遅い。
『ガラカム』は、元々エルフたちが、外貨を稼ぐために輸出用として、販売先の制限を付けずに売る目的で作られた魔導巨兵だ。設計自体が古いというのもあるが、恐らく元々性能を抑えて作られたのだろう。
反応速度というのは、動きをイメージしてから、実際に動きはじめるまでの時間のことだ。
原初の魔導巨兵の中には、自分の身体より速く反応するものまであるというが、人の手で作られた新星暦時代の魔導巨兵は、そこまで優秀ではなく、こう動こうと考えてから、動き出すまで僅かな時差が生じてしまう。
とはいっても、以前刻まれていた魔術回路を大きく歪めてしまうと、人形遣いとの同調によって全身に行き渡った魔力の経路が壊れてしまうそうで、今回刻むのは、『ガラカム』の魔術回路を元にサキ姉が書き直したものだ。
服を作る際の型紙のように、巨人樹を小さくして、切り分け平面にしたように置かれた魔物の皮に、魔力と熱を混ぜてペン先から発する、専用の魔道具を使い魔術回路を書いていく。
それが完成したら、後は、巨人樹に完成した魔術回路を拡大、転写していくだけである。
『3』の倉庫は、床一面が、ララが錬金術を使う際に利用する、二メートル四方の創造と変化の魔法文字が描かれた、魔法の布を敷き詰めた状態と同等の魔道具になっており、床の上に置かれた物を、魔法の力を使い自由自在に変えていく。
三女のララが、何でも作ることが出来る万能型の錬金術師だとするなら、長女のサキ姉は、魔導巨兵製作だけに集中した、特化型の錬金術師である。
魔導巨兵を作る際、僕はほとんど役に立たない。
巨人樹の移動にも、武器や鎧だってそうだ。小さな部品ですら数メートルはある。
それを、動かすには、魔法や魔導巨兵が必須になる。
その両方に才能がない僕は、こういうとき、みんなのおやつや食事の準備、細々した雑用全般が仕事となる。
魔導巨兵とは、人の体を、そのまま大きくしたような存在だ。
力加減さえ上手くなれば、土木や建築、戦闘以外の様々なことに役に立つ。
僕に合う魔導巨兵も見つかるといいなー。
一人だけ、その輪に加われないのが寂しかった。
みんなが、協力して、新しい魔導巨兵を生み出す作業を見ながら、そんな兄弟たちの背中に、僕は、羨望の眼差しを向けた。
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