24 取引 4
変異種……その言葉聞いたサキ姉は、もうダッシュで『鋼鉄の一角狼』から降りると、風の速さで僕の横に現れた。
「リュカ、グレース王女は、私と話をしたいと言っているのよ。それなのに勝手にいないだなんて、嘘はよくないと思うの」
不気味なほど満面の笑みを浮かべながら、サキ姉は、僕の腿をつねる。
「初めましてサキ・アルダン博士、お会いできて光栄です。シルビルードの第四王女グレース・シルビルードと申します」
第四王女は、深々とサキ姉に頭を下げた後、握手を求めるように右手を差し出す。
「初めましてグレース王女。先日マシンドールデザイナーとして登録されました、アルダン家の長女、サキ・アルダンと申します」
サキ姉は、臆することなくその手を握り、王女と握手を交わした。
その後、森の広場に、シルビルード軍の馬車から運び出された、豪華なテーブルや椅子が並べられ、サキ姉と第四王女の会談場所がセッティングされた。
立会人として、職人連合アムズメリア支部の責任者であるリーゼッツさんも同席する。
魔導巨兵設計者の地位は、多くの国で、国王と同等の立場にあると認められている。そう、第四王女は言った。
もちろん、すべての国が同じ考えではないが、少なくともシルビルードは、魔導巨兵設計者の地位を認めており、彼らはみな丁寧な態度でサキ姉に向き合った。
サキ姉と王女は、取引内容を確認しながら、次々と書類を片付けていく。
『ムカデ』という愛称が付けられた、十二本の腕に似た枝を持つ、変異種の巨人樹は、長らく心臓を抜かれた状態で保管されていたため、全体的に痩せこけていた。
ただ、変異種の利用計画は、完全に消滅したというわけではなく、長年、倉庫で眠り続けていた四本腕の原初の魔導巨兵『月弓』の契約者が現われたことで、『ムカデ』をはじめとした変異種と呼ばれる巨人樹を使った、魔導巨兵の製作計画が見直され、活発な議論が行われるようになった。
お陰で、この巨人樹と相性の良い『メガセンチピード』と呼ばれる巨大ムカデの心臓が、いつでも製作に移れるようにと、準備されていたのだ。
そして、準備されていた『メガセンチピード』の結晶化した心臓も、追加の条件なしで、巨人樹と一緒に僕らに引き渡された。
他は、素材を含め、はじめに提示された予定通りの数で、心臓を失った廃棄機体が、『鋼鉄の一角狼』三機と『ガラカム』が七機。
心臓が壊れた魔導巨兵は、植物だけに枯れて休止状態となり、重さも本来の半分以下になっていた。
一度で運べない量は、どこかに隠し、後で取りに来るつもりでいたのだが、これなら、一回ですべて運べそうである。
変異種の話に気を良くしたサキ姉は、兄弟に相談することなく、第四王女と今後の取引についても商談をはじめる。
今回、渡された『鋼鉄の一角狼』三機は、『鋼鉄の一角狼改修型』に改修後、一機につき魔導巨兵の廃棄機体五機と交換することが決まった。
シルビルード本国に、研究用として保管されている、他の変異種についても、後日、『鋼鉄の一角狼』の廃棄機体を動く状態に直すことで、機数に応じて譲ってもらえることになった。
とはいえ、それを達成するためには、一度で多くの魔導巨兵を輸送する手段が必要であり、輸送専用魔導巨兵の開発及び操縦者探しが、無事上手く進んだらという話でまとまった。
失敗することなど、これっぽっちも考えていないのか、サキ姉は、鼻歌交じりで目の前に置かれた書類に、次々とサインを書いていく。
どんな道具でも使いこなす能力……道具に制限があるのかは不明だが、そんな特別な力を託されたルークがいるのも、サキ姉の自信に繋がっているのだろう。
一人の人形遣いが、複数の魔導巨兵と契約することは可能だ。
ただ、契約者のいる魔導巨兵は、人形遣いが死ぬまで、他の契約者を受け入れない。(サキ姉なら、裏技で契約解除が可能)
そのこともあって、数の限られる魔導巨兵を、より有効に活用するためにも一人一機が理想とされている。
もちろん、複数の魔導巨兵と契約すれば、機体が破損した際、別の機体に乗り込み、すぐに出動出来るメリットもある。
波長が合ったのだろう。サキ姉と第四王女は、すべての取引を片付けた後も、話に花を咲かせた。
サキ姉からしてみれば、原初の魔導巨兵の人形遣いへの興味が尽きなかったのかもしれない。
手持ち無沙汰を感じた僕に、アドルと名乗る、第四王女の筆頭護衛騎士が話しかけてきた。
話といっても、そのほとんどは質問ばかりだ。
ここに来る前に、兄弟と、どの程度自分たちのことを話すのか、といったことも相談済みである。
カーネギー・アルダンは、六人の孤児を引き取り弟子として育てている。これは有名な話で、情報屋に伝手があれば、簡単に入手できる情報だそうだ。
サキ姉が、魔導巨兵設計者として認められたことで、僕らのことを調べる人間も増えている。
リーゼッツさんに、僕以外の五人が人形遣いであることを教えたのも、五機の魔導巨兵相手に喧嘩を売るようなバカはいないだろうと、みんなで話し合い結論付けたからだ。
アドルさんからの質問は、世に出ている僕らの情報が、正しいのかどうかの答え合わせが大半で、隠すようなことでもなく、僕は素直に答えていく。
僕ら兄弟の、人形遣いの数については、間違った情報が故意に流されているようで、「君たち兄弟の半数はライダーだと聞いたが、この話は本当なのか?」と、いう質問だった。
これに対して、僕は、「はい、間違いありませんが、半数以上という表現の方が正しいのかもしれません」と、少し匂わせ気味の言葉を返す。
その後も幾つか質問を受けたが、あからさまに僕ら兄弟に気を使ったもので、あまり突っ込んだ質問はしてこなかった。
質問が終わるタイミングを見計らい、僕もアドルさんに気になっていたことを聞いてみた。
さしあたって僕らが考えなきゃいけないのは、第四王女と接触したことで、こうむる不利益についてだ。
「なるほど、これからどういう問題に直面するのかを知りたいと……、グレース様と直接取引したことで、あなた方兄弟は、バーディガン王国の王様から、悪い意味で目を付けられるでしょう。あれは、体裁ばかりを気にして、自分の利益以外に目を向けない、そんな王様です。ただ、アムルシアン連合すべてが敵になるのかと聞かれると、そうとは言い切れないところもあります。
マシンドールデザイナーとは、それほど貴重な存在なのです。バーディガン王国と、あなたの姉であるサキ様を天秤にかけた場合、アムルシアン連合国は、新参の連合加盟国ではなく、サキ様を選ぶ可能性は十分にあります」
「アムルシアン連合が、どう動くかは読み辛いと、バーディガン王国は、間違いなく敵になると考えてもいいんでしょうか?シルビルードは、どう動きます」
「バーディガン王国は、間違いなくあなた方を敵と認識するでしょう。我々シルビルードは、あなた方兄弟と敵対する気はありません。しかし、あなた方が我々に攻撃した際には、敵対の意思ありと判断し、こちらも攻撃いたします。それに、あなた方の顔を兵士全員が覚えるのは、不可能でしょう。戦争では、一瞬の判断が生死を分けます。いちいち相手の顔を確認しながら、戦闘をしろとも言えません。我々が約束できるのは、あなた方のいる、第六魔導巨兵工房には手を出さない。確実に言えるのは、この程度です」
「僕らが第六魔導巨兵工房の外で、シルビルードに所属する部隊に攻撃をされて、やむをえず反撃をした場合はどうなりますか?シルビルードに敵対したと見做されますか」
「いえ、そこは切り離して考えるように命令します。お互い生きるために相手を殺すしかない、他に選択肢がないのなら、それは事故です。
その際は、お互い恨みっこ無といきましょう。それでも、万が一あなた方に対して復讐しようとする兵士がいるのなら、その者はシルビルード軍からは除名します」
あまり考えたくはないが、その戦闘で兄弟に死者が出た際、僕らがどんな感情になるのかは想像つかない。それでも、僕らを攻撃しようとする者に、シルビルードが協力しないという言質をとれたのだ、落としどころとしてはありだろう。
それに、これで第六魔導巨兵工房に攻めて来た兵士に縁がある者も、表向きには、僕らへの復讐が出来なくなった。
僕らが第六魔導巨兵工房の外に出たタイミングを狙えば、手を出すことも可能だが、軍の許可なしでは、魔導巨兵を動かすことは難しいだろうし、魔導巨兵無で、僕らに手を出すのは自殺行為だ。
その後、僕たちは、話した内容を書き起こし、第四王女グレース・シルビルードの名の下に、シルビルード軍との部分的な停戦協定を結んだ。
読んでいただいてありがとうございます。
面白い、続きを読みたいと思った方は、ぜひブックマークと評価をよろしくお願いします。




