23 取引 3
第四王女グレース・シルビルードは、少しの間、僕の顔をじっと見ていた。なんだろう……この人の視線は、不快とかじゃなく……目に見えない重圧のようなものを感じる。
「あなた、凄いわね。フフフ……そうでした、まだ名乗っていませんでしたね。シルビルードの第四王女グレース・シルビルードです。有名人なもので、ついつい名乗るのを忘れてしまうんですよ」
彼女は、自信に満ち溢れていた。実際有名人だし、王女でもある、こういった傲りも許されてきたのだろう。
「あのマシンドールを見れば、あなたが誰なのかは分かります」
「フフ、そうね。第四王女グレース・シルビルードの名前よりも、マシンドールオリジン『月弓』のライダーであるグレース・シルビルードの名前の方が有名ですもの。王様の名前は知っていても、王子や王女の名前を知らない、なんて人は、意外に多いのよ」
「そうなんですね」
当たり障りのない答えを返す。
相手は他国とはいえど王族だ。わざわざ怒らせるような言葉を選ぶ必要はない。
言われてみれば、グレース・シルビルードの名は、『月弓』の人形遣いとして知っていたが、他の王子や王女の名前は、誰一人知らない。
自分が貴族であれば、覚えておいた方が得なのかもしれないが、平民からしてみれば王族は、雲の上の遠い存在でしかない。
それでも覚えさせるのなら、王族の名前を知らない人は死刑です。そんな法律を作る必要があるだろう。
「ところで、あなた何者?」
「何者って、王女様の取引相手で、アルダン家の出来損ないの次男ですよ。それ以外の何者でもありません」
「フフ、ただの出来損ないが私のいあつ……ん、ん、私の睨みを受けて平気なわけがないじゃない」
「威圧?魔法のようなものをかけられているんですか」
「魔法ではないわ。オリジンのライダーだけが持つスペシャルスキル?みたいなものかしら。私たちの周りを、よーく見てみなさい」
第四王女に言われて首を振る。
僕の横にいるリーゼッツさんが、青白い顔でガタガタ震えていた。
顔には、尋常じゃない量の汗が噴き出している。
そして、もう一人。
第四王女のすぐ後ろに立つ護衛騎士も、リーゼッツさんほどではないが、眉間に皺を寄せて苦しそうな表情をしていた。
「ね、普通はこうなるの。アドルは……彼は、私の筆頭護衛騎士で、シルビルードではトップクラスの人形遣いよ。マシンドールなしでも、騎士としてもかなり優秀だわ、彼ですらこうなっちゃうのに、あなたは平気そうに見える。それは凄いことなのよ」
いくら王女様だからと言って、初対面の相手にこのスキルはダメだろ。
リーゼッツさんなんて既に限界が近い、色々融通をきかせてくれる大事な人なのに、このままぽっくり逝ったらどうしてくれる。
「僕だって、いつもより少しだけ体が重い気がします。あと、リーゼッツさんが倒れちゃうと困るので、スペシャルスキルとかいうものを解いてもらえませんか」
「そうね、いつもならすぐに解除するのだけど、あなたがあまりにも平然としているから、解除するのを忘れていたわ、ごめんなさい」
スペシャルスキルとかいうものが解かれたのだろう。リーゼッツさんは、そのまま両手をつき、地面に四つん這いになると、何度も荒い呼吸を繰り返す。
アドルとかいう騎士も、ほっとした顔をする。
人形遣いですらない僕が、スペシャルスキルとかいうものに耐えられた理由が分からない。相性とか、体質?考え事に逸れた意識を、第四王女が引き戻す。
「あなたを出来損ないではないと言った理由がわかったかしら。私の威圧は特別なの、自分を中心に描いた円の中にいる全員の動きを抑えるわ。あなたより近い位置にいた二人が巻き込まれたのは、そのせいよ」
「そのせいよじゃなくて、王女様だからって、そんな危険なスキルに人を巻き込んじゃだめでしょう」
「たしかに、悪いことをしたわ。いつもなら使ってもすぐに解くのだけれど、あなたが何の反応もしめさないから、つい……ね、やりすぎたわ」
笑ってごまかしているが、この人はヤバい人だ。
サキ姉のお客さんでなければ、即行で立ち去りたい。
「そんなに嫌そうな顔をしないで、私はあなたを気に入っているのよ。私の能力が効きにくいなんて、あなた、オリジンと相性がいいんじゃない。一番最初にオリジンを動かした王子様も、白髪で肌の色が異常に白かったって伝承もあるしね」
「王子って、魔法帝国を滅ぼした、あの王子ですか」
「そうよ。彼の情報の多くは伏せられていて、表には出てこないけど、彼が白髪で色白だったことは、権力者の間では有名な話なの。そうは言っても、北方大陸では珍しくもない髪色と肌色だし、北方の白い民に、オリジンのライダーが沢山いるなんて話も聞いたことがないわ。あなたの髪色と肌色と、スキルが効かないのは、何の関係もないのかもしれない。でも、そう考えたほうがロマンチックでしょ」
原初の魔導巨兵との相性……博士が、僕に原初の魔導巨兵が眠るダンジョンの情報を託したのは、髪と肌の色が理由なのか、いやいやいや、七百年以上前の人物と繋がりなんてあるはずがないし、偶然だろう。
「そうそう、今日は、サキ・アルダンに会いに来たのよ。あなたを口説くのは、また今度にするわ。どこにいるのかしら」
「サキ姉は、ここにはいません。取引の話は、僕が聞くので」
「そう、残念ね、ホントに残念。他の変異種の話もしたかったのに」
第四王女は、大げさなほど大きな声で変異種を強調する。
この後、サキ姉は、見え見えの釣り針を、大きな口を開けて呑み込むことになる。
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