22 取引 2
この場所は、アムズメリアからもかなり距離がある。
街道からも大きく外れており、聞こえるのは、職人連合の職員同士の話声と、木の上から響く、鳥の囀りだけだ。
僕らがいるのは、木を切り倒して作られた、直径三百メートルほどの円形の広場で、職人連合の関係者で、今回の僕らのように、町での取引が難しい客のために用意された場所だという。
静かな森の中だからこそ、異様な地響きの音にすぐに気付いた。
音は徐々に大きくなり、木の上の鳥たちは慌てて逃げていく。
この辺りに育つ木は高さがあり、『ガラカム』の樹高を優に超える。
どの木も、高さ四十メートルはあるだろうか、並び立つ木が、音の正体を隠していた。
この広場へと続く道は、緩やかなカーブになっているため、広場の近くまで来ないことには、相手の姿は見ることが出来ない。
鎧が擦れる音。車輪の音。二十メートル前後ある魔導巨兵の行進は、人間の足音の比ではない。
行進の音を聞いただけで、アムズメリアを攻め落とすために来たと言われても、納得できる。
僕だけでなく、リーゼッツさんたち職人連合の職員たちの顔も強張りはじめた。
たかだか、一機の『鋼鉄の一角狼改修型』の取引に連れてくる数じゃないし、戦時中にこれだけの部隊を動かせば、様々な憶測を生むだろう。
いずれ、この出来事が厄介ごとに繋がってもおかしくはない。
広場にいた全員の視線が、道の先に向けられる。
足音は更に大きくなり木々を揺らす。
先頭の魔導巨兵が姿を見せた。
白にも近い、くすんだ薄い黄色。承和色の鎧に身を包む人型の魔導巨兵。
樹高は十七メートル前後と『マルクト』や『ガラカム』に比べると少し小さい。
全体的に線が細く、ボルゲン種を素体に使う魔導巨兵に比べるとスマートな印象を受ける。
巨人樹属ボルゲン種に次ぐ、量産機に多く使用される品種、巨人樹属フルセア種を素体にした魔導巨兵だ。
量産型魔導巨兵『デネブラ』。
『鋼鉄の一角狼』に並ぶシルビルード軍の主力魔導巨兵で、新星暦九一九年に、ダークエルフ族の魔導巨兵設計者の手によって完成した。
ボルゲン種を素体にした魔導巨兵が、バトルアックスやハンマーやハルバードといった大型の武器を持つのに対して、フルセア種を素体にした魔導巨兵は、装備重量限界値が低いため、片手剣や短槍を好む……とはいえ、短槍といっても、身長の半分程度の長さがあるため八メートル近くはある。
鎧の素材は、巨大陸亀の甲羅だが、新星暦千年以前に設計された機体のため、『マルクト』のように、心臓や操縦室といった弱点になる箇所を、他の素材で補強するといった工夫はされていない。
三機の『デネブラ』に続いて、更に背が高い魔導巨兵が広場に入ってくる。
サキ姉曰く、身長の公表値は二三メートル。
光沢を帯びる、純白の鎧を着た四本腕の魔導巨兵。
原初の魔導巨兵『月弓』だ。
あの輝きで、作られたのが旧星暦時代、最低でも一二三八年以上前というから驚きである。
サキ姉が興奮しすぎて、オカシなことになってなきゃいいんだけど、『月弓』が来たってことは、お姫様本人が来ているのも確定だろう、本当に厄日だ。
その後も、次々と魔導巨兵や、巨大亀や、魔導巨兵用荷車が広場へと入って来た。騎兵だけでもかなりの数だ。
大山亀は、思っていた以上に力があり、魔導巨兵用荷車を二台を連結して引いていた。
その上に、山のように乗せられたボロボロの魔導巨兵。サキ姉が交換を希望した廃棄機体なのだろう、心臓を破壊された魔導巨兵は、再生しない。
手足が取れた機体も多く、心臓を入れただけで直るのか心配になるが、廃棄機体であれば、壊れているのも当然だろうし、その辺りはサキ姉もきっと考えている。
第四王女グレース・シルビルードが引き連れた部隊は、魔導巨兵が合計九機、『月弓』一機に『デネブラ』が八機だ。魔導巨兵用荷車以外にも、騎兵や、馬車も多い。
キキの魔法を、妨害した魔法使いも、どれかの馬車の中にいるのだろう。
どう見ても護衛の戦力じゃないし、これだけいれば大都市だって落とせる。
このまま、アムズメリアに侵攻するとか言い出さないか心配になる。
広場に到着すると、『月弓』は片膝立ちになり、操縦室に続く扉が開いた。
姿を現したのは、乗馬時に穿くようなズボンを身に着けた、一目で身分が高いと分かる女性だ。
おそらく彼女が第四王女なのだろう。
赤銅色の肌、長い黒髪、吊り上がり気味の目は勝ち気な印象を受ける。
次に彼女は、七、八メートルはある操縦室の扉から、何の躊躇もなく飛び降りた。
すぐ横にいる、『デネブラ』も同じように片膝立ちになったが、そちらは操縦室から、縄梯子を垂らし降りてくる。
原初の魔導巨兵の契約者が得る力は、一般的な人形遣いの比ではないと言われている。これを見る限り、大げさな話というわけでもなさそうだ。
第四王女は、難なく地面に降りると、真っ直ぐ僕の方に歩いてきた。
王女の後ろには、『デネブラ』から降りた男が続く。
大半の魔導巨兵は、飾り気がない鎧を着ている。
だが、あの男が乗っていた『デネブラ』には、角がある。
サキ姉が話していた、優秀な人形遣いによって引き起こされる事象、変転によるものなんだろう。
そんなことを考えているうちに、王女はすぐそこまで来ていた。
リーゼッツさんが、慌てて、魔導巨兵のように片膝立ちになり、利き手を心臓に当てると、頭を深く下げる。
これが、自分よりも身分が上の人に会った際に行う、マナーというものなのだろうか?
僕もそれに倣って、同じ格好をした。
「この度は遠いところ、足をお運びいただきありがとうございます。アムズメリアのアルチザンギルドの責任者をしておりますリーゼッツ・マートンと申します」
「リーゼッツ様、顔をお上ください。私こそ無理を言って、こんな大勢で押しかけてしまい申し訳ありません。職員の皆様を不安な気持ちにさせてしまいましたね。我々は、この取引が終われば、すぐに出ていきます。ご安心ください。リーゼッツ様の横にいらっしゃるあなたが、私の取引相手でしょうか?」
僕は、まだ頭を下げたままだ。不意に脇腹をリーゼッツさんがつついた。
急いで顔を上げる。
王女様と目が合った瞬間。緊張しているのか?上手く声が出ない。
何度も深呼吸をする。
ようやく声が出た。
「はじめまして、アルダン家の次男、リュカ・アルダンと申します。今日はよろしくお願いします」
✿
ラフで線が多めですが、マシンドールの大きさはこれくらいです。みたいな絵です。
本当は鎧から覗く部分に小さな枝や葉が付いていたり、植物的な特徴を入れたかったのですが、絵を描くのは不慣れなものでお許しください。
あくまでイメージですが、ブーツには土が入っており、中は根がぎっしり詰まっています。
読んでいただいてありがとうございます。
面白い、続きを読みたいと思った方は、ぜひブックマークと評価をよろしくお願いします。




