Scene3-2
夜の帳の下りた広場には住人がいる事は無い。さらに露店も開けない場所の為、そこにいる人達が待ち合わせのプレイヤーだと僕達は考えた。
人数は7人、いや今向こうから誰かが走ってきているから8人。情報通りならこれで全員の筈。僕達も
走ってその人達と合流をする。
「おいおい、夜中に呼び出して遅刻かよジョー?」
「リィーナ遅いよー。」
こっちに気付いたのだろう。向こうのうち2人が皆を代表して声を上げる。
「悪いな、打ち合わせをしてたんだよ。」
「ごめんごめん、こいつの言う通りなのよー。」
ジョーとリィーナはそれぞれ顔見知りの人に手を合わせたり、笑って肩を叩き合ったりしている。僕も声をかけておこうかな。
「急な呼びかけなのにありがとうございます。」
「それよりっ!薬草の事は本当なのですね!?」
「う、うん。向かいながら話すから。」
サラさんの鼻息と言葉尻が荒い、それだけ期待しているって事か。 落ち着くようにしばらく話に付き合い、頃合を見てジョー達のところに合流する。
「みなさん、今日はありがとうございます。」
「ああ、気にしなくて良いですよ?俺達は知りたくて付いてきただけなので。」
「私達もリィーナの手伝いってだけだしね。気にしないで?」
本心かどうかは判らないけど、気にしなくていいよと言われた。他にやりたい事とかあったのでは?と考えてしまうけど、先に言われたらそれ以上言うのも失礼だよね。
「カナタ、パーティーを頼む。」
ジョーに言われ、初めてパーティー機能をメニューから使う。FLOのパーティーに上限は無い。だけれど多くの人が他のゲームと似たような人数で組んでいるのは、大勢にしても連携が取れないからだ。FLOのシステムとして大人数のPTを組んでも経験値の増減は無い為、純粋に殲滅力が増えるだけだ。けれど楽になればその分、経験値やお金の為に戦闘時間は延ばしたくなるのがプレイヤーの気持ちだろう。その為に人が増えるほど必要なお金も増えるし、狭い場所だと逆に弱点となってしまう。
今回はそんなの気にしていられないけれど。PT名は『薬屋の救助』にし、視界内の人たちにPT申請を飛ばす。メニューの『周りのプレイヤーを誘う』からでも出来るけど、こちらは名前を選ばないといけない。今回のように他のプレイヤーがいないのなら、意識して視界に捕らえる事でPT申請をお願いすることが出来るから楽ちんだ。
PT人数が11まで増えたことを確認して僕は言葉を発する。
「今回のクエストはクリア可能時間が限られています。向かいながらになりますが、内容を説明しますね。」
事前にある程度ジョーとリィーナが話してあるのか、質問が上がることも無く移動を開始する。場所は大まかにしか説明されなかったけど、東の森の深奥部。東の森へは町から30分程度で着くが、その奥までは戦闘を考えると少し時間がかかる。現在はゲーム内で20時過ぎ、夜明けまではまだ十分に余裕があるかな。
とは言っても、出現するモンスターは複雑な動きも面倒な攻撃もしてこない。倒すのに時間はかからないだろう。
「って事で、サラさんには【魔癒花】の採取をして欲しいんです。」
「聞く限りだとBS治療にしか使えないと思うのですよ?」
目的地に着くまでの間、サラさんへの説明を済ませると僕が考えていた通りの質問が返ってきた。現在地は森の中心部。ここまで戦闘らしい戦闘は起こっていない。途中ウルフや鴉型のモンスター『ナイトホーク』が襲ってきたが、先頭にいる人たちだけで片付いてしまっている。って言うかカラスなのにホークって名前は良いのだろうか。見た目はまんま大きな(3m程)カラスなんだけどなあ。
「聞く限りはそうだけど、それだけじゃ無いのかもしれません。<鍛冶>だって組み合わせで性能が違ったりしますよね?」
「――ま、それもそうですね。違ったらそれだけの話なのです。今までと同じで、失敗が一つ増えるだけなのですよ。」
「それに、薬屋の旦那さんは「薬草に知識がないと見分けられない。」と言っていました。」
この発言にサラさんが食い気味で反応をする。
「つまり、よく似た別の効能を持つ薬草があると。そっちの効能は聞いてないんですか?」
「ええ、見間違えないようにと教わりはするのですが、使うことは無かったそうです。」
「なるほどね・・・そういう事なら頑張っちゃいますよー。」
もう少し何か言われるかと思ったけど、サラさんはあっさりと引き下がった。別段この薬草が違ったらと思っている様子でもない。言葉や言い方から、失敗して当然と試しているのかもしれない。一度作らないとレシピは登録されないし、登録されるレシピもその時に作ったやり方だしね。
サラさんとの話を終えると、今まで前で警戒をしてくれていた3人が後ろに下がってきた。今回それなりの距離がある事と、森の中で視界が悪いことを理由に交代で先頭に出ると言う事になっている。今戻ってきたのはジョーの呼んだ3人だ。
「今のところ問題は無し。敵の強さや頭の良さも変わってないみたいだ。」
報告をしてくれたのは1m位の小ぶりの弓――短弓を手に握ったままの男性だ。緑色の外套を被り顔は隠している。装備は革鎧と毛皮で出来た靴に籠手で、腰に矢筒を携えている。FLOの弓はしっかりと矢に重さがあり、弾切れも発生する。矢筒は通常インベントリとは別に専用のインベントリを持ち、その中に矢を収納することが出来る第2のカバンだ。もちろん矢しか入れられないけど。
「自己紹介がまだでしょ?僕はボルト、今のメインは<弓>の技能と<木工>だよ。んで、僕の後ろにいるのがディンスとアシ。盾持ちの男がディンスで手ぶらの女がアシだ。今日はよろしく。」
そう言い紹介を終えたボルトが右手を差し出してきた。特に問題は無いので僕も右手を出し握手を交わす。
「ジョーの友達のカナタです、よろしくお願いします。・・・弓なのにボルトなんですか?」
「そこは突っ込まないでよ。本当は洋弓銃を使いたいんだけど、作れないし売ってないんだ。」
どうやら洋弓銃――クロスボウをメイン武器にしたかったらしくボルトと名前をつけたらしい。ところが今のFLOには弓は長弓と短弓しかなく、肝心の洋弓銃は先ほど言ったとおり、と言うことなんだと。誰か作ってくれないもんかねー、と呟いているが現状じゃあ厳しいと思うな。とはいえ、一握りの構造を理解している人が熱意を持って作りそうな気はするけど。
「それじゃ、俺らは後ろに下がるから。」
盾持ちの男性――ディンスが声をかけて僕たちの後ろへ移動する。彼らと交代で先頭を歩いているのはリィーナの友達4人だろう。
とそうだ、すれ違い様にディンスの見た目を確認しておこう。鎧は金属主体だが布面積や主要部にしか金属が無い、意外にも軽鎧のようだ。手には盾のみのようで、剣等の武器を携えていない。攻撃はしないで防御のみなのかな。
その後に続く女性がアシ。こちらも軽鎧だが、金属部分はディンスのものよりも更に少ない。胸部分だけだ。太ももと二の腕にベルトを巻いており、何かを入れられるようなケースがついている。名前が気になったので失礼でなければ教えて欲しい、と聞いたところあっさりと教えてくれた。現実で助手をしており、呼ばれて慣れているのでコレにしたとのこと。
「ねえジョー、アシさんってどうやって<補助>を使っているんですか?」
パッと見では戦闘方法がわからないのでジョーに質問をぶつけてみる。杖では無いし素手だろうか?
「ん?あー、見た目じゃわかんないか。アシさんは紙を媒体に<補助>魔法を使ってる。」
腕と足のホルスターに長方形の紙を入れてあり、それに<補助>魔法の刻印を入れているそうだ。使うときは魔力を込めて対象に貼り付けるとのこと。へえ、そんな使い方が出来るんだ。
しばらくジョーと話していると先頭の方で警戒をしていた人が声を上げた。
「右から大き目が来るよ、注意して!」
サラさんを後ろへ下がらせ、武器を抜き構える。この森にはそこまで強い敵は出ない筈だけど、クエストを受けて何か変更があるのかもしれないし気は抜けない。夜の暗闇で視界も悪い。一体何が出てくるのか・・・。




