Scene2-12
総合PV25万、ユニーク3万超えてました。
読んでくれている方々、ありがとうございます。
「あの。」
罵詈雑言の切れ目を選んで、僕は後ろから声をかける。近くで観察してみてわかったのは、彼らは全員近接戦闘の技能がメインのようだ。男性は2人共金属鎧を身に纏っているが、1人は片手剣のみでもう1人は盾を背負い腰のベルトにはメイスが吊るされている。女性の方も1人金属の軽鎧を着ているが、残りの一人は服をメインに急所に金属で補強したものを装備している。恐らく、魔法も併用するのだと思う。
「なんだ、あんたもプレイヤーか。丁度いいからお前からも言ってやれよ、こいつに俺達がどれだけ迷惑しているかって事をさ。」
「見た感じ、君も近接メインでしょ?私達は<治癒>も育ててないし、回復アイテムが足りてないのよ。」
装備を見て同じ境遇だと判断したらしい、すみません、僕生産メインなんです。
援護射撃が来たと思い、4人は先ほどより威圧的な目で子供を見つめる。その視線に小動物のように身体を強張らせ、それでも泣くのを我慢しているお店の子供。明らかにこっちが悪者でしょ、衛兵が居たら厳重注意だよ。
なので僕は当初の予定通り、その子と4人組間に割って入る。
「・・・何のつもりだ?」
4人組のリーダーなのか、先頭で暴言を吐いていた片手剣の男性が僕に詰め寄る。近い近いちかい、そんなガンつけなくても良いでしょ。
「止めてあげて下さい、子供を泣かせて解決するんですか?」
感情に任せて言っているのなら、この言葉では納得してくれない。これで判ってくれれば僕もこれ以上なにもしなくても――。
「うるせえな、邪魔すんなら引っ込んでろ。」
――うん、口からでる言葉からして期待はしてなかったけど。ここまでテンプレなお返しをされるとは思ってもいなかった。
「そちらの女性は<治癒>を使えないんですか?」
僕は一人だけ居た布をメインにした防具を着た女性を指差し訊ねる。彼女の役割が攻撃魔法でのダメージディーラーだと言うのなら、それは仕方ないと思う。
「そんな事今は関係ないだろ。邪魔すんな。」
えー・・・頭に血が昇り過ぎでしょ。ああでもこんな感じだった気がする、やってる最中は絶対に周りの人を関わらせないんだよね。一応根拠は話しておこうかな。
「関係ありますよ?その人が威力重視の攻撃魔法を使うのなら厳しいですけど、装備から考えると<補助>魔法が中心ですよね?あれは持続時間が長くて消費魔力は少なめです。それなら戦闘中に<治癒>魔法を使う余裕はありますよ?」
FLOの魔法は各種属性の『攻撃魔法』、回復の<治癒>とデバフの<補助>にわかれている。この他にも、攻撃魔法を使い続けるとその属性に合わせた<治癒>と<補助>に該当する魔法も使えるようになるので、攻撃魔法だけ使っていても他の魔法が使えない事にはならない。
そしてあくまで全体の傾向としてだけど、攻撃魔法よりも回復や補助魔法の方が使用魔力量は少ない。
「うるせーな、他人のプレイスタイルに口を出すんじゃねーよ。それでも追い付かないからポーションが必要なんだろうが。」
一瞬だけど、その女性は男性の言葉に反応し、肩を震わせた。これPT内で連携できてるの・・・?
「それなら狩場のランクを下げればいいじゃないですか。デスペナが無いに等しいとは言え、死に戻りから狩場に戻る時間も惜しいのでは?」
今の相手の発言から彼女も回復にまわってはいるのだけど、それでも受けるダメージの方が大きいのだろう。と言う事は装備が揃っていないか、敵の強さがPTに合っていないと考えるのが普通だと思う。プレイヤースキルの高い人はそんな事は気にせずに狩り続けることが出来るけど、そんな人は稀だと思いたい。僕はまだそんな人を見たこと無いし。
「うるせーんだよ!」
何が気に食わなかったのか、男性は腰に携えている鞘から剣を抜き放つ。
「こいつ等はNPCだろうが!黙ってこっちの言うとおりに物を売ってればいいんだよ!俺達はβプレイヤーなんだぞ!?」
えー、と。これはあれか、先行プレイヤーだぞ、強いんだ!っていうプライドの為に、少し上の狩場でむりやりレベリングしているって事?ネットゲームだから競争心の強い人が多いのは理解しているし、優越感に浸りたいって人が多いのも見てきたけど、これはちょっと場を考えなさすぎじゃあ。
なんか、怒るのもアホらしくなってきた。さっさと退場してもらおう、穏便に。
「わかりました。」
メニューを開き、周囲のプレイヤーから目の前の男性を選択。名前を選ばなくても、対象に意識を向ければシステムが認識してくれる。僕と男性の目の前にトレード用のウィンドウがポップする。そこに自分のインベントリから今まで使わずに残っているポーションを全部トレード窓に移動させる。
「・・・は?」
「これで文句は無いですよね?受け取ったら立ち去ってください。」
「ま、待てよ!お前<錬金術>持ってんのか!?」
僕が生産プレイヤーか?と言う問いかけに周りも騒ぎ出す。向こうも何か考えがあるのか目つきが鋭くなっているけど、素直に答える義理は無い。
「違いますよ、それ初期の支給品です。製作者の銘も入ってませんよね?」
嘘を言っているわけではない。実際にその40個のポーションはゲーム開始時にもらえる支給品だし、数が多いのはジョーとリィーナの分を受け取っていたと言うだけだ。
相手の男性も「確かに・・・。」とアイテムの詳細を確認して呟いている。向こうの望みはポーションの補充、その場凌ぎではあるが彼らの問題は解決することになる筈。
「・・・確認するが、お前が作ったんじゃないんだな?」
「ええ、確かです。」
「―――わかった。この場は下がろう。」
トレードが成立し、ポーション40個が目の前の男性のインベントリに移動した筈だ。こちらは何も貰ってはいないが、別に何か欲しい訳じゃないからコレでいい。
男性は何か言いたそうにしていたが、ポーションが手に入って少しは落ち着いたのか残りの3人に配分してこの場から去っていく。それに伴い、周りで様子を見ていた人たちも解散していく。何人かは僕の方を見ていたけど、アレは多分ポーションの事で疑っているんだろうな。
「・・・・・・はぁ~。もうやりたくない。」
人が居なくなったのを確認してから、気を思いっきり緩める。緊張もだけど、何であんな上から目線になれるんだろうね。
「あのっ、あっ、ありがとう、ございます。」
「ごめんね、怖がらせちゃって。」
もう大丈夫、と言わないのは今後同じことが起きないと言えないから。このままじゃ近いうちに同じ事は絶対に起こる。その時には僕は何も出来ない、もうポーションも残ってないし。
足早に去ろうとしたところで、ズボンをその小さな手で捕まえられてしまった。
「あのっ、お願いです。私達を助けてください!」
何度も頭を下げ、「お願いします」を連呼する薬屋の子供。もともと助けるつもりだったし、関わったら最後までの覚悟はして来たんだけど、今はちょっと状況がよくない。
前かがみの体勢をとり、目線をその子に合わせる。
「えっと、ごめんね?僕は先にやらないといけ無い事があるんだ。」
断りの返事に目に見えて落胆する子供。
「だから、今日の夜にまた来ても良いかな?多分その位の時間になっちゃうから、大丈夫?」
「え?・・・あっ、はい!お店のドアをノックしてくれれば開けますから!」
だから次に出てきた肯定の言葉に一瞬呆気に取られ、直ぐに喜んでまた頭を何度も下げる。止めて欲しいなあ、まだ解決できると決まったわけじゃないのに。
合図として3回ドアをノックすることを約束し、僕は友達の2人にwisを飛ばした。
「すまん、俺が最後か?」
「おーそーいー、後でジュース奢りね♪」
「ソレ位なら安いもんだ。んで、メールの件だけど。」
wisを飛ばしてすぐにリィーナが僕と合流し、たったいま向こうからジョーが到着した。現在地は共同工房の受付カウンター、行き先は<鍛冶>用の個室工房。
「それじゃあリィーナ、<プルトン>のレンタルをお願い。詳しい話は作業をしながら話しますから。」
「はいはいっと、お願いねかなたん。」
インベントリから<プルトン>を取り出したリィーナはアイテムの設定を弄り、レンタル可にして僕へと手渡してくれた。
FLOではアイテムの持ち逃げが出来ないよう、武器強化依頼の時にはレンタル状態で渡すのが大勢が普段やっている形式だ。レンタル設定のアイテムは持ち主が定めた期間の間は誰でも使えるが、完全に破壊するような行為や値段をつけようとした瞬間に持ち主に戻るようになっている。また持ち主からの直接トレード以外では受け渡しが出来ない為、受け取った人が他の人に転売、といった行為も出来ないようになっている。
「だけどまさかそんな事になっていたなんてね。私の友達が「ポーションの販売量が減ってきてる」って言ってたけど、そういう理由だったんだ。」
「リィーナは直接買いに行ったりしてないの?」
受け取った<プルトン>の装甲を片面だけ外し、内部の状態を確認。う、殆どのギアが錆び付いている。その中でも3~4個は刃先がいくつか欠けてるし、確かにコレじゃあ駄目か。
「PTメンバーに<治癒>魔法中心の子が居るのよ。私自身はなるべく負担にならないよう、回避盾に専念してるし、被弾は殆ど無いからねー。」
リィーナが僕の作業を覗いてくるけど、邪魔になる位置じゃないからそのまま放置。ギアをバラバラにならないよう1個ずつ新しいものと交換していく。取り外した錆びたギアは何かに使えるかもしれないから貰っていいか聞いたところ、私は使う予定が無いから好きにどうぞ、と言われたのでインベントリに容れておく。
「今じゃソロで行動していて魔法を使う奴は見境無く声をかけられるぜ?アイテムに頼れないから魔法が欲しいんだろ。MP回復の時間を考えると、何人でも欲しいだろうしな。」
研ぎ台の方で作業をしているジョーが得た情報を教えてくれる。目線は手元に集中しており、その先にはまだ汚れたままの何かの鉱石を磨いている。
「ああ、街中でもそんな状況でしたよ?昼前にもその件で1回PvPが起こったのを見てましたから。」
「見てただけなの?」
「可能な限り関わりたく無かったので。」
ギアを全て入れ替え、<プルトン>のコア部分の殻金を取り外す。これまた予想通り、中身の魔力結晶】は無数の亀裂が入り割れる寸前――と言うよりは崩れる寸前で形を保っていた。欠片を残さないよう慎重に取り外し、新しくカッティングを済ませた魔力結晶】をはめ込む。大きさは本で確認済みなので、すんなりと設置に成功する。
「ま、それが悪いとは言わないけどな。その後に同じ奴らと続けられるようなら問題ないし、扱いが酷いようなら別れればいい。もっとも、今の状況が治まるまでは簡単に手放さない、って言う奴が大半だろうけどっと。」
先ほどよりも慎重な手つきで石を磨くジョー。その手元にはほぼ邪魔なものを削り終え、青い色を反射する宝石が握られている。
「だれか責任感の強い人がクエスト受けてると思ったのにねー。なんでだろう?」
「さあな、そこまでは知りようが無い。もしかしたら回復役を確保してるから、先に別の町を探してるのかもしれないぜ?っと、ほれ、パス。」
「ありがと、ジョー。」
ジョーから彼が磨いていた青い宝石を受け取り、最後の調整に入る。<プルトン>に嵌っている宝石を一度取り外し、種類とレア度を確認してみる。
――――――――――
【アイオライト】
レア度:3 属性:<水><氷>
状態:亀裂
説明:<水>と<氷>の属性と親和性の強い菫色の宝石。その深く落ち着いた色合いは持ち主の心を落ち着かせる。
――――――――――
詳細を見た後に様々な角度から光を当ててみると、確かに数箇所に亀裂が入っているのが確認できた。こんなところまでアイテムのステータスに反映されるなんて、やっぱり価値も下がるのだろうか。
続けて、ジョーから受け取った宝石の確認を済ませる。
――――――――――
【アクアマリン(中)】
レア度:4 属性:<水><氷>
状態:濁り
説明:<水>と<氷>の属性と親和性の強い水色の宝石。色の濃さや透明度でその価値が変わると言われているが、残念ながら多少の濁りが見受けられる。大きさは程ほど。
――――――――――
カッティングがちょっと変だったり中が濁っていたりするけど、元々の宝石よりも十分上のランクだ。ありがとうジョー。でもどうやって手に入れたのかは後で聞いておこう。宝石は僕も使いたいし。
「凄いね、流石ジョーの選んだ宝石。」
「おいおい、褒めても何も出ないぞ?まあ、カナタがメイド服で俺の胸に飛び込んでくる、って言うお礼でも全然かまわないんだがめるっ!?」
「ふっふーん?あんたにそんなご褒美はもったいなさ過ぎるのよ、私の柔らかい手で我慢したら?」
「っはあ、いやすげー硬かったぞ?こう、鍛え上げられた無駄の無い筋肉の塊みたいでぼらっ!!」
「誰が筋肉みたいな胸ですってぇ!?」
仲の良い2人は無視して、完成のための最後の作業を済ませよう。アクアマリンをアイオライトの嵌っていた場所にセットして、魔力を流し込む。最初はほんの少しの小さな光だけど、宝石全体が光るようになれば完成らしい。本には最初は少しずつ、宝石が輝きだしたら徐々に流れる幅を広げるイメージでと書かれていた。判りやすいのか判りにくいのか。
「っててて・・・それで、どうすんだ?」
「今夜話を聞くことになっていますから、それに2人も付いてきてもらえますか?僕一人でどうにかできるとも思えないので。」
「私達で良いの?」
「? むしろ2人以外の誰が居るんですか?」
輝きが宝石全体に充ち、一際強く輝きを放つ。失敗するとこの段階で宝石にヒビが入ったり、下手をすると砕け散ると書いてあったけど・・・何も変化が無いって事は、どうやら成功したみたい。
リィーナの質問に答えながら、手動でギアの連動具合を確認し、問題が無い事を確かめて最後に装甲板を取り付ける。最初に外した方を取り付けたら、反対側も同様に。ここも複数のパーツになっているので、1個1個確かめるように交換していく。
「ったく、変なことを聞くなよリィーナ。ただレベルの高い奴を集めるより、息の合う俺達の方が総合力は高いと思わないか?」
「――そっか、それもそうね。何よ、ジョーもたまには役に立つじゃない!」
「ってえ!?なら思いっきり背中叩くんじゃねーよ、こちとら耐久力無いんだぞ!」
「リィーナ、じゃれあって無いで確認してください。――出来ましたよ。」
最後の表面装甲を交換し、コアからの魔力を燃料に淡く輝く<プルトン>をリィーナに手渡す。ここで出来る事は全部済ませた、なら後やっておく事は一つ。
「さ、出ましょうか2人とも。」
「え?まだ早いけど、何か用事?」
「はっはーん、そう言う事か。そうだな、そいつは大事だ。」
荷物を片付け、扉のノブに手をかける。
「ええ、性能確認をしに行きましょうか?」




