Scene2-11
「すみません!ちょっと遅れちゃいました?」
「気にしなくて良いよー?そんな忙しいってわけじゃないんだからさー。」
苦戦しつつも殻金を作り終え、全ての部品が揃ったところで僕にショートメールが届いた。差出人は今目の前にいるネイトさん。昨日おねがいした僕の革鎧が完成したので受け取りに来て欲しい、と言う連絡だったみたい。
「はぁ、ふう・・・でも、出来上がるの早いですね?」
「気合十分だったからね。可愛いものに対しては、私は限界を超えれる自信があるよ!」
僕もその範囲に入っているって事だよね、前の反応からしてもそれは推察できていたけど。そんなに力いっぱいの宣言は欲しく無かったなあ。
「心配しなくても、可愛い子が嫌がるような事は絶対にしないよ?」
「この前の事覚えて言ってますか!?」
「で、早速着てもらってもいいかな?」
「あなたも大概スルー力高いですよね!はぁ、はぁ・・・わかりました。」
「ん、どうでしょう?」
ネイトさんの作ってくれた服は、前まで着ていた革鎧とデザインは良く似ていた。下はホットパンツにポーチの付いたベルトが一体となったもの。裾が短いけど、僕はスパッツがインナーだしその辺までは気にしていない。あいかわらずお腹は丸出しだけど、上は二の腕までカバーするシャツに変更された(なぜか脇が開いているけど)。胸を保護する部分は外を厚い素材、中を薄い素材で作られており、それぞれ染色を変えてあるなど(無駄に)手が入っている。
グローブはフィンガーレスタイプで滑り止め付き、脚はロングブーツで、先端と踵部分に金属が使用されていた。革素材単品だと思っていたので、これには多少ビックリし申し訳なさが滲み出てくる。
「へ、変なところあります?」
着替え終えたあたりからネイトさんが僕をじっと見つめている。その真剣な目つきに、てっきり変な部分があるのかと思ったんだけど――。
「ふふふ、こんなハイレベルの男の娘のSSなんて・・・!これは永久保存ものですよ!!」
――思った僕がバカだった。そうだ、この人は限りなくあのバカに近い思考だったんだ!
「・・・あの、変な所は無いんですね?」
ジト目でネイトさんを睨んでみる。
「そんな目を向けなくても大丈夫ですよ。服に関しては、私まじめなんですから。不良品なんて渡しませんよ。」
小声で「急なハラリでムフフも捨てがたいけど」って呟いたのが僕の耳には届いていた。やっぱり着る前に自分でチェックは必要なようだ。
しかし服に自信を持っているというのは本当のようで、今受け取った防具も結構な性能だと思う。
――――――――――
【レザーシーカースーツ】 耐久50/50
防御+31
レア度:4 製作者:ネイト デザイン:ネイト
説明:数種類の革素材を用いて作られた革鎧。2重構造等、防御力は普通の革鎧よりも高くなっているが、デザインの問題で保護面積は少ない。
【レザーシーカーパンツ】 耐久50/50
防御+29
レア度:4 製作者:ネイト デザイン:ネイト
説明:数種類の革素材を用いて作られた革鎧。依頼主の腰が細かった為、寸法は女性用をメインとしている。防御力は普通の革鎧よりも高くなっているが、デザインの問題で保護面積は少ない。
【レザーシーカーグローブ】 耐久35/35
防御+13
レア度:4 製作者:ネイト デザイン:ネイト
説明:数種類の革素材を用いて作られた革鎧。作業に違和感が出ないよう指部分の生地を無くし、内側に滑り止めを追加してある。防御力は普通の革鎧よりも高くなっているが、デザインの問題で保護面積は少ない。
【レザーシーカーブーツ】 耐久60/60
防御+18
レア度:4 製作者:ネイト デザイン:ネイト
説明:数種類の革素材を用いて作られた革鎧。ロングブーツタイプで爪先と踵部分に金属をいれ硬さを補強してある。防御力は普通の革鎧よりも高くなっており、他部位のデザインの問題で保護面積は大目。
――――――――――
うん、性能は良いんだけど、最後の一言部分で着る気が無くなっていくのは何でだろう。
「着心地はどうかな?違和感を感じるとか、痛い部分とかない?」
その場で軽くジャンプしたり1回転したり、側転してみたりして違和感の確認をする。全体のバランスも変に感じないと言うところに再度驚いたりしたけど、不具合は感じない。
「問題ないみたいです。こんな良い装備をありがとうございます。」
ネイトさんへ感謝の言葉と共に頭を下げる。一瞬「うなじ」と聞こえた気がしたが、この人はどれだけの嗜好を持っているのだろう。もしや自分が可愛いと思っている人の部位ならどこでもこんな感じなのだろうか。それはそれでさらに近づき難くなるんだけど。
「あの、それでお代の方なんですけど。」
そう、装備を受け取って初めて気付いたのだけど、お金の話をしていなかった。この前も僕の身体を触るだけ触ったら急いで帰っちゃうし、そんな話をしている時間が無かったんだよね。
「うーん、私としては可愛い子からはお金をもらいたくないんだけど。それだとリっちゃんが怒るんだよねー。」
「当たり前です。」
お得意様ならともかく、一見さんの、それも個人の嗜好でタダとか、僕としても胃が痛い。いろいろな意味で。
「じゃあじゃあ、身「僕から代案があるんですけど!」」
身の危険を感じたので発言に割り込む。舌打ちされたところを見ると僕の判断は正しかったようだ。おかしいな、何で戦闘もしていないのに精神がこんなに削れていくんだろう。
「ぶー、それじゃあ代案って言うのはなに?」
一瞬言っても良いのだろうか?と考えてしまうが、腕の良い人にしか頼めない事なのも事実。そして今のところ他の候補はいなくて、今後上手く付き合えるかもわからない。いや今も性癖的には上手く付き合えているのかは不明だけども。
「僕の友達に魔法メインの人がいるんです。その友達の強化の為にも、高性能の防具が作れる素材を作ろうと考えているんですよ。」
僕も使いたい、と言う理由は今は伏せておく。それにジョーの強化もしてあげたいって言うのは本当だし。
しかし、この発言を聞いたネイトさんの眼が爛々と輝く。
「そ、それってやっぱり恋!?」
「なんで!?僕は男で、友達も男ですよ!」
「?男の娘の性別は『男の娘』だから、別に大丈夫だよね?」
「精神的にも男です、対象外!」
言い方が悪かったのだろうか。しばらく自分の妄想世界にトリップしていたネイトさんだけど、堪能したのか少しまじめな顔に切り替わる。
「なるほど、その素材を使って装備を作って欲しい。で、実用できそうならその素材を私に回してくれるって事だよね?」
「実用的でなくても、珍しい素材とか新素材は試してもらうつもりですね。」
多少は僕も<裁縫>をするけど、本格的に服が作れるわけじゃない。僕のはあくまで応急処置的な使い方をするつもりだ。後は雑巾をつくるとか。
「うーん、流石にそこまでされると対等とは思えない気がするんだよね。」
「でも制作費位は払いますし、そこまでとは。」
「いえ、私が納得できないんです!なので、これを。」
何か渡された、手に感じるのは固めの感触。嫌な予感しかしないんですが。
「さあ、好きにどうぞ!」
笑顔で両手を広げるネイトさん。渡されたものを見てみると、僕の手には馬の調教で使われている馬上鞭が。
こういう手合いはスルーに限る。笑顔で馬上鞭を折――。
「ちょー待って待って!それかなり良い武器なの!良い素材つぎ込んだの!そんな簡単に消さないでー!!」
「・・・どんな素材使ったんですか。」
「レア度5をメインに、付与効果も充実させたから・・・800K位かな。」
「どんなバカですか貴女!?」
この鞭に80万!?何考えてるの!?
「あ、ついでに私は<鞭>の技能は育てていないので扱えません。叩いてもらうように買ったので。」
「こんな事の為だけにポンとお金投げたんですか!!」
駄目だ付き合いきれない・・・けど、値段を聞くとむやみに折るのも抵抗が。くう、コレが狙いかっ!
その後も話し合い?は続き、条件付で僕の提言である『新規素材・作成素材の持ち込み』と『加工費用は払う』と言う条件で納得してくれた。ちなみに向こうの条件は『絶対に着て欲しい衣装を作りたい、出来たら着て見せて欲しい』とのこと。
性能は保証すると言っていたけどごめんなさい、今回でもない限り絶対にお断りしたいです。
「うーん、特に欲しいものは無い、かな。」
帰りに露店を巡ってみるけど、今のところめぼしい物は見当たらない。気になるのはやっぱりポーションがかなり高価になっていることだね。この値段、気軽に買える値段じゃないよ。その影響か回復魔法を取得する人が急増しているらしいけど、それでもMPには限りがある。なので回復魔法を使える人を囲い込む流れに向かうのは理にかなっているのかもしれない。
「だから、俺らの方が早く声かけてたんだよ。俺らと一緒に来るのが普通だろ!?」
「彼女の考えは聞いただろ、反りが合わないからこちらで行動すると言うのが彼女の意思だ。無理強いするのはマナー違反ではないのか?」
「はあ?強い奴と一緒に居た方が安全なのは当たり前だろ。俺らの方がいろんな所を回れるんだ、こっちの方が良いに決まってんだろ!」
「話にならないな。こうも言葉が通じないと同じ人間とは思いたくない。」
「あ゛?喧嘩売ってんのか!!」
だからって街中で喧嘩とか止めて欲しい。折角のゲームなのに楽しい気分が台無しだよ、もう。メンバー募集をするのは良いのだけど、周りの人の目をもっと気にした方が良いよ。そんな態度の人と組みたくないって人が大半だと思うし。
「<錬金術>上げてる人募集中でーす!レベル上げ、素材集め手伝いますよー!」
「<治癒魔法>取得しませんか?経験値協力させてもらいます!」
「ギルドメンバー募集してまーす。<錬金術>でポーション作っているだけでかまいません!」
街中のログがひどい事になってる。何処にも入る気も無いし勧誘を受けるつもりも無いけど、一番最後の所はスルー安定かな。入ったらただポーション作りだけさせられそうだし。
露店通りの端に果物屋さんを発見。ここはどうやらこの町の人のお店みたいだ。あ、リンゴが安いし買っておこうかな?【木漏れ日亭】の台所を借りれば色々作れるかもしれないし。
「あの、リンゴ1ダース下さい。他にお勧めってありますか?」
「リンゴね、はいよ。そうだなあ、今朝届いたものなんだがモモとかどうだ?傷みが早いのが欠点だが、水分がギュッと詰まった果肉は甘味もバッチリだぜ?」
あ、それは嬉しい情報かも。リンゴとモモならお互いに味も強くないから消しあうことも無いんだよね。
「良いですね。それじゃあモモも1ダースお願いします。」
「お嬢ちゃん一人で食べきれるのかい?」
「他に2人居ますから。それと、僕は男です。」
「おっとそりゃ失礼。リンゴとモモ1ダースで540belだな。それとこいつはおまけだ、試食品ってやつだな。」
お店のおじさんがリンゴを1つ投げてくれた。齧ってみると実はまだ固めだけど、水分は多く甘さも感じる。外側でコレなら中心部の蜜にも期待できそう。
「ありがと、甘くて美味しいよコレ。」
お金を払い、紙袋に入った果物を受け取る。インベントリ内でもゆっくりと時間は経過するので、帰って料理をするのを考えると仕舞う必要は無いだろう。
「坊主みたいな奴がもっと多ければなあ。俺ら町の奴を蔑ろにしている奴ばっかり相手にしててよ。」
「すみません、そんな人が多くて・・・今も向こうで騒ぎになりかけてますし。」
さっきの勧誘の件で揉めていた人達が武器を抜いている。その周囲に青いリングが発生し、そこから先は誰も入ることが出来ず2人だけの空間となる。FLOのPvPシステムによるフィールドが形成されていた。
外から中に入る事は出来ないし中の攻撃が外に漏れることも無いので、外野に怪我人が出る事はない。そうでなければ街中でPvPなんて出来る訳がないのだけど。
「良いってお前が気にする事じゃない。気を使ってくれる奴は他にも居るし、あの程度なら俺らに被害は無いから気にしねえよ。」
笑って答えてくれるけど、あまり良い傾向ではないと思う。まあ最後の一言が全てなのだろう、被害さえ出なければある程度は見逃してくれているのだ。いつぞやの薬草畑の件のように、やりすぎたら困るのは僕達なんだし。
「鮮度もいいみたいなので、また買いに来ますね。贔屓させてもらいます。」
「おいおい、口に出して言うなよ。悪いが安くはならないぞ?」
「期待してませんから。」
このおじさんが良い人なのは事実だし、果物の鮮度が高いというのも本当だ。だからきっと、僕が此処に通うことになるのは間違いないと思う。新鮮な果物って美味しいし、貴重だし。こんど買った果物で作ったお菓子でも持ってきてあげようかな?
「それじゃあ、また来――」
『ふざけんな!いい加減にしろよ!!』
折角良い気分で帰れると思ったのに、最後の最後で水を差されてしまった。通りの隅の為反応する人は少ないけど、大勢の目がそちらへと向けられる。
建物の前で騒いでいるのは4人、恐らくと言うか確実にプレイヤーだと思う。場所は自信が無かったけど、看板を見る限り薬屋さんで間違いない。と言う事はポーションの販売について文句を言いたいのだろうけど。
「何時になったらポーションが買えるんだよ!俺達には回復が居ないんだ、アイテムが頼りなんだぞ!?」
「申し訳ありません。ですが、一日に作れる数にも限界がありますし、出来るだけ大勢の人が買える様にと購入制限も――。」
「そんなの知らないわよ。だったら数を増やせば良いでしょ?」
「で、でしたら旅の人が出しているお店を利用してみては――」
「あんなもん高くて買えるかよ!」
「こっちはここ数日ずっと並んでんの、それでも買えないからこうして直接言わせて貰ってるんだけどー?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!でもこちらにも事情が―」
「そんなもん知るか!こっちは客だぞ?」
話に聞いていた以上に薬の数が足らないみたいだ。それとも転売屋の数が多いのかもしれない。
文句を言っているのは男女2人ずつの4人PTのようだ。それに倣うように文句を言う人達は今のところ居ないけど、このままだと爆発するのも時間の問題にしか思えない。今こうして目の前で小爆発が起きてるわけで。
それよりも気になったのが、先ほどからお店の前で対応しているのが小さな女の子と言うことだ。前に見たときは店主と思う男の人が対応していたと思うんだけど・・・。
「・・・大人気ない。」
大の大人が4人で子供に責めるとか、見ていて気持ち悪い。
「あそこ、夫婦とあの子の3人で経営してるんだけどな。この前、町の薬草が全部採られる事件があったろ?あの時に町の外に薬草を採りに出たらしいんだが、そこで腕をやっちまったらしい。」
呟いた事に果物屋のおじさんが事情を話してくれた。ご近所付き合いだから仲がいいのかもしれない、酷く悲しい目で向こうを見ている。
えー、ここでもその件が影響してるんですか?自業自得だよこれ。一部の人のせいでやること全部プレイヤーに跳ね返って来てるよ。
「でも今の話を聞いてると、商品は売っているんですよね?お母さんの方も<錬金術>を?」
「ああ、夫婦が商品を作って子供が店番をしている。後は仕入れなんかも夫婦の仕事だった筈だ。」
そりゃ追いつかなくなるよ。2人でも足りてないのに作る人が減ったとか。
そんな事は知らないと文句や罵声をぶつける4人組み。実際に知らないのだろうけど、これ以上その場を見て居たくない。子供の方は泣きたいのを必死に我慢しているのだろう、大きな目は潤み涙が浮かんでいるのが遠目にもわかった。さっきから「ごめんなさい」としか言えていないし、声も震えている。
「なあ、お前さんに頼める義理は無いんだが、どうにか出来ないか?」
「・・・・・・。」
目立ちたくは無い、僕の格好は絶対に目立つから関わらない。その思いから僕は今までポーションの問題からは遠ざかっていた。他の誰かが解決してくれるから。そういう正義感の強い人達が居る筈だから。そう考えて、逃げ道を作っていた。
でも今この場にそんな人は現れない。居るのかもしれないけど、そう都合良く出てきてはくれない。
「・・・・・・そう、ですね。」
面倒なことに関わりたくは無い、これは素直な僕の気持ちだと思う。でも、目の前で泣きそうなあの子を放っておく事は出来ない。そもそもこちらが悪いのだし、一生懸命作ってくれている人に文句を言うのは筋違いだ。
そして何より、あの光景は――。
勇気を出し、僕は薬屋へと向かい歩き始めた。




