Scene2-6
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「~~♪~~~~♪~♪~~♪」
【囁きの洞窟】の安全圏に鼻歌が響いている。その音源は広場で休憩中のカナタであり、手元の半透明のウィンドウを見ながらニヤニヤとだらしない顔をしている。その目はインベントリの中の一箇所をずっと見つめ続けている。
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【銀鉱石】
レア度:4
説明:白く輝く鉱石で、集めて溶かすことにより銀のインゴットが作成できる。その価値は鉄よりも高く、物々交換にも使われていた。
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初期ダンジョンである【囁きの洞窟】ではそのレア度は高めで、中々でないと言われている【銀鉱石】。それがこの中継地点に来るまでになんと3個も掘り当てることが出来たのだ。気分も良いに決まってる、だからつい鼻歌を歌っちゃうのも仕方ないんです。
「さーて、後2個出ると良いな。その為には、この奥に進む必要があるんだけど。」
インベントリを閉じて、一回大きく伸びをする。ここより奥は敵の沸きが多く、僕一人では安全な採掘作業は行いにくいだろう。出来ないと言わないのは、死に戻り前提で突撃すれば少しは出来ると見ているからだ。
「別に今は問題ないんだよね。そんな良いもの持ってないし。」
FLOにおいてのデスペナルティは易しめで、死ぬ事でスキル経験値が減ると言ったことは一切無い。手持ちのアイテムがその場にドロップする事も基本的にはない。では何も無いのかと言うとそうでも無く、死んだ時に『装備品』をランダムで1~3個落としてしまうことがある。気をつけないといけないのは『装備品カテゴリのアイテム』では無く、『現在装備しているアイテム』と言うことだろう。
易しめと言われている理由は、そのデスペナにも対応策が用意されていると言うことだろう。装備品に<祝福>か<保護>の<付与>を与えている場合、一度だけ確実に死亡時のドロップ判定から外す事が出来るのだ。もちろん何度でもとはいかず、一度判定から外した時に<祝福>又は<保護>の<付与>はきえてしまう。
死ぬたびにかけ直す必要はあるが、対応策が用意されているだけでも、他のゲームと比べ易しいのは間違いないだろう。このシステムのおかげで、FLOではPK行為をする人はほとんど存在していないらしい。
「えっと、ここまでで【アノネナイト】が73個に【鉄鉱石】2ストック。おまけの【アマゾナイト】が20ちょっと。結構沢山取れてるや。」
しかし、沢山に見えるがこれらは何処まで行っても『素材』アイテム。幾つあっても足りないと言う事にはならないのだ。
「―――行こう、か。」
今の僕は全ての装備に<祝福>も<保護>もかかっていない。なのでランダムでどれかを落とす可能性があるのだけど、今装備しているのはどれも初期装備のままだ。採掘用のつるはしだけはもらい物だけど、死にそうになったらインベントリに容れてしまえば良い。死ぬ前に逃げればいいんだけど。
一度深呼吸をし、僕は次のエリアへと足を進めた。
エリア間の細い道を進み、途中採掘ポイントを見つけたので採掘しつつ、大き目の広場へと辿り着く。目の前に大きな間抜け顔が広がった。
「うわぁっ!?」
大きく後ろにジャンプして様子を見るが、襲い掛かっては来ない。どうやらノンアクティブの敵のようだ。見た目は大きな亀だ、その背にはこれまた大きい大砲を内臓している。この距離で撃たれたら大ダメージは必須だと思う。目と鼻の先だし。
「――しつれいしまーす。」
小声でそんな事を言いつつ、のんびりと目を瞑る亀の横をこっそりと歩いていく。そんな必要は無いのかもしれないけど、今危険を冒す必要は無いもんね。
見渡した感じ、このエリアに採掘ポイントは3つ。一つはすぐそこなので、このまま採掘に入ろう。後の2つはエリアの奥のほうに固まっているようなので、今はここだけでいいかな。
インベントリからつるはしを取り出し、鉱脈を削り過ぎないように表面を掘り出していく。採掘できなくなったら泣くしかないからね、資源の枯渇は駄目ゼッタイ。
「――鉄―――鉄――あ、やった!」
3回掘ったところでお目当ての【銀鉱石】が採掘できた。ここも銀が採掘可能、と地図にメモを残しておく。メモをした後は、またリズム良く金属音がエリアに響く。
「―――鉄―――アマゾナイト―――?」
6回目、採掘ポイントから見たことのない鉱石が転がり落ちた。すぐにそれがわかったのは、今までに出た事の無い色の鉱石が掘れたからである。
「白い石?なんだろう、こんなのが掘れるんだ。」
手にとって<鑑定>してみるが、鉱石の名前を見ることが出来ない。これは<鑑定>のスキルレベルに対し、対象のアイテムのレア度が高すぎると言う状態だ。
「こんな序盤で高レアの鉱石・・・?いや、絶対にありえないって事はないんだけど。」
エリアボスのドロップアイテムなんかは性能やレア度が高く、ドロップ率も低めなので総じて序盤は高い値段で売買が行われている。そんなアイテムなら<鑑定>レベルが高い人じゃないと出来ないのだけど。
「・・・・・・まあいっか。最終手段として、リッカさんに<鑑定>を依頼してみよう。」
他人に<鑑定>をお願いする場合、アイテムに見合った値段のお金かアイテムを渡すのがルールとして広まっている。お金だけじゃないのは、その人には不要でも相手が欲しいアイテムを持っている場合を考えてだ。リッカさんなら【鉱石系】アイテムでも受けてくれるだろうし、サラさんなら【錬金術の素材】になりそうなアイテムだろう。
<鑑定>はアイテムを見極めようとして見る事で成長するので、もしかしたら洞窟から出る頃には<鑑定>出来るようになっているかもしれないしね。
「気付いたら上がってるなー、位にしか感じないんだよね。<鑑定>って。」
生産スキルを持っているプレイヤーは気付いたら上がっている、と言うのが<鑑定>に対する共通の意見である。<鑑定>はアイテムに関してのみ反応するスキルなので、素材を採取、性能を確認する生産系プレイヤーが総じて高Lvの<鑑定>を持っていることが多い。
逆に、戦闘メインのプレイヤーは<識別>が高Lvになっていることが多く、その辺りでバランスがとれているのだろう。尚、自分で採取にも向かうカナタは両方が同じくらいのレベルで進んでいるが、専門に活動しているプレイヤーと比較するとゆっくりとレベルが上がっている状態だと言える。
ある程度掘り続けていると2個目の【銀鉱石】も掘り当てる事ができ、別件だが当初の目的は達したと言える。
「さて、残りの2箇所も・・・ぅん?」
これ以上急ぎで掘る必要もないのだけれど、此処まで来た以上は掘っておきたい。そんな気分で奥に進もうとした僕の眼に何かが映る。
採掘中は気付かなかったけれど、どうやらエリアの奥に誰かがいるみたいだ。さっきまでは誰もいなかったんだけどな。
「え、あれ大丈夫なの?」
大砲亀4匹を相手にとり戦っているプレイヤーがいる。服装で判断するなら男の人、だと思う。体型はしっかりしてるし、普通に男の人だよね。武器は両手剣か、抜かずに回避に集中しているみたいだけど。
「<回避>の成長中かな?それなら邪魔するのも悪いよね。」
抜こうとしていた短剣を戻し、少し離れた場所を通ってエリアの奥へ向かう。アクティブエネミーなら傍を通ると反応し、標的がこっちに移る事がある。けどこの亀はノンアクティブだ。ノンアクティブエネミーは基本、一度標的を向けた相手を攻撃し続ける性質がある。
なので普通に通れる、とカナタは思っていたのだろうが、あちらはそう思っていなかったようだ。
「え?」
先ほどまで敵の攻撃を避け続けていた男性がこちらへ走ってくる。このままでは範囲攻撃に巻き込まれる、そう判断し距離を取ろうとするカナタの腕を掴み、男は4匹の亀へと向けてカナタを放り投げた。
「うわっ!?」
いきなりの相手の行動にあっけにとられ、抵抗も出来ずに放り投げられる。受身を取ることも出来ずに亀達にぶつけられ、僕と亀にダメージが発生する。
(嘘っ、ダメージ!?この人、MPK狙いか?)
これは後から知ったことなんだけど、どうやらある程度勢い良くぶつかった時に衝突ダメージが発生するようで、今回はそれを利用されたらしい。
背中への衝撃に苦しみながら男の方を見ると、口の端を吊り上げニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべている。まさかこんな方法でタゲの移動が出来るとは知らなかった。
「ったた、ずいぶんと乱暴な挨拶ですね?」
立ち上がりつつ男に声をかけ、後ろの亀から距離を取る。位置的にエリアの奥へ進む事になり、出口からに遠のいてしまった。
「いやあ悪い悪い、何せ此処には中々人が来ないからな。ついつい気合を入れちまったよ。」
「そうですね、ソロで来るには敵が多すぎますから此処は。」
次の言葉を口から出そうとした時に、横合いから亀の砲撃が飛んでくる。それを前に向かって走ることで回避し、そのまま男の横を通り抜けようと試みる。が、男は今まで背負っていただけの両手剣を持ち、こちらへと振り下ろしてきた。
「―――あっぶないですね!当たったらどうするんですか。」
「当てようとしてんだよ。」
「申し訳ありませんけど、装備でしたら最初にもらえるものしかつけていませんよ?」
「別にいいんだよ。」
後ろから大砲の発射音が聞こえたので横に跳んで攻撃を避ける。それにあわせて男が剣を振り、こちらの脚目掛けて攻撃を仕掛けてくる。狙われたのとは反対側の脚を軸に回転し、斬撃を避けて刀身に蹴りを打ち込む。刀身を新たな足場にし、そのまま反対側へ大きくジャンプ。これで男との距離が少し稼げた。
「只の人殺しですか?性質が悪いですね。」
「そんな悲しい事を言うなよ、これでも苦悩してるんだぜ?」
さて、どうやって逃げれるか?亀の方を横目でみつつ、攻撃のタイミングを確認。しているとほんの一瞬だが右肩に確かな痛みを感じた。それと同時に風切り音と、すぐ後ろに何かの刺さる音。
(もう一人・・・これは無理かな。)
せめて位置を確認しようと目を走らせるが何処にも見つからない。いや、見つけようと探している途中で身体に違和感を感じ、そちらに目を向けて息を呑んだ。右腕が動かない。
「まさか、麻痺攻撃!?」
「ちょいと気付くのが遅かったな?」
満足気な笑みを浮かべて近づいてくる前の男とは別の足音が聞こえてくる。その男の更に後方、ぎりぎりアシスト範囲内だったため、そっちを注視してもう一人の姿を探る。が、その人物は目深にフードを被っており顔はわからなかった。けれども武器は隠しきれるわけではなく、しまう前に一瞬だけだが見ることが出来た。
(弓手ね、これじゃあどうがんばっても無理っぽいや。)
注意をそらす前衛と脚を止めさせる後衛、無駄にバランス良いなちくしょー。麻痺が全身に回り、立っている事が出来ずその場にうつぶせに倒れこむ。地面が冷たいなあ。
「心配すんな、武器を落としたら俺が拾っておいてやるよ。ま、初期武器なら別にいいだろ?」
背中に鋭いものが当てられている、剣先か。まさか鏃って事は無いだろう。
「最後に何か言い残すことはあるか?」
僕に「言いたい事があるなら聞いてやるぞ?」と言ってくるが、わかって言っている分腹が立つ。こっちは麻痺中の為、言葉を喋ることが出来ない。視界の端に映る麻痺のアイコン。回復までの時間は残り80秒、結構長い所を見るとかなり良い毒を元にしているようだ。
「ま、何もないようなんで、名残惜しいがお別れだな。」
男は数回剣を僕の上で空振りさせ、焦らしながら僕に言葉を放つ。ああもう、面倒なのにからまれたなあ。って言うか殺すならさっさと殺してよ、麻痺中だからメールもwisも出来ないし!弱めていたぶるとか悪趣味にも程があるっての。
「・っ・・し・・・う。」
あ、ちょっと舌が動くようになってきた。せめて言いたいことを言って死のう。
「あ、何だ?」
「こ、のっ、さん、した・・・やろ、う。」
「死ね。」
余裕のにやけ顔だったのが一転、あんな言葉で一瞬で怒っちゃってまあ。煽り耐性低すぎでしょう。
ざまあみろ、と心の中でにやけつつ、僕の背中に両手剣が突き刺さり、貫いて地面に縫いとめる。地面との音から考えて思いっきり力を込めたな?一瞬激痛が神経を刺激し、身体が光の欠片となって消えていく。
(初死亡がPKかあ、甘く見すぎてたかな。)
そんな事を考えながら、僕の視界はブラックアウトした。
今日の更新はこの1話だけです。
時間が取れなかったので、次の更新は火曜日かもしれません。




