Scene2-1
「ほお、これが朝市か。」
「そうだけど何か違う気がする。」
朝食も軽く食べた僕達は【ビギニア】の中央通りに来ている。ここはプレイヤーが露店を出すことの出来る場所で、ジョーが言ったみたいにまだ朝早いのにすでに、幾つかの場所には露店が出来ている。敷物の上に商品を置いただけの店や、屋台のような簡単な建物がある店もある。露店の形は使用時に見た目を選べるので、好きなものにすればいい。特に制限も無いし。
幾つか、と言っても目に見える範囲でしかないので、僕達は3人別れて行動することにした。掘り出しものがあれば良し(お金ないですけど。)。メインは服飾関係を売っている<裁縫>スキルがメインっぽい人を探すことだ。
けど僕は先にやることがある。2人と分かれた僕が真っ先に向かったのは雑貨屋さん。
「毎度あり!使い方は大丈夫か?出店可能なのはこの先の中央通りだけだからな?」
「大丈夫ですよ、わかってます。」
「そっか、なら問題ないね。しかしあんたも運が良い、ここの所そいつは飛ぶように売れていてな。そろそろ在庫が危ないんだよ」
おっと危ない、もしかしたら品切れを起こしていたのか。お目当てのアイテムである【出店カーペット】を無事に購入し、インベントリにしまう。
《無事露店用品購入です。そっちはどう?》
《駄目だな、まだ見つからない。アクセサリーをポツポツ見かけるんだが、こいつは違うしな。》
《こっちもまだ見つかってないー。》
どうやらまだ服飾職人は見つかってないみたい。あれから少し時間も経ってお店も増えてきたしね。
「ん?」
通りを歩いていると、こんな時間なのに長蛇の列が出来ているのを見つける。何のお店だろう?と戦闘を探してみて納得、薬を扱っている住民の店だ。
こんな時間にこの長さって、先頭の人は何時から並んでるのさ。
【ビギニア】にはNPCによる各専門店は1つずつしか存在しない。だからNPCからポーションを買う為には必ずここに来ることになる。ざっと見100人を超えてるんだけど、購入制限あっても足りないだろうな多分。
中には、まだ並んでいる段階なのに順番をめぐって言い争いをしている人たちも居る。何してるの本当に・・・。
「さて、絡まれないうちに退散しよっと。」
背を向けてしばらく歩くと騒ぎが大きくなった感じがするけど、今の僕には関係有りません。今後もしばらくお店には近づかないようにしよう。ごめんなさいね、知らないお店の店主さん。
気を取り直してプレイヤー露店を巡っているけど、やっぱり一番多いのは武器と回復アイテムだった。武器は鉄と既に鋼製のも出回っているようで、鉄よりも良い値段の武器が置いてある所が少数見て取れる。こっちはまだ良い。鋼も沢山は作れないから値段が高いのもわかる。
問題は回復アイテムだ。やっぱり主力はポーションだけど、今見ているお店だと売値が250bel。そして、悲しいのがコレが最低価格って事。もう少しすれば安価なお店が出るかもしれないけど、多分買い占められるか転売されるんだろうな。これはちょっと気に留めておこう。怪しい人には売らないって事も出来るけど判断は難しいし、かと言って転売されるのは気に入らないし。
ついでに、問題がもう一つあって。
「なあ、これから一緒にレベル上げしない?」
「すみません、友達と一緒ですから。」
「ならその子も一緒でいいからさ、どう?」
「大丈夫ですので。」
何か絡まれる。いやわかってる、絶対見た目だろうな。腰まである長い髪――今は白髪だっけ、それに女顔。背はそんなに高くないし。髪の毛だけで判断してくる人多いしなー。
「人数は多い方が良いでしょ?」
「そんな危ない場所には行きませんから。それに勘違いしてるみたいですけど、僕は男なのでそんな気はありませんから。」
そっちの趣味は無いので、僕はきっぱりと拒否の言葉を口にする。ナンパ男は一瞬口を開いたまま固まるけど――。
「またまた冗談ばっか、このゲームは性別詐称出来ないタイプだよ?どう見てもキミ女の子じゃない。」
「いや、だから――。」
駄目だ、これはしつこい。それにこの人、説明書を読まないタイプだ。もしくはアイテムの能力をあまり確認しない人。
無言でメニューを操作して目の前の人の名前をコピー、ブラックリストに登録して発言をブロックする。これで以後、この人の発言は僕のログに残らないし、声も届かなくなる。
BL登録されたのが僕の反応からわかったのか、その人はやっと放れてくれた。15分も付きまとうとか気持ち悪いよ!もう少し長かったらGMコールも考えていた。
「君対応が手馴れてるねえ、似たこと多いの?」
「ん?」
横合いから急に声をかけられたので、反射的に足を止めてしまう。
「こっちこっち。」
声のする方へ顔を向けると、こっちに手を振る女の人の姿が。
「急に離しかけてごめんね、危なくなったら口は出そうと思ってたんだけど。その必要は無かったみたいね。見事な対応でお姉さん感心しちゃった。」
「は、はあ・・・ありがとうございます?」
白めの肌にタンクトップ、じゃないやチューブトップだっけ?胸のとこだけ覆う上に対して、下はなんだろうこれ、オーバーホール?にしてはなんかポケットが凄い多いけど。僕と同じ白髪、銀色に近いかな。目の色は朱色の女性。露店を出してるって事は生産スキルメインって事は予想できるけど。
商品は・・・武器、か。
「鍛冶職人ですか?」
「そ、一応βテスターなんだよ。しかし男ですか、私も使おうかな?」
「その胸で言われても納得しないと思いますよ。」
「あら、見ただけじゃ本物かどうかなんてわかんないでしょ?」
それはそうだけども。
「で、何で女物の服なんて着てるの?君の姿で女装備なんてしてたら、勘違いされて当然だよ?」
そう、ゲーム初日からずっと、僕は女性用の軽鎧を装備し続けている。別に女装趣味があるわけじゃないよ。本当だから、
FLOには装備制限がほぼ無い。ステータスを見ても自分の能力は見えないし、武器にも装備条件は表示されていない。でも扱えないような格上の武器を使おうとすると違和感を感じるし、普段と調子が違うから直ぐに気付く。BSのアイコンも出るしね。
ほぼ無いって言ったのは、武器防具に関してはさっき言った事が当てはまるけど、男性でも女性の服を着ることができる。現実だって着ちゃいけない訳じゃないでしょ?着てたら変態って言われるだけで。FLOは性別での装備の区分けは存在しないのだ。
そのおかげで、僕は今インナーで出歩かずに助かっているんだけどね。時々凄い死にたくなる。
「・・・初期手配の服が着れなかったんですよ。」
僕の身体的な理由で、と言う前書きが入るけど。
「ああ、裾とか?」
「それもですけど、腰が。」
付属のベルトでは一番内側まで詰めても緩かったのだ、少し激しく動くとズボンが落ちてしまう。恥ずかしいと言うのも理由にあるけれど、それ以前の問題でそんな服じゃ戦えない。
それで苦肉の策として同じくインベントリの軽鎧を着ているのだ。胸当てはちょっと寸詰めしたけど、ホットパンツは良い具合の寸法だった。
問題は女物だから周りに勘違いされる(もしくは変な目で見られる)のと、やっぱり女性用のパンツだから股がね。結構きつきつです。
「なに、お姉さんに喧嘩売ってるのかなあ?ん?」
「理由を聞いてきたのはそっちじゃないですか!?」
聞いておいて怒るって止めてよ!
「じょーだん冗談、それでキミは服を探して露店めぐり?」
その言葉と裏腹に、こめかみに青い筋がまだ見える気がする。笑顔が引きつってますよ?
「キミじゃなくて僕はカナタです。それもですけど、昨日ちょっと戦いすぎちゃいまして、軽鎧の修理をしてくれる人を探してました。」
「カナタね、オーケーかなたん、覚えた。それで、軽鎧の修理って今着てる物でいいのかな?」
「いえ、僕はちゃんとしたのが欲しいかなーって・・・修理は友達のです。引継ぎ特典の。」
あーあれね?と言いながら何かウィンドウを眺めるお姉さん。呼びやすいのかもしれないけどさ、後ろに「ん」をつけるの止めません?僕別にゆるきゃらとかじゃないんですけど。
何か考えをまとめているようなので、僕は僕で商品を眺めていようかな。他の店が鉄製品が多い中、ここは全部鋼鉄製品みたい。あ、値段も他と比べて良心価格。安売りしてる訳じゃないけど、ふっかけてるような高価格でもない。
短剣はまだ保留にしておいて、ロングソードが置いてある。リィーナの武器もまだ耐久は残ってるけど、あそこまで減ったら買い換えた方がいいかなあ。えっと、性能は。
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【鋼鉄のロングソード】 耐久:80/80
攻撃+38
付与効果:クリティカル率上昇(小)
レア度:3 製作者:リッカ
説明:材料に鋼鉄を使用したロングソード。鉄に炭素を混ぜより硬く、長持ちする武器が出来上がった。その代償として、鉄の武器より値段は多少高くつく。
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「えっ!付与効果付き!?」
付与効果は主にダンジョンで見つける宝箱や、モンスターのドロップ品である武器についているのが主で、種類によってはかなりの値段がつくことが多い。
その他に<初級鍛冶>のスキル持ちPCが鍛冶をすると極低確率でだけど、完成品に付与効果がついていることがある。これにも法則があると言われているけど、データが少ない為本当のところはわかっていない。それに付く効果もランダムな為、狙って欲しい装備を作ってもらう、と言うわけにもいかないのだ。
そして付与効果が発生する<初級鍛冶>は<鍛冶>ランクが25まで上がっているPCが、決まった課題をクリアする事でランクアップする、一つ上のスキル。
(もうそんなに沢山の武器を・・・いや、βテスターって言っていたし、僕みたいに素材を引き継いで?って1ストックまでしか持ち越せなかったんだから、手持ちだけって訳じゃないか。)
「良いのに目をつけたねー、それ欲しい?」
考えをまとめているのをどうやら買うか買わないか悩んでいると思われたようだ。確かに、これは欲しい。鉄と比べて攻撃力は僅かの違いしかないけど、付与効果が大きい。手数で攻めるリィーナにはピッタリだろう。
「ええ、良い武器ですから。聞かれたら欲しいって答えますね。」
その分、お値段高めですけどね。【カーペット】を買ったの今の手持ちじゃちょっと手が出せない。と言うかもともとそんな余裕僕には無いし。かと言ってリィーナの手持ちでも若干怪しい。彼女の軽鎧は特典装備の為、普通と比べて修理費が若干高く付くのだ。
「条件付であげる、って言ったらどうする?」
「条件、ですか。」
「そう、条件。私もキミに迷惑かけたくないし、嫌なら断ってもらって良いからさ。」
若干怖い。怖いけど、聞くだけならタダ・・・だよね?
「聞いてから判断します。」
「うん、賢い子は大好きだよー。実はね、モデルを探してたんだ。そのうちお店を買う予定なんだけどね?やっぱり自分のオリジナルって作りたいじゃない。」
「それは、うん、わかります。」
「でもさ、置けばいきなり売れるってものでもないでしょ?それに全部が全部実体化させれるほど広くないしね。」
なるほど、そこで実際に誰かに使ってもらえば良い。それも目立つ人に。もの凄く強い人でも良いし、見た目的に大勢の目を引くような人が着ていれば?売れるかどうかは判らないけど、お店や製作者の名前は広がるかもしれない。
あまり目立つのは好きじゃないんだけど、その位なら協力してもいいかな?打算も入るけど、職人さんとの繋がりって大事だし。おなじ生産系のプレイヤーとしても、そういった知り合いは欲しいし。
「その位なら、まあ構いませんけど・・・恥ずかしい様なのは無しですよ?」
「大丈夫、破廉恥なのは無いから。買うような人も居ないし。」
「でしたら良いですよ、引き受けましょう。」
「さっすがかなたん、話がわかる!」
屈託の無い笑顔で手を握ってくるお姉さん。ち、ちょっと力を緩めて欲しい・・・握られた両手が痛い。
「っとごめんね、思いっきり握っちゃってた。私はリッカ、今後ともよろしくね?かなたん!」
僕のFLに始めて、現実での友達以外の名前が増えた。
今考えたら出会いは逆ナンパだよね、これ。相手が男から女に変わっただけだし、良い人そうだから登録したけど。あれ、僕って結構ちょろい?




