第7話 無限
咲野玲に待機と言われて、壁端でゲクトは待っていた。
じっとしているのが落ち着かないゲクトは倒した邪気を食べたり、血まみれの地下を歩き回っていた。
蛍光灯が不規則に点滅し、静かな空間に歩み寄る音。
俺以外に誰かがいる。
咲野玲の足音とは違う。
一直線に向かってくる足音は目の前で止んだ。
邪気の姿は一つもない。
辺りを見渡しても変哲もない駐車場。
もしかすると咲野玲の方へ行ったのかもしれない、と俺は地下3階の駐車場へ下った。
邪気も咲野玲の姿はなかった。
「おーい!終わった?」
帰ってくるのは俺の声。
するとふと目に入ったのは、さらに地下へ進む下り道。
この駐車場は3階までだと聞いていたが、まだ下があったのか。
この下に咲野玲がいるのかもしれない。
降りると、散乱した死体とまた下り道。
応答はない。
さらに深く、深くへと足を運ぶ。
見える景色は邪気の死体と下り道。
ずっと同じ景色が続いている。
「おっかしいなぁ。咲野玲もいない。」
「これは無限の邪気の仕業だ。
永遠に続く空間に閉じ込められてしまったようだ。」
ギアラが少し真剣に話してきた。
「私達は無限の邪気を倒さない限りは抜け出すことができない。」
「どうすればいい?」
「わからない。ただ、きっと脱出できるはずだ。」
俺はこの無限に続く空間から脱出するために、ひたすらに下へと降りた。
息が上がってきた頃、膝に手を置き息を整えていた。
「全く何も変わんね。どうすりゃいいんだ。」
走ったせいで空腹になってきた。
邪気の死体を食べて空腹を乗り越えるが、それは一時的な解決に過ぎなかった。
「あぁ、腹へった。邪気も食い尽くしたし何もない。
邪気も全部食った・・・・・・。
全部・・・全部・・・。
全部?」
俺の脳裏に食欲が溢れた。
「そうか!この地下って全部邪気なんじゃね?」
俺は早速、壁にかじりついた。
例えただの壁でも、邪気であると仮定して懸命に食らいついた。
至る所を食べ、原型がわからなくなるほど食べきると、突然地下が壊れ始めた。
崩れ落ちた先は元通りの地下2階の駐車場。
うつ伏せの状態で元の世界へ戻った。
「戻ってきたのか・・・?
・・・・・・ん?」
前を見上げると小さな邪気が腰を抜かして床に尻をついている。
「お前か。おかげでコンクリートまで食うようになっちまったよ。
じゃぁな。」
無限の邪気を丸呑みにした。
どれほど時間が経ったのかわからないけど、咲野玲の様子を見に行った。
「終わっ・・・たー・・・・・・?」
俺の声はその状況を見た途端に消えた。
血反吐を吐いて下を向いている咲野玲の前に暴走の邪気が見下している。
「俺と最悪の契約を結び、俺の体として永遠に生きていこう。」
「・・・絶対に断る。」
咲野玲の拒否に対して邪気は蹴り飛ばした。
どんなに蹴られても契約に同意する意は見せなかった。
「そうか、死にたいのか。」
邪気が咲野玲に向かって足を上げた瞬間、俺は静止のために走った。
腸を伸ばして殴りかかったが、一瞬にして避けられた。
「ゲ、ゲクト・・・・・・?何しにきた!無茶だ!
お前には・・・!。
「できるねぇ!!俺には大切な契約があるんだからな!」
攻撃を仕掛けると暴走の邪気がフロアを走り始めたので、しつこく追った。
駐車場の床や壁に凹みが出来ようと関係なく攻める。
迫り来る腸に抵抗する暴走の邪気は、咲野玲に見せたあの高速をもう一度見せつける。
「まずい。」
咲野玲がそう呟くと同時に、暴走の邪気は加速した。
俺の背後を取り、一瞬の狙いを逃さない暴走の邪気。
一息に蹴り飛ばすその一連の動作は一瞬の出来事だった。
「ゲクト!!」
叫んだのは咲野玲だった。
壁に激突するゲクトに瓦礫が覆い被さる。
暴走の邪気はゲクトが死んだ安否を確認せず、咲野玲に向かう。
勝手な決めつけ、油断、その命取りの行動が暴走の邪気の最後の思考だった。
「俺が死ぬわけねぇーだろ!?バーカ!!」
瓦礫の中から活気溢れるゲクトの声が響いた。瓦礫を食べるような硬い音もする。
腸を瓦礫から伸ばして、引き寄せ、大きな口に送り込まれる。
金属片の擦れる音が鳴り、焦げたオイルの臭いがタバコのように流れる。
ゲップをかました。
邪気が喰われるその光景を咲野玲は這いつくばったまま、見ていた。
俺は咲野玲の元へ向かう。
「手、出せ。」
その一言と一緒に右手を差し伸べた。
引き上げ、俺が肩を貸してあげようと試みたとき、突然に視界が真っ赤に染まった。
気が付けばどこかの病院のベッドの上だった。
右側のベッドには両腕に包帯だらけの咲野玲が夕日の落ちる外を眺めている。
隣の机にはひび割れた画面のスマホが置かれている。
咲野玲は外を見たまま話しかけてきた。
「・・・よくやったな。
正直言って、すぐに死ぬと思っていた。
引き続き頼む。」
「おう、パートナーだからな。」
俺は邪人の回復のおかげで元通りで、立ち上がった。
すると部屋の扉が開いた。原井だった。
「あら?もう起きてたのね。
任務、ご苦労です。
ゲクト君体調は?」
「大丈夫。」
「そっか、流石邪人ね。
このまま順調に任務を遂行してもらいたいけど、咲野玲君はまだ治療中だから復帰はできない。
そこで復帰までの期間、つなぎ役の子を連れてきた。
仲良くしてあげてね。」
そのつなぎ役というのは黒性という少女だった。
日焼けのない白い肌。
根暗そうなはっきりしない目。
「この子は邪人なんだけど邪気に近い存在なの。
邪気の意思がほとんどで、人の要素は体だけ。
でも人間の常識がある邪気だから仲良くしてね。
ちなみにガンの邪気ね。」
原井が黒性の背中を押して、俺の前に連れてくる。
黒性は何も口にせず、ただただ目の奥を見つめてくる。
何かを見透かされているようなその眼差し耐えきれず、俺は目をそらした。
「な、なんだよ?」
「・・・・・・。」
原井は情報を追加する。
「この子は口に出すのが苦手なの。
苦い間もあるけど、きっといいパートナーになるはずよ。
それと目を離さないでね。」
俺と黒性は寮に戻ることになり、原井と咲野玲は部屋に残った。
退出する前に咲野玲から寮の自室鍵を預かった。
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