第6話 噛み合わない歯車
邪気課の寮に入り、咲野玲の部屋で一夜を明かした。
「起きろ。」
咲野玲の声に目を覚ましたゲクトは咲野玲が指差す場所を見た。
傷だらけの指先は低いテーブルを指していて、その上にはビニールで包まれた邪気課の制服が置かれていた。
「お前の正式な許可が出た。
本当なら僕一人で徘徊するが、お前の面倒を見ながらすることになった。
着替えたら飯食って、すぐに行くぞ。」
「飯は?」
「勝手にしろ。」
俺が台所から適当に取り出したのは白飯と生卵、納豆だった。
醤油を取り出して、それらを混ぜた朝飯を食べ終わると、和室にいる咲野玲を呼び、街に出た。
早朝は夜と違い、すっかり人気が戻る。
多くの人々が足並みをそろえて駅を出入りしている。
駅沿いに構えるパフェ屋やレストランが鼻をつついてくる。
「どこ回んの?」
「邪気が現れるまで広島市を適当に歩く。
通報があれば指示に従っているだけでいい。今日は見学だ。
勝手なことすんなよ。」
人の少ない商店街の通り道に差し掛かったところで、俺は聞いた。
「お前も邪人なんだろ?なんの邪気?」
「お前に言うつもりはない。僕も聞くつもりはない。」
1時間程度、歩き回った。
邪気の行動通りで、昼間は姿を夜ほど現さない。
近くの日陰の公園のベンチで一度休憩を挟んだ。
咲野玲はスマホを取り出して、俺に画面を突き出した。
「これが邪気課の連絡用の電話番号だ。」
「?」
咲野玲はそのまま突きつけているが、俺が何も行動しないので焦ったく「登録しろ。」と催促するように言った。
「あっ、俺、携帯持ってない。」
「・・・・・・。」
すると咲野玲のスマホの画面が音と共に、電話の待機画面に切り替わった。
それは邪気課からのものだった。
ベンチから立ち上がって、電話に出る。
咲野玲は「わかりました。」と電話を切り、ショッピングモールの地下駐車場で邪気が出たと通報が入った、と俺に告げた。
「お前、◯◯モールの場所はわかるだろ?」
「知らんけど。」
咲野玲は舌打ちをかまして、着いてこいとジェスチャーをした。
走り続けて、モールの地下へ侵入した。
そこにはすでに複数の邪気課の組が包囲していた。
「16組、到着しました!」
入りたてでも邪人ならすぐに邪気と戦うことができるので、見習いなどはない。
咲野玲は報告すると、モールの地下にいる邪気の情報をもらった。
地下には多数の邪気と、主導を握っている「暴走の邪気」がいるということを知らされた。
このモールの地下は3階層に重なる地下で、地下3階に邪気がはびこっているそうだ。
地下1階はすでに邪気を倒していて、俺と咲野玲が行く場所は地下2階だった。
地下2階の入り口に来た。
「巻き込まれるから近寄るな。」
そう言うと、地下2階に向かって左指を差し、ナイフで左腕から出血させた。
「何してんの?」
「僕のやり方だ。」
咲野玲の血と取引するように、化け物の雄叫びが地下に響き、聞こえてきた。
そのまま、咲野玲は入り口を眺めたまま、突っ立ている。
「面白くねぇな。突入ー!」
「バカ、待て!」
咲野玲の言葉を無視して、俺は腸を伸ばして、地下にいる邪気を無作為に潰して、殴って、喰らった。
邪気の残骸が次々と地下に溢れる。
夢中になっていると、鋭い爪が俺の腸を分断した。
ムササビのような体に異様な目力と鋭い爪を持っている邪気がいた。
すると後ろから咲野玲が走ってきた。
「それは僕の邪気だ!
もう十分だ!血衾!」
血衾と呼ばれる邪気は地面に溶けるように姿を消した。
「なぜ止まらなかった!
・・・いいか?お前は指示にさえ従っていればいい。」
「・・・・・・。」
俺はそっぽを向いた。
腸を再生させて、3階に降りる。
「待っておけよ。」
咲野玲は3階入り口で釘を刺し、俺を待機させた。
壁端でもたれかかって待っておくことにした。
咲野玲はゲクトを足手まといだと思っていた。
最悪なパートナーを組み合わせてきたな、原井。
まぁ、一人ならどうせいつも通りにするだけだ。
気を取り直して、咲野玲は一息吸い、戦闘態勢で慎重に降りていく。
ずっと地下から騒音が響いていたが、地下3階にいる暴走の邪気の音のようだ。
正面には咲野玲を待っていたかのように構えていて、紫の煙を吹かしている暴走の邪気の姿があった。
体にはバイクのような小さなタイヤがあり、高速に回転している。
邪気は目にも止まらない速さで咲野玲の腹にひと蹴りを加えた。
態勢を整えて今度は咲野玲が先ほどの血衾を血と引き換えに呼び出した。
血衾は天井を蹴り、暴走の邪気の元へ一直線に襲いかかる。
暴走の邪気はその場で外回し蹴りを血衾へ見舞った。
血衾は一撃で痙攣させるほどまで陥れた。
「ウソだろ・・・・・・。
いや、まだだ。ヒル!」
首筋の血を引き換えに今度はヒルと呼ぶ邪気を召喚した。
アルビノのような肌に大きな吸血する口を持つ大きなヒル。
そのヒルの上にはヒル人間が乗っている。
「キタキタきたァー!俺の番。
血!血!血ィ゛ー!」
ヒル人間はヒルを操作し、波打つように暴走の邪気へと口を開けて襲いかかった。
暴走の邪気は壁を駆使しながらヒルから逃げている。
わずかに追いつかれるところで、暴走の邪気は制限を解除して地下駐車場を一周して背後から貫いた。
「所詮この程度か?
お前は邪気に頼りすぎだ。
2体の邪気と契約を交わしてもなお、自身の力は出血我慢の程度だけ。
ボッチよ、俺と最悪な契約を結ぼう。」




