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第1話 ただいま

挿絵(By みてみん)

 ゲクトと食の邪気は契約を結び、食の邪気の力で人を救う代わりに、他の邪気を食う契約を交わした。


 そろそろ夜が明ける気配がするので、家まで歩き始めた。

 邪気が人でないと言えど、無言で帰るのは気が持たなかった。

 邪気はなんとも思っていなさそうだが。


「俺はお前の力で何ができるんだ?」

「邪気を食べる、力の増幅、腸の変化。

 そして再生能力。」


 前者二つはすでに経験していた。

 再生能力は邪人に備わっている能力。


 ここまでは理解できたが、腸の変化が想像できなかった。


「腸の変化って?」

「やってみる?」


 邪気が俺の体に入ると、邪人の姿になる。

 そして腸の変化というのがすぐに現れた。


 俺の両腕が腸に変わった。同時に腕から血も溢れ出した。

 ぶらぶらと垂れ下がっている腸は地面に着いている。


「これで何ができんだ?ヒリヒリする・・・。」

「それを伸ばしたり、殴ったり。

 君の一番の力だ。」

「これ使うと痛んだけど。」

「まだ体が馴染んでいないだけ。

 慣れれば気にすることはない。」


 この痛みは俺の問題なのかよ。

 

 俺は試しにそばの電柱に腸を巻き付けてみた。

 

 腸で軽く引っ張ると体が連れてかれ、ブロック塀に激突した。

 まだまだ慣れない体は上手く扱えない。

 人を救うためならもっと上手にこの力を制御する必要がある。


 肩をぶつけたが、再生能力ですぐに癒えた。


 そして家に着いた。

 今日も日の出が出る直前に帰って来たが、家の鍵が開いていない。

 いつもならもう鍵はかかっていないのに。


 それからいつもとは違う静かな雰囲気が漂っている。


 庭に回り、大きな窓のカーテンの隙間からリビングを覗く。

 オヤジはだいたいリビングのソファーで寝ている。

 ちょうどソファーが見える隙間があった。


 今日もソファーで寝てるんだろうなと目を向ける。


 あ!やっぱり、あのヤロぅ・・・・・・。



 俺は言葉を失った。


 リビングのカーペットには赤い液体が染み込んでいて、床には散乱した家具が倒れている。

 そしてオヤジからは赤い液体が垂れている。


「邪気にやられたな。

 人はこういう時泣くんだろ?」


 俺の顔を覗いた邪気は俺が泣いていないことに首を傾げる。


「邪気が怖くて泣けないか?

 なら君が殺せばいい。」


 俺は邪気の姿に変えられて、窓を割り、静かな家に入った。

 オヤジは完全に息を引き取っていて、腹には穴が空いていた。


「ちなみにこれ、罠だから。」


 食の邪気がそう言った瞬間に、オヤジを殺した邪気が現れた。


「は?」


 食の邪気によると、どうやら鏡の邪気だそうだ。


 全身がひび割れた鏡でできた異形の邪気。


「憎い顔、みたくなーい?」


 鏡の邪気は家のあらゆる壁や床を鏡に変えた。

 無限に広がる世界の全ての鏡に俺が写っている。


 鏡の邪気は鏡から現れた。

 鏡に沢山写っているが、どれかが鏡の邪気本体なのだろう。


「食の邪気ィ、人間なんかと手を組んで堕ちたなァ。

 お前なら自分でできたんじゃなーいの?」


 俺の目を見て話しかけてくるが、食の邪気は口を開かなかった。


 鏡の邪気が何を言いたいのかわからない俺は、ニヤニヤと企んでいる顔に向かって、腸を伸ばして殴った。


 邪気は鏡に潜って攻撃を避けると、腸の打撃で鏡がひび割れ、破片が腸に深く食いついて出血した。


「イヒヒヒ!まだ未熟じゃないか。

 遅い、鈍感、弱い。」


 俺は下から飛び出して来た邪気に吹っ飛ばされて、首を持たれて鏡に押し付けられた。


「まだ何も言わないのか?食の邪気?

 死ぬぞ?」


 俺は調子に乗っている邪気に向かって口を大きく開け、食いちぎろうとしたがそれは反射して写った邪気で、本体ではなかった。

 俺は体勢を整えた。

 

 足元には割れた鏡が散乱していて、割れた場所は光が飲み込まれるほどの暗黒が覗かせていた。


「邪人でさえ、私に一瞬たりとも触れられない。

 強さゆえ、それとも私の美貌ゆえ?」


 鏡の中から縦横無尽に飛び出しては、爪を立てて襲ってくる。

 

 俺の脇腹や腕には鋭い爪痕が刻まれる。

 疲弊を感じてきた俺はどうにかしてこの状況を乗り越えなければならない。

 

 一度、何度も繰り出される斬撃の間で、まぐれで鏡の邪気が飛び出す前にその鏡を壊して、攻撃を阻止したことがある。


 鏡がなくなれば鏡の邪気は弱くなるのではないかと考えた。

 一度で打開するための方法を思いついた。

 俺はこの空間の中央に走った。


「おやぁ?どこに逃げても変わらないけど。

 でも苦戦に最後まで争うその心意気、嫌いじゃないけどね。」

「逃げてねぇよ!

 お前を殺す秘策、自爆しかねぇよな!?」


 俺は大きく跳び、腸を左右に広げて、血まみれの大爆発を引き起こした。


 視界は真っ赤に染まり、同時に鏡の割れる音が全体から響いた。

 血の幕が上がると、そこは荒れたリビングに戻った。

 鏡の邪気はあの世界を開くことはなく、床に転げ、腰が抜けた様子で命を乞いていた。


「おい!おいィ!

 待て!

 お前の家族を殺したのは私じゃない!」

「見苦しいな。

 それでも食うぞ。」


 鏡の邪気を一口で噛み砕いた。

 口の中で鏡がガリガリと動くのを感じる。

 砂利を食べているみたいだった。


 鏡の破片は邪気と一緒に消えた。


「ああぁ、美味い。

 満たされる・・・・・・。」


 どんな味覚をしてるんだ。


 食の邪気は満足して体から離れる。


「なぁ、鏡の邪気が言ってたのは本当?」

「本当だ。

 鏡の邪気は腹を突き刺すような殺し方をしない。」


 つまり鏡の邪気以外に邪気がいる。

 でも食の邪気によるともう付近にはいないらしい。

 そしてオヤジを食わずに去ったということは、娯楽で人を殺すような邪気だと予想している。

 そんな邪気は気がおかしい奴だ。


「さて、君の親、死んだよ。

 どうするの?」

「そりゃぁ、お前と生きていくしかないだろ。

 警察に行くとめんどくさいし。」

「君は見るからに未成年だよね?

 学校は?」

「ん?小学校で終わったけど?

 漢字は書けるし。」

「漢字を書けたところで君は生きていけるの?」

「んー、まあ3日は食べなくてもいいし。

 居酒屋のゴミ箱とかに結構食べ物あるよ?

 とりあえずオヤジ食って寝よ。」


 ゲクトと食の邪気は自立して生活を送ることになった。

読んでくださりありがとうございます。

よろしければ、リアクションを貰えるとモチベーションと表紙を描く糧になります。

メッセージでの感想も大変喜びます。

若輩者ですがよろしくお願いします。

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