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プロローグ

挿絵(By みてみん)

「邪気(じゃき)にでも会って、金稼いで来いや!」


 そう言って俺のオヤジが俺を玄関へ突き飛ばし、閉め出した。

 俺はヒリヒリする尻を抑えて、夜の郊外に踏み出す。


 夜はいつも静かで、人気はない。


 なぜなら、「邪気」がいるから。


 人々はみんな邪気に遭わないために家にすぐに帰る。

 俺もその例外ではない。

 俺も殺されるし、最悪な目に遭うかもしれない。

 

 今までは遭うことがなかった。

 オヤジは機嫌が悪くなるとすぐに俺に八つ当たりを始める。

 母さんがいなくなってからずっとあの様子だった。


 初めて外に閉め出されたときはすぐに建物の影に隠れて一夜を過ごした。

 今は何度目か覚えていないがもう慣れた。


 今日も同じように同じ場所で膝を抱えて点滅する光を見ながら、朝を待ちぼうける。


 すると暗い小さな路地から物音が落ちる。

 ネズミが空き缶を落としたようだ。


 内心、邪気かと思った。



 胸を撫で下ろした次の瞬間、2体の邪気が暗闇から飛び出して来た。


 俺の手前に出て来たのは流血している小さな黒紫と赤い二つ目の邪気。

 奥で牙を剥き出しにしている邪気は手前の邪気を襲うつもりだろう。

 その襲っている邪気は大きな蜘蛛のような姿で、今まさに獲物を捉える瞬間のようだ。


 じわじわと迫ってくる蜘蛛の邪気に対して、流血した邪気は俺ばかりを見つめてくる。

 敵に背を向けて俺を見ている。


 この邪気は死を覚悟しているのか。

 あの邪気から目を背けて、現実から逃げているのか。


 違う気がした。

 俺はこの場からすぐにでも逃げたかったのに、こいつが見つめてくるせいでどうすればいいのかわからず動けなかった。


「タ、助けて。」


 邪気がままならない声で俺に対して助けを願ってきた。

 それが罠でも本意でも俺はこの蜘蛛の邪気に一緒に殺されてしまうならと、この邪気を拾い上げて、誰もいない黄色く点滅する信号のある広い道路へ飛び出した。


「ど、どうするんだ!?ここから!」

「私と契約を結ぼう。

 君の好きなように決めて、私の力を使え。」


 抱え走りながらこの邪気は契約を交わしたいと言ってくる。

 後ろでは血の跡を辿って蜘蛛の邪気が俺を追いかけてくる。


 契約の内容なんて考えることもできなかった。


 小道へ逃げ込み、何度も左右に曲がり続けた。

 蜘蛛の邪気の視界から逃れると、建物の影に隠れて息を整えた。

 そして小声で邪気に話しかける。


「契約だな?契約、契約・・・・・・。」


 俺は好きなように内容を決めた。


「俺は・・・・・・!」


 邪気に契約を言おうとしたその時、上から蜘蛛の邪気が大きな口を開けて、一口で俺と邪気は食べられてしまった。

 

 蜘蛛の邪気は満足そうに夜の郊外に獲物を探しに行く。



 バキッ、バリバリッ。



 蜘蛛の邪気の腹から奇妙な音が弾けるように鳴る。

 その邪気は腹痛に悶(もだ)えるように、体をひっくり返す。

 

 すると乱雑に引き裂かれた腹から一本の太い内蔵が噴き出す。


「ハァ・・・・・・、臭せぇー・・・。」


 蜘蛛の邪気の中から現れたのは血で塗られたガラリと変わった姿の邪気だった。

 それは人型の邪気で、俺だった。


 夜のガラスに自分の姿が薄(うす)らと反映する。

 ガラスに近づき、自分の変わり果てた姿を変わり果てた手で触る。


「俺、生きてんだよな・・・・・・?」


 邪気の姿になっている。

 俺の体に邪気の面影が纏わりついている。

 顔全体には邪気の雲が覆っていて、その中から二つの赤い目が浮かび上がっている。


 ガラスに写る姿を無言で下から上へ撫でるように見る。


 すると俺を覆っていた邪気は消え、元の俺に戻った。

 それと同時に助けた邪気が俺の前に現れた。

 邪気の傷は癒えていた。


 


「私は“食の邪気”。

 邪気を喰らい、人を喰らう邪気だ。

 契約では君は人を救いたいんだね。

 名前は?」

「俺はゲクト。」



 俺は食の邪気と結びついてしまった。


 邪気はたまに人とこのように結び、邪気と人が力を合わせて互いの目的を果たす。

 俺のように邪気の力を得た人を邪人(じゃじん)という。

 ここ広島県には少ないけど、東京都にはたくさんいるらしい。


 もう食の邪気は味方なので警戒はしなくてもいいが、蜘蛛の邪気が未だに足を痙攣させている。


「お前ならあの邪気も食えるんだろ?」

「ああ、でも、君が食べてみない?」


 食の邪気は俺の体に入り込み、また邪気の体にされた。


「どうやって食うんだ?」

「口をグィーンって感じで。」


 全く仕方がわからない説明で戸惑うが、言われる感じに口に力を入れると俺の頭についている邪気の面影が伸び、歪んだ牙が現れて蜘蛛の邪気をバリバリと食い始めた。

 蜘蛛の邪気が喉を通るような感じがする。


「ニ、苦ァ・・・。」


 吐き戻しそうな気持ち悪い食感と味が味覚を襲う。

 吐き戻したかったが食の邪気は止まらず、俺の胃袋に入っていくような気がした。

 本当は俺の喉も腹も通っていないが、別の神経がその味と感覚をとって来ているような感じがする。


 長く感じた食事は遂に終えた。


「こ・・・・・・これで、何になるんだ?」

「私が満たされるだけ。」

「え?」

「力を貸した代償。

 お互いの我慢だ。」


 何が我慢だ。

 命の恩人にゲロを食べさせてきたのに、やっぱり邪気は邪気だ。


 邪気は俺の体から出て、元の姿に戻った。

読んでくださりありがとうございます。

よろしければ、リアクションを貰えるとモチベーションと表紙を描く糧になります。

メッセージでの感想も大変喜びます。

若輩者ですがよろしくお願いします。

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