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第16話 休日

挿絵(By みてみん)

 咲野玲が帰ってきて最初の朝。

 その日は休日だった。


 僕は頭痛に起こされた。

 あれを取り込んだ後には頭痛が起きているが、偶然ではない。

 いらない情報に対して思考を使うせいで脳が疲れる。

 時間を浪費し、頭痛を引き起こす物質が邪魔だった。


 浮かない休日には温かいものをよく食べる。

 味噌汁や鍋が好きだ。



 今夜は鍋を食べることに決めた。

 鍋の具材は午後から買いに行くつもりだ。


 ゲクトにその予定を伝えると、手を上げて喜んでいた。

 

 朝をダラダラと過ごした。

 ソファーに寝そべって頭痛に邪魔され、理解できないニュースを観ていた。


 のんべんだらりと過ごした後は午後から近所のスーパーへ行く。


 スーパーの窓や壁にはポスターがたくさん貼られていた。

 セールや特売そんな広告の中で一際目立っていたのが、最近SNSの話題を独占しているあるアイドルだった。

 アイドル界に台頭し、近年ではライブを行うという告知がチラシに大きく載っている。


 カートを押し、チラシの間を通り抜けて冷たい空間に入る。


 ネギや豚肉、豆腐、豚骨味の素などがカートに重なる。

 ふとカートを見ると鉄分のサプリメントが勝手に入っていた。


「お前にこれがいるのか?」

「・・・なんか、癖になる味でよぉ。」


 黒性も何か勝手に入れていた。

 チョコが詰まった菓子パンだった。


 返事には期待していないが、ゲクトの時同様に問う。

 案の定、返事はなかったが朝の料理を省けるのならいいだろうとそのパンを入れた。




 鍋の具材とサプリとパンの混在したポリ袋を下げて寮へ戻るために、暖かい光の差す道を歩き出した。


 頭痛は知らぬ間に治り、急に肩も軽くなった気がする。

 ポリ袋の重さを気にせず、軽い足で帰ってきた。


 しかしその羽の伸ばすことのできた時間を僕は誤解していた。

 あれのせいだった。

 頭痛が頭中を襲ってくる。


 鍋の準備ができたら頭痛薬を買いに行くことを決意した。




 咲野玲が夕飯を作っている間にゲクトはベランダに出ていた。

 買ったサプリを嗜なんで。

 夕日の落ちる空のもとであの人の顔を見れた。

 

 俺の想像してた以上に美人だった。

 酒の似合いそうなサングラスをして、片手にはイメージ通りのビールを持っていた。


 いまだに話したことはない。

 けど、いい人な気がする。


 すると、自室から誘われる匂いが鼻をかすめた。

 豚骨というものを吟味したい。



 俺がリビングへ戻ると、咲野玲は玄関で靴を履き替えていた。

 片手には財布を持っている。


「どこに行くんだ?」

「ドラッグストアだ。 

 僕が帰ってくるまで鍋には触れるなよ。」


 と、もっぱら考えていないことを忠告された。


「熱いもんなんか触んねぇよ。」


 俺がそんな夕食を待ちきれない食いしん坊に見えるか。

 少し反発的に言い返してみた。


 咲野玲はその言葉に何も反応せずに、部屋を出た。



 咲野玲のいない部屋は静まり返った。

 さっきまで包丁とまな板のぶつかる音や沸騰する泡の音が騒いでいたのに。


 リビングに戻ると黒性がメモのような物に書いていた。

 黒性はいつまでも静止しているのかと思ったら、シャーペンを走らせている。


「何書いてんの?」


 俺がその紙を覗くと、黒性は内容を見て欲しくないのか俺を手で少し強めに押し離した。

 しっかりとした感覚で彼女に触られるのは初めてだった。

 冷え性のような冷たい手の温度が頬に残っている。


 そしてあの夢うつつの記憶が蘇る。



 彼女は思わず出た手をすぐに下ろすと、その紙を閉じた。


 日記を邪魔したことを謝るが、相変わらずの鉄仮面。

 許しているのか怒っているのか読み取れない。


 俺はソファーに行って、テレビをつけた。

 

 クイズ番組の盛り上がる場面でCMが挟まった時に咲野玲はポリ袋をぶら下げて帰ってきた。


「ほら、食うぞ。」


 ポリ袋の中からコンビニの細々とした食べ物を取り出して、鍋を中心に机に並べた。


 俺はソファーから跳ねるように立ち、椅子を引いた。


 そして箸を鍋に入れる瞬間、咲野玲は俺の手を掴んで止めた。


「な、何すんだよ?」

「箸は使い分けて食べろ。

 お前らにそれぞれ2膳配ってるだろ。」

「面倒くせぇな。」


 俺は長めの箸を鍋に突っ込んだ。

 半分ほどまで皆んなで食っていると、咲野玲は醤油味を付け足した。

 味が変わったが、どんな鍋でも美味しかった。

 

 

 食べ終わった後は眠気が襲い、すぐに寝た気がする。

読んでくださりありがとうございます。

よろしければ、リアクションを貰えるとモチベーションと表紙を描く糧になります。

メッセージでの感想も大変喜びます。

若輩者ですがよろしくお願いします。

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