第14話 代償と契約
入院を2週間経て、退院した咲野玲は新たに邪気と契約をしなければならなかった。
咲野玲は血の邪気、血衾とヒルの邪気の契約が切れ、手元に邪気がいないからだ。
邪気には各々の生きる目的がある。
その目的を果たすために邪気は時に人間と協力することがある。
友好的で有名な邪気として「賭博の邪気」がいる。
賭博の邪気は契約者自身の体の一部や物を出し、契約者の要望を実現させることができる。
もちろん、その取引には代償がつく。
契約者の要望が高いほど賭博の邪気はやる気を失い、取引を破棄することがある。
破棄された取引に使われた物はなくなる。
例えば、りんごを手元に出すのなら髪の毛を少々出せば叶えてくれる。
一方、死者を蘇らせるために自身の心臓を差し出すが、虚しくも心臓は取られたまま取引を破棄されるかもしれない。
賭博の邪気はそのような人間のギャンブルに対する欲望を生き甲斐としている。
咲野玲はこれからその邪気と契約を結ぶために退院後すぐに大阪へ行った。
咲野玲の付き添いには咲野玲を最初に邪気課に誘った竹内という少し老いた男性。
咲野玲は竹内と広島県から大阪まで電車に揺らされていた。
咲野玲が外側の席、竹内は内側の席だった。
咲野玲が流れてゆく外を見ていると竹内は周りを気にするように小さな声で話しかけた。
「賭博の邪気はかなり酷い。
始めの取引は少し無理を言っても叶えてくれる。
でも、契約時期が長くなるにつれて邪気は取引に出す物を多く要求したり、取引の成功率が低くなる。
ギャンブルのようにな。
それでも奴と契約するのか?」
「僕は復讐のためならなんだってしますよ。
その内容も知った上で決めたので。」
「お前は会った時からそうだった。
体も友人も契約に使う薄情者。」
「あいつは・・・・・・。」
咲野玲は少し深く座り直した。
そしていくつかの駅を通り、大阪駅の案内のアナウンスが流れる。
大阪駅で降車した二人は駅から歩いてとある通りへ入る。
廃れ、人通りのない商店街が並んでいた大通り。
バリケードテープが張られた横を通り抜けて、薄暗い奥へ進んでいく。
そして地下へ伸びる階段を降りる。
降りた先には機械的な薄錆びた扉が構えていた。
竹内がパスワードを素早く入力する。
そして扉の先には左右に伸びる地下通路とその節々にある扉がいくつかあった。
663と記された扉の前についた。
「この先に賭博の邪気がいる。
今回は何を差し出すんだい?」
竹内は代償の結果を楽しみにしている。
咲野玲は扉を開け、小さな部屋に入った。
部屋の中には5つの穴の空いたバケツを逆被りし、9本の腕を持つ邪気が体をくねくねと動かしている。
「やぁ、パチもしくは賭け事の経験は?」
出会ってばかりで質問をしてくる。
僕は率直に答えた。
「ない。」
「ふんふん。未経験が始めから体を賭けるような行為・・・・・・。
まっったく嫌いじゃない!
君は僕チンと契約する初めてのギャンブル未経験者だ。」
「賭け事はしたことないが、失う覚悟はできている。」
「素晴らしい!君のような堕ちてゆく無垢は最高だ。
よぉし。君の転落に僕チンは賭ける!
契約はこうだ。」
取引の代償を物の代わりに、寿命から換算して引いていくそうだ。
そして賭博の邪気による快楽物質を時々取り込まなければならない。
それから、賭博の邪気の意識を中脳に取り入れること。
賭博の邪気の言う快楽物質とは邪気が契約者に注入する特殊な邪気の力。
痛みを消し、思考を活性化させる。
僕はその契約を飲み込んだ。
壁に持たれ、眠って待っていた竹内を呼び起こす。
「どこも欠損しているようには見えないな。
どこを渡した?」
「なぜか気に入られたんでどこも欠損しませんでした。」
「珍しい。」
竹内は腕時計を見やる。
「3時間も交渉したのか?」
時間がそんなに経っている訳ないと僕はすぐにスマホを取り出し、ホーム画面の時計を確認した。
確かに時間は3時間以上過ぎている。
すると賭博の邪気が脳内で話しかけてきた。
「言い忘れていたが、それが快楽物質の能力。
時の加速!
ハイ!でクレイバー!!になる!
君は今、約2時間を棒立ちで過ごした。」
「どうやら僕は賭博の邪気に時間を奪われたようです。」
「寿命が尽きる前に娯楽の邪気を倒せるといいな。」
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